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コレット・ロンバルドの破壊なる事件簿
登場人物一覧
●誰だよこいつ
「まさか、こんな所を訪ねて来る方があるとは」
混沌、幻想が山脈地帯――人知れず構えられた『秘密拠点』でコレット・ロンバルドを出迎えたのは全身黒ずくめの実に怪しき男であった。知人に何処ぞから亡命したのかと罵られたそのファッションセンスは鷹揚たるその口調に相反して適当かついい加減であり、人物の正体不明さを否が応無く引き立てていた。
「蛇の道は蛇よ。今度はもっと慎重に事を運ぶことね」
無表情な美貌に酷薄を貼り付けたコレットの言葉に彼女をここまで通した護衛の黒服数人が色めき立った。
コレットがローレットに属する特異運命座標である事は有名な話だった。世界的に大規模な特異運命座標のギルドが混沌中の権力と結びついている事は隠しようもない事実である。即ち
「――いや、静まりたまえ。どの道彼女が本気になれば君達の敵う相手ではない。
私としても無意味な荒事で部屋を荒らされるのは御免なのだ。貴重な調度品を壊されるのもまた同じく」
「随分と諦めが良いのね。年貢の納め時という訳かしら?」
「いや? そういう訳ではない。
コレットの硬質な言葉を含み笑いで跳ね返した男は相変わらず余裕の調子だった。
「成る程。勘はいいみたいだわ」と頷いたコレットは彼の評価をこの期に及びもう一段引き上げた。
そう、コレット・ロンバルドは官憲の手先となってお尋ね者となった彼の元を訪れた訳ではない。
つまる所、コレットが仲間にも、
「何故、と問うのは愚問だろうね。コレット・ロンバルド嬢」
「貴方が私の思う通りの人間だとしたら、ね」
コレットの口元に浮かぶ幽かな嘲りは神座に位置する存在の戯れを思わせた。
彼女がそれなりの手間をかけてこの場所を突き止め、訪れた理由はとある『ビジネス』の話を進める為である。
「私は破壊神。先に言っておくけど、だからと言って破壊の限りを尽くすような真似はしないわ。
今日の私が求めているのはむしろその逆ね」
「――創造、と」
「そう。退屈は人間を殺すと言う話は聞くけれど――
実際の所、神の方がより深刻な話だわ。考えても御覧なさいな。
目を細めたコレットに男は「全くだね」と破願した。
「この世は兎角、退屈が過ぎる。確実な変化というスパイスを加えないなら身も心も腐ろうというもの。
神ならぬ非才の我が身ですら、そんな事は百も承知だ。ましてや……
そう、人智の遠く及び得ぬ御身の事なぞは想像するに不敬になりましょうや。
……さて、前置きは十分だろう、コレット嬢。つまり貴方は我々に力を貸す用意があるという事ですな?」
満足気に頷いたコレットは「如何にも」と男の言葉を肯定した。
ざわめく部下――黒服達の動向に構わずにコレットは言葉を続ける。
「
しかし、それで全てが終わったと思うのは早合点というものだわ。
貴方は今も必要な全てを用意して、『次』を始める準備を済ませているのではなくて?」
……遅ればせながらに言えば男の名はヤミール・ドージンスキー。
かつてクソくだらねぇどうでもいいシナリオでリーゼロッテおぜうさまのエロ同人誌を刷り倒し、バレた結果秘密工場を灰燼にされ、幻想中に指名手配を喰らった御仁である。(詳しくはシナリオ『何でも巷では私を描いた些か不適切な図書が存在しているとか何とかまさか貴方達はそんなもの持ってはいないと思いますけれど、時に今日の用件は分かっておりますわよね?』を見てね!)
鮮烈なまでの傍迷惑なイベントはローレットに同人誌制作なる一大ムーブメントを巻き起こしたような起こさなかったような。関連するかはどうあれ、事実はどうあれ。『暇を持て余した破壊神』は一連の出来事をえらく高く評価していたのである。彼女はそこで同人誌販売の活動再開は考えているのかどうかを聞きに、この場所までドージンスキー子爵を訪ねたという訳であった。
シリアスな空気に相反して突然とてつもなくIQの下がった展開だが、子爵は笑う。
「さて、どうだろうね。この世は全てαでありΩである。
回答はYESであり、NOでもあろう。即ち、私が返すべき言葉は君の応答次第という訳だ」
「……まさか、貴方。人の身で私と『取引』をする心算?」
柳眉を軽く持ち上げたコレットの威圧感はそのサイズ(302センチ)相応に強い。
見た目は美少女そのものといった感なのだが何せパーツ一つ一つが威圧的である。
びびり倒す部下達の一方で子爵は楽しそうに応えるばかりだった。
「その位の不遜がなくて、どうして天に弓を引けようか。
それにコレット嬢。
「……………」
暫しの沈黙の後、コレットは酷く珍しく――「そうね」と極幽かに口元を緩めていた。
「条件を聞きましょう。ヤミール子爵。
貴方の新しい産業を支援するとして――私に望む事は何?」
「その前に一つだけ確認を。『神は御身の言葉を違えますまいな?』」
「疑うの? 聞くと言ったら私は聞くわ」
「疑いは
……おっと、何時から私が
そんなもの適当に書いている本人さえ理解していない事なのだ」
「ふぅん」と可愛らしいといってもいい程素直に小首を傾げたコレットは「分かったわ。違えない」と頷いた。
「では――
コレット嬢にはローレットの動きを抑えて貰いましょう。
私とその勢力が中央に戻るまでの間、彼等に横槍を入れられるのは億劫だ。
……ん? ああ。
そんなもの。彼等は元々おぜうさまのファン倶楽部のようなものだ。現物で何とでも買収出来る。(※個人の感想です)
時間を稼ぎ、コレット嬢の支援と併せ隠し財産で秘密裏に工場を復活。
電撃的に大イベントを開催し一気に売り逃げて拠点を解体する――まずはゲリラ戦で十分でしょう」
子爵はそれから、と言葉を継ぐ。
「それはコレット嬢をメインに据えたイベントになるだろう。
全世界の人々、特に天義の人々に不道徳を教え込むのは良い事だろう。
は? 聞いてない? それはやめろ? 無理ですな、決して聞けない相談だ」
――
今は悪魔が笑う時代なんだ。
状態異常
- コレット・ロンバルドの破壊なる事件簿完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2020年11月29日
- ・コレット・ロンバルド(p3p001192)
・ドージンスキー子爵本人または子爵の部下