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翻訳小説風(ネオホーゲン)

 かつてキョートを襲った核攻撃の痕跡も、今や路上の片隅に建つ慰霊碑一つとなっていた。道行く人はそこに碑があるとまでは気付いても、それが何の碑であるかまで注意を払う者は少ないだろう。ただそれが、いつもアーコロジーの影の狭間よりこの都市洛外を睥睨する洛中が空に浮かぶに至った原因なのだと誰かに説かれれば、誰もが合点したように頷いて、ある者は畏敬の念を、別の者は憎しみを篭めて空を見上げる。
 帝まします空中都市、洛中の全容は、洛外に住まう“下々の者”までは下りては来ない。それ一つが生産から消費までを全て完結させた都市であるとさえ呼べる完全環境型超高層建造物、アーコロジーを所有する超富豪たちでさえ、洛中の由緒ある公家たちから見れば“真の支配というものの解らぬ若造”なのだ。そういったある種超然的、神秘的な存在として君臨し続けているからこそ、洛中は時に人々の畏敬と崇拝を集め、あるいは不平と憎悪の対象となっていた。キョート政府の標榜する八紘一宇の平和など、薄氷の上のバランスで成り立つものでしかないことを、少し知恵のある者なら誰しも解っていただろう。

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