PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

三周年SS(アイシャ様)

ここは無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスと似て非なる世界
 その名も特異運命座標イレギュラーズファンタジー

 主人公はある日突然、勇者へと覚醒。この世界へ召喚された多くの仲間を引連れ、悪を駆逐するべく日々走り回る。その仲間達には様々な性別・容姿・年齢・種族が連なっていた。
 今回はその一人とのイベントである。

★6水 『スノウ・ホワイト』
 アイシャ(p3p008698)

──親密度上限達成
 親密イベントが発生しました。

●染まる白銀の君

 森や崖を抜けた勇者一行は銀世界が広がる雪の街に辿り着く。勇者がこの街で聞き込みをしてみれば、北の国で標高が高い為か年中この銀が拡がっていると街の人々は口にする。
 一行の中には誤って薄着をし酷く凍える者、また中にはその物珍しい光景に元気にはしゃぎ駆けまわる者も居た。
「み、皆さんそれぞれの反応ですね……っ」
 勇者が出た店の壁に一息つくようにもたれ掛かっていると、一行の歌の癒し手カントル・ヒーラーのアイシャが駆け寄ってきてくれた。
──ん? ああ、アイシャ。君は大丈夫なのか?
「私……ですか? 私は……平気です!」
 いつもは一行のお世話係、お姉ちゃん……と、様々なあだ名が付けられてしまう程陰ながら一行を支える彼女。時折勇者が疲れないか? 大丈夫か? と、聞いてみてもアイシャはこの柔らかな微笑みを浮かべていつも「平気です」と答える。
 勇者としては一行を任せ過ぎていないか心配で、休んで欲しいと心配しての言葉なのだが、今日まで上手く伝えられずにいる。
 こんな所にアイシャがいるのも、きっと皆に何かを頼まれたのだろうと勇者は心の中でそっとため息をついた。
──アイシャはいつもよく皆を気遣ってくれるよな、もし何かあったら頼ってくれよ?
 勇者はそう普段仲間へ向ける労いと同じようにアイシャの肩をそっと叩く。
「っ! あ、は、はい……!」
 するとアイシャは不意打ちを受けたかのように慌ててそう返した。
──あ、悪い。肩叩く力強かったか?
「い、いえ! そんな事ないですよ! ちょ、ちょっとだけ……びっくりしただけなんです……」
──あぁ、そうか。そう言えばアイシャにはあまりしてなかったかもしれない。嫌だったら言ってくれよ?
「そんな、い、嫌ではないですが!」
──ん? そうなのか? それなら良かった。
 勇者は焦るアイシャを安心させたいと、笑みを浮かべて彼女の頭を優しく撫でた。その表情は彼女が俯いてしまってよくわからなくなってしまったが。
 ……しかし先程のように慌てて返してくれるアイシャが意外で、勇者は何度思い出しても物珍しいと思う。
 普段の彼女は皆の世話をさせている面から冷静で穏やかな印象を受けていたが、この姿は……まるで少女のようで。いや、彼女は十六歳だ、十分少女ではある。少女ではあるのだが……これは胸に秘めておいた方がいいだろうかと、勇者は彼女に対する印象は心の中だけでとどめた。
 何にしてもだ、勇者は少しばかり可愛らしいと感じてしまって、けれどアイシャは魔王を倒すべく集った仲間……あまりそう言った目線で見るのは良くないだろうかと軽く首を横に振る。
──一先ず宿に戻ろうか。皆も待ってるだろうし。
「……はいっ! あ、今日は勇者さんの好きなシチューですよ!」
──ほんとか? それは楽しみだ。同じシチューでもアイシャが作るシチューは格別だからな。
「も、もうっ! 勇者さん、褒め過ぎです!」
 勇者の言葉にアイシャはまた眉を下げ顔を赤く染めながら背中をぽかぽかと叩く。もう少し自信を持っても良いだろうにと思う反面、彼女のその動作にすら勇者はまた愛らしく感じてしまって、緩みそうになる表情を崩さないようにとその足をほんの少し早めた。





 ──北国の空は澄んでいるな……。
 夕飯を食べ終えた勇者は、多目的なホールから見えたバルコニーへ出て空を眺めていた。
 魔王を倒すべく様々な国を渡り歩いていたが、寒い地域の夜空は何処も綺麗だと思って。
「勇者さん!」
 ──ん? ああ、アイシャじゃないか。どうかしたか?
 夜空を眺めていたら少し慌てた様子のアイシャが駆け寄ってくる。
「どうかしたかじゃないです! こんな寒いのに外に出て……風邪を引いてしまいますよ!」
 ──ああ、心配してくれたのか? ありがとう、ちょっと空がみたくなってな
「空……? わぁ……」
 勇者に言われて空を見上げたアイシャの目は輝いた。
 ──北国の星空って綺麗だと思ってな
「確かにこれは……外に出て見たくなる気持ちも……わかってしまいます、ね……」
 アイシャが勇者と北国の星空を見たのはこれが初めてだった。勇者の口ぶりからきっと前にもどこかの北国でこう言う空を見た事があるのだろうと思うと、少し心がソワソワしてしまうが。
「…………勇者さんはこう言う空を沢山見てきたんですか……?」
 ──俺? ああ、まぁね。でもここも過去に見た星空に引けを取らないぐらい綺麗な場所だ。
「そう、なんですね……」
 そんな星空を……自分と見てくれるのか。少しだけソワソワした気持ちは収まって、けれど同時に胸の高鳴りを覚える。
 自分は思えばそうだとアイシャは振り返る。
 家族の為に懸命に生きてきて、働いてきて……それだけだった自分が数ヶ月前に勇者の仲間として誘われて。
 ここに来るまでに勇者のみならず沢山の人々に助けられて、自身の癒しの魔法で沢山の人々を助けてきて……。
 今までにないぐらい沢山の経験を勇者と得てきた。

 ──それはこの胸に秘めてきた勇者への思いも同じ事。

 アイシャの彼への思いは彼女自身のレベルが低い時に、命の危機に面した所を助けられた事から始まったのだろう。その時にアイシャは自分はまだまだだった事を痛感した……と共に、自身を守ってくれた勇者に強く心惹かれていたのだ。
(こんな景色を……勇者さんと二人で見れるなんて……っ、思いが……溢れてしまいそう……っ!)
 いつだってアイシャは勇者だけを見てきた。けれど勇者は皆の頼れる人で、自分より綺麗な女の人だって寄ってきていて……自分ではまだ……そう言い訳し続けてきたのに。
 ──じゃあ、そろそろ冷えるし戻るか。
「え? あ、まっ、ま待って!」
 ──アイシャ?
 しまった……と、彼女は思った。
 アイシャは無意識に勇者を手を両手で掴んで呼び止めていた。呼び止めたからには何か言わなくてはいけない、けれどなんて言えばいい? どうしたらいい? 早くしないと……早くしないと行ってしまう。
 明日もまた『仲間』として変わりのない日々が──
「好きです」
 ──アイシャ。

 それはダムの決壊のようだった。
「あなたの事が……ずっと好きだったんです。でももう止められなくて……っ」
 ポロポロと零れていく言葉。アイシャは心の中で止まって、止まってとブレーキをかけようとするのに、それは止まらず溢れて止まらない。止まれない。
「ずっとずっとお傍に置いて下さい。愛してます……」
 それはもう器が空になるまで零れ続けた。
(もう嫌われてしまったでしょうか……)

 そう不安がるアイシャを勇者は言葉なく──優しく……けれど力強く抱きしめた。
 それは答えなのか、それとも……



 ──それは彼女だけが知っている。

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