PandoraPartyProject

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鉄屑の歌(バトル)

 硝煙の臭いが鼻をついた。
「あぁ、全く。今日は厄日で御座いますねぇ」
 男は形の良い唇で緩くため息をついて、目の前のソレと対峙する。

 鈍く輝く円筒形のガトリング。幾本もの銃口が身体から突き出た銃鉄の異形がそこにはいた。痛ましいソレは「鉄鬼」。ヒトが突如として鋼鉄の異形と化し、人を襲う機械と成る奇病である。
「こちらとしましても、人殺しはいささか頂けないのですが。……鉄鬼となりましたら、ほら。話は別で御座いましょう?」
 彼の青い瞳がすぅ、と細まる。さぁ、お時間で御座います。構えた長柄の大槍が光を集めた。巷を騒がす鉄鬼を破壊する。それが鉄鬼討伐人ジルの仕事だ。

 オォン、魔物が呻く。
 それを合図にガトリングが火を吹き、鋭い弾丸が情け容赦もなくこちらへと向かってくる。
 鉄の雨のように降り注ぐ弾丸を避けてジルは身体を捻らせ地面へと着地した。いくつか掠めたが大した傷ではない。次の砲撃までの僅かなタイムラグにジルは強く地面に踏み込んだ。
 距離を詰めて大槍を構えた途端、再びこちらに牙を剥く幾本もの銃口。それでも彼は止まらない、むしろ瞳の奥に強く光をたたえて。
 ……大丈夫。いつか、孤児だった私を拾って下さったあの方の恩に報いるまで。
「さぁ、おいたはそこまでになさい!」
 ーー私はまだ、死ねませんから。
 生きようと思う理由がある。だからいくらでも強くなろうじゃないか。
 銃口の隙間を縫い、真っ直ぐに突き出されたジルの大槍が白く光筋を残して、鉄鬼の身体に迷いなく、近づく、
「「白刃・鉄鬼狩り!!」」
 今、届いた。
 ずぶり、切っ先が鉄鬼の身体に深く食い込む。

 オォン……!! 断末の唸りを上げて鉄鬼の身体は地面に沈み、鉄屑へと変わっていく。
 ソレはもう、動きもしなければ呻きもしない。ただの意思のない鉄の塊だ。
 カン、とジルは大槍を床に下ろし……黙祷を捧げた。わかっている。機械は泣かない。わかってはいるけれど、どうしても。断末の唸りだけはいつも……耳の奥に錆び付いたまま。

「……帰りましょうか」
 耳の奥に錆び付く声があろうとも、それでも帰ろうと思える。
 今の私には、待っていてくれる人が居るから。

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