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三人称サンプル(西洋風ファンタジー)
セリュース大陸という名の広大な土地があった。
東と西とで大きく分けて二つの国に分かれており、東を皇国ウィスティアリア、西をセレスト王国という名で知られている。
北には大陸の四分の一ほどの規模の島があり、そこには魔術師が住まう地と長たる存在を収めておく神殿があった。その神殿の名を取り、エリクシア島と呼ばれている。
東西どちらにも属さずとされているが、東のウィスティアリアが現在は封された国であるという理由から、エリクシアはセレスト側に表向きは属する形で存在していた。
ちなみに南側は海ばかりで、国などは存在しない。
――シャラ、と装飾と布がこすれ合わさる音が響いた。
一人の女性が静まり返った空間で片膝を折り、俯きがちに瞳を伏せている。神に祈るかのような姿勢は、その後数分の間続けられた。
ベビーブルーの大理石で造られたこのエリクシア神殿には、現在女性が長を担っている。実名は別に存在するが、初代の名前を引き継ぎ、魔術師としての最高位を示す意味を込めて彼女は『導師エルク』と呼ばれていた。年のころは十七歳ほどだろうか。長と呼ばれるにはまだ若いが、先代が夭折してしまった為に、選出が早かったのだ。
その代の導師が『見出した者』は、本人の意思とは無関係に神殿へと召されてしまう。彼女も十二歳で召し上げられ、魔術を叩き込まれ、現在に至る。
彼女の髪の一房が、肩からするりと滑り落ちる。額に頂くサークレットの為に前髪は分けられ、緑色に近い金の髪は腰まで長く、天窓からの光を受けてキラキラと輝いていた。
同じ色の長い睫毛が、ゆっくりと動く。その奥から青にも緑にも見える瞳が姿を現し、彼女は静かに立ち上がる。
「煌々たるもの、征く道を照らして宵を報せ――」
そう紡がれた言葉は、古い響きであった。その後、彼女のそばに控えていた簡素なローブを纏った別の女性が、導師エルクに銀の杖を差し出してくる。
錫杖のような形状をしている、不思議な杖であった。
無言でそれを受け取ったエルクは、その場で杖を僅かに回し、コン、と先を床に叩きつける。
その瞬間、床から吹き上げるかのように光が広がった。
眩しすぎるそれは、控えている女性にも強く感じてしまい、僅かに表情を歪ませ小さく顔をそむけるほどであった。
神殿を内側から包み、そして島全体へと広がっていく光。一瞬の出来事ではあったが、その場にいたものすべてが感じ取り、顔を上げた。草木も動物さえも、反応を見せていた。
――その光は、命そのものであった。逝く時と生まれる時、体に感じられるものとして魔術師からそれぞれの種族へと広く伝わっている。
「……いよいよね。さぁ、どうしてくれようかしら」
光の拡散を体で感じた後、口を開いたのはやはりエルクたる女性――少女であった。可憐でありながらも勝気そうな瞳を巡らせ、仁王立ちをして見せる。
それが彼女――リラ・クルヴェット・エルクの本来の姿であった。