シナリオ詳細
<熱砂の闇影>“砂漠の道”解放戦線。或いは、滅びより来る歪な軍勢…。
オープニング
●レギオン
『終焉獣』
滅びのアークによって造り上げられたモンスターの総称だ。
以前に行われた冠位暴食戦に置いて解き放たれた『終焉獣』が、ここ最近になってラサや深緑で散見されはじめた。
今回の依頼の舞台は、ラサのとある砂漠の道だ。
道、といっても実際に石畳などが敷かれているわけでは無い。砂嵐が起こりにくく、天候が荒れ辛く、定期的に目印となるモニュメントやオアシスなどが存在しているルートを指して“砂漠の道”とそう呼んでいる。
砂漠の道は、ラサの各地に存在している。
主に商人や旅人が利用するものだが、時にはラサの一般市民がラクダに乗って走ることもある。
そのうち1つ、甘味と菓子の街“カンロ”へと続く砂漠の道に“悍ましい怪物”が出現した。
その報を受け、現地へ向かったイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、都合50を超える『終焉獣』の軍勢を目撃することになる。
それの姿は人に似ている。
だが、小さいものは身長1メートルほど、大きいものだと4メートルほどと“形が人に似ているだけ”であることが分かる。
人の形を模した化け物。
だが、皮膚は無い。
そもそも、人の形をしているだけで、人の体を成していない。
獣の皮や筋繊維、骨などを滅茶苦茶に組み合わせて無理矢理に人型を構築しているだけの怪物。
知性が低いというわりには、一定の速度でまっすぐに“カンロ”を目指して行軍している。多少、動きはぎこちないが、決して鈍いわけでは無い。
きっと、戦闘となればもっと速く動き回ることだろう。
それが50体。
街に到達されてしまえば、大惨事となることは必至だ。
「武器の類を持っている風じゃないっすけど……っていうか、何すか、この音? 声?」
ヘッドホンの上から耳を押さえて、イフタフは顔を顰めた。
無数の蠅が飛び回っているかのような不快な音が、軍勢と共に迫っているのだ。
●砂漠の道を取り戻せ
「さて、今回の任務は『終焉獣』の討伐っす。数は50体。一塊になって進んでいるっすけど、移動速度に若干の差があるみたいで隊列は縦に伸びているっす」
先頭付近には背の高い個体が、後方には背の低い個体が多い。
おそらく、背の高い個体の方が歩く速度が速いのだ。
とはいえ、その差はほんの僅かに過ぎない。いざ戦闘となれば、背の高い個体も、背の低い個体も、同程度の危険度であるとイフタフは予想していた。
「蠅の羽音みたいなのは、たぶん連中の声っすね。1体や2体ならそうでもないっすけど、複数体に囲まれると【狂気】状態になっちゃいそうっす」
数が多いからといって、迂闊に敵陣に突っ込むと大きな被害を受けかねない。
さらに『終焉獣』たちの脅威はそれだけに留まらない。
例えば、命を惜しまぬ猛攻は、相対した者に【失血】や【懊悩】を強いる。
命を惜しまぬ兵士ほど恐ろしいものは無いというわけだ。
「それに“遂行者”の方も警戒しないとっすね。遂行者が『終焉獣』を利用している……なんて話も漏れ聞こえてくるっすから」
幸いなことに、戦場となるのは身を隠す場所の少ない砂漠だ。
『終焉獣』の軍勢にせよ、遂行者にせよ、1度補足してしまえば見失うことは無いだろう。
- <熱砂の闇影>“砂漠の道”解放戦線。或いは、滅びより来る歪な軍勢…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月29日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●戦端
まるで亡者の行進だ。
蠅の群れが飛び交うような低く耳障りな音がする。
背丈も、身体の太さも違う人の影が50体。
長く伸びた隊列を組んで“砂漠の道”を前進している。だが、それは決して人ではない。獣の皮や肉や骨、筋繊維などを組み合わせて作った“人型”。つまりは、怪物……終焉獣と呼ばれる化け物たちである。
砂漠の街、カンロを目指す終焉獣に自我は無い。
あるのはただの殺意と悪意。
景色も歪むような悪意を真正面から浴びてしまえば、気の弱い者は脚が竦んでしまうだろう。
けれど、しかし……。
「すごい数の終焉獣……! 今止めないと……!」
脱兎のごとく……否、疾走する狼のごとく風を切り裂き、砂を蹴散らし『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が駆けていた。
終焉獣の進路を塞ぐように立ち、姿勢を低くし盾を構えた。
「ま、50でも100でも1000でも変わんないよ。持久戦なら会長の独壇場だからね」
フラーゴラの掲げる盾に身を隠し『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)が胸を叩いた。強く叩き過ぎたのか、すぐに胸を両手で押さえて俯いたけれど。
問題はない。多少の痛みはすぐに消える。能率100は伊達じゃない。
「なかなかの数を用意してくれたな。カンロの街に辿り着かれちゃ、大惨事だぞ」
「にしてもよォ、甘味と菓子の街を狙うとは腹でも減ってんのか? 生憎蠅に食わす菓子はねェんだよ」
フラーゴラと共に前線へ上がった『Star[K]night』ファニー(p3p010255)と『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が、終焉獣の群れを睥睨し舌打ちを零す。
中央にフラーゴラと茄子子を残し、ファニーとクウハは右へ展開。一方、『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)は左方向へ駆けていく。
「気に入らねえなあ、おい! 街には行かせねえ、食い止めるぞ!」
かくして戦端は開かれた。
砂漠に伏せた姿勢のままで、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)はライフルのスコープを覗き込む。
「他所で相手した終焉獣も結構な数がいたものだが、ここは特に多いな」
見えるのは、終焉獣だけだ。
だが、聞くところによれば遂行者が随行しているらしい。なるほど、たしかに終焉獣の行軍には、何者かの意図が透けて見える。
「ええ、ええ……神よ、哀れな獣がまたあなたの御許へと還ります。着払いでお願いしますね」
「あぁ。何としても食い止めて……いや、全て残らず消し飛ばしてやろう」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は銃を、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は細剣を携え、前進を開始。
先行したフラーゴラたちは、既に戦闘を開始している。
だが、敵の数は多い。
長く伸びた隊列のせいもあり、どうしたって前衛の壁を突破する終焉獣も出て来るだろう。
「それにして、この音……五月蠅いな」
耳を押さえて、イズマは唸る。
獲物を見つけて憤る、50体の怪物たちが奏で、ばら撒く騒音に、鼓膜が破れそうなのだ。
●迎撃
最前列を進むのは、小柄な5体の終焉獣だ。
まっすぐ、まっすぐ……進路を阻む者がいれば踏みつぶし、叩き潰して進めばいいと、ひたすらまっすぐ駆けて来る。
「ワタシはここ! これ以上は通さない!」
盾を構え、両の脚で大地を踏み締め、フラーゴラは咆哮をあげた。
盾越しに強い襲撃が伝わる。
手の平に、腕の骨に、激痛が走る。
一瞬、フラーゴラの足が地面から離れた。
「わっ!? だ、大丈夫?」
「ワタシはタフだものこれくらいならへっちゃら」
茄子子の問いに、笑って答えた。
多少のダメージはあるものの、盾を降ろすほどではない。
「そっか。それじゃあ……隊列が縦って、ただの的じゃんね」
フラーゴラが守りを固めてくれるのなら、茄子子は自由に行動できる。
盾の影から終焉獣へ手を向けて、はらりと地面に紙片を撒いた。
はらり、ひらり、白紙が舞った。
それから、りぃんと空気の震える音がする。辺りを一瞬、黒い光が駆け抜けた。
瞬間、フラーゴラの眼前で3体の終焉獣が転倒。顔面から砂の上に突っ伏した。見れば、その足は石と化している。
「知能が低いやつは扱いやすくていいね」
誰にも見られないように、茄子子は酷薄な笑みを浮かべる。
地面を這う蟲の類を見つめるように、酷薄で、嗜虐的な、悪意の滲む笑みだった。
「数が多いな。幾らか抜けたぞ」
数体の終焉獣が前衛の壁を抜けた。
砂塵を巻き上げ、駆ける歪な人型を見て、イズマが唸るような声を零す。
前衛たちを避けたのか、それとも偶然そうなったのか、終焉獣同士の距離が遠い。長く伸びていたものの、最初はある程度、纏まって移動していたはずだ。
だが、抜けた数体の終焉獣は既に隊列を乱している。
「数が多いが……やれそうか?」
スコープを覗き込みながら、ラダは問う。
「数が多い? むしろ得意だ。命を命とも思わぬ軍勢には負けないよ」
細剣を引き抜きながら、イズマは答えた。
ラダも、イズマも、笑っている。
それ以上、交わす言葉は必要なかった。
銃声が1発。
まっすぐに飛んだ弾丸は、けれど終焉獣の1体さえも射貫かない。
代わりに、弾丸は地面に落ちた。
瞬間、強い風が吹く。
或いは、溢れると言った方が正しいか。
その弾丸の名は“LBL音響弾”。
砂塵を巻き上げ、吹き抜けた風……そして、耳に届かぬ音波の波が終焉獣の動きを止めた。
「さぁ、気持ちよく一掃してくれ!」
ラダが声を上げた時には、既にイズマとライは前線へ駆け出している。
1体。音波の影響を受けなかった終焉獣が、接近する2人を迎え討つ。
歪な腕を振り上げて、叩きつけるように一撃。
その殴打は、イズマの右肩を掠め、服ごと皮膚を抉って行った。
だが、イズマは止まらない。
「一歩も下がらないぞ、押し返して食い破る!」
一閃。
動きを止めた終焉獣へ向けて細剣を振り抜いた。
刹那、魔法陣が大地を奔る。
そして、轟音。
降り注ぐ無数の鉄の雨が、終焉獣を撃ち抜いたのだ。
肩を抉り、頭蓋を砕き、背中を削って、大地にクレーターを穿つ。
イズマを叩いた終焉獣は、次の獲物をライへと定めた。
体躯に対して、妙に長い両腕を存分に振り回しながら、ライの腹部と、側頭部とを殴打する。血を吐きながら地面を転がるライの身体が、けれどすぐに起き上がる。
「痛ったぁ……ケダモノがよ……天国にでも堕ちろ」
その手には1丁の銃が握られている。
“十字架”の名を冠するライの愛銃が、込められた魔力で1発の弾丸を形成した。
きゅるる、と銃身の中で弾丸が回転する音がした。
銃声。
渇いた銃声が、砂漠に響いた。
そして、一瞬の静寂の後、眉間に風穴を空けた終焉獣が地に伏した。
「異形だろうと、弾が当たればちゃんと死ぬんだろ?」
もはや動かぬ歪な遺体に、冷たい声を投げつける。
炎が揺らぐ。
黒い羽根が砂漠を舞った。
縦横無尽……そう言えば聞こえはいいだろうが、実際は酷く歪で不規則な軌道を描きながら、砂漠の上を牡丹が滑る。
「輝くもの天より堕ちろってんだ!」
当たるを幸いに、超広範囲を翔けまわる牡丹に終焉獣は手が届かない。けれど、しかして、その姿から目を離すことも出来ないでいた。
1体、2体と、ダメージの蓄積した終焉獣が地に伏した。
牡丹はますます、虚空を舞う勢いを増す。
「回れ右する知能のない縦隊なら好都合だ!」
いかに終焉獣の力が強かろうと、捕まらなければ意味が無い。攻撃が届かなければ意味が無い。ただまっすぐに歩いて来るだけの相手など、飛んで火に入るなんとやらと大差がない。
そのはず、だった。
「っ!?」
一瞬。
翼に激痛が走る。
元より不安定な姿勢での飛行だ。翼にダメージを負えば、牡丹の身体は地に落ちる。
血の雫を零しながら、牡丹は自身の翼を見た。
果たして、そこには1本のナイフ。
終焉獣は武器の類を使わない。
となれば、視覚外から牡丹に不意打ちを喰らわせたのは別の何かが。
何か……と、いうか。
「遂行者か。どこに隠れているかしらねぇが、看破してやらあ!」
終焉獣に群がられながら、殴打の雨を浴びながら。
牡丹は空へ向かって吠えた。
星が降る。
空高くから、地上へと。
流星が大地を揺らす。大地を抉る。衝撃と、飛び散る砂塵に飲み込まれ数体の終焉獣が姿を消した。
「こうも戦線がごちゃついてると、誰が何やら分かりゃしねぇな」
砂塵に塗れたファニーがぼやく。
周囲の敵の様子を探るが、細かく動き回るせいで正確な数が数えられない。
着実に、終焉獣が数を減らしていることだけは確かだが……例えば、その中に遂行者が紛れ込んでいたとして、正確な位置を把握できる気はしない。
「っと。脳がビリっとしたな」
「脳があんのか? 骸骨に! 囲まれてんぞ!」
ファニー、そしてクウハの脳にじくりと痺れが走った。
周囲を終焉獣に囲まれたのだろう。
それは、目に見えない、形容もしがたいほどの狂気だ。
慣れ親しんだ、甘い痺れだ。
砂煙を突き破り、1体の終焉獣が2人の前へと飛び出した。鋭い爪を備えた巨躯の獣だ。
振り下ろされた終焉獣の鋭い爪が、クウハの眉間と胸部を裂いた。
「っ……狂いたいならオマエらだけで狂ってな」
手にした鎌を振り抜いた。
ザクリ、と。
終焉獣の首を落として、クウハが血を吐き捨てる。
渇いた砂が、吐き捨てられた赤い血をあっという間に吸い込んだ。
追加の獣が来る前に、クウハとファニーは後方へと跳ぶ。
周囲を敵に囲まれていては、おちおち会話も出来やしないのだ。
そうして敵の包囲を逃れ、クウハとファニーは周囲を見やった。
と、視界の端で赤い炎がゆらりと揺れた。
牡丹だ。
闇を切り裂く銀光が、牡丹の翼を貫いたのだ。
遂行者……なのだろう。
姿は見えない。
だが、およその位置は分かった。
「おいおい、雑魚大量に引き連れて王様気取りか? 臆病者がァ!」
「クウハは背中を守っててくれ。さぁて、邪魔してくれんなよ。せめて名前くらい名乗ったらどうだ?」
背中合わせになった2人は、それぞれに行動を開始する。
クウハは大鎌を振り上げて。
ファニーは片腕を空へと掲げる。
クウハの斬撃。
次いで、ファニーの手によって、本日2度目の流星が落ちた。
出し惜しみをする理由は無い。
こちらには、茄子子が付いているのだ。
つまり、イレギュラーズにはガス欠の心配が無い。
流星が大地を抉る。
その様子を遠目に眺め、ラダはポツリと呟いた。
「砂丘の陰にでも隠れていたか……?」
ファニーの落とした流星で、潰れていれば万事解決。そうでないなら、以降も動きを警戒し続けなければいけない。
だが、状況はあまり良いとは言えない。
長く伸びていた隊列は、既に詰まりつつあるからだ。最前線で敵を押さえるフラーゴラの負担が大きい。
茄子子が付いているとはいえ、後ろへ逃がす敵の数も増えている。
「戦線を退げよう! カンロの町まではまだ距離はある。落ち着いて立て直して大丈夫だ!」
空へ向けて、銃弾を撃った。
そして、声を張り上げる。
戦況が良くないのなら、立て直してしまえばいいのだ。
●壊滅
1度目の戦闘を冷静に評価するのなら、痛み分けと言ったところか。
或いは、多少なりイレギュラーズの優勢とも評価できるかもしれない。
特に傷の深かった3人……フラーゴラと牡丹、ライの治療を終えて茄子子は3人の肩を叩く。
ポン、と。
軽い音がして、淡い燐光が飛び散った。
「うん、まだやれるね。行ってらっしゃ〜い」
茄子子の口調は軽かった。
悲観するほどに戦況が悪いわけでは無い。その証拠に、イレギュラーズは誰1人として戦闘不能に陥っていない。
まだ、戦える。
戦えるのなら、終焉獣の殲滅も出来る。
「さぁて……纏めて消し炭にしてやるよ」
蠅の群れが蠢くような低い音が耳に届いた。
終焉獣は、すぐそこにまで迫って来ている。
重量21グラム。
弾丸初速427m/s 。
50口径の魔力弾が、終焉獣の眉間を撃ち抜く。
前頭部に穴をあけ、後頭部を吹き飛ばす。
頭蓋が砕けて、脳漿が散った。驚くべきことに、終焉獣には脳みそが存在するらしい。
もっとも、その色は黒い。
ともすると、脳を模しただけの紛い物……蛋白質の塊かも知れないけれど。
「ええ、ええ、神はあなた達を見捨てません……あなた達が神の御許へと辿り着くお手伝いをさせて下さい」
息絶えた終焉獣をどこかうっとりとした瞳で見つめ、ライは祈りを口にした。
髪も、顔も、服も……砂と血に濡れ、まるで砂漠の幽鬼のような有様で。
傷つき、荒い呼吸を何度も繰り返し、ライは祈りを口にした。
傷つき、治癒し、傷つき、癒し、そして終焉獣を止める。
盾は歪んで、砂と血に汚れていた。
盾だけではない。
フラーゴラの身体も、髪も、汚れていない場所はどこにも存在しない。
「ぅ……く」
盾から伝う衝撃に、フラーゴラが歯を食いしばる。
盾を掴む拳から、どろりと赤い血が伝う。
3体。
フラーゴラの小さな身体で、終焉獣の突撃を受け止めるのは骨が折れる。
文字通り“骨が折れる”のだ。
だが、それも一瞬。
一瞬だけ、耐えればいい。
動きの止まった敵の頭を射貫くことなど、ラダには造作もないことだ。
立て続けに3発。
銃声の数は、つまり仕留めた終焉獣の数である。
「上出来だ。無事終わったらカンロへ行き、冷菓子でも食べようじゃないか」
なお、おススメはチョコミント味だ。
力を失い倒れた獣を押し退けて、次の敵へと視線を向けた。
フラーゴラの小さな背中に茄子子がそっと手を触れた。
その手の平のぬくもりを、布腰に感じながらフラーゴラは吠える。
「さあ、敵のおかわりだ」
戦いが終わるまで、もう少しだけ保てばいい。
逃さず、追撃し、全滅させる。
イズマの姿は、まるで1つの砲弾か、或いは砦を穿つ破城槌のようだった。
つまり、ただ眼前に迫る終焉獣を斬り裂き、或いは鉄の雨で撃ち抜く。
ただ1つの破壊兵器の役割を、己に課した向こう見ずな前進だ。
血を流し、骨と筋肉を傷め、鋼の義肢を軋ませながら、前へ、前へ。
蠅の羽音が。
耳障りな騒音が、少しずつ、消えて……。
最後に、イズマの心音と荒い呼吸の音だけが残る。
静かな砂漠に立ち尽くし、イズマはだらりと腕を降ろした。もう、腕を振り上げるだけの力も残っていない。
「……砂漠に響くなら、耳障りな音よりも商人の声や熱い音楽の方が良い」
そう呟いて、イズマは意識を失った。
最後の終焉獣が倒れた。
【パンドラ】を消費したイズマが立ち上がったのを確認し、クウハとファニー、そして牡丹の3人は終焉獣の隊列の、最後尾へと駆けていく。
人の影を見たからだ。
砂色のローブを着込んだ、細い人影を見たからだ。
だが、それも一瞬のこと。
3人は人影の後を追ったが、あっという間にその姿を見失ってしまった。
「いるか? どうだ?」
地面を蹴り付け、苛立ち混じりに牡丹が問うた。
ファニーは少しの間だけ沈黙し、しかし首を横に振る。
「いや、見失った。攻撃の意思が無いのか、逃亡したのか……」
先に見た人影は、遂行者のもので間違いないだろう。
結果だけ見れば、終焉獣は全滅。遂行者も逃走を図った。つまりはイレギュラーズの完全勝利と言える。
しかし、勝った気がしない。
少なくとも、遂行者に関しては顔さえ見れないままに取り逃がしている。
舌打ちを零し、牡丹は額に滲んだ血を拭った。
「見つけて、ここでふん縛りてえとこだが……」
姿の見えない、居場所の知れない、既に逃げた相手をどうやって見つけるのか。捕縛するのか。
舌打ちを零し、地面を蹴った。
何度も、何度も。
まるで八つ当たりでもするかのように。
「終焉獣の討ち漏らしがいないか確認するのが優先だし、慎重な相手なら罠とか張ってるかもだしな」
苛立ちを地面にぶつけ、多少は気も落ち着いたのだろう。
踵を返し、仲間の元へと戻っていく。
牡丹が、次にファニーが帰還を開始し、そして最後にクウハが残った。
広い砂漠を見渡して、姿の見えない誰かへ向かってクウハは叫ぶ。
「この程度の奴らに俺達がいいようにやられる訳ねェだろうが!」
中指を突き立てて見せたが、きっとその声も、クウハの姿も、遂行者には届いていない、見えていない。
それでいいのだ。
それでも、吠えねばならない時がある。
勝者は勝ちを宣言し、敗者は無言で何処かへ去った。
つまり、これは……誰も知らない、砂漠の戦いの、その終結の宣誓なのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
終焉獣は壊滅し、遂行者は姿を消しました。
無事にカンロの街は朝を迎えました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
『終焉獣』×50の撃破
●ターゲット
歪な軍勢(終焉獣)×50
獣の皮や肉や骨、筋繊維などを組み合わせて作った“人型”をしている。
動きは多少ぎこちないが、割と素早く動けるようだ。
背丈は最小1メートル、最大4メートルほどと様々。背丈の違いによって戦闘力が変わることはない。強いて言うなら、被弾面積が多少変わる程度だろうか。
なお、知能は低い。
蠅の羽音のような叫び声を発しており、周囲を囲まれると【狂気】を付与される。
突撃する終焉獣:物近単に大ダメージ、失血、懊悩
命を惜しまぬ猛攻撃。
遂行者×?
不確かな情報だが『終焉獣』を利用している(随伴している)可能性がある。
現在は姿を隠して、様子見に徹しているようだ。
横槍を入れて来る可能性もあるし、戦況次第では逃走を図る可能性もある。
●フィールド
ラサ。“砂漠の道”と呼ばれる交易路。
道と言うが、その実態は単なる砂漠だ。定期的に目印となるモニュメントやオアシスがあり、砂漠の道を辿って行けば遭難のリスクも少ないため、便宜上“道”と呼ばれている。
今回の舞台は甘味と菓子の街“カンロ”へ向かう砂漠の道の途中。
オアシスとオアシスの中間地点で、周囲には砂しかない。
身を隠す場所も無いため、1度、補足したエネミーを見失うことは無いだろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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