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金秋の風に(ほのぼの日常・一人称視点)


 夕暮れに吹く秋の風というのは、どうしてこうも郷愁というか、一種の物悲しさを同時に煽ってくるのだろうか。
 一体何故か、などというのは考えるのも野暮というものだろう。ただ一つ分かるのは、私にとってこの風は物悲しさを一つ煽る以上に、心地よい涼を運んでくれるということだった。
 家路に着くまでの間、この心地よい秋の夕暮れの空気でも愛でてようかと思っていると、私の目にある植物が目に留まる。
 それは道端に生えるねこじゃらし――ゆらゆらと揺れるそれを見ると、不意に手を伸ばしたくなってしまう。
 きっと、私の中にいる遠い遠い昔の誰かは、もしかしたら猫だったのではないのかと思ってしまうほどに、あの揺れる少し茶色がかかった緑の穂先というものに興味というものがそそられてしまう。
 道端に逞しくその立派な穂先を以て生える強さというのは、私も見習いたいものがある……そういえば前に妻の前でねこじゃらしを揺らしたらそれこそ猫みたいにパンチを繰り出してきたような。
 きっと彼女も前世が猫だったのだろう、あの時の彼女の可愛さといったら……おっと、それを言ったらまた彼女はむくれてしまうね。
 むくれた顔もそれはそれで可愛いものだけど……などと一人惚気ていても食欲の秋か、私の腹の虫がふと騒ぐ。
 どうしたものかと僅かに悩めば、擦れ違う子供達が手に持つ黄金の素朴な甘い香りがどうしようもなく私の心をくすぐって。
 妻にも買っていこう――きっと彼女も好きだろうから。
 私は躊躇いなく、先ほどの子供達に黄金の素朴な甘い香りの熱いものを売る屋台の店主に声をかけた。
「焼き芋を二つ頼むよ。小さめを一つと、大きめのを一つでね」

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