PandoraPartyProject

SS詳細

Shoot red in monochrome.

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ランドウェラ=ロード=ロウスの関係者
→ イラスト
灯代 狐太郎(p3p004546)
安らかなる砂の夜に

●Conclusion drawn from soft serve ice cream and request.
「ねぇねぇ、ヴェルンちゃーん」
「……」
 かつかつかつかつ。
 赤いヒール鳴らし、女は進む。少年はその足元で飛び跳ね駆け回り、必死に訴えかける。喧嘩をした姉弟のようだ。

「ちょっとぉ、僕の声無視しないでくれる?」
「嫌です」
 水晶玉が少年の尻をつつく。女の方が指をくるくる回すと、水晶玉は大きくなり、少年を無理やり座らせて動けないようにしてしまった。

「なんで!」
「セレスチアル様より無駄遣い、それから狐太郎様がふらふらとどこかへ行ってしまわないようにと言い渡されていますから」
 『でも僕の方が偉いんだよ!』という少年。彼の示す偉いの定義とは。少女も否定はせず進み続ける。握った財布は手放しはしないのだけれど。
 しびれを切らした少年は勢いよく飛び降りると、少女のスカートのすそをくいくいと引いて、上目遣いでおねだりを。
「僕、あそこのソフトクリーム食べたい……」
「……狐太郎様! お腹がすいているからって我儘をおっしゃらないでくださいよ」
「えへへ。だってまだ僕子供だからさ?」
「子供で幹部に上がるエリートがどこにいるんですか全く……ちょっとだけですよ!
 依頼を受けてくださった方がもうついてるかもしれないんですから」
「はぁーい。あ、あそこのポテトってのも食べてみたいなぁ」
「ちょっとじゃないですよね! 駄目です」
 仲睦まじく声を交わすのは、一見すれば姉と弟にも見えなくはない二人。しかしながら姉の方は弟の方へ様付けを、弟の方はのんびりゆったりと語りながらも幼子ならぬ雰囲気を醸し出す。にこにこと、温厚に。けれど、その笑みはねじ伏せてしまいそうな威圧感さえ感じさせて。
 そうして並んだ列、彼らの前に居たのは。
「あ」
「ん?」
「この人?」
「ええ、そうですね」
「あ、なるほどね。君たちが依頼人? 僕もソフトクリーム食べたくて並んでるんだよね。
 こんなに小さい子もいるのかぁ、よし、お兄さんが奢ってあげよう!」
「え、ちょ、ちょっと」
「わぁい、ヴェルンちゃんもお言葉にあやかろ、ね!」
「……しかたありませんね」
 『よしきた』と三つ、真っ白に渦を巻くソフトクリームを買った男。彼の名前はランドウェラ。
「お待たせ! 近くのベンチで話を聞かせてもらおうかな。あとランチも!」
「わぁーいわぁーい! 僕ポテト食べるから、ヴェルンちゃん一緒に買いに行こうね!」
「……はぁ!」

●Run, lunch, run!
「で、今回の依頼の内容は?」
「はい、説明しますね」
 ヴェルンが水晶玉に手をかざすと、真白いテーブルにホログラムが映し出された。目を瞬かせたランドウェラを一瞥し、ヴェルンは話を続ける。
「今回は我々と共にとある宗教集団の壊滅、並びに教徒達を殲滅します」
「え? それって殺す必要があるってことなの? うーん、あんまり気は乗らないなぁ」
 ランドウェラの紅白の双眸が瞬く。長いまつ毛の下には疑念や不安、そして戸惑いの色が滲んでいた。自称八歳とはいえ彼もまた一つの生き物、思考をして考えることは可能だ。果たして本当に殺さなければいけない理由があるのだろうか?
「お兄さんは、もう依頼の同意欄にサインをしているんだよねぇ?」
「え? うん」
 狐太郎のボーイソプラノが伸びやかに響く。ルビーのような瞳がさらに赤く染まったような気がした。
「だったら、ちゃんと依頼人の命令には従ってくれないと困るな。
 今回の依頼は、宗教団体を壊すこと、そこの人を殺すこと。返事はOKかはいかYES以外には用意してないけど、わかってるよね。だっておにいさん、依頼を受けたんだから、さ!」
 蝶が飛んできた。揺蕩うそれは狐太郎の鼻の頭で羽を休める。ソフトクリームを食べ終えた狐太郎は、蝶の羽をつまみ引きちぎると、ランドウェラへと笑みを浮かべた。
「それじゃあいこうか、ランドウェラさん!」
 楽しそうに頬を染める姿は、床に震える蝶の亡骸を生み出した少年のモノとは思えない。
「汚いね。やっぱり蝶々は手が汚れちゃうから僕嫌い」
「人間の魂のほうが喜んでいただけるとおもいます」
 退屈そうに足をぶらつかせる狐太郎の行いを咎めないヴェルンの姿に、ランドウェラは心がざわめくのを感じたのだった。

●God teaches that wicked people must be killed, but boys and girls enjoyed doing so. It's so strange and mysterious that it doesn't seem to be understandable.
「じゃあうーんと。僕は二人の『食べ残し』を片づけたり、美味しそうな人を狩るから。先行はお願いしていい?」
「うん、いいよ」
「お任せください」
 手には死者の魂を、握った刀は爛々と。不気味な屋敷に不釣り合いな笑みを浮かべた狐太郎は、ランドウェラの隣を歩む。狐太郎を挟んだ隣にはヴェルン。その様子はどこか楽し気だ。
「たのしい?」
 ランドウェラのその一言は純粋な興味からだった。爛々と瞳を輝かせる狐太郎は、答えた。
「だって、イーゼラー様のところに魂を還せるんだから! お仕事張り切っちゃうよねえ」
「その、イーゼラーってのは、だれ?」
「呼び捨てはだめだよ」
 ヴェルンの水晶玉が背後に。前には狐太郎の刀。敵よりも先に味方と一悶着することになろうとは。両手を上げお手上げのポーズをとったランドウェラ。満足したのか狐太郎は一歩先を歩みながら説明し始めた。
「僕は安らかに死にたいだけなんだけどね。あの子のところに行きたいんだ。
 まぁ、それはさておいて。
 イーゼラー教ってのは、イーゼラー様の為に魂を還すことを目的に活動している宗教団体。まぁいわば、いらない人を殺してるってことだね」
 淡々と語る狐太郎。敵が飛び足してきた。ランドウェラが危ないと叫ぶよりもさきに、ヴェルンの水晶玉が怪しく輝き、その道先を晴らす。
「それでね。イーゼラー様より名前を頂いた二十人を、幹部って呼ぶんだ。あ、僕もその一人ね!」
 たったった、と駆けだした狐太郎は舞うように敵の首を一薙ぎ。食べ残しと称された死にかけの身体には出血方で死ねるようにたくさんの切り傷を刻んで。笑顔で行えるその行動に、ランドウェラは此処は居世界なのではないかと錯覚した。
「それでは、わたしがかわりに説明しますね」
「あ、うん」
「幹部の方々はそれぞれ活動拠点がありまして。此処は狐太郎様……皇帝。エンペラーの、狐太郎様の支配下。
 彼の髪、黒色じゃないですか」
 ヴェルンは戦い続ける狐太郎の髪を指さす。『うん』とランドウェラが頷いたのを確認すると、ヴェルンはまた口を開いた。
「イーゼラー教徒は、赤、白、黒の三色のみを纏う義務があります。彼の色は何者にも染まらず圧倒させる死を連想させる黒、なんですね」
「うん」
「彼、殺すのが好きなんです。ただ、まだ幼子ですから、今回は別の幹部の直属部下であるわたしが、お手伝いに参ったわけです」
「へぇ……」
「ここの領地ね。死の神を崇めているらしいんですけれど、イーゼラー様じゃぁないんです。
 だから狐太郎様、張り切っちゃって。わたしのぶんも残してくれなさそう、ですよね」
 死体に、亡骸に祈りを捧げている狐太郎。ふとこちらの視線に気が付くと、嬉しそうに手を振った。ヴェルンは答えるように軽く頭を下げると、ランドウェラに歩くように促して。
「ええと。つまりですね。あなたに今回してほしいことは、邪教徒を殺すお手伝いです。
 イーゼラー様もたっくさん喜んでくれるとおもいますから、がんばりましょうね」
「ね!」
 たったった、と駆け寄った狐太郎からは生臭い血の香りと、みずみずしい赤い色がした。ランドウェラは思わず目を大きく見開いた。
「ランドウェラさん! 僕ね、向こうに殺しがいのありそうな老害を見つけたんだ。どっちが早く還せるか競争だよ!」
「え、え、ちょっと?!!」
 血濡れた手で握られる。白い手袋にはじわりと血が滲んで。
「だってさ、僕たち依頼人で」
「ランドウェラさんは、依頼を受けた只の傭兵、のようなものじゃないですか」
「できないなんて言わせないよ?」
「できないなら、ここでわたしたちに還されるだけですしね」
 イカれている。狂っている!
 少年ながらに殺戮を、破壊を楽しむ狐太郎が言われなれた常套句だ。
「ランドウェラさん。僕ね」
「うん?」
 教祖を殺し終えた狐太郎は、暇だと十字架の上に腰掛けて悲しそうに微笑んだ。
「もっと、楽しいことが知りたいんだ」
 殺す以上の。楽しいこと。
 後片付けの準備があると席を外したヴェルン。こっそりと心の声を零すように、狐太郎は囁いて。
「……なんて! さぁて、帰ろうか。賃金は弾むんじゃないかな、」
「いいよ」
「……ぇ」
「おにーさんが、教えてあげよう」
 ころん、と、瓶の中につまったとっておきの金平糖を狐太郎の前で揺らして見せる。『なにそれ』と笑った狐太郎の笑顔は、漸く、飾っていない少年らしいものが見られたと、思った。
「ねぇ、次はもう少しまともなところで会えるといいね」
「そうだねぇ、その時はこんぺいとうをもっと持ってきてあげよう」
「あはは。折角だから、楽しみにしてるね」

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