PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

魔法少女鹿淵ほむら、参る!

 ――BANG! BANGBANGBANG!

「ふぅ――この程度の魔物なら、わたし一人でも全然大丈夫みたいね」

 そこは異常なる力で形作られし異空間。
 甘いバニラの香りと重厚な肉汁の匂いにスパイスの芳香まで漂いながらも、各々を邪魔せず引き立て合う不可思議なスメルが漂うその空間で。
 極彩色の背景の中、ケーキやパフェと言ったスィーツ……のみならず、肉肉魚野菜野菜果物肉野菜肉魚肉――と言った、無数の食物を模したかの様なオブジェと魔物達が乱舞する異様に過ぎる空間であった。
 そして、魔物達は食物だからと食べられるのではなく、哀れな犠牲者を喰らってやろうと不気味なその爪牙を伸ばし


 BANG!! BANBANBANBANG!!!

「だから、やらせないって言っているのよ!」

 連射。連射。連射連射。
 薄桃色の髪をした少女のその手に持ったマスケット銃から放たれる魔弾の連射によって次々と食物の魔物は駆逐されていく。
 こんがり焼けてもう飛べない鶏も、中空を泳ぐ魚の群れも、食らいつこうとしたハンバーガーの化物も、一体残らずその魔弾に撃ち抜かれ、総身が爆散する未来を辿っていた。

 一見非力にも見える小柄な少女が何故あそこまでの力を持っているのか。彼女は何者なのか。
 その答えは――彼女こそが魔法少女、そしてイレギュラーズの一人、鹿淵ほむらなのである!









 ――大変ですー! 辺境の人里の直ぐ傍に人を取り込んで喰らう異空間が形成されたとの事です!

 ――直ぐに調査解決と人命救助の為の人員を送り込みたいのに、今動ける人の数が……!

 ――誰か、今動ける人は居ませんか――――!



「あんな事を聞いて何もしないんじゃ、魔法少女失格だよね」

 そう独り言ちながら、鹿淵ほむらは異空間の中を往く。
 それは彼女がイレギュラーズとして任された依頼の為だけではなく、魔法少女としての善なる心を持つ者としての発奮だ。

 彼女に与えられた役目はいくつかある。
 最大目標は先んじて捕らえられた人々の救助、そして異空間の原因の排除だが……流石に一人では荷が重いだろうとの事で、主目標として彼女に任せられたのは前段階の調査、露払い、そして状況の変化がないかの監視であった。
 ……彼女自身は可能なら助けられる人は助けたいと思っているが。

「やっぱり、進む程に……濃く、多く、強くなってくるわね!」

 BANG! BANGBANG! DGOM!!

 思考や口先は若干焦燥に染まりながらもその照準に陰りが見えないのは彼女の類まれなる技量か、歴戦の冴えか、彼女の才覚が為せる技か。
 いずれにせよ、彼女は言葉とは裏腹に強化されていく魔物達をも順調に撃破していく。
 豚頭の魔物を、巨大蛸の魔物を、狂える蜂達の群れを、太麺の怪物を。
 急所を穿ち、攻撃を撃ち落とし、纏めてなぎ払い、釣瓶打ちして――傷一つなく魔物達の群れを撃滅せしめる!

 だが

「ふっ……流石にそろそろ危ない、わよね」

 確実に消耗は重なっている。疲労も、魔力の消費も。
 異空間を形成する食べ物の豊潤で濃厚な香りに奮い立たせられ、あまり自覚していなかったが……いや、だからこそ自覚した今それに危機感を覚える。
 出発する前に耳に痛い程に言われた、消耗したら無理をせず直ぐに撤退する様に、という言葉が反芻される。
 しかし。

 (まだ一人も見つけられてない……一人も助けられてないのよ!)

 彼女の善性が鎌首をもたげて――



 ――――っ!

「――人の声っ!」

 僅かなその声を聞き逃さず、聞き逃せず、彼女は全力で前へ駆け出した――













「なるほど、これがここのボスって事、ね」


 そこは、言うなれば異形のコロセウム。
 ケーキの様に巨大ホイップで円形に区切られたその区画に、それらは居た。

 彼女がやってきた入り口側とは反対側に、蹲ったまま動けず、恐怖に震える二人の子供と……そして、中央に座す業火に包まれた見上げる程の巨体を持つ――強大な威圧感を放つ牛頭の怪物!
 武器等は何も持っていない。が、しかし……その巨体から想像できる膂力と本人が意に介しておらずともその熱波は間違いなく敵者を焼き焦がす事だろう!


「差し詰めミノ・タン・ステーキって言った所――ね!」

 BANBANBANBANG!

 胸部、額、頸部、瞳、口内股間鼻関節――牛頭の怪物が動き出したその直後、数秒の間に急所に叩き込まれた魔弾の数は数十発。
 その狙いの正確さと威力。並大抵の魔物であれば一発で一体を倒せる程の攻撃力を出せるその魔弾だが――

「面の皮が厚いのかしら。熱くはありそうだけど……」

 体当たりからの両腕振り降ろし、避ける。
 強靭にしなる尾の襲撃、マスケット銃で弾く。
 咆哮と共に……爆炎の散布、大きく後退する。

 当然その間にも、計百発を優に超える魔弾を撃ち込んだが……ダメージはあれど、致命傷には程遠い。

 或いは、通常の戦闘者であれば、牛頭の防御力を突破できずにそこで詰みだったのかもしれない。
 だが、かの魔法少女、鹿淵ほむらには――


「なら、これしかないわよね!」

 ――必殺技がある!

 瞬時に召喚されるのは超巨大マスケット銃。過剰な程の特大の魔力を込め、彼女の技量で撃ち出される巨大魔弾――否、魔砲は全てを貫き打ち砕く!

「《ファイナルショット》――FIRE!」



 発射、直撃、爆砕、激烈――!

 彼女の必殺技は狙い違わず牛頭の胴体に当たり、そしてその胸に大きな風穴を穿ち……牛頭が倒れ、業火も消え去った。
 残るのは倒れ伏したウェルダンな巨大牛肉と、上質な肉が焼けた非常に香ばしい匂いと火炎の残熱……そして、鹿淵ほむらと生き残った子供二人だけ。

 ――彼女の勝利だ!




















「やった、勝てた――君達、大丈夫!?」

「「お姉さん――」」


 そして、最大の疲労を押して子供達に駆け寄


「逃げてえぇ――ッ!!」
「凄く美味しそうだね♪」

 ふわり、と極彩色の香りが鼻についた。

「あっ」

 その元は叫び声を上げた足を潰されていた子供、ではなく。

 擬態を解いた真の異空間の主。あの牛頭すらも“ひとくち”で平らげそうな程に口を広げた化生。
 ――『美食の魔種』 





「――いただきます♪」








 暗転。



 ……End?

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