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月夜・拳閃

 ――空に輝く明月の下で、揺れる影は、二つ。
「……これしか。これしか無かったのか!? 答えろ龍一! てめぇは頭がいいんだ。…なのに、この方法しか思いつかなかったのかよ!」
「…ああ」
 激昂する片方の影とは対照的に、もう片方の影は、まるで月を映し出す水面の如く、飽くまでも静かだった。

「――そうかよ。ならば手加減は、もうしねぇ。俺の全力でてめぇを斬って――てめぇを信じて死んでいったおやっさんや、霧奈の仇を取る…!」
 疾駆。高速の突進に巻き上げられた木葉が地に落ちるよりも早く、白刃が一閃する。
 常人なら、今の一撃で両断され、絶命したはず。……だが、刀より伝わる手応えが、そうでなかった事を、その主に知らせていた。
「…速くなったな。霧人」
 木の枝の上に、その爪先が降り立つ。宙を舞う木の葉の如く、男は優雅であった。
 ――その目線は優しく。まるで我が子を見る父のようで。

「…っ!」
 跳躍と共に、三連撃。さすがにかわせないと見たか、木の上の――龍一と呼ばれたその男――は、拳を刃の前に突き出す。

 カン、カンと、硬質な音。
 切り裂かれた服の下から覗くのは金属。鋼鉄のガントレット…と言った所か。

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