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【乙女の道しるべ】豊穣大地譚

登場人物一覧

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフの関係者
→ イラスト
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

「わ――ッ!! たーすけて――ッ!!」
 スカーレット・トワニ・ヴァージンロードはイレギュラーズである。
 『神隠し』の事件により豊穣の大地へと飛ばされた彼女は、しかしめげなかった。
 呼吸が出来る。足に地を置く事が出来る。
 天に日は昇り暖かなる光が注いでいる――
 ならば何を恐れる事があろうか? 未知の大地というだけだ。
 頬を叩いて笑顔一つ。
 さぁ歩こう。例え世界のどこであろうと、自らの在り様が変わる訳では無い。
 きっといつかこの大地に来てくれる『皆』の為にもこの地を調べておくのだ――ッ!



 そんな事を想ったのが三日ぐらい前だったんですが、今では元気に熊に追われています。

「なんでええ――!! ちょっと山の中歩いただけじゃーん!!」
 スカーレットはイレギュラーズである――が。彼女には些か特殊なギフトが宿っており、力が『伸びない』のである。厳密には知識や経験は積み重なる故に全くゼロと言う訳では無いが、周囲と比べればその差は一目瞭然。
 つまり巨大な力を持つ動物や魔物に出会ってしまえばやばいのである。
 繰り返す、やばいのである! だからこそスカーレットはやばい相手にはとにかく逃げの一手を打つしかない。ここが幻想の地であったりすれば一度撤退して仲間を呼ぶ事も出来たが、生憎ここは豊穣の地!
 しかも時間軸的にはまだ『絶望の青』が在った時だ――援軍など望めず。
「わーん! どーしーて――うわわッ!?」
 瞬間、転倒。
 地より盛り上がっていた木の根に気付かなかったか――『わあああ!』という叫びと共に頭より地へ。そのまま勢いついて回転しながら坂の方を下る様に。あああどうしてこんな事に。豊穣の地に着いてからこんなんばっかである!

 そして――この後も彼女の受難は延々と続く。

 山を転げまわった先。辺境の村に着けば神使と歓待されたが、次の日に周囲を探索してみれば深い穴に落ちて。
 落ちた先はなんと精霊達が集う秘境であったり。
 更には秘境に勝手に侵入した罪人と何故かいきなり捕えられ。誤解を解く為に秘境を統括する大精霊――なんでも『四神』とやらの存在にあやかっている精霊――らしいが。ともかくその大精霊に謁見して、あれやこれやと涙ながらの大説得劇。最終的になんか精霊達には気に入られ、友達になった上で解放されたりもした。最後は互いに涙を浮かべての送別会込み。
「はぁ、はぁ、なんだか随分疲れたよ……うぅ。
 別に悪い地じゃないけれど幻想が恋しい……」
 やがて海の向こうから新たな神使達がやってきたという話を聞いた。
 絶望の青、リヴァイアサンとの戦いを制したイレギュラーズ達の事である。にわかに豊穣全体がざわめけば、彼らがやってきたのだとスカーレットが察するのも遠からぬ事であった。
 ああ――皆と合流出来ればきっと幻想にも帰れる――!
 豊穣の地が地獄とは言わないが、やはり生まれ育った大地と空気がスカーレットにとっては恋しいものであった。なによりやはり、外と隔絶しているというのは孤独感をもどこかに感じさせるもので。
『ええ、スカーレットちゃん帰っちゃうのかい!?』
「うーんいや帰るというか、とりあえず知り合いがいるか探しに行ってみようというか……」
『そっかぁ。そろそろ夏祭りの季節でもあるしね、海の方に行ってみると賑やかでとってもいいと思うよ!』
 さすれば友達になった精霊――『だんだん法師』のだんちゃんと呼んでいる彼、彼? からの薦めもあって豊穣の地を横断。夏祭りが開かれ外からも大勢の客人が集まるという神ヶ浜を目指して更に数日。
 海の香りを鼻に感じる頃合いとなれば、胸に抱く高揚が弾けて。
「いい場所だなぁ……」
 思わず呟くカムイグラの海模様。
 日の光が海の水面を飛び跳ねて、煌めく光景に目を奪われる。
 耳に囁く小波の躍動など――あぁ。
「……誰も、みてないよね?」
 ならばと抑えきれぬ鼓動を鎮める為に。
 衣を変えるは水辺のソレへと。
 ――カムイグラの地は外の大陸と隔絶された地ではあるが、彼女同様にバグ召喚で訪れた者達が過去より少なからずいた。彼らが伝えし文化が幾何かちらほらとあり、少し前に訪れた街にはなんとまぁ水着もあったのである。
 バグ召喚で訪れた身としては当然、その時所持していたモノ以外は持っておらず。海の方へ向かうとなればと……こっそり。こっそり淡い期待も込めて購入した一品。
 ここで使わずしていつ使おうか!
「――ぷ、はぁ!」
 走り、飛び込む海原の懐へ。
 全身を満たす水の温度。豊穣の美しさは大地のみならず海にも広がっている――
 力を抜き、天を向くように浮かべば……あぁなんとも気持ちよい。

 青空。どこまでもどこまでも続く、天の奇跡。

 この青空の先は――きっと己もよく知っている大地が広がっているのだろう。
 そこへと帰れる日はきっと遠くない。
 知り合いにも心配をかけているだろうか――私は元気だとすぐにでも伝えたい――
「……うん」
 ただ今この一時は緩やかに。
 心を安らげ、水の音を楽しむとしよう。
 静かなりし空間に響くのは、どこか遠くに聞こえる鳥の声と魚達が泳ぐ音。
 視線を向ければ天に翼が海には魚の影が。
 こちらに段々と近付いてきている、水面を斬り裂く一枚の羽が格好良くて――

 ――んっ?

「んっ?」
 いやなんだアレ。鳥に羽が在るのは分かるが海の羽ってなんだアレ。
 いや違う違うぞ。アレは羽じゃない。あの三角上の――物質は――ッ!!
「わ、わわわわ! わッ――サメだ――ッ!!」
 アレはサメの目立った特徴である第一背鰭である! 映画とかでよく目立ってるアレだ! まずいまずいまずいめっちゃ近付いてきている戻らないと!!
 慌てて泳ぐスカーレットだが時すでに遅し。振り返った先からはまるで回り込む様な形でもう一匹が迫ってきており――所謂かな絶体絶命! 機動力が削がれる海では人間などいいエサである!
「どどどどどどうしてこんな事に――!! わ――ッ!!」
 飛び掛かって来る奴ら。初撃はなんとか躱したが、長くは続けられぬ――!
 そう思考した彼女の目前に現れしは、丸太。あったよ救助アイテムが! 藁にも縋る想いで飛びつく事三秒後――突如発生した大波に攫われ丸太回転しつつスカーレットちゃんもぐるぐると。前後左右上下分からなくなる回転劇は止まず、海の中でも大声出して。
 わ――ッ! ぶくぶくぶくぶくッ!
 海中で目を見開けばまーたサメが大口を。しかし突如としては急激なうねりを見せた海流が辛うじて彼女をサメの軌道から外して救うッ――! とても浜に戻れそうな余裕はないッ――!!

 そんなこんなを一時間も繰り返した果てに。
 力を使い果たしたスカーレットが辿り着いたのは無人島。

「うう、おかしいよ……どうして、どうしてこんな事に……」
 めげそう。岸は遠く、サメは居そうでとても泳ぎ切れない。
 ――いや諦めては駄目だ。ローレットにいるイレギュラーズ達は、幾多の危険を乗り越えてきた!
 自らも彼らの様にと、せめて心は前を向くのだと決めたではないか!
「……ぉぉぉ! 帰るぞ――ッ!!」
 幸いにしてこの無人島はそれなりの広さがある様だ。探せば帰還の為の手段もあるかもしれないと――林の中に入っていくスカーレットを待ち受けたのは、なんとまぁ古代遺跡。
 朽ち果てた神社――? の様な場所にあった地下へと続く階段で、降りた先に在ったは幾つもの死骸とあまねく罠。引き返そうとしても何故か入り口の扉が勝手に仕舞って閉じ込められて。
「なんで――!! わー! だんちゃーん! かーくん! 皆たすけて――!!」
 知り合いになった皆の名前を叫ぶがやっぱり届かず。
 やむなく縦横無尽に地下を駆け巡らされ、度重なる罠の波を乗り越えんとする。
 足元より出現する槍。落ちてくる天上。迫りくる壁と手裏剣の自動投擲……

 こ、これが噂に聞く忍者ハウス――!?

 そう思うのだが、さて詳しく調べている暇もなし。
 彼女を追い立てる様に次々と発動する罠の数々。滅茶苦茶涙を流しながらも駆け抜けるスカーレットちゃん。奥へ奥へと進む度に命縮む目に遭いながら、しかしなんの幸運か致命に至る様な傷は負わずして。
 ついに辿り着く最深部。体力低下、精神ボロボロ、それでも尚に己は生きている。
「あ、そ、外だ……外の光だ――ッ!」
 地下へ地下へと至りと、かくべき場所に在るは外へと至る希望の光。
 海原に反射する太陽の輝きであった。
 ――周囲を見ればなにやら船の残骸の様なモノがある――かつてここへと至った船でもあったのだろうか? 見えた骸はこれらの船員だったのかもしれない……ともあれこれは絶好のチャンスと、使えそうな木材を纏めて縛り上げ造り上げる即席イカダ。
 さぁ脱出――! いざや本土――!

 と思った所で襲来するはサメである――!!

 海で奴らに襲われればひとたまりもな、いやッていうかまたお前らか!
「わ――!! あとちょっとなのに、誰か、誰か助けて――!!」
 天へと向かって吠える一声。どうして一歩進んだら二歩も三歩も下がる様な感覚が!?
 この後――その一筋に気付いたイレギュラーズ達によって彼女は救助されるのだが。
 それはまた別の物語……
 祭事の陰で鮫と少女と、と言った所か。
 かくあらん。波乱万丈に満ちた少女の旅路よ。

 銀の乙女の道しるべは、これからも続くのである――

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