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渡り鳥と海の町の少年
夕日が照り付ける海の上の空に、大きな鳥が一匹、いや一人飛んでいた。
「お腹がすきました……」
海上を飛行する旅に夢中だったステルナは、朝から何も食べていないことを思い出し強烈な空腹に襲われた。
「お魚食べたい……あ!」
降りられる場所はないかと地上を見渡しながら進むと、ベストタイミングで小さな島が見える。
小さな島にも関わらず賑わっている様子で、ステルナが飛行する空まで祭囃子が聞こえてきた。
どうやら祭りの最中らしい。
「お祭りなら、美味しい食べ物がたくさんありますね!焼きそばにりんご飴に……ああ、もっとお腹が空いてきました」
ステルナは器用に風に乗りながら降下し、島に降りた。
人間の姿に戻って、さっそく出店を物色する。
しかし、ふと違和感を覚えた。
「子供がお店をやっている…?」
祭りの会場を見渡してみると、出店の店主がみんな10歳程度の子供ではないか。
「いらっしゃいませー!イカ焼きいかがですかー!」
食べ物の名前が耳に入った瞬間、さっきまで感じていた疑問はどこへやら、ステルナはお金を握って出店に飛びついた。
「はーい!イカ焼きひとつください!」
「ひとつですね!どうぞ!」
「ありがとうございます!あの、つかぬ事をお聞きしますが、この島では子供たちがお店をやってるのですか?」
「お客さんよそから来た人?今日は年に一度の大魚祭で、この日は子供に商いをさせることでゲン担ぎをするんです。この島のモットーは『子供は強く、たくましく!』なんでね。大人は夜みんなで海で漁をするんですよ。漁が上手く行ったら、その年は島の商いが繁盛するって言い伝えがあるんです。で、子供が強く育っていたら漁は上手く行くとかなんとか。だから、子供がちゃんと商いできたら夜の漁も上手く行く、ってことらしいですよ」
「なるほど~!子供は強くたくましく…子供を信頼する大人って素敵ですね」
通りで海産物の出店が多いわけだと、ステルナは納得した。
イカ焼き屋を後にし、次は何を食べようかとさらに出店を回っていると、ドン!と誰かにぶつかった。
「いたた…ご、ごめんなさい!」
「こちらこそ……ごめん……」
ぶつかったのは小さな少年だった。
(わ、綺麗な男の子ですね……)
少年の美しい外見に、思わず見とれるステルナ。
「あの、もう行ってもいい……?」
静かに喋る少年に、ステルナは言った。
「あ、ごめんなさい!これ、お詫びにどうぞ」
「……シーグラス……?」
「さっきこの島に降りた時に拾ったんです。宝石みたいで綺麗だったから……シーグラスっていうんですね!」
「ありがとう。あの……」
少年は何かを伝えたそうだったが、もじもじしているだけで喋ってくれない。
(何か伝えたいのでしょうか?)
ステルナは少年の目線に合わせてかがんで言う。
「大丈夫ですか?」
ニコっと笑うステルナに、少年は安堵を覚えた様子で語り出す。
「あの、アクセサリーを作る店をやっていて……」
「アクセサリー?あなたが作るんですか?すごいですね!」
「……すごくなんかない。僕、みんなみたいに店を盛り上げられてないから。喋るのが苦手で、ちっともお客さんを呼び込めない。今夜僕のお父さんが漁に出るのに、こんなんじゃきっと上手く行かない……」
ステルナは先ほどの出店で聞いた話を思い出す。
「確か、子供たちの商いが成功すると漁も成功する、みたいな言い伝えがあるんでしたっけ?」
少年はこくりと頷いた。
「毎年、僕の店だけ繁盛しない。去年はお父さん、怪我して帰って来た……僕の……せいで……」
「ふむふむ、なるほど。つまりお店が繁盛すれば、心配はなくなるわけですね?」
何か策があるように話すステルナを不思議そうな目で少年は見つめた。
「安心してください、私がいれば大丈夫です!さあ、お店に案内してください!」
ステルナの言ってることがよくわからず、少年は流されるがままにステルナを店に案内した。
——5分後
「あ、いたいた!」
恰幅のいい少年が店に駆け寄ってきた。
「君の店はもういいの……?」
「うちはもう閉めたよ。それよりさ、妹が拾ったこの貝殻、アクセサリーにしてやってくれないか?友達の誕生日プレゼント買うの忘れたとか騒ぎ出してさ。これしかないって言うんだけど、アクセサリーにすればプレゼントにぴったりだと思って。」
「あ、うん……じゃあ……」
そこへさらに老婆がヨタヨタと駆け寄って来る。
「ね、このネックレス直してくれない?旦那から貰った物なんだけど、ほら金具のとこ、壊れちゃって着けられないのよ。」
「あ……はい、じゃあ……」
こうして少年の店は遅くまで賑わっていた。
夜更けになって、客足も途絶え始めた頃だった。
「ただいま。おや、その人は?」
少年の父親が帰って来たのだ。
「私はステルナというしがない渡り鳥です。息子さんのお店、すっごく繁盛してたんですよ!」
まるで自分のことのように(実際自分のスキルの影響だが)嬉しそうに語るステルナを見て、少年はすこしボーっとしていた。
「そういえばお父さん、漁は……?」
「それがな、すんごい大漁だったんだよ!ステルナさん、よかったらうちで夕飯食べていきませんか?新鮮な海鮮丼をご馳走しますよ」
「いいんですか!?じゃあ、お言葉に甘えて!」
その日の夜、ステルナは見たこともない怪魚の海鮮丼をご馳走になり、うっとり夢心地気分で少年の家に泊まった。
翌朝、ステルナが少年からシーグラスをつけた指輪をプレゼントされたのは、また別のお話し。