PandoraPartyProject

SS詳細

灰色を好む

登場人物一覧

エディ・ワイルダー(p3n000008)
狗刃
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼

 ローレットのアサシンであるエディ・ワイルダーは人間の姿形に変化する習慣がなかった。
 職業上、各地の同族に出会う事は多い。ラサの辺境に赴けば「獣の姿である事が誇りだ」という者に出会ったし、練達の方に赴けば「獣の姿は掃除の手間が多いから嫌だ」という者にも出会った。
 意識に差のある彼らも、言葉を交わせば尋ねられる事は等しく同じだ。ローレットに属する黒猫のショウにも世間話の一環で同じ事を聞かれた事がある。
「キミは人間に変化しないのかい?」
「尻尾用の穴が空いてないズボンを持っていればそういう考えにも及んだだろうがな」

 エディは自分の姿形については無頓着であったが、他人が姿形を重要視する事は理解出来る。その地域の伝統文化だとか、幼い頃から周囲の価値観に影響を受けただとか、人によって様々だが。ともかく「容姿や服装をとやかく言われて気分が良いものではないだろう」と考えていた。
「えっ……この服装じゃ……入れないの……?」
「申し訳ございません。当店ではドレスコードがありまして」
 練達で小規模な事件を解決した帰りに、グレイルと一緒に酒を飲もうと盛り上がっていた。しかし、立ち寄ったレストランで入店を拒否される。
 二人は説明されるまま、店員が指し示した案内看板を見た。
『以下に該当する方の入店をご遠慮させていただく場合がございます
・体毛・羽毛を有するウォーカー、獣種、飛行種の方。(衛生面の為に人間形態への変化をお願いしております)
・露出度の高いドレス、ノースリーブ、素足にサンダル――』
 エディは顔を下に向けて、自身の服装を確かめた。顔を隠す為のマフラー。皮鎧に手っ甲。短刀が収められた二本の鞘。極めつけは獣種特有の動物的容姿。
 どう考えても自分のせいだろうと苦笑いを浮かべ、エディはグレイルの方を見た。
「…………」
 視線を向けた先のグレイルはというと、怒っているのか悲しんでいるのか分からないような顔付きだった。店員は再び「申し訳ございません」と礼儀正しく頭を下げる。
 グレイルの服装を窺うに、人間の姿に変化すれば通してもらえるだろう。とはいえ、一緒に酒を飲もうと盛り上がっていた矢先に一人で押し込むのは筋が通らぬ。
 エディは「またの機会に身だしなみを整えて来よう」と、気さくな態度で店員のご遠慮に応じた。

「……えっと……前に酒場に連れて行ってくれるって話……憶えてるかな……?」
 そもそも一緒に酒を飲もうと盛り上がり始めたのは、グレイルのこの言葉からであった。エディは「もちろん」と言わんばかりに大きく頷き、少し考え込んでから口を開く。
「酒選びに失敗したか」
「……よくわかったね……」
 グレイルは苦味や辛味に尖ったモノが苦手だった。とかく、酒類はそういう手合いが多い。清酒やテキーラなどは綺麗に透き通った色合いに反して、酒を口にした事のない者にとって想像以上に強烈な味がする。
 だが、口に合った酒だからといってぐいぐい飲み干すと酷い目に遭う。件の酒場で口にしたレディー・キラーが良い例だ。
 酒を飲む習慣の無い者にとって『自分に合った美味しいお酒』というのを見分けるのは難しい。
「……お酒はね……信頼できる人と一緒に飲みたいんだよね……例外はあるけど……」
「あぁ、任せてくれ。この辺りの店には詳しくないが……他人に勧める酒の種類くらいは心得ているつもりだ」
 エディは『信頼できる人』という言葉に片耳をピクリと動かし、そのまま彼の先導で練達街を散策したわけだ。

 そういう事で、エディはドレスコードを理由に断られた手前どうにも格好がつかなかった。
 グレイルは酷く落ち込んだ様子を見せる。エディが何か言い繕う前に、グレイルの方が先に口を開いた。
「ごめんね、どうしても……人間の姿に変化したくなくて……」
 彼は酷く沈鬱な顔で言う。人間に変化出来てもエディの服装では入店するに適わなかっただろうが、それを踏まえてもグレイルのこの落ち込みよう。
「なに、そういうブルーブラッドも多くいる。かくいう俺だってそうさ」
「……エディさんも……?」
 不精な理由だが、人間の形態を取らないのは事実だ。エディは「あぁ、そうとも」と頷いて、グレイルが悪いわけではないという素振りで励ました。
 それから十数分歩き続けて、ようやく自分達も気楽に入れるバーを見つけた。行儀の良い店員が控える先のレストランとは違い、気軽に飲み食い出来るカフェに近い様相だ。
 種族問わず多種多様な者達が楽しそうに飲み合っている。店に入って数秒、煙草と香辛料のムワッとした匂いが鼻についた。グレイルは表情を少しだけしかめる。
「やはりレストランの方が好みだったか?」
「……うぅん、ボクはこっちの方が好きだよ……」
 その表情から察するに、心底そう思っているようだ。グレイルがこのように喜怒哀楽をハッキリ表現するのは珍しいと思い、エディはその理由を遠回しに尋ねた。
「よかった、てっきり高い酒を飲めなくなって不機嫌になっていたと思っていたが」
 グレイルはその言い分に吃驚して「心外だ」と否定し、エディの表情から冗談だと気付いて、息を吹きだすように笑った。
「……エディさんなら……大丈夫かな……僕が人間に変化しない理由……」
「理由?」
 二人はカウンター席につき始めると、グレイルの方からそのように切り出した。エディが首を傾げると、グレイルは種族関係なしに仲良く飲み合う客らを眺めながらぎこちなく頷いた。
「……少しだけ話そうかな……僕の過去について……」

 十数年前の話。グレイルは自分の生まれも分からぬ孤児だった。
 両親とは混沌世界を旅する途中に死に別れたのかもしれないし、もしくは育児放棄され練達に放り出されたのかもしれぬ。
 どちらにせよその時のグレイルには些細な問題だった。手足はガリガリに痩せ細り、体は泥にまみれて所々に膿が噴き出している。彼はいつ死んでもおかしくないという日々を送っていた。
 幸運だったのは、そんな自分を温かく迎え入れてくれる場所に辿り着けた事だろうか。
 練達の閑散とした区域だったのだが、それにも関わらず住民達は友好的で、浮浪児であった自分を手厚く保護してくれた。
 混沌世界において、見知らぬ子供を無償で世話してくれる場所は決してありふれていない。グレイルはその人達が“とても優しい人”なのだと信じて疑わず、「いつか恩返ししよう」と利口に日々を過ごした。
 その認識が変わったのは、しばらくして自分と同じような浮浪児が区域に迷い込んできた時だ。
 異世界から迷い込んだウォーカーの子供。そのありさまは以前の自分の境遇と変わらぬ。グレイルは、一目散に大人達にその子の存在を伝えた。
 ……その子をひとめ見た住民達の表情が忘れられない。過去を語るグレイルの顔が酷く歪んだ。もあしかしたら、嫌悪にまみれた同じ表情をしているかもしれない。
 住民達は、『人間の姿を持つ者以外』には酷く差別的だった。イヤ、差別というには生ぬるい。彼らがその子に向けた認識は言葉の通じない魔物と同列だ。
 住民達は粛々とその子を捕らえてから、“人間の容姿ではないウォーカー”の子供を何の疑念も抱かず殺す事を決めた。
 半ば片棒を担ぐ形となったグレイルは、必死にその子の助命を訴えた。こんな事はおかしい。その子とボクの何が違うのか。
「グレイルは人間で、その子は化け物じゃないか」
 それが当然の事のように、住民達は口を揃えていった。グレイルは“ただ偶然その時は人間の姿に変化していた”という理由で、温かく保護されるか害獣のように殺されるか命運が別たれていた。
 それを境に、ひどく、人間の姿でいる事が、気持ち悪く感じた。
 ――自分はこの人達と違う。
 そう思うとイテモタッテモイラレズ、グレイルはウォーカーの子と共にその区域を逃げ出した……。

「……そうか、辛かったな」
 エディは真剣にその話を聞き入り、話が終わってようやく目の前の酒を口に含んだ。
「今でもボクの判断……正しかったのかわからなくて……」
 酒気に酩酊した頭は心の奥底で不安に思っていた事を吐露した。もしかしたら住民達の判断の方が正しかったのではないか。自分は余計な事をしたのではないか。
「法は場所によって変わる。人の姿形もそうだ。郷に入れば郷に従えという言葉もある」
 グレイルはその言葉に俯いて、酒をぼぅと眺めた。エディが頼んだ上下に色が分かれたカクテル。上は柑橘の甘みが強く、下は淹れ立てのコーヒーのような苦味がある。
 グレイルはそれを飲み干して、酔いで不安を塗り潰そうと同じ物をもう一杯頼んだ。
「とはいえ、目の前で同じ年頃の子供が殺されるとなれば不安に思うのも人の情だ。……それを『正しくない』とは誰も言えないさ」
 エディはそのもう一杯についていたマドラーを軽く動かし、カクテルの中身をかき混ぜた。透明のカップの中で色の違う液体が混ざり合い、流動の模様を映す。
 グレイルはそっと混ざり合った部分を口につけて、また違った風味に感心して唇をぺろりと舐めた。
「白黒つけようと急くことはないさ。俺達は人であろうが獣であろうが、あるいはその中間、灰色を好んだっていい」
「うん……」
 胡乱だ頭はエディの本心を理解しようとも出来ないが、自分を肯定してくれているのは感じられた。
 あの住民達に恩返ししようとする想いは叶わなかったが、この年の離れた友人との付き合いは上手くいくかもしれない。
「珍しいな。そんな風に笑うなんて」
 人の事が言えない表情をするエディにそんな事を言われた。普段は硬派で融通が利かないかと思えば、不安な時に限ってそういう表情を見せてくれる。だから彼は人に誤解されやすいのだ。
 グレイルは「そういう面でもこの人の背中を守れれればいいなぁ」と思いながら、彼の誕生日に備える為に、どんな色が好きか尋ねるのであった。

  • 灰色を好む完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月02日
  • ・グレイル・テンペスタ(p3p001964
    ・エディ・ワイルダー(p3n000008

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