PandoraPartyProject

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文体サンプル・因縁バトルどっちもワル

 夜。高架。他に走るもののない、高速道路。
 千千の紋章が、ひびわれたアスファルトに浮かび上がる。
 赤燐の光を帯びて、しかし沈むように消えていった。
 ……一拍置いて。
「爆ぜろッ!」
 タタタタタダダダダダダッ!
 染み込んだ魔素の炸薬が、その一言で魔学反応を起こす。とめどなく、とめどなく。
 そして力はまもなく上方を目指すだろう。
 そのように記されているがゆえに。
「チィッ!」
 今しがた、印を結んだ女とは別の――追われる男が、バイクを乗り捨てた。
 跳ぶ。そして飛ぶ。くろがねの外套を翻して、しばし、月の光を遮る。
「光跋励泉の型、七鍵! 虚・空・浄・土!」
「返歌、月光対消滅!」
 バシュウウウウウウゥゥゥゥゥーーーーーーッッッッ!!!
 女の結んだ印が、ついに効果を生む。脳神経・視神経・骨肉の複雑な回路を走る魔力が、増幅される。
 それらはさらに、透化した魔法陣を走り、魔力のレバレッジともよばれる現象を生み出すのだ。
 結果、自己含有魔力量の、優に数千倍もの熱量を持った光線柱が、それこそ光の速さで天を灼いた。
 対して――今は空中にいる方の男も、まるで無警戒ではない。
 これまでのわずかな応酬で、男は女の性格やら癖やらを見抜いていた。
 ……火力偏重主義。
「(味方にしても敵にしても、これほど厄介な種類はない)」
 が、男にとって『厄介な』という言葉は、同時に『御し易い』という意味でもある。
 その厄介さを、理解したのだから。
「歩く先に画鋲が敷かれてるってわかりゃあよオ!」
 ――男は返歌師。即興で読まれる魔歌に揚句を唄うことで。
「ホウキで掃いちまえば『とりあえず』だ!」
 ――その結論を捻じ曲げることを生業とする、プロフェッショナルだ。
 男の着る、あのひらひらの多い外套も、プロ意識の一環だ。
 月光、日光、星光、魔光。光を触媒とするシンガーは多い。
 あの女も――まだ隠し玉は持ってそうだが――その一人。
 ならば。
「(あの! あのマント! 遮光特化か!)」
 女も気づいた。あのマントの影には、一切の光が差し込まない。
 環境光、反射光すらもだ。
 純粋な闇が、そこにstableな形でわだかまっている。
 故に――さきほど立ち上げたはずの光線柱は、その外套の影には発生し得ない。
 男はつまり、自分の真下に、女の攻撃に対する安全地帯を作っているのだ。
 自身有りげな男の憎たらしい笑みが、すると、しかし。
「へへへ……って! おい! こいつは!」
「気づいたか、ヴァーカめ」
 高速道路の高架が、まるごと一桁、完膚なきまでに破壊されて瓦解していくのだ。
 計り知れない、破壊の業だ。
「俺を落とすためだけにか!」
「落ちな、クソ返歌師!」
 足下、続々とガラガラと崩れていく足場の中に、今度こそ沈んでいく。
 女は中指を立てて、闇の中へと消えていく男を睨みつけた。
 ――次の瞬間。
 嫌な気配を感じて、女が振り返った上空に、一台のドローンが文字通り踊っていた。
 八方向に広がった、タコのようなマシンアームの一つ一つに、女を写すビデオカメラ!
「――気づいたか? そいつはリアルタイム中継よォ! これでテメェも!」
 ズン!
 地の底から響くような音がして、なにかの人影が、崩落現場から飛び出してくる。
 男の姿をしていた。
「これでテメェも……ハッ、高い買い物だったなァ!
 俺一人殺す代償を、ここまで払って殺せてネェんだからな!」

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