PandoraPartyProject

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サンプル2・ダーク&メリバ

「ここ……どこ?」
 暗い部屋にあどけない声がか細く響く。声の主である子供は記憶の糸を手繰る。ここは知らない場所。ここに居るのは――
「目覚めたか」
 光と音、どちらが先だっただろう。煌びやかなシャンデリアがどこか不気味に灯り、影のような印象を受ける不気味な人物を照らす。
「あ……」
 子供は思い出す。
 ソレは人物ではなく人外である。攫われた。だから――息苦しい家ではなく――ここに居るのだと。
「あ、の……」
「話は後で聞こう。今は我が僕らしく館の構造でも頭に入れておけ」

 それだけ言うと不気味な人外は影のように消えた。
 わがシモベ。確かにそう言っていた。
「あのヒトの、シモベ」
 なぜだろう。きっととても恐ろしいことのはずなのに、心が軽くなるような不思議な感覚がした。
「……行こう。館のこと、覚えないと」

 麓の村には口伝があった。
 崖の館には化け物が棲むと。
 化け物に食べられたくなければいい子でいなさい、なんて躾の道具のような。

「広い。こっちは……入口、かな」
 彷徨い呟く子供のそばを蝙蝠がキィキィと鳴きながら纏わり付く。あたかも肯定するかのように。
 大きな扉。そこから外へ出られるかもしれないけれど。子供の頭には欠片もそんな考えはなかった。次はこっちだ、とでも言うかのような明かりへと、ゆっくりと歩を進める。

 ギィ、と。背後から聞こえた音に心臓が跳ねる。扉の開く音だろう。嫌な予感がする。あのヒトじゃないと直感が告げる。

「■■■■ー!」
「■■、■■■■■!!」
 何を喚いているんだろう。こわい。どこかで、見たような気もする、けれど。血の気が引くような。こわい。こいつらが。そうだ、こいつらが。
 とてもこわい思い出にすくんでいると、手首を強引に引かれた。それが当たり前のように。
「あ、ああああぁぁぁ!!」
 振りほどこうと暴れるけれど、掴む力は強い。
 心の中で助けを乞う。
 それは決して、自分を『労働力』として鞭打つ両親などではなく。あのヒトに。
――力なら、既に授けた。我が僕らしく振るってみせよ――

 背筋が凍り付くような感覚は。こわいヤツを。
「■■■、■■■!」
「■■■■!?」
 掴まれた手首から冷気が奔る。こわい場所――日常――へと連れ戻そうとするナニカの腕が凍り付く。構わず全力で砕く。
 気付けば子供の周囲には、水晶のナイフのような氷片が無数に浮いている。そして、なんのためらいもなく。ナニカへと降り注ぐ。

 これで自分はあのヒトのシモベとして相応しいだろうか、と。思わず口元が緩んでしまう。
 ジツノ オヤニ……そんな言葉を聞いた気もするけれど、どうだっていい。
「汚れた床を掃除しないと。少し大変そうだなぁ……ねえ、雑巾とかはどこにあるの?」
 子供は周囲を飛ぶ蝙蝠に問いかける。

 薄暗い部屋で蝙蝠の『眼』を借りていた館の主は愉しそうに喉を鳴らす。
「これは良い拾い物だ」
 そして、新たな退屈凌ぎに思いを巡らせるのだった。

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