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特定昆虫形状自動掃除機(怪文書)

 世の中には見ていいものと悪いものがあるが、人類史で生きている上で史上最高に見たくないものとしてノミネートして然るべきものは複数ある。
 その内の一つとして候補に挙がるのは、2020年代初頭、技術の発達した現代日本のとあるご家庭でにしずしずと家を掃除する特定昆虫の形をした自動掃除機であった。
 挙動がもうなんだか名状し難きものでそれが部屋をゆっくり練り歩いてるのである。家人は当然だが悲鳴を上げたし泣いた。
「なんでこんなもの買ったのよ!!」
「なんかノリで……」
「私が虫嫌いなの知ってるでしょ!機械でも死ぬほど気持ち悪いのよ!!」
 嘆く妻、面白がる息子、デケェ虫がいると思ってじっとみてるネコちゃん、いやこれは割といい買い物したんじゃないかというツラをする夫、それをよそに特定昆虫形状自動掃除機は部屋の隅々をクリーンにしてくれている。
 わりと性能は良いらしいがとにかくデケェ特定昆虫の形状をしているので心臓に悪い。そうして眺めていく内に部屋の角で不具合が起きたのか微振動しながら止まった。ゴリゴリと壁に当たる音と共に精神も削れそうである。
「いややっぱ気持ち悪すぎるのよ!!」
「ハイセンス雑貨だと思ってぇ……」
「ドブに捨てろそんなセンス!!」
 夫婦喧嘩待った無しの状態で特定昆虫形状自動掃除機は掃除を再開、そしてスーッと妻の方へ向かう。
 埃が丁度落ちていたので仕方ないのだ。妻は悲鳴をあげて夫に抱きついた。目と目が合い、そういえば私達の出会いもサークル内でデッケエ虫が出てきたのを退治してくれたことから始まったっけ……と青春の淡い思い出が蘇り、妻はちょっと頬を赤らめた。
 甘酸っぱい思い出を思い出したところで特定昆虫形状自動掃除機が淡々と掃除をしていることに代わりはないし、やっぱりデケェ上に異様に気持ち悪いのだが、夫もなんか「俺たちの思い出ってこうだろ?」みたいなツラを開始したし悪くないのかもしれない。
 特定昆虫形状自動掃除機はまた角に躓いてジタバタを開始した。やっぱり気持ち悪い。

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