PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

待ってる人

●一人
 コポコポと空気が出る音がする。ガラスの向こうには誰もいない。
 ここは水族館だというのに水槽の中にあるのは無言の石と人工的に循環される水で揺れる海藻。
 目玉となるはずの、来る人たちが目的とするであろう海洋生物がどこにもいない。
 なのにどうしてあちら側から視線を感じるのだろうか。

 ぽつりぽつりと明かりのついたスポットライトの下を歩く。
 照らされているのは自分、ではなく足元の館内説明。
「……そこの道を進めば可愛らしいペンギンが……ねぇ。」
 説明板を見ず思い出すように口にする。意識をするとペンギンがいると思しき部屋側からひんやりと冷たい空気が頬を撫でる。
 撫でただけのはずなのにどうしてこんなに肌を突き刺すような寒さが毎回あるのか。
「少し寒すぎじゃないか?」
 疑問を口にする。パッパッとライトが静かに返事をした。
「壊れかけだぞおい。」
 今度はジッーと電気の通る音が返事をした。何度か繰り返したが点滅することはなかった。
 ため息をつきながら長袖長ズボンの自分の服を見る。姉から暑苦しいと言われたばかりの服装を。
 今日は晴天。水族館に、この場所に来るまでに汗をかいていたのは確か。
 だがここに来るまでにすでに乾いていたことも確か。
「どうしてこんなに寒いんだ?」
 返事がないとわかってもなお口に出す何度目かの疑問。空調のせい?自身が不安がってるだけ?
 再び大きくため息。立ち止まって考えても埒が明かない。水槽の中を気にしながら再び歩き出した。

 元の場所に戻った。そういえばこの水槽は円形だった。
 近くにあるソファに座り足を組む。
 ちらりと階段を見る。誰も来る気配がしない。この水族館はそんなに人気のない場所だったか。
 出入口では大勢の家族やカップルで賑わっていたというのにこの空間には自分だけ。
 一人占めをしている気分になれるがどこか寂しい。水族館独特の明るさが空気を重くする。
 息苦しい。水槽に映った自分の顔を見る。あからさまに不安な顔。
 そんな自分の表情に驚く。自分はこんなに怯えているのだと。
 理解できた途端目が、頭が熱くなった。ソファに背を預け上を向き天井を見る。目が乾く。
 痛い。痛いからなおさら涙が零れてしまった。
 何度やっても同じなのにこうやる癖がついてしまっていた。

●視線
 不安。不安。恥ずかしい。ただ階段を上れば客で溢れているフロアに行けるというのにわざわざそれをしなかった。
 ちょっと一人になりたかった。ちょっと世界と遮断したかった。そう思った結果。
 最初に感じていた視線はいつの間にか感じなくなっていた。
 コツコツと誰かが階段を下りてくる音が聞こえる。さすがにこの姿を見られるのは恥ずかしい。
 上着を脱ぎ半袖に。寒さの余韻が続いるのか腕が寂しい。だが顔を見られるのが恥ずかしい。
 脱いだ上着を顔にかけ寝たふりを……休憩をしているふりをする。
 音が聞こえる。
 風が通り過ぎた。

 コポコポと空気が出る音がする。ガラスの向こうに自分がいる。
 否、少しスッキリとした自分の表情が映っているだけだった。
 休憩するふりをしてそのまま本当に寝てしまっていたのか。降りてきたはずの客の気配がどこにもない。話し声がなければ足音もしない。
 また一人。自分しかいないフロア。自分の動作だけが耳に残る。
 立ち上がり誰もいない水槽を見る。
 僕が僕を見ている。

●九週目
 もうもう少し、もう少しだけ一人になろう。誰かが来てくれるまで。
 気づけばまた水槽の周りを歩き始めてた。

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