PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

戦闘・格闘サンプル

 震脚。
 大きな地響きとともに、地面が砕け散った。恐るべき踏み込みだが、本質はそこに無い。
 突き出される縦拳。踏み締めた大地のエネルギーを余すことなく一点に宿した崩拳こそがその真価。開幕を飾る初撃としては豪奢に過ぎる必殺の拳だ。
 威力を極め、そのうえで熟練し無駄を排した一撃は、目前であっても十二分に奇襲の意味を成した。
 並みの使い手であったなら、この一撃で終わっていた。頭を飛ばされるか、胴に風穴が空くか……いずれにせよ、凄惨な最期を迎えていただろう。
 これは、そういう類の“凶拳”であった。
 しかし今日、この場に居合わせた相手は並みではなかった。
 美麗な相貌に喜色を浮かべ、紙一重で崩拳を捌いてみせた。
 埒外の膂力、そして推力を秘めた拳を前に、受けるでも無く躱すでも無く、いなす。一見すると軽く添えた程度にしか見えない右手一本で拳の動きを狂わせる。力のベクトルを弄ばれた拳はその殺人的な推力が災いし、凶拳の男自身の体勢すら不確かなものへと変調させた。
 そして美剣士は、その隙を見逃すほど甘い男では無かった。
 美剣士などと言うものの、それは彼の風貌を表したものに過ぎない。彼は本来的な意味での剣士とは程遠い男だ。
 背中に背負った大太刀には手も触れず、目測のみで正確に間合いを測り、高角度の回し蹴りを凶拳の首筋へ向けて放った。弱所に向けた容赦のカケラも無い大打撃だ。油断なく放たれたそれは凶拳の首の骨をヘシ折り、美剣士が勝利を手にするものと思われたその時。
 ゴッ、という鈍い音が響いた。
 そしてどうやら、それは頚椎が砕けた音では無く。在ろう事か、美剣士の剛脚に凶拳が自らの額を叩きつけた打撃音であった。
 頭ごと撥ね飛ばしかねない美剣士の蹴りに対し、崩れた体勢から頭突きを合わせた技量は言うに及ばず。何より命の危機を前に、とっさにそれを投げ捨てるが如き所業によって対処した凶拳の胆力。
 当の美剣士をして、称賛せざるを得ないほどだ。
 互いに一撃のみ。されど、必殺を交換した。
 仕切り直すように再び拳を構えた凶拳。相対する美剣士もまた、身の丈に匹敵する大太刀を抜き放った。
 間合いのうえでは、美剣士が有利だろう。しかし凶気を宿した拳にとれば、大したハンデにもなるまい。
 両者は、戦意とともに口端を釣り上げた。

PAGETOPPAGEBOTTOM