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シナリオ詳細

カムバック! 青い鳥。或いは、15年後の自由な空へ…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●常夏島の青い鳥
 常夏の島、ヴァカンツァ。
 海洋に存在する観光、遊興に特化した島だ。
 流れるプール、酒場にレストラン、カジノに遊技場。その他、思いつく限りの娯楽に溢れたその島で、浮かない顔をしているのはきっと彼女……イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)だけだろう。
「まずいっす。まずいことになったっす」
 ヴァカンツァの路地裏で、壁に頭を押し付けたままイフタフは唸る。
 その顔も、髪も、汗に濡れている。
「どこに行ったっすか……“青い鳥”ぃ」
 今にも泣き出しそうな声で、イフタフはそう呟いた。

 青い鳥。
 ヴァカンツァのシンボルだ。
 遡ること15年前、3人の海賊たちが“娯楽の島”としてヴァカンツァを立ち上げた。
 その際に偶然、島で捕獲したのが空のように“青い鳥”だった。
 3人は気紛れに青い鳥を飼い始めた。
 青い鳥のおかげ……というわけでも無いだろうが、ヴァカンツァの経営はあっという間に軌道に乗って、今ではすっかり海洋でも有数の観光島へと成長している。
 以来、ヴァカンツァでは“青い鳥”が特別な意味を持つようになった。
 青い鳥は、ヴァカンツァのシンボルとなった。

「それがまさか、あんなところにいるとは思っていなかったっす」
 溜め息を零したエントマは、顔を歓楽街の中央……古く、高い、見張り塔の方へと向けた。
 かつては見張り塔の役割を担っていた塔だが、今はその役割を終えている。
 立ち入り禁止の、単なる塔……モニュメントの1つに過ぎない。
 そのはずだった。
 見張り塔は、今でも利用されていた。忍び込んでみれば、階段には幾つもの足跡がある。掃除も行き届いているのか、埃もさほど積もっていない。
 となれば、塔の上には何があるのだろうか。
 そんな好奇心に心動かされたイフタフは、人目を忍んで塔を登った。
 最上階には「secret:X」と書かれた鉄の扉。
 少しだけなら……好奇心に踊らされ、イフタフは扉を開けてしまった。
 その結果、部屋から飛び出していったのが“青い鳥”だったというわけだ。
 
「やっばぁ……街のシンボル、幸運をもたらす青い鳥……あんなところで飼ってたなんて思わなかったっす」
 予想外だ、と。
 イフタフは顔色を悪くする。
 ヴァカンツァの成り立ちを思えば、青い鳥が島にとって特別な意味を持つことは明白。立ち入り禁止の鉄塔の上で、誰にも知らせず青い鳥を大事に飼っていたのは誰だ?
 決まっている。
 島を立ち上げた海賊たちだ。
「見つけないと。私が鮫の餌にされてしまうっす……あぁ、青い鳥。帰って来てほしいっす」
 願っても、青い鳥は返って来ない。
 だから、自分で見つけるしかない。
「人手……人手が足りないっす」

GMコメント

●ミッション
青い鳥を回収せよ

●NPC
・青い鳥
ヴァカンツァのシンボルにして、幸運を運ぶと言い伝えられている青い鳥。
真っ青な色をした鳥だが、何の鳥なのかは不明。
見張り塔最上階で飼われていたが、悲しいかなイフタフのポカで逃げてしまった。

●フィールド
海洋。
常夏の島、ヴァカンツァ。
時刻は深夜。夜明けまで後、数時間ほど。
流れるプール、酒場にレストラン、カジノに遊技場。そのほか、あらゆる娯楽施設が存在している島で、大勢の人が休暇を満喫している。
眠らない街だが、流石に夜も深くなると人気も幾らか少なくなる。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフに雇われた
「私の命がかかってるっす!」切羽つまった様子のイフタフに協力を求められました。

【2】ヴァカンツァで休暇中
ヴァカンツァで休暇を満喫してたところ、青い鳥かイフタフたちを見かけました。

【3】青い鳥の伝説を追え
ヴァカンツァのシンボル「青い鳥」に興味があります。しかし、どこにも青い鳥はいませんでした。今日の夜までは……。


青い鳥を巡って
夜明けまでの過ごし方です

【1】青い鳥を探す
イフタフの手伝い、または個人的な理由により青い鳥の行方を追います。

【2】休暇を満喫する
夜明けまで開いている店も多いみたいです。ヴァカンツァでの休暇を楽しみます。

【3】海賊と揉めている
何らかの理由により海賊たちに追われています。イフタフ? 青い鳥? 今、そんなのに関わってる余裕無いんですよ。

  • カムバック! 青い鳥。或いは、15年後の自由な空へ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月01日 22時10分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)
葡萄の沼の探求者
カトルカール(p3p010944)
苦い
ナイアルカナン・V・チェシャール(p3p011026)
気紛れ変化の道化猫

リプレイ

●常夏の島の青い鳥
 ヴァカンツァは眠らない。
 夜遅くになっても、島は明るく、賑やかだ。とはいえ、流石に明け方も近くなってくれば、多少は静かにもなって来る。
 例えば、ホテル街などがその最たる例だろう。
 そんなホテル街の上空を“1人”の鷹が飛んでいた。
 鷹の名前は『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)。鳥と言えば、夜目が利かないと相場は決まっているものの、カイトはどうやらその限りでは無いようだ。
 猛禽の目は、夜空を飛ぶ1羽の鳥の姿を捉えた。
 夜に鳥が飛んでいるというだけでも珍しいというのに、その鳥の色は青かった。ヴァカンツァ近辺では見かけない羽根色の鳥だ。
「お、青い鳥だ」
 餌でも探しているのだろうか。
 否、どうやらそう言う風でも無い。青い鳥は、どこを目指すわけでもなく、ただ夜空を飛んでいるだけのように見えた。
「……気になるしちょっと追ってみるか」
 しゅるり、と姿を赤い小鳥へと変えてカイトは青い鳥の方へと近づいていく。
 青い鳥の飛び方が、あまりにぎこちなかったからだ。
 例えば、10年やそれ以上ぶりに空を自由に舞うかのような危うさがあった。

 海岸沿いのオープンテラスで、優雅に酒を傾けながら『葡萄の沼の探求者』クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)は目を閉じた。
 普段であれば、ピザとコーラで楽しむところだが、今日のクアトロは休暇中。たまには強い酒精に浸るのも悪くない。
 波のさざめき、風の音、それから誰かの笑い声、そして怒号と物の壊れるけたたましい音。
 自分が渦中にいないのであれば、いかにも海洋らしいBGMではないか。
「……関わらないわよ、今日は」
 視界の端を駆け抜けていったのは、どうにもローレットで見た顔のようだ。
 海賊らしき男たちに追いかけられている様に見える。これが仕事の途中であれば、助け舟の1つも出してやるところだが、今は休暇中である。
 関わらないと心に決めて、クアトロは再び目を閉じた。

 酒瓶が宙を舞う。
 テーブルを叩くな、蹴り上げるな。
 灰皿をフリスビーにするんじゃない。
 ストリートでファイトとは、そういうことじゃないんだと言いたい。
「まるで動物園だな、こりゃ」
 酒瓶を回避し、灰皿を刀で斬り捨てて、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は舌打ちを零した。かれこれ10分、海賊たちに追い回されているのだから、舌打ちの1つも零したくなって当然だろう。
「逃げるな! イカサマしてないってんなら事務所に来て釈明すりゃいいだろうが!」
「金だけ持ち帰ろうったってそうはいかねぇ!」
「大方、鳥を連れ出したのもお前じゃねぇのか! やけにツイてやがったからな!」
 唾を飛ばして怒鳴りながら、海賊たちが縁の後を追いかける。
「説明したって、お前さんらみたいな手合いは信じちゃくれねぇだろうがよ」
 待てと言われて待つ奴はいない。
 ましてや相手が海賊となればなおさらだ。
「ちょっと縁さん! 何やってんすか!?」
「……待ち合わせ場所にいないと思えば。海賊と鬼ごっこ?」
 逃げる縁に声をかけたのはイフタフと『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)だ。
 2人の声に気付いた縁は脚を止め、どうにもバツが悪そうに苦い笑みを浮かべて見せた。
「いやなに、カジノで大勝ちしてな。青い鳥がどうだかでイカサマを疑われてるのさ」
 縁と史之は、イフタフが“青い鳥捜索”のために呼んだ応援だ。
 だが、縁はどうやら戦力に数えられそうにない。
「という訳で、悪いが俺は海賊連中の相手が先だ」
 謝罪と、そして逃走は同時。
 あっという間に、縁の姿はヴァカンツァの街へと消えた。
「え、えぇ~? なん、こ……いや、えぇ!?」
「落ち着いてイフタフさん。まだ俺がいるから大丈夫だよ」
 困惑しているイフタフを宥め、史之は笑った。
 それから、腰に差した刀を手で叩くと、こう告げる。
「青い鳥は見つけるし、イフタフさんも守るよ」
 人数は減ったが、0になったわけじゃない。
 0で無ければ、幾らかやりようもあるはずだ。

 香ばしい、甘辛い。
 そして少しフルーツも混ぜているだろう。
 それが何の香りかというと、串に刺した鶏肉を炭火でじわじわ焼いている香りだ。
「あの屋台美味しそうデス」
 焼き鳥だ。
『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)の脳裏で“青い鳥”が羽ばたいた。
 青い鳥とは、ヴァカンツァの成立に関わる伝承だ。
 3人の海賊がヴァカンツァに娯楽都市を開いた際、そこにいたのが青い鳥だ。あっという間にヴァカンツァは発展し、3人の海賊はそれを「青い鳥が幸運を運んでくれたからだ」と考えた。
「……何となく親近感が湧くので見にきたのデスガ見れないみたいデスネ」
 じぃ、と焼き鳥を見つめるアオゾラを、屋台のオヤジは訝しそうに眺めていた。
「お嬢ちゃんも“青い鳥”に負けず劣らず、随分“青い”な?」
 
 夜の街を影が2つ駆けていく。
「一緒に居る妹が青い鳥が居たら見てみたいって言うからさ、“15年前だぞ、流石に生きてないだろ”って言っちゃったんだよ」
 走りながらそう言ったのは青い兎……『苦い』カトルカール(p3p010944)だ。
「青い鳥の伝説……ね。猫としてもじゃれつき……もとい気になってたんだよ」
 並走している『気紛れ変化の道化猫』ナイアルカナン・V・チェシャール(p3p011026)が、夜空を見上げて相槌を打った。
 2人が一緒に走っているのは偶然だ。
 それぞれ、別々にヴァカンツァへと足を運んで、同じタイミングで夜空を横切る青い鳥を目撃した。
 動機は違えど、2人の……或いは、2匹というべきかもしれないが……目的は共通している。目的が共通しているのなら協力できる。
 と、そう言う経緯で2人は夜の街を疾走しているのだった。
「ところで随分と高い位置を飛んでるよね。追いついても、捕まえられないんじゃない?」
「んー、ずっとは飛んでいられないでしょ。そっと追跡して、羽根を休めている時にささっと近づけば何とかなるよ」
 カトルカールは疑問を、そしてナイアルカナンは解を口にした。
 ナイアルカナンの告げた解は、なるほどいかにも“猫”らしい。

●青い鳥を追って
 “青い鳥”を目撃した。
 その報がマリブの耳に届くまでに、そう長い時間はかからなかった。
 マリブ……女性の海賊で、ヴァカンツァの大型カジノの支配人である。そして、ヴァカンツァを立ち上げた3人の海賊の1人だ。
 噂を耳にするなり、マリブは見張り塔へと向かった。
 果たして、マリブがそこで目にしたものは、半開きになった扉と、鳥のいない飼育小屋。
 今宵、街で目撃されている青い鳥は、マリブたちが大切にしている「幸運を運ぶ青い鳥」に間違いない。

「それで、私のところに話を聞きに? 私は青い鳥なんて知らないわ」
 テーブルを挟んで2人……マリブとクアトロが向かい合って座っている。
 クアトロはくすりと微笑むと、マリブの前に箱を置いた。
「ピザ? どこから出したの?」
「いつでも、どこからでも」
「揶揄っているのかしら? 青い鳥を見ていないのなら、あなたに用事は無いのだけれど」
 胡乱な視線をクアトロへ向け、マリブは言った。
「では、どうして私に青い鳥の行方を尋ねたのかしら?」
 箱を開けて、マリブの方へ押し出した。
 マルゲリータだ。
 少し苛立った様子で、マリブは箱からピザをひと切れ手に取った。
「日付が変わる頃から、ここで飲んでいると聞いたわ。それなら、青い鳥を見たのじゃないかと思ってね」
「なるほどね。でも、残念ね……青い鳥は見ていないわ」
 そう、青い鳥は見ていない。
 青い鳥は見ていないが“青い鳥を探しているらしい”知り合いは見た。
 見たが、海賊にそれを教えてやる義理も無いし、そもそも海賊風情に休暇を邪魔されるのも心外だ。
 暫く、マリブとクアトロは見つめ合う。或いは、睨み合っていると言ってもいいかも知れない。
 マリブはピザを食べ終えると、席を立ちあがった。
「邪魔をして悪かったわね」
 テーブルの上に紙幣を数枚。
 ピザの代金としては高すぎる額を置いて、夜の街へと姿を消した。

「青い鳥を見なかった?」
 カトルカールは、縁に向けてそう問うた。
 夜の浜辺だ。
 海に映った白い月が、波にゆらりと揺れている。
「いや、俺は見てねぇが……」
 刀を片手に構えた姿勢で、縁は目を丸くした。
 現在、縁は海賊たちと交戦中だ。
 そこに偶然、カトルカールとナイアルカナンが通りかかったのである。
「俺ぁ、今忙しいんだが……その質問、今じゃなきゃ駄目だったか?」
「忙しいの? 手伝おうか?」
「猫の手も借りたいって状況には見えないけどね」
 カトルカールとナイアルカナンは首を傾げた。
 確かに縁は、海賊数人を相手に交戦中である。だが、とてもじゃないが2人の助力が必要なようには見えない。
 縁を追いかけていた海賊たちは下っ端だ。
 剣やナイフを持ってはいるが、扱いはお世辞にも上手いとは言えない。むしろ、縁は「海賊たちを間違って殺めないよう」気を配るのに注力している風にも見えた。
「“青い鳥”って言ったな? お前ら、青い鳥を見たのか!?」
 海賊の1人が怒鳴り声を上げる。
 うるさそうに耳を押さえて、カトルカールは眉間にギュッと皺を寄せた。
「やっぱりお前が青い鳥を盗んだんじゃねぇか? おい、今なら半殺しで勘弁してやる」
 縁に剣を向けながら、海賊は告げる。
 肩を落として、縁は大きなため息を零した。
「話を聞けよ。だからお前ら下っ端なんだ。だがまぁ……鳥を15年間も閉じ込めていたんだ」
 1歩、縁は右足を前へ。
 夜の闇に銀閃が舞う。
 きぃん、と金属の擦れる音が鳴り響き、海賊の剣が半ばほどで2つに折れた。
 否、折れたのではない。
 切断されたのだ。
「罰としてツキが消えちまうのは当然だと思うがね」
 海賊たちが、声にならない悲鳴を上げる。
 ここに手掛かりは無さそうだ。
 そう判断したカトルカールとナイアルカナンは、そっとその場を立ち去った。

 15年もの長きに渡り、青い鳥は不自由だった。
 イフタフが、飼育小屋の扉を開け放ったのは偶然だ。偶然だが、それは確かに青い鳥にとっての幸運だっただろう。
 ヴァカンツァに幸運を運んだのが“青い鳥”なら、“青い鳥”に幸運を運んだのはイフタフというわけである。
「え、15年? もうそんなにたつの? そりゃあ中の人も年をとるはず……」
「史之さん、何言ってるんっすか? そりゃ15年前って言ったら、史之さんは7歳とかっすけど」
「お? おぉ、なんか第四の壁のむこうから攻撃された気がする」
 一瞬の間、史之はどこか遠いところを見ていた気がする。
 イフタフに呼び掛けられることで、意識が現実に戻った気がする。
「しっかりしてくださいよ。青い鳥を見失っちゃう」
「そうだね。青い鳥を捕まえるって約束だし……ところでさぁ」
 空の高い場所を見上げて、史之は瞳を細くした。
 暗い夜空を舞っているのは、たしかに青い鳥である。
 だが、もう1羽。
「鷹に追われていないかな?」
 青い鳥の横に並んだ、赤い鷹がそこにいた。

 東の空が白かった。
 もうじき、夜が明ける。
 15年ぶりに広い空を飛び回っていた青い鳥も、流石に羽が疲れたのだろう。
 ゆっくり、ゆっくり。
 空の高くから、地上へと、ゆっくり高度を下げていく。
「もういいのか?」
 カイトは問うた。
 青い鳥は、ひと声鳴いた。
「そっか。あぁ、空はいいよな! 自由で広くて楽しいぜ!」
 一晩。
 青い鳥は、すっかり変わったヴァカンツァの空を飛んだ。
 15年前、そこは荒れた土地だった。
 それがたったの15年で、すっかり立派な娯楽都市に成長している。少しだけそれに寂しさを感じた。それと同時に、明るい街の上を飛ぶことに楽しさも感じた。
 つまるところ、今日はいい1日だったのだろう。
 だから、最後に。
 朝日に向かって、大きく鳴いて。
「あぁ、また逢おう」
 カイトに見送られながら、青い鳥は地上へ降りた。

 青い鳥を受け止めたのはアオゾラだ。
 両手に串焼き、口にはアイスキャンディーを咥えたアオゾラの前に、青い羽根がひらりと落ちる。
 色から察するに、アイスキャンディーの味はチョコミントだろう。
 ミントの清涼感が、暑い季節にぴったりだ。
「? ……ふぉぉ?」
 ふと、視線を上へ向けたならそこには青い鳥がいた。
 翼を広げて、ゆっくりと。
 青い鳥が降りて来る。
 アオゾラは慌てて両手を伸ばした。
 その腕の中に、青い鳥が着地した。
 落ちて来た、と言った方が正しいか。
 少し疲れた様子で、青い鳥はクルルと鳴いた。その視線は、道路の先を……見張り塔の方を向いている。
「帰るのデスか。でしたら、送りマス」
 
●さよなら青い鳥
「で、どうするのさ?」
 物陰に身を隠したまま、史之とイフタフが通りを見ている。
 2人の視線の向く先には、青い鳥を抱えたアオゾラと、その左右に並ぶカトルカール、ナイアルカナンの姿がある。
 青い鳥を抱え、見張り塔へ向かっているようだ。
「ん~~~~」
 悩む。
 悩んで、悩んで、イフタフは答えを出した。
「これ、このまま逃げてもいいんじゃないっすかね?」
「……縁さんは、どうしようか?」
「どうとでもなるでしょう。あの人は」
 と、いうわけで。
 青い鳥が、見張り塔へと運ばれていくのを見届けて、イフタフと史之はヴァカンツァから逃げ出した。

 見張り塔の階段を、アオゾラとカトルカール、ナイアルカナンの3人が昇っている。
 青い鳥を塔の頂上、飼育小屋へと返すためだ。
「子孫かと思ったけど、違うんだ? 長生きだね」
「長生きデスネ。まだ、何年も生きると思いマス」
 そう言ってアオゾラは浅く頷く。
 アオゾラの腕の中には青い鳥と一緒に、カトルカールも抱かれていた。
「僕は兄貴なんだし、青い鳥が居たからには捕まえて妹に見せてやろうと思ってたんだけど」
「今回は諦めてくだサイ。青い鳥さんはお疲れのようデス」
 15年ぶりに広い空を飛んだのだ。
 青い鳥が、飛び疲れているのも仕方が無い。
「そうだね。無理に連れ出すのも悪いよね」
 仕方が無い、と。
 カトルカールも納得したらしい。

 やがて、3人は塔の最上階へと着いた。
 飼育小屋の扉を開けて、巣箱の上に青い鳥をそっと下した。
「青い鳥……満足したかい?」
 青い鳥の頭を指先で撫でて、ナイアルカナンはそう問うた。
 青い鳥は、綺麗な声でクルルと鳴いた。
 ナイアルカナンには、青い鳥の言葉は分からない。 
 だが、意思は伝わった。
「そっか。それはよかった」
 と、そう呟いて。
 ナイアルカナンは、窓に嵌った鉄格子へと手を伸ばす。

 それから、数日後。
 青い鳥は、再び姿を消したらしい。
 聞くところによれば、鉄格子の一部が裂けており、そこから逃げ出したのだという。
 さらにそれから数日後。
 シレンツィオで、青い鳥と遊ぶ2羽の兎の姿が目撃されたというが……これはまた、別の話であろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
青い鳥は、自由な空へと解き放たれました。
さようなら青い鳥。
15年間、ありがとう。

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