PandoraPartyProject

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If it's with you

登場人物一覧

津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏

 星が綺麗な夜、津久見・弥恵(p3p005208)は、フィーネ・ルカーノの屋敷に向かう。
「思ったより、時間がかかってしまいました」
 弥恵は呟き、両手で大事そうに紙袋を抱えている。中には彼女からの依頼品。
(パーティーに使うとのことですが、間に合って良かったです)
 ようやく、手に入れた珍しいフルーツ。青果店を二週間、巡り、交渉の末、やっと手に入れたのだ。
(急がねば、明後日がパーティーとのこと)
 屋敷は自然に囲まれ、所謂、住宅地から離れた場所にある。弥恵は歩きながら小動物や、獣の鳴き声を聞く。一人だが、弥恵は不気味さを感じることはない。美しい夜だからだろうか。それとも──

 考えているうちに、屋敷に辿り着く。
「あ、此処ですね」
 門を抜けると、宝石のような、ハイビスカスに出迎えられる。
「わ! 光っていますね……」
 うっとりと息を吐く。ハイビスカスは、ペリドット、オパール、アメシスト、オブシディアン、ラピスラズリのような色合いを見せる。
「ああ、美しいでしょう? これは、ジェム・フラワーと言うのよ」
 重厚な扉が大胆に開き、主である、フィーネが顔を見せる。空間がより、華やかになる。
「ねぇ、褒めて? この花も、あたくしも!」
 漆黒のドレスを揺らし、さり気なく、距離を詰めるフィーネ、弥恵はどぎまぎする。
「ふふ、硬くなっているの? かわいい」
 フィーネは弥恵の手に触れ、微笑む。金色の瞳が、弥恵をじっと見つめる。
「な、何でしょうか……」
「あら、ごめんなさい。いえね、髪を下ろしている姿も素敵」
 フィーネは弥恵の長い髪に口づけ、肩に触れる。
「あっ」
 弥恵はぴくりと身体を震わせる。
「そして、その服もね?」
 フィーネは言い、正面から抱き締める。弥恵は、水色のひざ丈のフレアスカート、黒色の長袖カットソーに白い花を散らす。露出は控えめで、可憐で清楚な印象を受ける。
「あぅ、フィーネ様……」
「なぁに?」
 フィーネは楽しそうだった、そう、弥恵は身体を硬直させたまま。
「ふふ、抱き締められるのはお嫌い? それとも、どうしていいか分からない?」
 フィーネはぱっと離れ、弥恵の強張った手を引き、幻想的な庭を彷徨う。憧れである、フィーネとの時間は美しい夢のよう。それでも、何処に行くのだろうかと思う。
「あ、あの……どこまで、行くのですか?」
「ふふ、何処までもよ。嘘、此処」
 立ち止まり、フィーネは微笑む。弥恵は驚く。目の前には、小さなテーブルとイス。テーブルにはティーポットとティーカップ、ホワイトチョコが置かれている。周囲にはハイビスカス。
「フィーネ様、これは……一体なんでしょう?」
「何かしらね」
 手を離し、フィーネはイスを引き、弥恵に座るよう、促す。フィーネは、気ままな猫のように思えた。
「今日は貴女とティータイムを楽しもうと思うの」
「それは今日のお礼ということですか?」
「そうね、それもあるけれども……いつも、ゆっくり話せないでしょう? それに、夜更かしするのも、贅沢で素敵だと思わない?」
「はい、夜更かしは特別で、ワクワクする時間だと思います」
「素直でよろしい。今日の夜は今日だけしか無いしね?」
 フィーネは、ティーポットにお湯を注ぎ、その間にカップを温める。
「そうだ。ねぇ、どうして、この依頼を受けてくれたの? 貴女が一番に申し込んでくれたって、聞いたけど」
「そ、それは、た、たまたまです! 考えるより先に、依頼を受けていたと言いますか……別に意識していたわけではありません!」
「そう、それは嬉しいわね」
 フィーネはにやりとし、ティーカップにローズティーを注ぐ。
「え、あの! 私の話をちゃんと聞いてました?」
「ふふ。ええ、ちゃんとね? はい、どうぞ。火傷に気を付けてね? あ、勿論、媚薬は入ってはいないわ。ねーえ、何故かしらん。困ったことに最近、色んな方に警戒されてしまうの」
 悪戯っぽく、フィーネは笑う。
(普段の行いの通りなのでは?)
 弥恵は言えないが、思う。
「では、いただきます。んっ、甘酸っぱさの中に甘いバニラの香り。フィーネ様、とても、美味しくて心が落ち着きます。幸せな夢が見れそうです」
「いいわね、このまま、一緒に寝る?」
「はふっ!?」
「反応さえ素敵! ね、チョコレートも美味しいと思うわ。なんたって、あたくしが調達したのだから!」
 向けられる、眩い眼差し。
「あ……」
(どうして、フィーネ様はこんなにも、自由でかっこいいのでしょう)
 瞬く間に、様々な感情が噴き出していく。
「ああ」
 空っぽな自分を常に律し、どうにかしてイメージを作り上げてきた。だが、弥恵は凛々しく規律正しい自分を、誰よりも嫌悪している。

 だからこそ、私はフィーネ様を──

「どうしたの? あたくしに見惚れてしまった?」
「そうかも、しれません」
 弥恵はふにゃりと笑い、紙袋を手渡す。そして、チョコレートを含み、大げさに「美味しいです」と笑う。
「それは良かった」
 フィーネは弥恵を見つめ、紙袋をテーブルの端に置く。そこには、さっきまでの笑みは見当たらない。弥恵の変化をフィーネは敏感に感じとったようだ。
「あ! 別に大丈夫ですので気にしないでください」
 慌てる弥恵。
「そう……なら、別にいいのだけども」
 フィーネはチョコレートを上品に含み、紙袋を覗き込む。
「へぇ?」
 長楕円体の、紫色の果実が五つ。先端は、仏の手のように分かれている。
「これは?」
「仏手柑というフルーツだそうで、本来はオレンジのような、黄色い見た目なのですが、何故だか、紫色のものが出来たそうで……縁起がとっても良いらしいです」
「素敵。どうしたら、食べられるの?」
「ええと、身が少ないので、漢方薬か砂糖漬けにして、生食はしないそうです」
 弥恵は言う。
「へぇ、面白い。嬉しいわ、知らないことを知ることが出来て。本当に刺激的……ありがとう、見つけてくれて。あら……?」
 フィーネは知る。弥恵の視線に孕む熱を。
「ふふ」
(あたくし、嫌いではないわ、貴女のこと。むしろ、興味があるの。そ、今の貴女に。でも、教えてはあげ・ない。たとえ、あたくしが善人、フィーネ・ルカーノだとしてもね)
 フィーネはくすくすと笑いながら、仏手柑を紙袋に戻し、ローズティーで口内を潤し、弥恵の手をそっと持ち上げる。
「え、フィーネ様?」
 不意に触れられ、きょとんとする弥恵。夜風に揺れる、ハイビスカス。月光に照らされる、互いの顔。まるで、ロマンスの始まりのように思えた。
「あ、え……?」
(こ、これ以上は心臓に……)
「ふふ、これは貴女へのご褒美」
 目を細めるフィーネ。弥恵の、手の甲にそっと口づける。
「にゅっ!? く、くすぐったいです、フィーネ様……」
 弥恵は叫び、身を震わせる。
「ふふ、かわいい……」
 口角を三日月にし、フィーネは息を吐く。息遣いまで官能的で、どきりとする弥恵。
「あ、あの……?」
「ねぇ? くすぐったいだけ? 本当は知りたいこと、ばかりなのでは?」
 フィーネは立ち上がり、弥恵を後方から、抱き締める。フィーネの心臓の音が聞こえる。
「あっ……フ、フィーネ様……」
 弥恵は声を震わせる。
「駄目よ、あたくしが満足するまで、動いちゃ」
 フィーネは笑い、弥恵を強く抱き締める。
「うう……」
 弥恵は顔を真っ赤にし、呻く。フィーネの体温を感じる。それでも、何故だろう。刺激的なやり取りでさえ、心地よい。

  • If it's with you完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2019年07月06日
  • ・津久見・弥恵(p3p005208

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