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見習い魔女ステルナと旅人のお祭り
夜が零れ落ちるほんの少し前、街中は彩り豊かで暖かい空気が流れる。
そこへ、真っ赤な嘴を持つ小鳥が舞い飛ぶ。喜ぶようにぐるぐると周回して、ゆっくり街へ降りていく。
そうして地面に降り立った時、キラキラと目を輝かす小柄な少女が弾む足取りで歩き出す。
キョクアジサシの少女、ステルナだ。
「なんて可愛い街でしょう!それにもうじき夜とは思えないくらい過ごしやすい気候です」
ステルナは魔法の修行で世界のあちこちを飛び回り、上から見て興味をそそられた街に降り立ってはその文化を学び歩いていた。
「やあ、お嬢ちゃん。旅人かい?」
「はい、これから何かあるのですか?」
出店の準備をしていた青年に声をかけられる。それに挨拶を返して、どんな街なのか尋ねる。
だってみんな、それとなくざわざわしているのだ。長年の経験から、何かあると察する。
「感謝祭があるのさ、旅人の」
青年が作業の手を止めて語りだす。 この街が村だった頃に大きな風が連れてきた病で大人ばかりが倒れてしまった。
親に代わって農作業が出来たのは15歳くらいの子供達が十数人、後は6歳と4歳の子ばかり。
このままでは大変だと言う時、二人組の旅人が訪れた。長身の男性とふくよかな男性だった。
二人は事情を聞くと、まず長身の方が言った。
「私は医者なのできっと治せます。患者を集めて薬を調合する時間をください」
まだ歩ける大人達と子供達は歩けない人達に手を貸しながら村で一番大きな建物である教会へ移動させて薬が出来るのを待った。
ふくよかな男性が言った。
「俺はみんなに飯を作ってやれるぞ。子供達の面倒は任せな」
大きい子供達と一緒に農作業をして、小さい子供達と一緒にご飯や家の仕事をしてくれた。
そうして1週間、薬が出来たと長身の男性は嬉しそうに言って、大人達みんなに飲ませた。
そうしたら、たちまち良くなって抱き合って喜んだとさ。
「二人組の旅人はその後、どうしたのですか?」
青年が笑った。それはこの後に分かると。
出店の準備を再開しはじめる。
「今日は祭りの最終日だから、物語を模した山車が出るんだ。見ていってくれ」
旅人達の最後を。そして遠い昔の感謝を今も覚えて伝えていく今日を。
「……はいっ、せっかくのお祭りです! 楽しんで学びます!!」
今日はお祭り、善き日のお祭り。
たくさん笑って、たくさん感謝をしよう。