PandoraPartyProject

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イルリカ・アルマ・ローゼニアのなんでもない一日

「イルリカさーん! 起きてください! 朝ごはん片付けちゃいますよー?」

 ぱたぱたと働きに動く足音とともに、扉の向こうからかけられた声にのそりと体を起こす。眠気はまだ残っている……のだがこの宿のおいしい朝食を逃す手はない。適当な服を着て、宿から酒場へと通じる階段を下りていく。

「あ、ご飯はカウンターに用意してあります!」
「ん、ありがと」

 付き合いが長くなってきた店主に返事をしながらカウンターへと座る。目の前には今朝焼いたであろうパンとこれだけでも十分な栄養が取れるであろう具沢山のポトフ。自分では作ろうと思わないそんな暖かな食事に手を合わせ、酒場の回転準備に奔走してる店主を横目に遅い朝食をゆっくりと食べていく。

――あと一時間ちょっとで正午という時間。

 改めて普段着へと着替えて、宿の裏庭に立つ。早朝であれば宿の住人が修練をしたりしているのだが今はほぼ昼間。仕事があるなら仕事へ、なければ宿にいるか外に出かけるかした後のこの場所で彼女もまた修練を始める。

 細剣で突く。
 引きながら斬る。
 鎧通しのために関節へ刃を向け突き、また斬る。

 一通り基礎動作を終えて、息を整える。
 そして、同じ動作をもう一度。魔法を纏わせて。

 ――紫雷が空を裂く。その炸裂音と切っ先の風きり音を聞いて一つため息。


「おねえちゃんにはまだまだ追いつけないな……」

 頭に浮かぶのは育て親であり、里で一番の戦士だった尊敬する姉の鋭い一撃。
 あれと同じように出来るとは思わない。だけど、胸を張って肩を並べられるような――そんな強さに、恋焦がれる。

 想いを胸に、剣を振るう。私に残された時間はまだたくさんある。混沌に呼び出された数奇な運命、それを力に変えるために――ただ一歩だけでも、前に進むために。

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