SS詳細
煤塗れの鉄屑
登場人物一覧
名前:『黒鉄の愛』ヴィクトール=エルステッド=アラステア
種族:鉄騎種(オールドワン)
性別:男性
年齢:UNKNOWN(老年には見えなかった。年若い見た目ではある)
特徴(印象):黒い。大きい。邪魔。鬱陶しい。あれは自己犠牲に見せた、利己の戯れだ。
設定:
その強固な防御力で以て仲間の支えとなることが多い。
智泉がイレギュラーズと交戦した二度の戦いでは、二度とも彼の壁を抜けることは叶わなかった。
彼女がヴィクトールを超えられなかったのは、本当にその防御力だけが理由だったのか。
●呪言
――いつかのどこか。それは煙魔の呪いが聞かせ、見せる幻だったのか。
煙に満ちたその場所に、女がいた。
確かに煤となって消えたはずの、煙の女の声。
煙を纏う、男を装った女の姿が見える。
「どうした。ああ、そう言えば……煤の呪いを遺していたか」
扇で隠された口元から、女の笑みが漏れる。哀れな、と。同情の視線を向けて。
「誰も愛せぬ呪いの心地はどうだ。愛を解せぬ呪いは。
お前は生涯誰も愛せぬ。死ねば愛してやる、などと嘯いた私のことも」
彼女は、その言葉を嘘だと断定していた。
巫女姫を恋う彼女へ戯れに吐かれた、口先だけの出任せに過ぎない、と。
「万に一つ、この煙を焼き尽くすほどの、燃える想いを抱くことがあったとして。
焔のある処に煙は立つもの。その想いが強く燃えれば、それだけ煙も増そう。
お前は永劫、この煙からは逃れられない」
女はまた笑った。全く哀れな、と。
――そんなに逃したくないほど、貴方はボクを愛したのですか?
「……悔いがある。この手で、お前の息の根を止められなかった」
――殺したかったほど、愛したのですか?
「私は、真に想うものには触れない。触れれば煤で汚れよう」
――相変わらず女々しいのですね。女々しくて勝手で。
「煤塗れの鉄屑の分際で。この呪い、その肺も満たしてくれようか」
――お待ちしてますよ。できるのなら。
女は大層不愉快な顔をして、背を向けた。
「これほど巫山戯た鉄屑を殺せなかった。その無念と憎しみを、この呪いに焼き付けよう。
お前もせいぜい後悔するがいい。いつまでも私を思わねばならない呪いを」
煙の向こうに、女が消えていく。
煙は、未だ晴れない。