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普通
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彼女が聖ゲオルギウス教会にたどり着いたのは、遠い空が茜色に染まりかけた頃だった。
三方を海に覆われた町フラメルの、赤茶けた煉瓦だらけの旧い屋根。その中からひとつ頭を出した教会の白亜の尖塔の頂上は、金色の鐘の揺れる鐘楼になっている。その少し下には西日を浴びて輝く大時計の中央には、潮風を浴びた針の根元から半ば幽鬼のごとく赤錆を垂らしているさまが見てとれる。
今日は、この時計台で羽を休めることにしよう。
教会の上空で気持ちよさそうに大円を描いていた飛行種の少女は、そう心に誓うと少しずつ滑空の高度を落としていった。風の吹くままの気ままな旅は、いつも新たな見知らぬ町との出逢いを授けてくれる。この町では、どんな出逢いが待っているのだろう――高鳴る胸を抑えきれぬまま、少女は教会の門を少し抜けた先の、丁寧に短く刈られた芝の庭へと着地した。