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恋愛/切ない/文体硬め

タイトル『輪廻』

 ◆

 ぽっくりと死んだように思われた。
 飼い主に食事代にもならぬと嘆かれ、飼うことも儘ならぬとぼやかれて。そうして黒猫は道端へと其の小躯を打ち付けた。あまりにも短いいのちであった。
 飼い主のことを恨んでいるかと云ったら、そうではない。
 愛をおしえてくれた。餌も、あたたかい寝床だって。
 只、彼は食い繋ぐのが難しくなった。ありふれた噺だ。だから、おれは捨てられた。それだけ。
 身体が丈夫なほうだとは言えなかったから、家からでることはしなかった。餌だって満足に食べられたわけでも、与えられたからと云って、ぺろりと平らげられるような胃も無かった。
 故に、硬い砂利道に酷くぶつけた身体の内側の骨はいとも容易く折れ壊れ、内臓を貫いて死んでしまった。なんとも簡単な話である。
 ぐったりと目を瞑った三毛猫。内側から溢れた血が酸素に触れて、黒く、黒く。

 そうして、次に目を覚ました時は何とも言い難い感覚であった。
(……手?)
 いつものように歩こうと四つん這いになったら、其の手は真似をするように地べたに這って。
(此の、手は、なんだ?)
 手を重ねようと伸ばし、ふと、気付く。
(此れは、)
 もしかして──おれ、の、手?
 姿見を探そう。そうして、おれの今の姿を確かめなくては。
 其の想いがからだを突き動かした。茅葺の小さなはこにわだけが世界だった猫は知らなかった。

 異端は、疎まれ排除されるのだと。

「あ、の。すみま、せん。姿見を、」
「──ッ、寄るんじゃないよ、化物ッ!!!」

 拒絶。或いは、嫌悪。
 当然とも云えるだろう。彼は人間などではない。只の化け猫なのだから。
(おれは、ひとになったのでは、ない?)
 どく、どく、どく。
 心臓が暴れている。暴れ、跳ね、そして、叫ぶ。

 おまえは、ひとなどには、なれぬのだ。

 そもそも死んだのであるのならば、死ぬはず。化けて出た時点で、お前は人を憎んでいる。
 其の事実が、苦しかった。
 苦しくて苦しくて。路地裏に駆け込んで。猫の振りをして、餌を貰うことでしか生きられなかった。

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