PandoraPartyProject

SS詳細

烈火と霹靂

登場人物一覧

アニー・ルアン(p3p006196)
鳳凰


 クラクラと視界が揺れている。
「……ちょっと、起きなさい……!」
 目覚め、微かに眩暈を覚えながら『鳳凰』アニー・ルアン(p3p006196)は隣で倒れていた『麒麟』琥珀院 魂麒を起こしていた。
 揺さぶられ、起き上がった魂麒は頭を抑える。
「うぅ……頭が」
「しっかりしなさいよ。あなたね、ここが何処か分かってるの?」
「そういえば何処かしら……」
 目を覚ましたそこは二人の記憶にない一室。
 よく見ると微かに塵が舞っている。今日びこの未来都市で空調機器が動いていないのは珍しいと魂麒は思った。
「お財布はちゃんとある……わね」
「バーで飲んでいたのは憶えてるけどその先が曖昧……あなた大丈夫? 凄い格好になってるわよ」
「これいつもの私服……」
「ああそう」
 お互いに無傷。しかし記憶が一部抜け落ちているのも互いに同じ。
 宙に広げたアニーの焔を見上げ、部屋の角に見える扉を魂麒は注視した。
「サイキックにしては効果が薄い気もする……薬でも盛られていたのかしら?」
「麒麟、集合。ここからは慎重に行きましょう」



「確認よ……先ず扉を出て私が麒麟の前を行く。索敵はあなたの能力で、私は視界確保と戦闘を担うわ」
 ダイニングテーブルに腰掛けるアニーが淡々と告げた。
「お得意の電流操作でビルの内部は大凡の把握が済んでるわよね?」
「ええ……小さなビルだから」
「終末戦争後の再興から数百年……この都市の中で私達『四霊』を狙うような輩にロクなのはいないわ。
 麒麟の能力をサポートに回しつつ有事に備えた方が盤石ね」
 冷淡ながらも気の強い。ハッキリとした言葉。
「……ならそれで行こうかしら」
 魂麒にしてみれば寧ろ目に見えて火力の高い超能力を持つアニーこそ温存した方が良いのではとも思うが、その意見が口に出されることは無い。
 その前衛的(ダッサい)な服装や二本角の頭飾りに反して気弱な彼女は、文字通り反りの合わぬ『鳳凰』が苦手だった。
 だからかもしれない。
「状況が変わる前に動くわ、頼りにしてるわよ麒麟」
「え?」
 不意に投げられた軽いその言葉に酷く驚いてしまったのだった。


 エレベーターと非常階段は使わない。
 埃臭い空間を行く彼女達は自分達が目覚めたフロアの下を目指し、焔と青電を交互に散らして廊下を進んで行く。
 一般階段を見つけたアニーが複数の火球を滑らせる。
「鳳凰……さっきのってどういう……?」
「――何の事?」
「頼りにしてるとか、そういう……」
「ああ――あれね」
 慣れた様子で殆ど足音を立てずに移動しながら、魂麒は眼前で揺れる焔色の毛先を追いかけた。
「学園都市のスラムでやった仕事、覚えてる?」
「スラム……第四旧区での事かしら。管理機構の外で暮らす民間人に紛れた所有者(ホルダー)を秘密裏に撃破する……
 それが機関からの任務だったけど……後が大変だった」
 魂麒は静電気を進行方向通路先に流し、思い出す。
 どこかの ”やべーラスボス” と ”やべー超過激な死者” が大惨事を引き起こした事件だった。
「証拠隠滅も楽じゃなかったわね。応竜は後始末が雑だし、霊亀に至ってはやろうともしない。
 ちゃんとエージェントらしい仕事してたのはあなたくらい……そういう所からよ、私があなたの事を高く評価しているのは」
 アニーは二人で『応竜』と『霊亀』が町の一区画を吹き飛ばした場面を映したカメラのデータを破壊して回る夜の事を話す。
 特に意識していなかった自分への意外な評価に魂麒はバイザーの下で小さく目を瞬きさせた。
「あなたにそんな風に思われていたなんて……意外」
「長い付き合いなのだし、実力も含めて認めてる部分はあるわよそりゃ。まぁ、私達四人がこれまでの数百年で『正攻法で』負けた事なんて無いけれど」
「……」
 季節感の外れたパーカーの襟の中で、少し居心地悪そうにする。
 苦手だと思っていたアニーからの声に認識をどう改めようか迷う。
「ねえ、鳳凰……ここを無事に出られたらまた飲み直しに……」
「ちょっと、嘘でしょ!?」
「?」

 建物の内も外も等しく暗闇の帳が降りていた為か、アニーの背中を追いながら軽く思考の沼に沈んでいたせいか。そこはもうビルの外だった。
「麒麟……あなた、なんで気づかなかったのよ!」
「ごめんなさいちょっとぼーっとして――」
「ここはバーから直ぐ近くにある空きビルよ! 思い出したわ、そういえば……あなたが電磁ロック解除して二人で乗り込んだのよ……!」
「…………あっ」
 魂麒の脳裏に電流が走る。
 言われて思い出される、不法侵入&千鳥足の記憶。
 だがそれは些か責任転嫁というもので。
(でも……そもそも私を飲みに誘ったのも、確か鳳凰の方よね……散々応竜への愚痴を聞かされた私は絡み酒にムリヤリ呑まされて前後不覚になって……あの部屋まで引き摺られて、あの胸に窒息させられて……)
 魂麒はじわりと涙目になる。
(……やっぱり鳳凰のことは苦手だわ)

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