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掌編[と或る自律魔導機械人形について]
そこは、星が綺麗な街だった。塔のごとく聳え立つ
「記録魔石破損大、しかしセンサー部には異常なし……いやはや、ここまでなにもないといっそ清々しいね」
マトンは、決して丈夫な存在ではない。今行ったような簡易スキャンならともかく定期的に専門の人間にメンテナンスを受けなければ壊れる程度の存在だ。
本来クカイとていま自分の足元に転がっているような、この街の瓦礫の一部のようなものだったであろう。それが何の因果かうっかり起き上がれてしまい、奇跡的に稼働ができているのだ。
特にクカイは本来図書館の
足を進めれば石畳の上にかぶった砂埃がクカイの金属でできた足裏と擦れてガラス質の音を立てる。記憶をさかのぼって思い出そうとしても
キッ、キッ、ときしむような耳障りな音とともにそのまま十と数分歩いていけば、街の端へとたどり着く。
黒い空を分かつように白い地平線は、全てが砂。手で掬ってみれば白い星砂であり、一歩足を入れてみればそこがわからないほどにどんどんと沈んでクカイの機体を飲み込もうとしたのであわてて陸地に戻った。その後もくまなく探索したが結局の所もどこも“果て”までたどり着けば白い星砂の海である。
「あーあ、せめてお兄さんじゃあなくてもっと立派な
はあ、と大きなため息と独り言も虚しく響く。壊れている記録の断片からしても緑豊かな地であったはずの場所はは白い星砂の海に取り残された廃墟島だ。誰かが助けに来てくれることもなければ、そもそもここが世界のどこにあるのかさえわからない。救難信号機能なんてものがいきているはずもないのだから、まさしく一人ぼっちだった。
これがオートマタであればもう少し外へ旅立つための知識や経験がプリインストールされており、この白い星砂がなにかだとかそもそも何が起きてこうなったかの推測などもできるだろう。全てはクカイによる「たら」「れば」でしかなかったが――クカイは真剣に嘆いていた。自分のような失敗作のマトンよりも遥かに、この状況に相応しい自動人形はいっぱいいたのだから。
途方に暮れることはできても、涙を流す機能は搭載されていない。