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ダーク
ダーク
俺の村が焼けていく。
パチパチと小気味いい火の音をさせ、轟々と煙を吐き出しながら。何もかもがなくなっていく。
そして、命からがら逃げ出した俺達を待ち受けていたのは奴隷商人だった。
必死に抵抗しても、数人がかりの屈強な男達に敵うはずもなく、首輪をつけられ、手枷、足枷を嵌められ、人間としての最底辺の屈辱を味合わされる。
俺達は人ではなくモノなのだと何度となく言い含められる。
嗚呼、小さくても平和だったあの頃は夢だったのだろうか。
手に汗して地を耕し、種を植え、実りに感謝する。
ごく当たり前の日常を望むことは俺に相応しくないのだろうか。
——そこには、助けてくれる勇者様もおらず、助けてくれる神様もおらず、助けてくれるイレギュラーズだっていない。
こんな世界なんて、俺からおさらばだ。
俺は盗んだ包丁を心臓に突き立てる。
どうっと倒れこみ、血が床を濡らしていく。
苦痛が全身を染めるが、これまでの苦痛に比べれば、些細なことに過ぎない。
意識が少しずつ朦朧とする中で見えたのが恋人だったのは幻覚だったのだろうか。
嗚呼、愛しい人よ、愛しい日々よ。
——さようなら。