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ある男たちの雑談
酒は生命の水だと、かつて誰かは言った。
まさしくそうだと自分でも思う。あれは人の心を豊かにする飲み物だ。
アルコールの辛さ。渋さ。穀物の甘み。旨味。発酵による酸味。
その五つの味が複雑に絡み合い、競い合い、生まれ出ずる得も言われぬ味わい。
「……で、それに自分は深く魅了されたのだ、と続くのだろう?エーミール」
「みなまで言うな、その通りだとも」
友人ラルスに遮られるように言われながら、私はブランデーの入ったグラスをくいと傾けた。
事実、自分は酒に魅了されている、と声高に言えるだろう。酒の魔力に溺れて抜け出せぬ、と言えばその通りでもある。
しかし、それが我が人生をより一層豊かにしてくれている、というのもまた事実であるからして。
「酒を飲むと、世の中の由無し事から解き放たれたような、そんな具合になるんだよ、ラルス。上面発酵のビールしか飲まない君には分かるまいが」
「馬鹿を言うんじゃない。僕が昨年のオクトーバーフェストでどれだけ飲んだかを、知らない君じゃないだろう」
そんな軽口を叩き合い、笑い合いながら、バーのカウンターにもたれながら私は酒杯をまた傾けた。
平日の夜遅く、騒ぎ立てるような無粋な若者は既に家路についたあと。気心の知れた友人と共に過ごす、この時間は何よりも得難くて。
本日二杯目のブランデーをくいと空けながら、私は傍らの友に視線を投げた。
「で、ラルス。君は、この間話していた仕事の具合はどうなんだい。随分難しい案件だったと聞いているが」
「ははっ、その話か。勿論綺麗に終わらせたとも。後腐れは何もない。一切ない」
そう言って笑いながら、ラルスはビールのジョッキをぐいと呷った。これだけの容量をやすやすと空けられる、彼も大概アルコールに強い。
空になったビールジョッキに体重を預けながら、友人が私に向かってふわりと柔らかな笑みを向けてくる。
「で、君の方はどうだったんだいエーミール。上院議員のお館での仕事の方は、受けてまだ間もないんだろう」
「それこそ侮るな、友よ。完遂していなければ、ここで酒を飲むこともないさ」
そんな言葉を返して、私は手元のショットグラスを小さく揺らした。
私は仕事を終えた。彼も仕事を終えた。それで充分だ。
「じゃ、もう一度乾杯と行こう」
「ああ。互いの仕事の完遂を祝して……乾杯だ」
そうして、私達はまた笑い合った。
これは、暗殺者の間で交わされた、由無し事のお話。