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故郷への手紙
登場人物一覧
- コゼットの関係者
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「お疲れ様、ダイア」
採取の仕事は大分慣れた。ベリーは鼻唄一曲で丸裸にできるようになったし、森でモンスターにあっても悲鳴を上げないで呪文を唱えられるようになった。うん。大分進歩した。
今日一緒に仕事をしたお姉さんが、この後どうするの? と声をかけてくれた。
「えっと、明日郵便屋さんに預けたいんで、今日はお家に帰ってお手紙を書きます」
ダイアの家の方向に行く郵便馬車は週に一回だ。そこから先は引き渡しによる引き渡し。かさむ待期期間。一か月後に届くかな? 届いたらいいな。
「そう。じゃ、また今度誘うわね」
「はい。今日はありがとうございました」
手を振って別れる。
イレギュラーズの連帯感があるためか、ローレットの組合員は世話好きの人が結構いる。情報屋さんも、年少のダイアを気遣ってくれる人と組ませてくれているようで、それもありがたい。
そんな中ダイアに優しくしてくれる人の中でも、ダイアにとって別格のコゼットさんはあちこちで転戦しているという。練達の方だったり、海の向こうだったり。
会いたいな。と、思う。元気でいてくれるといいんだけどな。
コゼットさん達はこの日に帰ってくるよ。というのは大体教えてもらえて、できる限りお出迎えしてるけれど、少しづつ増えてきているダイアの勉強や仕事の時間とかち合ったりして、ここしばらく顔を見ていない。今日も帰投予定と聞いている。手紙を書くのに時間がかかるので早く帰った方が絶対に言いのだが、今にも帰ってくるんじゃないかとカウンターから離れがたい。ローレットにつく乗合馬車の音がするたび、乗っているんじゃないかとぴくんとしてしまう。
「ダイア」
自分を呼ぶ声に振り向いた。 コゼットが後ろに立っていたのだ。
「久しぶり。――元気に、してた?」
「はい!」
自分でもびっくりするくらいいいお返事だった。コゼットと顔を見合わせて、笑いあった。
「あ、コゼットさん。お時間ありますか?」
コゼットは特別なのだ。
「あたしのところに寄っていきませんか? あたし、これからお手紙書くんです!」
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コゼットと自分のためにお茶を淹れ、机に陣取り、紙と筆記用具を用意して、ダイアはうぬぬと唸る。
「どうしたの」
「書きたいことはいっぱいあるんですけど、手紙に書くとなると書き出しが思いつかなくて」
それっぽい書き方があるのは知っている。
「そんなに気にしなくてもいい――んじゃない。ダイアの言うとおりのお父さんとお母さんなら、どんな手紙でも喜ぶ。と、思う」
カップで両の指を温めながらコゼットがそんなことを言う。
ジト目気味の視線が真摯で、ダイアはなんだか肩の力が抜けた。
「えっと――」
ペンを握って、書き始める。
『お父さん、お母さん。お元気ですか。あたしは元気です』
魔法を勉強するにはまず文字の読み書きが重要で、家にいる時より格段に字は上手になったと思う。
「ダイア、字がきれい、だね」
「そうですか?」
「うん。上手になった」
コゼットにほめられると、勝手に顔が二へ二へしてしまう。
『ちゃんと毎日お勉強しています。魔法の練習もしています。お仕事もちょっとずつできることが増えてきました。ベリー集めの他に薬草摘みとかもできるようになりました。今日はベリーを大籠で三つもとったので、また来てねと言われました』
なんだか摘んでばっかりだけどしょうがない。
一度、隊商護衛の仕事に就いた時のことを思い出す。
イレギュラーズなので見た目よりずっと体力があるので全然平気なのだが、馬車の横を年端もいかない女の子が馬にも乗らずにチョコチョコ歩いていると、知らない人達から見たら心配になったらしい。お商売の馬車だと余計そうだったみたいだ。もう少し背が伸びたらそちらの仕事もしてみたい。そんなことも書き連ねてみる。心配されるだろうか? でも、多分わかってくれるんじゃないかなと思う。
えっと、何か。心配かけないで、安心させてあげられるようなこと。
ダイアはしばらく視線をうろうろさせていたが、すぐにペンを取り直した。
『最初のお手紙に書いたコゼットさんがよく様子を見に来てくれます。とっても忙しいのに嬉しいです』
「あたしのこと、書くの」
「はい」
実は今までもいっぱい書いている。コゼットが恥ずかしがってもう書いてはダメと言ったら困るので言わないが。
コゼットのポーチに自分が作ったマスコットが二つともつけてあるのをダイアは嬉しく思う。背筋を伸ばし手続きを便せんに書きこんだ。
『あたしが作ったマスコットを携帯カバンにつけてくれています』
「喜んでるって書いて」
コゼットは、トントンと便箋を叩いた。
「うさぎさんとくまさん。並べると姉妹みたいで嬉しいって喜んでたって書いて」
ダイアはまじまじとコゼットを見た。コゼットはジト目でちょっと唇を尖らせている。
ダイアは言われたとおりに書きこんだ。コゼットはそれを見てうんと頷いた。満足げだ。
『ちょっと強くなったらから、こんど帰ります。コゼットさんが、いっしょに送りに来てくれるから、その時に紹介します』
「今度」
「コゼットさん、時間空けてくださいね? うち、結構遠いです」
「わかった。ちょっと旅行だね」
「えへへ」
『お父さんはコゼットさんの靴を作って上げてください。お母さんは御馳走作ってくださいね』
「約束しましたから」
最初に依頼についてきてもらった時の話をコゼットが覚えていてくれたのが嬉しかった。コゼットもニコニコしている。
「ダイアが、社交辞令? じゃなくて、本気なのが嬉しい」
聞きなれない言葉にダイアが社交辞令で何ですかと聞いた。
「えっと、仲良くなるために、果たされなくとも、気にしない約束する、こと? 今度出かけましょうね―とか、ご飯食べましょうねーとか、また誘うねーみたいな」
今日、一緒に依頼をこなしたお姉さんとした。また今度。この次誘われたらきっとうれしいだろうけど、誘われなくても、多分ダイアは気にしなかった。
「本気ですよ」
コゼットにはいつだって。
「うん。楽しみ」
顔を見合わせて笑う。コゼットと一緒日いるとふかふかした感じがするのだ。温かくて、包まれてて、安心する感じ。
コゼットさんと一緒だったら大丈夫だ。
一番大事なところを書く。目を閉じて、息を大きく吸って吐く。目を開けると、コゼットがじっとダイアを見ていた。コゼットにまで力が入っている。
『頼りになる先輩もいるし、人の役に立って喜んでもらえるし、このままイレギュラーズとしてやっていくのもいいかもって思ってます。
相談させてください。
はやくお父さんとお母さんに合いたいです』
怖気づかないうちに、急いで、便せんを乾かし、織り上げ、封筒に入れて封をした。
「――書いちゃいました」
「うん。書いちゃったね」
後はえいやっと出します。というダイア。コゼットは、まぶしそうに目を細めた。