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新たな旅路の予感

 風の道を走り、国境のない空を往く。時折見下ろす眼下の町はそれぞれで、色とりどりの人々が様々に生活をしている。それは、彼女にとっても同じ事だった。あまり一か所に留まらない様にしているのもあり、空からの風景は勿論のことながら、地上の人々と得られる様々な縁は何にも代えられない。様々な記憶や思い出は心の中へ大切に仕舞って、次の町へと風の道を作るのだ。
 一つ、また一つと街を飛び、新しい町を知っていく。それが彼女の楽しみであり、とても分かりやすい旅をする理由なのである。勿論、修行の一環である事も忘れてはいけないのだが。
 …とはいえ、お腹は減るものだ。生きている以上、こればかりは抗えないものである。いくら飛ぶのが楽しくても次の町を目指そうとも、出先でぱたんと倒れてしまえばそれまでなのだ。何処かで降りなくちゃ、そんな彼女の足元にひらりと小さい花の花弁が舞った。
 一度きりかと思ったその花弁は、ぽん、ぽん、と数を増やす。よく見るとそのすぐ下は花弁の絨毯のようにどんどんと覆われていくではないか。
「この辺りは…えっと、ラサですかね?」
 あちこちと旅をした経験が生きる。花弁で見えなくなりかけているその町は今まで見た事もない何かが行われているようだった。儀式か、祭りか、はたまた自然現象か。
 今日は此処にしよう。彼女が心に決めるのと、風向きを変えるのはほぼ同時だった。

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