シナリオ詳細
人形遣いは踊る
オープニング
●終わらない人形劇
サックスによるモダンジャズにあわせて、黒人女性シンガー高く歌う。
バーの丸いテーブルには青空のような爽やかなカクテルがひとつ。
グラスに添えられたチェリーを、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は指先でもてあそんでいた。
とろりとした酒の甘さと高級な葉巻きの香り。
あなたの到来に気づいたショウは、やあと片手を翳した。
「あの仕事、受ける気になったってことかな? 理由は後で聞かせてもらうよ。さ、部屋へ行こうか」
壁とガラスで仕切られた部屋で、ショウは手書きの地図とスケッチ画を取り出しテーブルに滑らせた。
それを覗き込むイレギュラーズたち。
スケッチ画はどうやら小さな家と広い庭のようだ。花さく庭園を思わせ、実際によく手入れされた花がならんでいる。しかし家はといえば荒れ放題で、壁にツタがはり窓ガラスは割れとてもではないが人が住んでいるようには見えなかった。
「この家の取り壊しが決まってね。土地もたいらにならすそうだ。
けれど……なんていうのかな。この土地の『残留物』が取り壊しに抵抗しているんだそうだ」
あえてこんな言い方をしたのはわけがある。
ショウの滑らせた二枚目のスケッチ画が、その理由だった。
「この庭の番をしていた、魔術人形たちさ」
巻き毛の金髪。綺麗なドレスをきた少女の人形。
オーバーオールに麦わら帽子。品のいい農夫の人形。
風船を持って歩く幼い少年の人形。
その他合計八つの球体関節人形が描かれている。
「これらは、この家の元主人によって作られた人形たちだ。
主人はずっと昔に病で亡くなっていて、土地の所有権も移っている」
何かを察したイレギュラーズがショウの顔を見るや、ショウは肩をすくめた。
「そうだよ。人形は今でも動いている。
あとの持ち主も不憫に思って人形を引き取ろうとしたんだけれど、この庭の手入れや見張りをどうしてもやめようとしなくてね。
家に他の人間が住み着くことにも、庭やその周辺になにかしらの手を加えるのにも抵抗するんだ。
人形だからかな。こちらの話だって聞きやしない。そもそも話すという能力が備わっていないのかもしれない。
ついに権利者も維持費がつきてしまって、人形を別の場所に無理矢理移すか一度解体するかという話が出た。業者と共にやってきて彼らを無理に動かそうとした。そこで事件はおきたんだ」
三枚目のスケッチ。
それは凄惨な事件現場だった。
花園は血によごれ、バラバラに切り刻まれた死体が無数に転がっている。
ドレスの少女人形は両手から刃を、少年人形は機関銃を、農夫人形は槍をもち花園の中心に立っている。
「人形には、戦闘能力が備わっていた。
この次の管理者は、この『残留物』の破壊を外注することにした。
つまり……ローレットへの依頼はこの人形の破壊なんだ」
- 人形遣いは踊る完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月15日 21時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●人形たちの声
甘くとろける密のようなカクテルドリンク。
オレンジ色のライトが照らすカウンター席に、『軋むいのちと渦巻くこころ』はぐるま姫(p3p000123)は腰掛けていた。
まるで置物のように小さく美しいはぐるま姫。宝石のように美しく透き通ったガラス細工の目を開く。
「主を失った人形が、主なき場所を守り続ける……ね」
よくある話。
よくある悲劇。
同情と、憐憫と、それを覆い隠す義務感が、彼女を丸い椅子へと立ち上がらせた。
「せめて、人形の姫君を名乗る身として。かれらの使命に、終わりを」
ステップを使って床へ下り、外へ出て行くはぐるま姫。
『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)はそれを見送ることなく、一滴も減っていないカクテルのグラスをなでた。
戦闘人形独特のつるりとした質感がガラスに伝わり、どこか奇妙な高音をたてる。
「何とも主人思いの良い人形達だにゃ。わらわは仕えるべき者がこの世界にいないから少し羨ましい気もする……けどまあ」
他人事とは思えぬが。
依頼を受けたからには敵と味方が明確化する。
人形は道具。そこに宿る意思もかつて誰かが抱いた想いの残滓に過ぎず。封じられた未練が満たされる事は決してない。
……とは、誰の言葉だったか。
「さーてお仕事お仕事にゃっ」
酒場の外。昼間よりずっと賑わう夜の通りを、『穢翼の黒騎士』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が中途半端な高度で飛行している。
「主人がいなくなっても動き続ける人形か」
『忠誠心が強いのだろうな』
「そうかもだけど、流石に人に迷惑かけるなら壊さないと。それに、早く親に逢わせてもあげたいし」
そのあとを『猫島流忍術皆伝者(自称)』猫島・リオ(p3p002200)がついて、現場へ向かう馬車へと乗り込んでいく。
真面目にも酒場に立ち入ることすらせずに軒先で待っていた『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)。眼鏡を布でぬぐってかけなおす。
「人形の在り方に遣る瀬無さも感じるけど……元主人の人生のように何事にも終わりはあるし、何事にも終わりを付けなくちゃいけないこともある」
行き過ぎたものは止めねばならない。
万物共通の理である。
この先に待つのは、きっと悲劇しかないだろうから。
「だから、壊す……」
蛍は目を閉じ、馬車へと歩き出した。
酒場の丸いテーブル席。窓の外の風景から馬車の到着を知った『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は、グラスに残った氷塊を口の中へと放り込んだ。
(帰らぬ主人を待ち続ける人形か。その忠義、嫌いじゃねぇが、ローレットに依頼が入ったのが運の尽きだな)
がり、と氷を噛み砕く。
向かいで慣れない酒に触れるや触れざるやとしていた『からくり剣術』ティスル ティル(p3p006151)も、横にグラスをずいとどけて席を立った。
「要は制御されてない兵器が放置されてる状況なのよね。しかも死人も出してるし」
テーブルの上で直立していたスクラッチビルド・プラモデル『ピジョン』が首だけを動かしてティスルを見た。
見たというより、ティスルを目で追うように出した指示に従って動作しただけともいえるが。ティスルはそのプラモデルに特別な愛着をもっていた。
「今回もよろしくね、ピジョン」
プラモデルを腰からさげたホルダーにしまって歩き出す。
「あーっ、まってくださいよ。えひひ……っ」
『こそどろ』エマ(p3p000257)がティスルから暗に譲られたライムのカクテルを一気飲みして激しくむせた。
「けほけほ……しかし、引き継いだ人も気の毒な死に方をしたもんですね……。極端な守人もいたもんです。えひひ……」
既にコインは払われている。
エマは残ったナッツやクラッカーを一通り頬張ってごちそうさまをしてから、跳ねるように酒場を出て行った。
扉に備えたウェルカムベルが乾いた音で鳴る。
●花咲く庭の人形劇
幸せな家族のように見えた。
花園を歩く農夫が花を丁寧に選定し、巻き毛の少女がじょうろできわめて正確に一定量ずつ葉に水を振りかけていく。
風船をもった少年がスキップ歩調で庭を走り、虫を見つけるたびに素早くそれを取り除いた。
庭の花は美しく保たれ、少し前にできたであろう惨殺死体の山もきれいさっぱり片付けられていた。
人形たちがこの庭から出てないことから、きっと土の下へと埋められたのだろう。
そんな人形が、およそ6体。
少女と農夫と少年に加えて、老紳士や淑女や、家政婦姿の老婆も見える。
老紳士は手にした杖をスッと天に向け、そこそこに見える位置まで降下していた小鳥を射殺した。
ファミリアーによって使役されていた可能性を察したのだろうか。
和やかに庭の手入れだけをしていた人形たちが、みるみると戦闘に適した形態へと変化していく。
老紳士はステッキを銃に、家政婦はハサミをナイフに、農夫は槍を少女は剣を装備し、鋭く警戒姿勢をとる。
広く見通しのよい庭のこと。
奇襲は意味を成さぬと判断したエマがゆらりと木々の影から姿を現わした。
「えひひひ、ケチな盗人で恐縮ですが、ちょっとお付き合いくださいよ」
背を丸めて前屈みに、ちょいちょいと手招きをするエマ。マントの下ではしっかりとナイフに手をかけている。
少女人形は美しい微笑みのまま、かくりと首を180度傾け――たかと思った時には至近距離まで接近していた。
光のような速度でナイフを抜くエマ。
少女の手から伸びた剣がぶつかり、激しい音をたてた。
人間ではおよそ不可能な関節動作で、エマの右目めがけてもう一本の剣がつき込まれる。
エマは二本指でもって剣の刃を止め、無理矢理に拮抗状態を作った。
「――ッ」
ふわりとエマの髪が広がる。風圧によるものだ。
否、凄まじいスピードでエマの背後に回った淑女人形によるものだ。
踊るように回転する淑女のドレスが無数の刃を露出させ、エマの肉体を切り裂かんと迫る。
が、それを阻害するようにティスルが突撃した。
木の上から跳躍し、翼を畳んだライフル弾頭のようなフォームで斜めに降下。剣を先端に突き出す形のまま物理的なエネルギーを伴って淑女人形へ突撃を果たしたのである。
ドレスの刃をそのまま鎧がわりにして突撃を受け止める淑女人形。
チェーンソーのように回転する刃がティスルの剣とぶつかって火花を散らす。ホルダーを開いて飛び立ったプラモデル『ピジョン』が手首の内蔵マシンガンで援護射撃を始めた。
組み合う二人と二人。
その隙を抜くように、庭からみて反対側より飛び込んでいくシュバルツ。
狙いは火力の高い遠距離攻撃タイプ。老紳士人形か少年人形のほうだ――が、それを阻むように農夫人形が槍による足払いをしかけてきた。
シュバルツ。跳躍して回避。飛び込み前転でさらなる頭への打撃を回避すると、抜いた剣を農夫人形へと叩き込んだ。
槍の柄にぶつかってとめられる。
「チッ、簡単には遠さねえってか……ま、狙い通りだけどな」
シュバルツは立ち上がり、農夫人形と向き合った。
「掛かってこいよ人形共。さくっとスクラップにしてやる」
挑発的に笑うシュバルツ。農夫人形を引き留めるのが狙いだ。
シュリエは同じ狙いでずんずんと花畑に近づいていく。
それ以上は行くなとばかりに、家政婦人形が二つに分解した大きな庭バサミをナイフのように構えた。
「やあやあ、素敵なフォルムだにゃ。同じ人形同士仲良くしよーにゃ」
構えるといっても両手をぶら下げるような、とりようによってはリラックスした姿勢だ。
対するシュリエも両腕をだらんとさげた姿勢のままだ。
人間なら、いや人間でも、この姿勢は非戦闘を表わすものではない。この姿勢からいつでも相手を殺せるぞという、いわば威嚇の姿勢だった。
ちらりと地面を見る。
花園の境界線。それが家政婦人形とシュリエの間にある。
前衛をブロックしたいというより、むしろ花園に入れたくないという姿勢らしい。
「どーしたにゃ。お喋り機能はついてないか――にゃー!?」
強引に飛び込んで喉をナイフでついてくる家政婦人形。
シュリエは極端にのけぞってそれを回避した。
「ほんとに言葉に通じねーにゃ!」
右腕の霊力術式を起動。高出力の霊波が肘から噴出し、シュリエははねるようにその場を離脱。くるくると回転しながら右腕から大蛇の幻影を発射した。
たちどころに幻影を切り裂く家政婦人形。
そこへリオが参戦し遠術を打ち込んでいく。
眼鏡のブリッジを親指の関節で押す蛍。
「これでなんとか敵前衛の四人は押さえられたかな。ボクは回復支援に回るから、あっちをお願い」
蛍たちが優先的に狙いたいのは火力に秀でた遠距離タイプの少年人形と老紳士人形。
しかしこの選択で本当によかったのだろうか? 相手の総合火力を早く減らせれば一見有利だが、落とすまでの間に時間がかかればその間ダメージの集中した味方前衛が早く消耗し、戦線が崩壊。連鎖的に数の有利を奪われて敗北してしまうのでは?
……という心配は、蛍のスペックをみてからするべきだ。
「教科書42ページ12行目――」
国語の教科書を素早くめくった蛍は、その中に書かれた有名な詩の一文を朗読しはじめた。
蛍の朗読は、ティスルたちに集中したダメージがたとえいちどに千まで伸びようとも、それを一発で補填できるだけの膨大な回復量をもっていた。
真面目さがゆえか完全直立不動で教科書をしっかりと注視しているためか回避性能をとても犠牲にしているが、仮に人形二人の直撃をくらったとて一度に満タンまで取り戻せる自信が蛍にはあった。
敵のほとんどを押さえているこの状態だからこそ発揮できるパフォーマンスである。
腕をマシンガンに変形させた少年人形が射撃をしかけてくる。
対して、はぐるま姫がシュバルツたちの後ろから少年人形に狙いをつけた。
腕にはめていた歯車型の指輪をなぞるように撫でた。
歯車を180度回すと、はぐるま姫の周囲に歯車の幻影が無数に浮かび上がる。
「いって」
歯車はまるでカッターのように側面を鋭くすると、少年人形へと次々に飛んでいった。
殺到する歯車にのけぞる少年人形。
ティアが花園の上を飛行し、戦う意志を自らに付与した。
意志の力が魔力を介して物理的な力となり、土の下で眠っていた『二番目の管理者』たちの死体を呼び覚ます。
土をわって現われたできそこないのアンデッドは、壊れた人形のように両腕を振り回して老紳士人形のライフルを身体で受ける。
それを盾にしつつ、ティアは絶望の歌をうたいはじめた。
花園を破壊する勢いで放たれる絶望のエネルギー。
少年人形と老紳士人形は巻き込まれることをさけるべく飛び退き、距離をあけながら反撃を再開した。
『前後衛に分かれて散開している。なかなか賢いようだな』
「なら、戦い方を変えるだけ」
低空1メートル高度で泳ぐように飛行。
風圧にあおられた花が大きく揺れて花弁を散らしていく。
ティアは虚無の力を魔力変換し、少年人形へと発射していった。
直撃をうけ、吹き飛ぶように紫の花壇へと倒れ込む少年人形。
甘い香りが、花弁と共に散った。
●人形遣いはなぜ踊る
直立不動で国語の教科書を朗読し続ける蛍。
ライフルの銃弾が真横をかすめても、爆発の風圧で花弁が大きく散っても、セーラー服のスカートが靡いても、まるで知ったことでは無いとばかりに朗読の姿勢を崩さない。
これがやむのは恐らく喉がかれる三分後か、朗読を噛んで失敗するタイミングかの二つのみであった。
「それを支える俺の身にもなァ……!」
蛍の心臓めがけてまっすぐ飛んでくるライフル弾を、シュバルツが剣の腹でぎりぎり反らす。
「戦闘中によくお勉強なんかできんなあ!」
「勉学は人生を豊かにするのよ」
「そういうこと言ってんじゃねえ! ――うお!?」
鋭い突撃で槍をくりだす農夫人形の攻撃を腹でうけ、槍の柄をつかんで強引に相手を振り払うシュバルツ。
「そう簡単にやらせると思うか? 出直してこい!」
とはいえダメージがずいぶんと嵩んできた。
一方の蛍はといえば、異世界の文豪が書いたらしい小説の一文をひたすら朗読していた。命がけの戦闘をしながらとはいえ、後ろで綺麗な声で朗読され続けるとうっかり頭に入ってきてしまうものである。
「こんなときまで勉強させんなっ」
などと言いながら槍をたたき落とすシュバルツ。
その一方で、リオとティアが協力して少年人形に攻撃をしかけていた。
焔式で攻撃するリオにあわせて、ティアが少年人形の周囲をまわるように飛行。
翼を広げて制動をかけると、暗い思いを魔術返還してライフル弾のように発射した。
少年人形の腕を貫く闇の弾。
マシンガンに変形した腕が吹き飛び、地面を転がっていく。
残る腕を向けなんとか攻撃を再開しようとするも、ティアはその横を豪速で駆け抜けていった。
くるくるとゆるやかに回転し、空中で制止するティア。
背にした少年人形は虚無の意志を具現化した膜に覆われ、爆ぜるように崩れ落ちていた。
「次の世界では、もっと幸せになれますように」
戦況は大きく傾いている。
エマは少女人形相手に連続でナイフを繰り出していった。
まるで腕が複数にわかれて見えるほど巧みに振るわれるナイフはしかし、腕を六本に分裂させて剣を繰り出す少女人形の攻撃を弾くためにほぼ使われた。
剣のうち三本ほどがエマの腹や足や腕を貫く。先端からしたたる血が、足下の白い花へとおちていく。
エマはその花を踏みつぶしてしまわないように踏みとどまったまま、大きく息を吸って空を仰ぎ見た。
「えひ、ひひ……なんですかね……こういうの、柄じゃないんですけどねえ……」
エマのナイフが、人形の下腹部に深く突き刺さり、ねじられていた。
切り開かれた穴からぼたぼたと水がこぼれ落ち、少女人形から力が抜けていく。
「幕引き、させてもらいますよ。ひひっ」
完全に脱力した少女人形はけっこうな重量で。
エマは押し倒されるように花畑へと倒れた。
――その上を飛び越えるティスル。
「ピジョン、次弾装填! フルチャージで!」
剣に搭載した操作盤越しに呼びかけつつ、淑女人形へと斬りかかる。
ティスルの斬撃はコマのように回転する淑女人形によって打ち払われ、大きく距離を取ってはなされる。
しかし僅かにかがんだティスルの背後から、ピジョンがビームライフルを構えていた。
「ファイア!」
ピジョンの放ったビームが回転する淑女人形の芯をとらえて貫通。回転エネルギーを大きく乱された淑女人形に、ティスルは再びくらいついた。
肉薄し、相手の顎を掴むようにして花壇へ押し倒す。
倒れた淑女人形が爪をカミソリ状にして突き出してくるのを、首の動きで回避した。
「ごめんね」
ティスルの剣が淑女人形の胸につきたち、数センチずつずぶずぶと沈んでいく。
激しく抵抗を試みる淑女人形も、剣が真ん中まで沈んだところで抵抗をやめた。
人形が次々と倒されていく。
「役目を失った人形がいつまでも居座ってたら次代の邪魔にゃ!」
家政婦人形のナイフを霊力壁で打ち払いながら、鋭く貫手を打ち込んでいくシュリエ。
対する家政婦人形もまたその攻撃を巧みにガードしながら、シュリエを破壊せんとナイフを打ち込んでくる。
シュリエの肘関節をとらえたナイフが、てこの原理で腕パーツを引きはがそうとしてくる。
いびつにねじれるシュリエの腕。力の拮抗による震えがはしり、腕がばきりと音をたてた。
と同時に、シュリエの手のひらが家政婦人形の胸にそっと触れていた。
「だから、もう」
とん、と額が家政婦人形の胸にぶつかる。
「眠れにゃ」
家政婦人形はまるで彫像のように立ったまま、ぴたりと動きをとめていた。
時を同じくして、はぐるま姫は倒れた老紳士人形のそばに立っていた。
ライフルとして機能していた杖はへし折れ、足や左腕は明後日の方向にねじれている。左手首に至っては遠くの花壇に転がり、顔の半分がはげて内側のガラス眼球も半分砕けてしまっている。
それでも、どこか上品さを思わせる手つきで、老紳士人形ははぐるま姫の頬に手を伸ばした。
それを、自らの手で覆うように掴むはぐるま姫。
「できることなら、あなたを直してあげたい。けれど、きっとそれはかなわないわ。あなたは、どうして……」
そこまで言ってから、はぐるま姫ははっと目を見開いた。
「……そう、そう……ちがうのよ。あなたの主人は、『直らない』の。戻っては、こないのよ」
目を閉じるはぐるま姫。
老紳士人形もまた目を閉じ、活動を終了した。
蛍が数学の教科書を開き、難しい公式をつかった問題を声に出して解いていく。
農夫人形がばらばらに砕けて吹き飛ぶのを確認してから、教科書を閉じた。
「……元のご主人のもとへ行けたかな」
「さあな。この世に天国があるかも知らねえし、よしんばあっても人形には開いてねえかもな」
シュバルツはそう言って、農夫人形の目玉を手に取った。
綺麗なガラス玉だ。
「それは?」
「天国は知らねえが、主人の墓くらいなら行かせてやれんだろ」
一週間後。
ある墓には六つのガラス玉が供えられている。
理由を知るものは少ない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
多様性豊かなPPPにおいて、個性を鋭く鋭く磨き上げたキャラクターが持ち味を発揮するタイミングは限られております。しかし細く鋭く鍛えられた個性はつるぎの如く刺さり、深く力を発揮することでしょう。
それはきっとレベルをあげてもお金をかけても得られない、特別な感覚なのだと思います。勿論、そこに至るまでの力として戦闘力がものをいのですが……。
そんなわけで、『ここぞ』という場所で活躍を果たしたはぐるま姫様とシュリエ様に『人形遣使(にんぎょうけんし)』の称号を差し上げます。
戦闘人形たちの扱いに困った依頼人に、人形たちの意志を通訳して伝えることが出来たことに由来し、彼らが『人形使い遣わしたもの』と言う意味で呼び始めました。
あとこれはちょっと別の話なのですが、蛍委員長のビルドが素晴らしすぎて軽く鼻血が出かけました。攻撃力盛って高回復くらいなら割と沢山見かけるのですが、パッシブスキルの選択と数値バランスが『頭の硬い委員長感』を露骨すぎるほど出していて、ここまでキャラとスペックがマッチしてる人も珍しいなと裏MVPを差し上げております。具体的には描写がやけに増えています。
GMコメント
【補足データ】
データが少ないため、想定された戦闘能力やフィールド情報について書いていきます。
・近接攻撃。スピードタイプの人形が2~3体。
・遠距離攻撃。火力タイプの人形が2~3体。
・頑丈でバランスのよい人形が1~2体。
・花の咲く庭が戦場になる模様。
・人形は庭を離れたがらないが、絶対に出ないというわけではない。要するにハメ技は使えない。
・オーダーは人形全ての破壊。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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