PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

●サンプル(シリアス)


 真白の病棟。隔離施設。実験場。此処で過ごした楽しかった思い出も、苦しかった過去も、夢にみた明日も。全部全部、今日でお終い。私達は失敗作だったとを、嫌というほど思い知らされたから。
「265番、前へ」
 私の名前が呼ばれた。此処で私は廃棄される。痛みは無いようにとの職員さんの優しさで、注射で意識を失ってから焼却処分されるのだ。私の何番か前にこの処置を受けることになった子『239番』は、泣き叫んで、夜通し泣いた。
「どうして、どうして! あんなに辛い実験にも耐えた! 辱めだって我慢した! それなのにどうして、こんな結末なの?」
 ――私たちの存在は、意味のあるものだったの? その問いには、私も、他の実験体も、誰も答えることが出来なかった。
 此処は細菌兵器の実験室。人間を対象とした、最終段階の秘密機関。私達は此処で生まれ育ち、あるいは身寄りのない子供が引き取られ、無事健やかに成長した者にはある薬が投薬された。それはじわじわと身体を蝕み、苦しみを与え、張り巡らされた管でバイタルを図られながら、一日中監視されている、自由のない日々。それでも、素敵なこともあったのだ。基本的に好きな食事が与えられたし、職員さん達は皆優しかった。本も好きなだけ読めたし、PCでネットの海を泳ぐことだって許されていた。でも、それは私達のこころを開かせるためのカギにしか過ぎなかったと、今ならわかる。
 結論から言って、施設が開発していたナニかの実験は失敗に終わり、証拠隠滅の為に私達も消されることとなった。其処までは良い、いつどこから機密が漏れるとも分からないのだから。
 そうして、『239番』が処分される日。その子はひとことだけ、私に挨拶しに来た。一等仲良かった子が処分されるのは、やはり私も悲しい。でも、すぐにそちらに行くからね、と言えば、『239番』は首を横に振った。
「今までありがとう。そして、あなたに未来がありますように」
 職員に連れていかれた彼女の背筋はピンと張り、まるで何かを決意したかのような後姿だった。

 そうして、ついに私の番がやってくる。『239番』はまるで私に明日があるようなことを言っていたけど、どういう事なのかしら。腕にプスっと刺された注射。ああ、これで楽になる、と思ったその時、どくん、と血が逆流するような熱さが身に迸る。何? と思う前に、腕は暴れ機材を運ぶ台車を吹き飛ばしていた!
 どうなっているの、私の身体。腕だけじゃない、脚もそうだ。こんなに早く動けるわけがないのに、まるで職員さん達がスローモーションのように動いて見える。焼却炉の施設の頑丈な壁を拳で殴りつけるだけで崩壊させた私は、そのまま外に出た。白い部屋が、緊急モードが作動して赤く染まっている。ああ、私、一体何が。職員さん達の叫び声と怒声が聞こえる中、ようく耳に通ったのは。
「我々の実験は成功したんだ!」
 という声。『239番』はこれを見越していたの? 『265番』は一目散へ廊下を駆け抜けてゆく。明日を、未来を、夢を、職員に与えられるだけの幸福から、自らがつかみ取る為に――!

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