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君の誕生日にたくさんの祝福を

登場人物一覧

烏谷 トカ(p3p008868)
夜霧
烏谷 トカの関係者
→ イラスト
烏谷 トカの関係者
→ イラスト

 パン、パン、パパーン!!!
 飾り付けられ良い匂いの漂う暖かな室内にクラッカーの音が響く。
「トカ!おめでとう!」
 鳴らしたばかりのクラッカーを持ってにこにことしている少女はラウラ。ぴょこぴょこと彼女の大きなフェネックの耳が動き、おしゃれなスカートを揺らすように尻尾も機嫌よく揺れている。
「ああ、誕生日おめでとう」
 クラッカーを持ったまま小さく拍手するのはラファエル。黒い髪と濃い肌色が特徴的なハーモニアである。どこか儚さもありそうな顔は今は祝福で緩み、友人の生誕を祝っている。
 そして、二人の祝福を受けどこか照れ気味な微笑を浮かべているのがこの誕生日会の主役、烏谷トカ。
 といっても彼の瞳は美しく煌めく銀の髪に隠れて全く見えない。小さく微笑んだ口元だけが彼の感情を伝えてくれていた。
「二人ともありがとう。祝ってもらえてうれしいよ」
 大人の男性二人と少女一人という変わった組み合わせだが、よくあること(というよりラウラがよくまとわりついてくるだけ)なので特に気になることでもない。
 むしろテーブルの上に並べられた料理のいくらかは得意料理のオムライスをはじめ、ラウラがこの日のために作ってきたものだ。それとは別に彼女では作ることのできない大がかりだったり難しいものはラファエルが買うなどして用意したのである。肉料理が好きなトカのためにローストチキンを用意したのもラファエルだ。
 しかしまだテーブルの上には誕生日パーティーに足りないものがあった。誕生日といえばこれ、ケーキである。
 ケーキがないことにトカの視線に気づいたのだろう。ラウラが少し待ってて、と駆け出していく。
「じゃーん、今回のメイン、ケーキよ」
 しばらくして両手でケーキを持ってラウラはドヤ顔で戻ってくる。真っ白なクリームで綺麗に彩られ、真っ赤なイチゴが宝石のように飾られている。中央にはチョコプレートがあり、丁寧な筆跡で『たんじょうびおめでとう!』と書かれていた。筆跡からしてラウラが自分で書いたのだろう。
「ほう、これはすごいな。どこで買ったんだ?」
「買ってないわよ! 私が作ったの!」
「これは失礼した。綺麗なケーキだったからつい、な」
 ぷっくーとラファエルに向かってむくれるラウラ。買ってきたと言ってもおかしくないほど綺麗にできてると、暗に誉められているようなものなのだが本人は気づいていない。
 そんな彼女の頭を右手でトカはそっと撫でた。
 彼女が料理を作れることは知っていたが、それでも大変だったのは容易に想像がつく。
 オムライスといった簡単なものならよく作っている分、作り慣れているであろう。だが、ケーキを作っている姿を少なくともトカは知らない。
 綺麗な赤い宝石を飾られた真っ白な誕生日ケーキはお店に並べられていても遜色ないような見た目をしていた。その裏に彼女の努力が感じられたような気がして、だからそれを労おうとトカは頭を撫でる。
「ありがとう、ラウラ。すごく嬉しいよ」
 撫でられている時は嬉しそうにパタパタと尻尾を揺らしていたのだが、褒められたとたんに彼女の瞳が驚きで丸くなり、次の瞬間には覆い隠すようにふふんと誇らしげな顔になった。
「せっかくのトカの誕生日だもの、当然よ!」
 その頬が軽く色づいているのをケーキを切り分けていたラファエルは見ていたが、あえて何も言わなかった。ただ、後でからかってやろうと考えながら。

「じゃあ、せっかくだからケーキからいただこうかな」
 切り分けられたケーキを前にフォークを使ってトカが口に運ぼうとするが、ラウラが待ったをかける。
 ポケットから取り出したのは数十本の綺麗でカラフルなロウソクだ。
「えっと、これは……」
「誕生日ケーキにはロウソクが必要でしょ」
「ああ、何を数えていたと思ったらそれだったのか。安心しろトカ、きちんと三十一本ある」
「せめてそれだったら切り分ける前に言ってほしかったよ」
「悪いな、忘れていたんだ」
 そういう問題なのだろうか。というよりも三十一本のロウソクを吹き消させるつもりだったのだろうか。ラファエルの考えは読めない。
 ただただロウソク(三十一本なのでなかなかのボリューム)を持ってきらきらするラウラを前にトカは困った顔になるだけである。
 少し恥ずかしいとはいえロウソクを立てること自体は何の問題もない。問題はないのだが、切り分けられて小皿に乗せられた小さなケーキの上、そこに三十を超えるロウソクを立てるスペースはない。というか立てたら間違いなくケーキが崩壊する。三十一本のロウソク対一切れのケーキならロウソクの圧勝なのは想像に難しくない。せっかくのラウラの手作り誕生日ケーキだ、それはさすがに避けたい。
「ロウソクは嬉しいけど、全部立てたらせっかくのケーキが台無しになりそうだからね」
 だから一本だけでいいかい、と首をかしげてみせればせっかく持ってきたロウソクが少し勿体ないような気がしつつもラウラは頷いた。
 よく考えてみたら三十一歳の誕生日なのだから、三十という前提があれば一本でも問題はないかな、と思ったらしい。問題ないかどうかは謎だが。
 トカのケーキの上に一本、白と黄色の混ざり合った色合いのロウソクが立てられ、ラファエルが火をつける。部屋の明かりが消され、ロウソクの火だけが幻想的に輝く。
 せっかくだからとラウラが歌い始め、合わせるように小さくラファエルが口ずさむ。
 ケーキの前に座ったトカがロウソクの光に照らされて、髪が赤を纏って煌めく。そんなきらめきを歌いながらラウラはずっと見つめていた。
 歌の終わりに息を吹いて火を吹き消すと部屋が真っ暗になるのと同時に一瞬の静寂。その後に強い拍手と軽くも大きな拍手が響いたのだった。

 部屋の明かりが再度つけられたら、切り分けられたケーキに再びのお礼を言って今度こそそれぞれ口に運ぶ。
 白いクリームは甘く、飾られていたイチゴはもちろんスライスされてスポンジの間に挟まれていたイチゴも甘酸っぱくとても美味しい。
 ふわふわのスポンジも口の中で踊るようで幸せな気分になる。
「ほう、これはなかなか美味しいじゃないか」
「うん。このケーキおいしいね。紅茶にも合いそうだよ」
 二人に褒められ、でっしょーとラウラは満足げ。こうも褒められればレシピ片手に練習から材料集めに奮闘した甲斐もあるものというものだ。
「この時期イチゴを手に入れるのは大変だっただろう?」
「ふふふ、あたしだもの、全然平気よ」
 実際はイチゴを探してあちこち駆け回ったものだが、そういった苦労を出さないようにして大人っぽく振る舞ってみせる。
 それでもありがとうね、ともう一つお礼を言われて頭を撫でられればそんな部分は崩れて年相応に嬉しそうな笑顔を浮かべてしまうのだが。

「そうだラウラ、面白いものを見せてやるよ。トカ、ちょっと」
「なんだい? うわっと」
 ラファエルに軽く肩を掴まれラウラと正面を向くように動かされる。
 何事かと見上げるラウラの前でラファエルはさっと手早くトカの前髪をかき上げてみせる。
 きらきらと部屋の光に反射するように色を小刻みに変えながら銀の髪が舞って……。

 目が、合った。

 いやいやいやいや、なんでなんでなんで。今までトカと目が合ったことなんてなかったよねぇ!?
 そりゃそうだよ、だってトカの目はいつも綺麗な銀の髪で覆われてて……あれ、それがないから目が合ってるの?
 あれそもそもあたし何してたんだっけ?!
 という言葉が聞こえてきそうなほど、予想外の事態にラウラはあわあわとパニックを起こした後で完全にフリーズする。ただその顔がみるみる赤くなっていくのはやはり乙女なのだろう。
「あれ、ラウラ? ラウラー?」
 一方で動かない彼女をトカは心配し、ひらひらと彼女の前で手を振ってみる。いつもなら子供扱いしないでよ、とか何かしら反応が返ってくるはずだがフリーズした彼女は同然無反応。
 まさか自分の前髪があげられて彼女が素顔を初めて見たからだ、なんで思いつくわけもなく。何故だかわからなくて首をかしげるトカに、その分かっていない様子も含めてラファエルはトカの髪をかきあげたままおかしそうに笑うのであった。
 なお、ラウラが復帰するのには髪がいつも通り下ろされてから数分はかかったという。その間ラファエルがずっと笑っていたのは言うまでもない。



 さて、思わぬサプライズ(?)もあったもののケーキもご飯も食べてよい時間。だが解散になってしまう前にトカには渡したいものがあった。
 ともすれば片付けに取り掛かりそうな二人を制してトカは隠していたプレゼントを取り出す。
「はい、これを」
「えっ?」
「俺にもか」
「うん、サプライズのプレゼントってことで。今日は本当にありがとう」
 ラウラに渡されたのは白地にカラフルな水玉がプリントされた可愛らしい小包。
 ラファエルへは薄い青と濃い青でストライプの描かれたラウラより一回りほど大きな小包だった。
 開けていい?と目を輝かせる(ついでに尻尾も全力で振られている)ラウラに頷けば、二人は揃ってプレゼントを開ける。
 その中に入っていたのは……。

「これは……コーヒー豆?」
「ほう、これはこれはなかなかセンスある人形じゃないか」
「あ、あれ?」
 ラッピングを頼んだ店員が間違えたのか、トカの予想に反してラウラの袋からは高級そうな雰囲気のあるコーヒー豆の袋、ラファエルの袋からは桃色の服と帽子をかぶった可愛らしい女の子の人形がでてきたのだ。
 本来なら逆に渡すつもりだったのだが。この場で開けたことは幸いというべきだろう、すぐに取り換えれば済む話なのだから。
 と、話が進むつもりだったというかそうなればよかったのだが。
「ごめんね二人とも、どうやら包んでくれた人が間違えちゃったみたいで……」
「俺は価値のわかるコレクターだからな」
「えっ?」
「はぁ?」
「これほどのアンティークドールには興味がある。なに、おまえにはもったいないがそのコーヒー豆はやろう」
 言葉を遮るように真面目な顔をしてラファエルは(ラウラが届かないような高さに)人形を持ち上げる。ただその口元は緩んでいた。
 トカは察した。これラウラをからかってるだけだ。
「そっ、そっ、そのお人形はあたしへのプレゼントでしょ! 返してよ!」
 というかあたしがコーヒー飲めないの知ってるでしょ、とラウラは主張しながらピョンピョン跳ねて人形を取り戻そうと必死。
「何を言ってるんだ。これは俺に渡されたものだろう?」
 それを鮮やかに(というより身長差の利で)躱しながら気難しそうな顔を作りながらラファエルは、服のデザインが素晴らしいな……などと人形の批評を始める。
「かーえーしーてーよー!!!」
「おまえにはコーヒーがあるだろう?」
「だから飲めないっていってるでしょ!」
 そんな二人のドタバタにトカは笑った。
「ほら二人とも、僕が渡したかったのは逆だからその辺りで、ね?」
 グルルルと威嚇しかねないラウラとの間に入ってとりなしにかかる。
 何気なく、平凡で、でも特別な一日。
 こんな日がまた来年も訪れるように願って。

 Happy Birthday!!

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