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水無月の秘密

 凄腕忍集団『暦』が一人、水無月。
 褐色の肌に銀色の月を思わせる髪。そして差し色と同じ橙の鋭い目片手には常に相棒の鷹を侍らせている。
 一見、近寄りがたい雰囲気の彼だが、彼には秘密があった。
 それは――。

・六月の秘密
「いらっしゃいませ-!」
 カランコロンとドアのベルが鳴り、元気なウエイトレスの声がする。
 水無月は、入口から一番遠い、いつもの席に座った。
 周囲を注意深く見渡し、見知った顔がいないことを確認すると一つ安堵の溜息をつく。
「ご注文はなにになさいますか?」
 気を利かせ、ナナシの分も持ってきたウエイトレスが水の入ったグラスと皿をテーブルに置いた。
「そうだな、今日のおすすめは?」
「今朝採れたばかりの新鮮な苺をふんだんに使ったいちごパフェになります! 甘酸っぱいソースと生クリームがよく合うんですよ!」
 言葉だけでも、わかる。絶対に美味い。水無月の目が輝きだし、頬にうっすら朱が差す。

 そう、水無月の秘密とは超甘党ということである。
 
 見た目では唐辛子を生で齧っていそうだとか、珈琲は絶対ブラックだろうなんて思われがちだが事実は全くの逆である。唐辛子どころか甘口のカレーすら食べられないし、珈琲にはミルクと砂糖をどばどば入れないと飲めないのである。彼はそれを、同僚、はもちろん頭領たる鬼灯にも伝えていない。厨に立つ霜月と直属の部下には伝えているが、他の者にはばれていないと思っている。
 
 そんなわけで、甘い物に目がない水無月は、目を細めウエイトレスにいちごパフェを注文したのだった。恭しく頭を下げ、彼女が注文に伝えに行くのを見届けてから、水無月は相棒へと語りかけた。
「なあ、ナナシ。いちごパフェだぞ、いちごパフェ」
 語りかけられた相棒の鷹は、ふうとため息をつくように首を動かすと水無月の脳内へと語りかける。
『本当にお前は甘い物が好きなのだな、水無月』
「甘い物は正義だと俺は思う」
『そうか、私は鼠のほうが好きだがな』
 そんな会話を続けていると、ウエイトレスがお盆片手にこちらに歩いてきた。

「お待たせいたしましたぁ! とれたて苺と生クリームの王道パフェです!」
 ことりと置かれたそれが水無月には輝いて見えた。
 六月の花嫁衣装のような、美しく折り重ねられた生クリームに赤いリボンの様なベリーソース。そして頂点で輝く大粒の苺は瑞々しく、まるで紅玉のように煌めいていた。
 パフェスプーンで生クリームを奥の方から丁寧に掬い上げ、ソースに絡めるとまるで、花嫁の隠された秘密を暴いたような背徳感。逸る気持ちを抑えきれず、口の中に迎えると上品な甘さと苺の程よい酸味が舌の上で踊り、罪の味がした。もう一口、もう一口だけとスプーンを持つ右手が止まらない。
「――っ。美味い……!」
『そんなにか』
 いつもの凛々しい顔はどこへやら。まるで恋する乙女の様な幸せそうな笑顔で水無月は多幸感に包まれていた。母上の和菓子も絶品だが、やはり洋菓子も違った魅力がある。そうだ、今度作ってもらえないか掛け合ってみようか。母上ならきっと難なく作れるだろう。

 そう笑う水無月の甘党は、実はとっくに皆にばれているのが……。
 それはまた別のお話。

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