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自作小説より
目が醒めても現実は変わる事無く。適当に脱ぎ散らかせた喪服を洗濯籠に放り込んで適当なスラックスとシャツを選び河原町へと向かう。
昨日の帰路と同じ京阪電車はがたごとと音を立てて進んでいった。大阪を横断し、京都方面まで一気に伸びるこの路線は何となく乗っているだけである。
手にした本は彼女の最新作だったが、読む気にもなれず急行に揺られて河原町へと辿り着いた。
指定されたバーへは買ったばかりのスマートフォンの地図を頼りにすることになる。難なく辿り着けたのは地図の読解がうまかったからだと褒めて欲しい。
バーへと辿り着けば彼女は先に来ていたようでバーボンウイスキーを煽っていた。今日も彼女は一目見ればわかるタイプの女である。
「こっちこっち。元気?」
「まあ、ぼちぼち」
強い訛りを感じさせる彼女の声は聴いていて心地よい。机の上に放り出されていた煙草は親友と同じ銘柄のものだった。
「行き成り呼び出してゴメンなぁ。ヘンテコな占い師から貰いものをしてんけど、これ、アタシじゃ上手に使える気がせんから」
「《変えたい過去》はないんですか?」
「あるとしたらそれは女の秘密やね」
ふう、と息を吐き出した彼女から手渡されたのは小さな瓶に蝶々の細工が詰められているだけの小物だった。曰く、過去を改変する事の出来る蝶の羽ばたきなのだというが。
「それ、金平糖よ。一つ食べれば一つ変わるって算段やね」
「あったかもしれない未来を見るって言われた方が中々に合理的ですけどね」
「ああ、未来予知? それでもアタシは要らんなァ。自分の出した小説の没案が売れるって言われたらどう?」
「すごく傷付く」
「でしょ。だからアタシは必要ないんよ」
からからと笑った彼女は瓶詰にされているのは蝶々を模った金平糖なのだという。強く念じれば過去を変えることが出来ると――但し、自分で行動しなくてはならないとそう言った。