PandoraPartyProject

SS詳細

美しく青きプレシャス

登場人物一覧

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者

●『回天』ヨハン
 いつかの鉄帝、あの教会での一時から幾ばくか。
 一度は完全に折れてしまった『寂滅の剣』ヨハン=レーム(p3p001117)も新たな想いで、幻想の地にその立ち直った姿を見せていた。
 再びローレットの一員として剣を取る為に。
 そうして思い浮かぶ情報屋の少女にヨハンは感謝の念を送ると、次いで晴れ渡った空を仰いだ。
(やっぱり……あそこには顔を出さないとな……)
 半ば諦観した心の呟き。今後の住まいのアテを考えようと幾つか試案を巡らせたものの、ギルドからの補助を受けるか否かはともかく。
 この幻想という国で生活するならば、まず顔を見せないといけない相手がいる。
(……怠惰なわけじゃないが、あまり気は乗らないな)
 朝陽も昇りきり、僅かに傾いた陽射しになった頃。
 ヨハンがほんの少し重い足取りで向かった先は幻想貴族シャル=アルメリアの屋敷。
 彼が女装ショタメイドとして語り尽くせない程の大冒険をさせられ……ではなく、働いていたショタコンお嬢様(ツンデレ属性)の巣である。
 エントランス前で左右に並ぶ幼い少年を模したモザイカルチャーを左右に見上げ、使用人達の日々の努力に憂いを感じながら。
 ヨハンは正面玄関の扉をゆっくり開けた。
 大切な事なのでもう一度。ヨハンは扉をゆっくり開けた。

「シャr 「ぁぁァァあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 うわああああ!!?」
 瞬間。ヨハンセンサーミサイル=アルメリアが発射された。
 まだ扉が半ばまでしか開いていなかったというのに、爆速でエントランスを一瞬で奔り飛んで来た見目麗しき(筈)お嬢様がヨハンに直撃して、共に吹っ飛んで行く。
 扉ごと外へ吹き飛び、前庭に並んでいた少年達の頭部にアンティークなモヒカンを突き立てて。吹っ飛んだ勢い止まらず前庭に滑り込みながらヨハンはここ最近で最高のピンチを迎えていた。
「ハフッ! ハフッ! ヨハンちゃんヨハンちゃんヨハンヨハンよはんんんれろれろれろじゅるちゅるちゅっぱぁぁっ!!
 ふぅっ……! ふーっ! はぁぁ――っ」
 脳震盪も強制的に覚醒させるほどの、見えざる神によって表現規制されかねない舌によるねっとりとした激烈なる猛攻(オブラート表現)。
 ゼロ距離どころかマイナスにめり込んでヨハンの目に映る光景は、さながら捕食者に丸かじりされた獲物の気分だった。屋敷の窓からその姿を目撃した使用人は逃げ出した。


「や、やめr……! 顔を、舐めっ……んぶぁぁ!?」
「どこ行ってたのよ! 好き!! ええ! 私も愛してる!!」
「~~っぷはぁ!? 言っ、んぐぅ! ……言ってる事が滅茶苦ty…「何よこの髪は! んもう! そうやって私を喜ばせて!!」
「やめろ! か、髪を食むなっ……!?」
 馬乗りになってからの御髪の咀嚼。本日のパスタはほんのり鉄分が含まれたミネラル充分な仕上がり。
 魚貝を召し上がる作法は板についているのか。高速でお上品な仕草を交えつつヨハンの服を捲った刹那にシャルは顔を突っ込んだ。
「服に手を入れるな顔を入れるな破くな……!! あーーっ!! あーーーっ!!!」
 勿論ヨハンも抵抗しようとするが、さしもの彼も身動きすら取れずにすうはあ吸われる。巷で話題になっている猫吸いである。
「すぅぅ……! ずずっ! ずぅぅぅうううっっ……!! はん! この、臭いは!」
 匠が何かに気づいた様です。
 細く引き締まった彼の腹部を堪能していたシャルお嬢様は今更過ぎる気品と慈愛に満ちた眼でヨハンを見上げました。
「血生臭いわっ!!!」
 一喝でした。
「まずはお風呂よヨハンちゃん!! ほら早く、皮まで剥いちゃうわよほら!!」
「わかっ……たからーー!! ここで……うわぁぁっ、脱がしちゃだめですって!! お嬢様も脱いじゃだめですって!!!」
 獲物の剥ぎ取り作業に移行したのを察知したヨハンがイレギュラーズのパワーで引き剥がそうとする。
 だがしかし、ここは文字通りシャル=アルメリア嬢の庭である。
 徐に庭園の植え込みへ手を突っ込んで謎のレバーを引いた直後、石畳が跳ね上がりそのまま屋敷の二階浴場まで二人揃って吹き飛んだ。どんな想定で作らせたんだこの仕掛け、ヨハンは後に訝しんだ。
 突き破り、割れるステンドグラス。悲鳴と怒号が連続する。
 阿鼻叫喚となるアルメリア邸でヨハンがやっと落ち着けたのは暫く経ってからだった。

●んで! んで!
 アルメリア邸、浴場。
 すっかりここまでの執拗な熱烈歓迎(?)に疲弊したヨハンは毒気を抜かれた様に、或いは濡れた猫の様に大人しく頭をシャル嬢に洗われていた。
「ぁあっ、もうっ、自分で洗えますから……!」
「ちょっと動かないでよ! 泡が目に入っても知らないわよ!」
「目が潰れてる間に何されるか分からないのでそれは嫌ですが!」
「なっ!? そんな事しないわよ、さっきだってシャンプー用スケベ三角木馬を片付けたでしょ!!」
「大体なんであんな危険物を浴場にぁぶるふぉごぼぼ……あのっ? ちょっ、泡!! 泡をこれ顔に塗りたくってますよね!?
 案の定じゃないですか! 目潰して手をどこに這わせようとしてるんですか!?」
 前章ラストで落ち着いたと語ったが前言を撤回しよう。
 最近こそ平和となっていた幻想で、シャル嬢は数ヵ月前までは孤児院や領地のオットコノコを堪能する事で全身に健康的な血液を補充していた。が、ヨハンが鉄帝へ帰ってしまってからというもの間塞ぎ倒していたのである。
 ゆえにこの暴走。栄養源を摂取するなら今しかないとばかりにショタコンハートがシャル嬢へ『吸え』と魂の囁きを繰り返している状態なのであった。
「嗚呼、やっぱり私にはこの少年のあどけない肉感が……! 大人の階段登り切れてないこの質感が……」
(この人まさかこの数ヵ月こんな風に拗らせてたのか?)
 ここまで来ると一週回って冷静に他の使用人達の安否が気になるヨハン。
 というわけで油断も隙も無い圧倒的な攻めに常時体力を削られっ放し。
 背中に感じるシャル嬢の女性らしさの象徴たる膨らみも意に介さず、とりあえず自身の尻尾で腰のタオルを外されぬようにガードする。

 喧々囂々。アルメリア邸の浴場に暫し、姦しくも怪獣映画さながらの騒音を伴いながら一通り身を清め、主従が肩を並べて湯に浸かる。
 馬油、花と香塩を用いて精製された液体石鹸(シャンプー)の効果は血と泥に晒されて痛んだ髪にツヤを戻すだけでなく。ヨハンの身体に溜まっていた疲労を(お嬢様に襲撃を受けた分も含め)排出する効能をもたらしていた。
 つまり、やっとシャル嬢が大人しくなってきた所で眠気が下りてきていたのだ。
「ヨハンちゃん?」
「今度はなんですか……」
 全身を揉まれて(物理的に)弛緩した身体を湯桁に預け、長い髪を水面に垂らす少年をシャル嬢は見つめる。
 危機感を懐いて少し身を傾けるも、ヨハンはそれ以上逃げる事をしない。
 紫紅色の瞳から逃れる様に目を伏せてはいたが、それが眠気によるものだとは本人もよく分からなかった。
「いったい何をしたらあんなに汚れるのよ」
 咎めるように。少しむすっとした声音。
 脱がされた挙句に使用人仲間の少年へ投げ渡されてしまった衣装か、それとも髪や身体の事か。
「ちょっと……魔物を」
「魔物と戦って汚れたの!? 不潔よ! ヨハンちゃん病気になっちゃうわそんなんじゃ!」
「いや、流石に軽く水とかお湯で洗い落とすくらいはしますよ……」
 ざぶりと揺れる水面。
 揺れる意識の中でヨハンは鉄帝の山中を駆けていた時の、あの数日間を思い出して身体が更なる疲労の記憶を呼び起こす。
 シャル嬢が身を水中でバタつかせた波に揺れる手足がほんの少し心地好くて。
(……だめだ、こんな所で眠ったら……何をされるかわかったもんじゃ――――)
 深く息を吐いて。
 最後の力が抜け、ヨハンの意識が途切れたのと同時に。細い手が彼の小振りな頭を撫で寄せた。
「――おやすみなさい、私の愛しい子」
 囁くように優しい声が静かに、雫と共に落ちる。
「……それからお帰りなさいヨハンちゃん」



 脈を計っていたお嬢様は指を鳴らして、ヨハンの意識が深い眠りにある事を確認すると、猛スピードで滝のようなヨダレを垂れ流しながら浴場から引き揚げるのだった。


●月明りの下に
 夕食を終え。随分久しぶりにメイド服を着たヨハンは疲れ眼を擦りながら、シャルの寝室まで従っている自分の中で染み付いたものを感じた。
 疲れが出たのよ、と言うシャルの言葉にヨハンは少し瞼を重そうにして頷いた。
 疲労の原因の6割は誰のせいかは置いて。
「夕食、あまり食べなかったわね。ちゃんと食事は摂っていたの?」
 ツヤツヤした笑顔。
 いやなんでこの人ツヤツヤしてるんだと思ったが、屋敷に来てから毎分襲われていたのだ。いい加減満足したのだろうとヨハンは一人納得する。
「元々そこまで食べませんよ、大体どうしてまた女装メイドにされてるんですか僕」
「……そうじゃなくて!」
「うっ、お嬢様?」
 ヨハンは不意に背中へ頭突きを受けて、月の光射し込む寝台に突っ伏してしまう。
 身の危険を感じて振り返る。
 しかしそこに立っていたのは、先ほど夕食時に媚薬を盛ろうとして燭台から引火して小火を起こしたお嬢様とは異なる姿。
 ともすれば、今にも泣き出してしまいそうで。
 それはヨハンにとって望まない光景で、見慣れぬがゆえに途惑う絵面だった。
「本当に心配してたのよ……」
「……それは、感謝してますが――」
 今日幾度目かの馬乗りに敷かれる少年は少し驚いた様に見上げている。それしか、出来なかった。
「急にいなくなるくらいなら……ローレットの仕事が辛いなら、私のとこでずっと飼ってあげるわよ……!
 あんなに可愛いヨハンちゃんが、こんなに細くてすべすべで……指先から毛先まで柔らかかったヨハンちゃんが、
 お風呂に入った時に見た。細かい傷の痕がうっすらと残ってて――」
 とても痛そうだと言う様に首を振る。
(傷痕なんて、どこにも……)
 ヨハンからすればそんなシャルに首を傾げるのは無理もない。事実、魔法やパンドラの力で彼のこれまでの戦いの爪痕は残されていないのだから。
 それは。彼の母親とは違う目線だからこそなのかもしれない。見えるのだ、ヨハンの辿って来た軌跡が。
「そんなに傷付いてまで続ける事なんてないじゃない! ヨハンちゃんには、私がいるわ。私の下で女装ショタメイドとして暮らせばいいじゃないっ」
 きっとこれは本心だと思う。
 ヨハンはシャルの月光に明かされた瞳の花を覗いた。胸の内でチクリと刺す痛みを覚えながら、ポツリポツリと話した。
「僕はみんなのように強くなれなくて……自信も何もかも失ってて……」

 誇りある鉄の戦士として恥ずべきだと思っている節もあったかもしれない。周りとの力の差を痛感して屈した――折れたのだと、ヨハンは語った。
 シャルは意外にも彼の話へ静かに耳を傾けては小さな空白の度に頷いていた。
 とても静かな月夜の最中。
 腕に抱いた少年の頭を撫でていたシャルは、ヨハンの言葉が途切れたその時に「馬鹿ね」と強く抱き寄せる。
「活躍なんてできなくても良いのよ、ヨハンちゃんが生きて帰ってくればそれだけで……それだけで喜ぶんだから。
 誰かに褒めて欲しいならこの私が褒めてあげる。甘やかして欲しいなら甘えさせてあげる。栄誉ばかりが戦士じゃないんだってことを教えてあげるわ。
 ―――とりあえず、頭を冷やしてまた私のショタメイドとして働きなさい。以上よ」

 ぴしゃりと、まるで取り付く島もない。
 なのに柔らかく包む様に、それでいていつもの興奮が隠せずヨハンの後頭部に吹きつけられている荒い吐息がシャルの心情を物語っていた。
 気を遣わせていないということが、これほど安堵できるのかとヨハンは思う。
(……あはは、そういえば僕のご主人様って。こういう人だった)
 自然体過ぎるお嬢様に苦笑を一つ。
 それから暫しそのままでいた後、ゆっくりとヨハンからシャルが離れたのを感じて振り返った。
「ふふ、わかりましたよお嬢さm……なんで脱ぐんですか!!」
「そりゃもうここからベッドシーンよ!! あっ尺が足りないわ!! きいいい!!」
 またお嬢様タックルを受けるヨハン。
 ベッドに二人で横倒しになりながら笑い合う、ご主人様とメイド。
 親友のようにも、姉弟のようにも見えて。

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