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飛行少女ステルナの旅  *採用試験で書いたS S

・ノベルマスター採用試験で書いたS Sです。
・設定は、【鳥の姿になって世界を旅しているステルナという少女が、旅の途中で知らない街に立ち寄り、街の人たちと交流する(2000字程度)】というお題です。

風を正面に受けながら、ステルナは翼を羽ばたかせた。
晴天に恵まれた空には雲一つなく、気持ちがいい。
眼科に見える森の葉は色づき始めて、もうすぐ秋がやってくる。
気の向くまま、東へと飛び続けていたが、そろそろ越冬のことも考えないといけない。
ギフト“極渡り”の力でいくら飛行しても疲れることはないが、寒い中を飛び続けるのは簡単なことではない。
飛ぶ速度を落とし、思案をしていると森外れに見慣れない街が見えきた。
城壁に囲まれた小さな街の中には、色彩豊かな旗が立ち並び、時折花火が上がっている。
何やら、祭りをやっているようだった。
「こんなところに街があるんだ」
越冬に向くかどうかはわからないが、少し街を散策してみようと考え、ステルナは街の路地裏に降り立った。
飛行中はキョクアジサシという渡り鳥の姿をしているが、地上に降り立てば一瞬にして元の14歳の少女の姿に戻ることができる。
自分の体毛で編んだ下着やローブが、体の変化にも対応してくれるため服を着た状態で姿を変えられるのはありがたい。
「ここはどんな街なんだろうなー」
ステルナは大きく伸びをした後、路地裏を抜けて大通りに向かって歩き出した。

大通りには多数の露天が軒を連ねていて、旅団らしき一団が中央広場にで市を開いていた。
周囲には甘い芳香が香っていて、賑やかな笑い声がそこら中で聞こえる。
ステルナは人混みに上手にすり抜けながら、中央広場で一際甘い匂いを発している荷馬車を覗いてみた。
「あ、林檎!」
荷馬車に備え付けられた箱の中には真っ赤に熟れた林檎が山のように詰まれ、爽やかな良い香りが漂っている。
「お、いらっしゃい。見慣れない顔のお嬢ちゃんだね、よかったら、味見なんてどうだい?」
人の良さそうなおじさんがステルナに、切り分けられた林檎を勧めてきた。
「ありがとうございます、いただきます」
もらったと林檎を齧ると爽やかな酸味と濃厚な蜜の味が口一杯に広がった。
「美味しい! こんな美味しい林檎初めて食べました」
「そうだろ、そうだろ! 俺が選んだ最高級の林檎さ。よければもう一つ食べな」
「いいんですか!? ありがとうございます」
齧り付いた途端に溢れ出す、瑞々しさ果実の旨味に思わず頬が緩んでしまう。
「私、この街に着いたばかりでなんですけど、これは何かお祭りですか?」
林檎の美味しさにうっとりしながら、ステルナはおじさんに聞いてみた。
「これは“芳醇祭”さ。秋の初めに各国から果物が集められて行われる、一大祭りだよ。旬の果実に、ジャムやワインが販売され、街中が芳醇な香りに満たされるんだ」
その言葉にステルナの目が輝いた。
大好きな果物が集まるお祭りなんて夢のようだった。
まだ先の長い旅なのだ。
この街の祭りが終わるまで滞在しても問題はないだろう。
「この林檎って1個おいくらですか?」
「1個はこの値段だ。まとめて5個買ってくれたら1個おまけするよ」
提示された金額を見て驚いた。
普段買う林檎の価格よりも安い。
「買います! えっと、10個ください」
「10個!? そんなに持てるのかい?」
「大丈夫です。私、意外に力ありますので」
「そうかい。じゃあ、2個、いや特別に3個おまけしておくよ」
おじさんはそう言うと、林檎を紙袋に入れて渡してくれた。
「ありがとうございます! ……あ」
ステルナが大きな紙袋を受け取った際に、一番上の乗っていた林檎が1個飛び出して、道に転がってしまった。
「ほら、言ったことじゃないか」
「へへへ、大丈夫です、すぐに拾うので」
ステルナが転がった林檎を拾おうと振り返ると、その林檎の前にステルナと同じくらいの年齢の少女が立っていた。
簡素で動きやすいフレアスカートに、白いエプロンと、三角巾を頭につけている。
少女は転がってきた林檎を拾い上げると、ステルナの紙袋の一番上に置いた。
「ありがとうございます」
「いいのよ。それよりもあなた、随分たくさん林檎を買うのね?」
「はい。つい美味しくて」
ステルナが照れ臭そうに笑うと、少女はじっとステルナの顔を見つめて
「ねぇ、あなた見慣れない顔だけど、もしかして旅人さん? この街で宿は決まっているの?」
「はい。魔法の修行の旅で各国を回っている途中です。この街にも今着いたばかりで宿はまだ……」
その言葉に少女の眼光が鋭く光った。
「それなら、うちの宿に来なさいよ! この街でも随一の宿屋よ。価格もリーズナブルなの」
「え、あ、えっと」
突然のことにステルナが言い淀んでいると、屋台のおじさんが助け舟を出した。
「ちょっとノラ、そんな急な勧誘があるかよ。商売ってのは、相手の心に寄り添うことから始まるんだぜ。まぁ、しかしだ、嬢ちゃん、こいつの宿屋が良いのは事実だぜ。俺が保証する」
「ね、この林檎も半分持つから!」
「うーん」
ステルナは少し悩んだが、これも何かの縁かもしれない。
「そしたら、お願いします」
「やったー! ありがとう!」
少女は喜んで、ステルナの腕を握ってきた。
「うちは、ノラって言うの。あなたは?」
「私は、ステルナです」
「ステルナね、覚えたわ。案内するから着いてきて」
そう言うとノラはステルナの抱えていた林檎を持って、先に立って歩き始めた。
ステルナは戸惑いながらも、ノラの後に着いて宿屋に向かった。

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