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運命に引き裂かれた魔術姉妹

登場人物一覧

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ユーリエ・シュトラールの関係者
→ イラスト

●幼少時、魔術を備えて
 その世界は、地球と呼ばれている。
 ただ、我々の認識する地球とは異なる場所らしく、この世界におけるとある時代には魔術というものが確かに存在していた。
 そして、その時代に生まれた者は、必ず魔術の素養を持って生まれてくる。
 性質が全て同じという者は誰一人として存在しない為、一人一人が存在意義を持つことができる社会を人々は築き上げていた。
 どのような魔術が備わっているかを知る為には、研究施設へと連れていき、科学者によって生まれてきた乳幼児へと精神的に負荷をかける手段が取られる。
 これによって、生まれたばかりの子供が魔力を発し、どの分類の魔術に属するかを判別することができるのだ。

 現在でいうところのドイツ北部、海辺の村。
 著名な医学者の父を持ってこの地で生まれた『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は、魔術を通して脳内で想像した物を具現化させる投影魔術を備えていた。
 そして、その3つ下の妹、エミーリエ・シュトラールは時間を操る魔術を行使できた。
 このエミーリエの魔術は世界的に見ても、特殊なものだったらしい。
 サンプルが少ないこともあり、研究施設の科学者達は研究材料としてあれやこれやと実験を繰り返して精神的負荷を与え続けた。
「けほっ、けほっ……」
 その結果、エミーリエは身体を弱らせてしまい、魔術を使うだけで必ず体調を崩してしまうほどに病弱な身体となってしまった。
 ユーリエ5歳、エミーリエ2歳。
 彼女達が物心ついた頃、所属する国を含めた国家間の魔術戦争が勃発してしまう。
 きっかけは、片方の国による武力行使とされており、応戦した国と全面戦争の様相となっていた。
 丁度その頃、彼女達の父は学会で論文を発表する。
「このまま、生まれたばかりの子供に負荷を与え続けるのはいかがなものか。私は研究の末、『魔術を別の方法で、もっと安全に調べる方法』を見つけ出した」
 それは、当時としては画期的な方法だったと思われるが、研究者達も自分達の研究が止まってしまうことを懸念したのだろう。
 戦争の混乱に乗じてシュトラール夫妻は暗殺されてしまい、表向きは戦火に巻き込まれて死亡したと発表された。

●孤児となり、妹と共に
 激化する戦争の中、父母を亡くしたユーリエ、エミーリエ姉妹。
 彼女達は戦災孤児として保護され、孤児院へと引き取られることになる。
 ユーリエは小学生に当たる時期を、エミーリエは幼児から小学生の低学年の時期をこの地で過ごす。
「おねーちゃん、これなんてよむの?」
「ん? これはね……」
 シュトラール姉妹はその場所で、読み書きを覚える。
 また、この場には10数人の同じ孤児達がいた。
 何せ、戦争は国中で繰り広げられている。
 徴兵に駆り出された親が帰ってこなかったり、故郷にミサイルや広範囲魔術を放たれて生き残ったりとその境遇は様々。
 だが、両親を失ったことは共通する孤児達は皆、手を取り合って。
「ユーリエ。ユーリエ・シュトラールです」
「エミーリエ・シュトラール、だよ」
「うん、よろしくね!」
 誰に対しても優しい姉妹のこと、他の孤児達も彼女達に好印象を抱き、友達がたくさんできた。
 決して、恵まれた孤児院ではない。シスター達もその運営には気苦労が多かったことだろう。
「シスター、お掃除手伝います」
「これ干せばいいの? わたしやるよ」
「そう、それじゃ、お願いできるかしら?」
 それでも、姉妹は仲間達と協力してシスター達を助け、生活していた。
「今日は何して遊ぼうか」
「その前に、芋の皮むき手伝わないとね」
「お姉ちゃん、私も手伝うよ」
 仲間達との触れ合いを通し、ユーリエもエミーリエもここで過ごす数年の間に人の優しさを知ることとなる。

 やがて、彼女達が成長する間に魔術戦争も終結する。
 数え切れぬほどの血が流れ、土地は荒れた。
 長引く戦争によって疲弊してしまった両国は、領地の不可侵、魔術を含む技術の交換などを盛り込んだ平和条約を結んだのだ。
「ああ、ユーリエ、エミーリエ……やっと、やっと見つけたよ……」
 エミーリエが10歳になる頃、親戚であるお婆さんが施設を訪ねてきて。
「誰……?」
「おばあ……ちゃん?」
「そうよ。お婆ちゃんよ。これからは一緒よ……」
 姉妹は施設を出て、自分達を引き取ってくれたお婆さんと暮らすこととなったのである。

●学生生活、離れた妹を気掛けて
 時は流れて。
 親戚に引き取られたユーリエは普通の中学生として過ごしていたが、中学校を卒業して16歳になると、彼女は本格的に魔術学校で魔術の勉強を始める。
 魔術が当たり前のように存在するこの世界において、魔術学校は珍しいものではない。高校における一つの科のように選択肢として学生達には存在する。
 ユーリエは父、シュトラール医学者の実娘として名前を知られて。
「あの医学者の娘なんだ……」
「戦争で亡くなったって聞いているけれど、大変だったね……」
「うん、ありがとう。大丈夫よ」
 笑顔を見せるユーリエはクラスでは一躍有名人となりながらも、他の学生に紛れて楽しい学生生活を過ごす。
 部活動も魔術創作部の一員として活動する彼女。
 日々、学業の傍らで、仲間と共に新たな魔術の開発や魔術を活かした創作物の制作へと励む。
 そして、部活の後、ユーリエは帰りに病院へと立ち寄る。
 彼女が面会しに向かう相手、それは……。
「……あ、お姉ちゃん」
「エミーリエ、調子はどう?」


 ベッドで寝たまま窓の外を眺めていたエミーリエは、姉が面会に来たことに気づいて体を起こして笑顔を見せた。

 中学校へと上がった妹、エミーリエは病弱な身体の影響もあり、通学するよりも病院へと通院することの方が多くなってしまっていた。
 姉がいない病室の窓から海を眺めるエミーリエは、時にふと鳥の姿を目にする。
 自らの意志で自由に、大空を羽ばたく鳥。それが彼女にはとても羨ましく思えて。
(あの鳥のように、私も自由に翼を動かすことができたら……)
 弱ったエミーリエの身体は自分ではままならない。それが非常にもどかしい。
 挫けそうになってしまう彼女だが、こうしてお姉ちゃんは自分の元へと見舞いに来てくれる。
「エミーリエ、調子はどう?」
「うん、今日は少し調子がいいよ」
 自分に元気がないと、姉も元気がなくなってしまう。
 だから、めげてばかりもいられない。
「ほら、今日はこんな物をつくったよ」
 それは、ユーリエが部活で作ったもの。魔術によって魔素を固めて作った石を使ったペンダントだ。
 毎日のように作ったものを学校から持ち帰り、姉は自分へとプレゼントしてくれる。
 姉はどんな日でも、必ず毎日来てくれる。
 テスト前であっても、文化祭の準備で修羅場であっても、体育祭でどんなに疲れていても。
 こうして、姉がお見舞いに来てくれる時間は、エミーリエにとって一番の楽しみだ。
「お姉ちゃん、今日はちょっとだけ散歩に行こう」
「大丈夫なの?」
「うん、もう許可はもらっているんだよ」
 上履きを履いて立ち上がるエミーリエ。
 寝たきりということも合わせ、身体は幼少時に増して身体の自由がままならなくなっている。
 それでも、一緒に外で思う存分姉と遊ぶ。
 散歩だけでなく、ちょっとした遊びも。
 病院に併設された公園には、ブランコや滑り台。
 それらを使って仲睦まじく遊ぶ姉妹の姿に、病院関係者も目を細める。
「今度はもっとすごいものを贈ってあげるからね」
 笑顔で語り掛ける姉はいつもと変わらない。
(こんな日がずっと続いたらな……)
 楽しく遊ぶ中、どこかエミーリエは一抹の不安を感じてしまうのだった。

●混沌、分かれし姉妹
 エミーリエの抱く不安は現実のものとなり、姉妹の日常はある日突然、終わりを告げることとなる。
 妹に、エミーリエに特別なプレゼントを贈ろうとしていたあの日、ユーリエが強引に招かれたのは、大空の中にある空中庭園だった。
「明日、世界が滅亡しますです。あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます」
 信託の少女はユーリエへとそう告げる。
 右も左も分からぬ無辜なる混沌の地。
 イレギュラーズとなったユーリエはこの世界で生き抜くことを決め、元の世界へと戻る為にローレットで依頼を受ける。
 現地へと向かうユーリエは、たった1人の妹のことを思い返す。
『皆が笑顔で平和な世界』。
 元いた世界でエミーリエは度々、そんな夢をユーリエに語っていた。
 ――それを叶えられれば、元の世界に戻れるかな。
 ユーリエはそんな淡い期待を抱きながらも、受けた依頼をこなしていく。
 依頼を完遂し、報酬を受け取ってローレットを出た彼女は夜空を見上げる。
「エミーリエの夢に、少しでも近づいたかな」
 彼女は今どうしているのだろうと、ユーリエは考える。
 もしかしたら、病室で自分が来なくなったことを、行方不明になったことを心配しているのではないだろうか。
 血を分けた妹の為、ユーリエは元の世界に戻る手段を模索している。
 ただ、もし……もしもだ。
 エミーリエもまた、この混沌の地に召喚されているのだとしたら?
 籠の鳥のようになっていた病室であれば、息苦しい生活を強いられようが、少なくとも生命に関わることはない。
 だが、無辜なる混沌の環境は、病弱なあの子にはあまりにも過酷だ。
 もし、エミーリエと出会ったならば、自分を犠牲にしてでも助け出す。
 ――あのときの後悔を繰り返さない為に。
「良い未来になるように選択しなきゃ!」
 ユーリエはそんなことを考えながらも、寝床へと戻っていく。

 一方、エミーリエ。
 ユーリエの知らぬところで、彼女もまた無辜なる混沌へと召喚されていた。
 エミーリエもまた、空中庭園で信託の少女と出会っている。
 本来であれば、彼女もまた姉と共にイレギュラーズとして、ローレットに所属して共に世界を救うべく活動していたことだろう。
 ところが……だ。
 ローレットに向かおうとしていた彼女を、黒い闇が覆ってしまう。
 気づいたら、エミーリエは西の彼方、終焉の地にいた。
 どうやら、彼女の持つ力にとある魔種が目を付け、攫ってしまったらしい。
 ギフト『幸運の記憶』。
 それは、対象が実際に経験した不幸な記憶を幸運だった時間の記憶に変更させるというもの。
 不幸だった出来事そのものを無かったことにはできない。あくまで、その者にとって都合よく幻によって記憶を書き換えられるという能力だ。
 また、エミーリエからはどう記憶が変化したかも確認する術はない。
 ――不幸だった記憶の改竄。
 それは、終焉にいる魔種達に、自らが魔種である存在を幸運であると誤認させる為に利用される。
 魔種の勢力を高めることにも繋がる力を持つことで、エミーリエは利用され続けている。

 そんなギフトを目当てに、見ず知らずの地に連れ去られたエミーリエ。彼女に選択肢などはない。
 ――仮に終焉から出れば、肉親であるお前の姉、ユーリエ・シュトラールをさらい、お前の目の前で殺してやる。
 姉が殺されることなど、考えられないエミーリエ。
 ただ、それは彼女にとって、姉がこの地にいると分かったことは少ないながらも有益な情報だった。
「お姉ちゃん……」
 混沌に呼ばれる際、一緒に身に着けていたミサンガや髪留めのリボン。
 それらは、狂いそうになるほどに濃密な魔種達の蔓延る終焉の地において、自らを保つ為の緩衝材となってくれる。
 身体が弱いのは今も変わらないが、その分精神は強い彼女だ。
 狂気に晒されながらも、エミーリエは魔種となった人々の精神を少しでも癒やすことができればと振舞っていた。
(もしかしたら、魔種から元に戻すきっかけを作ることができるかもしれない)
 だから、彼女は慈愛の精神で魔種と接していく。
 改めて、エミーリエは腕のミサンガに視線を落とし、また髪留めに手をやる。
 もう、姉に会うことは叶わないかもしれない。
 それでも、今、自分ができる良いことを続けていれば、いつかは会えるかもしれない。
「元気を出して。ほら、世界はこんなにも幸せに満ちているのだから」
『誰も争わなくなって笑顔が絶えない世界』。
 その為に、エミーリエは今日もギフトを使い、魔種を励まし続けるのである。

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