シナリオ詳細
遠い青に夢をのせて
オープニング
●海洋の子供たち
海洋。それは、海とともに生きる国家だ。港町も多いこの地にて、子供たちにとって、海とは憧れであり、遊び場であり、同時に恐怖も教えてくれる場所である。
……とはいえ。怖いことなどは、ほとんどの場合めったに起きない。だから、子供たちにとって、海とは大体、憧れと遊び場であったし、大人たちも、子供たちが海で遊んでいることを歓迎していた。子供のころから海になれていれば、将来は船乗りになれるだろうし、そうなれば海洋でくいっぱぐれることもないだろうからだ。
「ローレットのイレギュラーズだぞ!」
と、少年は小さなボートの上で、銀紙で作ったサーベルを振り回した。子供なら、きっと誰でも遊ぶようなごっこ遊び。英雄になりきるそれは、例えば英雄ドレイクであったり、今最も新しい英雄である、ローレット・イレギュラーズ達になりきったりして、ボートを由来しながら大立ち回りを演じるのである。
「おれたちは、今日こそ絶望の青を踏破する!」
かつて、海洋の先には、不可侵の海域が広がっていた。絶望の青と呼ばれたそれは、海洋が長い年月をかけて踏破にチャレンジしてきた場所だ。それは、数年前に、ローレット・イレギュラーズ達との共同作戦により踏破されている。長年の夢を叶えたローレット・イレギュラーズ達の物語は、今も多くの人たちの胸に残り、そして語り継がれていくのだろう。
そんな、英雄たちの戦いを、当然のように子供たちはなりきって遊んでいる。年齢のころは、10歳前後だろうか。小さなボートで、港からさほど離れていないとはいえ海上を行くのは、流石海の子、慣れている様子だ。
「ねぇ、もうちょっと先に行ってみない?」
と、少女が言う。勝気な顔の少女である。
「え? でも、あんまり離れると、潮の流れで遠くに流されちゃうかもしれないよ?」
少年の一人が不安げに言うのへ、また別の少女が笑った。
「大丈夫よ! 私たち、ローレット・イレギュラーズじゃない!」
もちろん、なりきりの、なのだが。ついでに言えば、ローレット・イレギュラーズになることが夢であった少年少女たちは、その言葉には弱い。
「んー、じゃあ、もうちょっと沖まで行ってみよっか」
そう言って、少年がオールをこぎ出した。
これを危険だ無謀だ、としかるだろうか。とはいえ、ほとんどの場合において、危険なことは起こらない、と先ほど記述したのもまた事実だ。だから、いつも通りならば、少しばかりの冒険が経験値となって、少年少女たちの思い出になっただろう。いつも通り、ならば。
……だが、ほとんどの場合において、と記述した以上、稀に危険は生じる、ということでもある。
風か。潮の流れか。精霊のいたずらか、或いは悪魔のいざないか。
その時、様々な偶然が重なって、子供たちの乗ったボートは、ぐん、と、沖へ、沖へと、流されていったのである。
「子供たちが流されていったっていうのは」
と、ローレットの情報屋である、レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)が言った。
「この港の先?」
「ああ、どうも、そう言うことらしい」
と、港の管理担当者は困ったような顔で言う。
話によれば、先ほど、子供たちが乗ったボートが、沖の方に流されて行ってしまうのを見た、というものがいたらしい。調べてみれば、確かに、この町に住む6名の少年少女の姿が見えず、また彼らが遊びに使っているボートの姿もなかった。
そこで、住民たちはローレットに緊急の依頼を持ち込み、レライムは情報屋として、あなたをはじめとする腕利きのイレギュラーズたちを連れてきた、ということになる。
「この辺の、海流とかって激しいの?」
仲間の一人が、そう尋ねる。
「急に沖に流されちゃうなんて、変だよ」
「ああ、いつもはそんなことはないんだが……精霊の気まぐれか、或いは、海の怪物の仕業か……」
「この辺りには、アビス・ヴァピスがいますね」
と、仲間の一人が声を上げた。
「結構獰猛な魔物たちです。その巨体で海上の船を動かして、自分たちのねぐらに誘い込むんです」
「めちゃくちゃな奴いるじゃん」
レライムが、うげー、と声を上げた。
「じゃあ、そのヴァピスが原因かも。
船はある? すぐに助けに行かなきゃ」
「もちろん、すぐに動かせる船はある。アンタらローレットなら、自前の船を使ってくれてもかまわない」
管理担当者が頭を下げた。
「悪いな、ガキどもも、悪気があったりってわけじゃないんだ……この辺りの子供は、海で遊んで普通だからな。
だから、その、なんだ。たのむ。俺達じゃ、その怪物には太刀打ちできねぇ」
「任せろ」
仲間の一人が、力強くうなづいた。
「未来の有望な後輩候補なんだろう? こんなところで死なせはしないさ」
そういう仲間へ、あなたも力強くうなづいた。
さて、子供たちを助けるために、あなたたちは海原へと出撃する――!
- 遠い青に夢をのせて完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月29日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●海に
「海、か……」
『守護なる者』紫暮 竜胆(p3p010938)は、海の上にゆっくりと降り立ちながら、そうつぶやいた。身に着けた水上移動のスキルが、その体を沈まぬようにしてくれている
「小さな子供もだけでさぞや不安なことだろう。
子供達が無事に両親の元へ帰れるよう、力になろう。
子を……家族を失う悲しみなぞ知らない方が良い」
静かに――そうつぶやく。海とは、海洋の民にとっては恵みの場所ではあるが、同時に厳しい試練と別れをもたらす危険な場所でもある。もしも、海洋の民が『別れ』を覚悟していたとしても、その悲しみは実際に受けることはないにこしたことはあるまい。
「こども、ってピリアとおんなじ? もうすこしちいさい?」
そういって、小首をかしげるのは、『欠けない月』ピリア(p3p010939)だ。ピリアは、ちゃぷちゃぷと水面を揺らしながら、人魚の姿となって顔を出している。
「情報によれば、ピリアさんと同じか、少し小さいくらいですかねぇ?」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は、その隣、精霊イルカにしがみつきながら、そう言う。竜宮の精霊イルカは、乗るものに加護を与える。この精霊がいれば、水中でもばっちりと活動ができるわけだ。
「ふふ、ピリアの方が、少しお姉さんなの!
海は怖いって、ピリアは知ってるけれど、小さい子たちだから、わからなかったのね」
「『何事も慣れた頃が一番危ない』って大人達はよく言うもんな」
『苦い』カトルカール(p3p010944)うんうんとうなづいた。カトルカールも、竜宮イルカの力を借りて行動している。
「そう言えば、結局、海流? とかのせいなのか? それとも、魔物のせいなのか?」
「うーん……海流が頻繁に変わる、というような情報はなかったのですが……」
『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)が、マルガリータ号から声をかける。その手には、付近の海域図などの、詳細な資料が握られていた。事前に調べておいたものだ。
「海が荒れたりすれば、もちろん妙なところへ流されたりもするのです。
ですが、ここ数日の天候も合わせれば、急に子供たちが沖へ流されるとも思えません。
となると――」
「アビス・ヴァピス、ってやつかねぇ?」
と、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が頷いた。縁は、『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)の『紅鷹丸』に同乗させてもらっている形だ。
「おっさんも詳しい生態までは知らないが、そう言う魔物がいるのは事実だ。
もしそうだとしたら、これは厄介なことになりそうだなぁ、カイト?」
「ああ。でも、そいつの知識なら任せてくれよ。色々仕入れてきたからな。
シルフォイデアと協力して潮目や流れなんかも見られる……とりさんレスキュー隊、出動! ってな!」
「わらわもレスキュー、頑張るのデス」
うんうん、と胸を張って見せるのは、『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)だ。
「それに、子供たちの夢を壊すわけにはいかないノネ。
わらわも優秀なローレット・イレギュラーズ。
あこがれるもの当然なノネ」
「ふっ、そうだねぇ」
縁が笑った。
「ごっこ遊びも変わったな。これも時代かねぇ。
イレギュラーズもいいモンばかりじゃねぇと思うが……ま、それはさて置き。
エステットの言う通り。
俺たちに憧れて危険な目に遭ったと聞かされちゃ、何とかしねぇ訳にもいかねぇな」
「俺が子供のころは、もっぱら海賊とかのなりきりだったけどなぁ」
カイトが苦笑する。
「私たちもいろいろやりましたからねぇ。あこがれられてる、と考えるとなんともくすぐったいものですが」
えひひ、とエマが笑うのへ、エステットが、にこりと胸を張る。
「わらわは優秀だから、あこがれて当然なノネ。
でも、あこがれられるだけ、しっかり頑張るのデス」
「そうでなくても、必ず助けなくてはな」
竜胆がそういうのへ、ピリアがうんうん、とうなづいた。
「そうなのです。ピリアも頑張るの!」
「じゃあ、カイト、シルフォイデア、案内を頼むよ」
カトルカールがそう言った。
「大まかに怪しいところへ案内してもらって、あとは僕たちが足を使って探そう」
「おう、それがいいだろうな」
カイトが頷く。
「シルフォイデア、海流なんかのチェック頼むよ。俺はアビス・ヴァピスの痕跡を探してみる」
「まかせてください」
シルフォイデアがほほ笑んでうなづいた。縁もうなづく。
「さーて、こいつは責任重大だ。親御さん方に『イレギュラーズになりきるなんて危険な遊びはやめなさい』なんて言われちまわねぇように、精々気張るとしようや」
縁のその言葉に、仲間たちは力強くうなづいた。
かくして一行は、大海原へとその一歩を踏み出す――!
●海の魔物
「うーん、海の中は静かなノネ」
エステットが、海中を確認しつつ、そう言う。ピリアがでも、うーん、と小首をかしげた。
「へんなの。こんなに静かなのはおかしいの」
「あー、アレですか? もっといろんなお魚がいる、みたいな感じですぅ?」
エマがイルカの背に乗ってあたりを見回しつついうのへ、ピリアが頷いた。
「そうなの……海の中は、もっとにぎやかなの……あ、そこのカニさん、カニさん。ちょっとお尋ねしたいの~」
ぴょぴょぴょ、とピリアが泳いでいくのを目視しつつ、エマが上昇したイルカとともに海面から顔を出しつつ、
「海の中が静かだって話です」
報告するのへ、シルフォイデアが頷いた。
「おかしいです。もし潮目のせいだとしても、はた目には異常は見られないですから」
「こういうとおかしいが、海の上も歩きやすい」
竜胆が声を上げた。
「海そのものの異常、とは、私にも思えない。これは、素人の感覚だが――」
「そう言うのって大切だぜ?」
カイトが頷く。
「空の方も静かだ。ほら、カモメなんかがいないだろ?
ってことは、この辺に、食べられる魚がいなくなった、ってことだ」
「なるほど、空の鳥もわかっているのデスね?」
顔を出したエステットがそう声を上げる。
「という事は、やっぱり何かがあったってことなんだ。それが海そのものの海流の変化とかじゃないなら、やっぱり魔物のせいってのが一番納得がいく」
「カニさんが言ってたの~」
ぷわ、と水上へかをを出しつつ、ピリアが言った。
「変な、おっきな生き物が、バシャバシャ泳いでいったの。その後に、ニンゲンの船が、引っ張られていったらしいの」
「それだな」
縁が言った。
「おっさんが潜って、先行偵察する。
ピリア、カニさんに、どっちに方に行ったのか聞いてもらえるかい」
「まかせるの」
「縁、ピリア、任せた」
カイトが頷く。
「じゃあ、竜胆と俺、シルフォイデアで、引き続き水上から探索。
エマ、ピリア、縁、エステット、カトルカールで、水中を探索」
「任せて」
カトルカールが、イルカの背の上でうなづいた。
「アビス・ヴァピスの巣があるらしいところは、事前に聞いてるんだ。これで行く先が確定したね。
縁、カニの話を聞いたら、方向を確認しよう。きっと、アビス・ヴァピスの巣の方に向かってるはずだから」
「だ、な。案内頼むよ、カトルカール」
縁がうなづくのへ、カトルカールが頷き返した。一行が、ちゃぷん、と水の中に潜っていく。合図を待ちながら、シルフォイデアが声を上げた。
「……あたりには、ボートの姿は見えないですね。結構距離をあけられている可能性があります」
「なに、俺の『紅鷹丸』と、シルフォイデアの『マルガリータ号』ならすぐに追いつけるさ」
「……そうですね。ええ、その通りです」
シルフォイデアがうなづくのと同時に、カトルカールが水面へと顔を出した。
「やっぱり、巣の方だ。案内するから、ついてきて」
「よし、行こう!」
カイトがそういうのへ、カトルカールが頷いた。果たして一行は、アビス・ヴァピスの巣の方を目指す。
イレギュラーズたちの探索は基本をしっかり押さえたものだったといえるだろう。海の生き物に話を聞いたものや、事前の調べ物を行ったもの、その知識で航海の力を尽くしたものや、自身の操り慣れた船を持ち込んだものたちもいる。そう言った適切な準備と探索が、この時、素早く、イレギュラーズたちを要救助者のもとへと歩ませてくれていた。
さて、洋上のボートの上では、六名の子供たちが、身を寄せ合っていた。これまで、来たこともないような場所に流されてしまっていた。普通であれば、ありえないような体験のはずだった。
「ねぇ、なんでこんな遠くに流されちゃったの……?」
勝気な表情の少女も、さすがに泣き出しそうだった。少年が、おびえたように答える。
「わかんないよ……こんな風に流されるなんて、聞いたことない……」
「う、海がおかしくなっちゃったのかな……?」
別の少女が言うのへ、一番幼い少年が泣き出しそうな表情で言う。
「うえ……怖いよ……」
それは、その場にいた子供たち、誰もが胸に秘め、しかし言葉に出さなかったものだった。言えば、きっと雪崩を切って恐怖と不安があふれ出してしまうだろう……だが、それをどうしても我慢できずに呟いてしまえば、他の子供たちにも、その強い恐怖は伝染してしまっていた。
「な、なくなよぉ……俺たちイレギュラーズだろ……」
ごっこ遊びであったが、しかしその『なりきりの気持ち』だけが、今子供たちを支える唯一の柱だったといえる。そう言った意味でも、ローレットのイレギュラーズたちへのあこがれは、強いものだったといえる。
とはいえ――それだけでは、状況は打開できないものだ。この場には、本物のローレット・イレギュラーズは存在しないのだから。
……今、この瞬間までは!
「見つけた!」
カイトが叫ぶ。水平線の上に、ぷかりと浮かぶボートを、ついに発見したのだ。
「シルフォイデア、行こう!」
「わかりました! カイトさん、二人の船でボートを守る様に接近しましょう。
わたしたちの船を、盾にして守るんです。
結界術もありますから、流れ弾からも防御できるはずです!」
「オーケイ! それで行こう!」
「水中の皆さん、それから竜胆さんは、一足先に子供たちへの合流を!」
シルフォイデアの声に、仲間たちはうなづいた。それぞれ一気に、ボートへ向けて進みだす! 水中では、エマが、子供たちのボートを引っ張る、奇怪な魚のような蜥蜴のような魔物の姿を認めていた!
「一気にあれに近づきます! イルカさん、少し無茶させますよ!」
まかせろ、とでもいうように、イルカは鳴いた。そのまま、エマの反応速度に合わせて、一気に突撃する! それは、全速力を乗せた、突撃殺法!
「この『速さ』は、水中でも衰えませんとも!」
さんっ、と水中を音が走った。腕と足を切り落とされた魔物、アビス・ヴァピスが、ぎゅあ、悲鳴を上げる!
「このまま沈めます! 縁さん、ピリカさん、子供たちに合流お願い!」
「ああ、任された」
「まかされたの!」
縁とピリカが頷いて、一気に水中を叩く。そのまま、子供たちのボートのもとへを顔を出した。
「安心して、ローレットのイレギュラーズなの。助けに来たの」
「君が!?」
少年の一人が、自分と同じくらいの年齢のピリカに驚くのへ、えっへん、とピリカは胸を張った。
「もう安心なの!」
「というわけだ。あっちに船が見えるな?」
縁も声をかける。
「その人たちにいう事をよく聞くんだ。それから――」
ふ、と縁は笑ってみせた。
「叱るのはお前さん方の親御さんに任せるとして。せっかくだ、本物のイレギュラーズの戦いを特等席で見ておきな」
いうと同時に、手にしたワダツミの刀を振るった。背後に迫っていたアビス・ヴァピスの一体を、真っ二つに切り裂いて見せる。
「巣から出てきたよ!」
カトルカールが叫ぶ。
「1,2……全部で12匹!」
「という事は、トータルでは14匹の群れか」
竜胆がつぶやく。片刃の剣を海上できらめかせれば、とびかかってきたアビス・ヴァピスの胴体が、一閃のもとに断切されていた。
「一匹一匹の力は大したことがない……数で攻めてくるだろう!」
「なら、まかせるノネ!」
エステットが魔導拳銃を構える。
「カイト! 敵の引き付け、お願いなノネ!」
「おう!」
カイトが船の甲板の上に立ち、その真っ赤な翼を高らかに広げた!
「さあ祭りだ祭りだ、テメェら纏めて遊ぼうじゃねぇか!」
その魔的な叫びに、アビス・ヴァピスたちは引き寄せられずにはいられない! 次々とカイトのもとへと迫るのへ、
「わらわの集団アタックを喰らってみるのデス!」
エステットがその拳銃を乱射した。放たれた魔導弾丸が、次々とアビス・ヴァピス達を貫き、打ち据える! ぎゅあ、と悲鳴を上げてアビス・ヴァピス達が足を止めるのへ、
「上等だ! 身動きひとつ取れない様にしてやるよ!」
カトルカールの強烈な乱撃が繰り出される! 物理的なダメージをまともに受けたアビス・ヴァピス達が、数匹、悲鳴とともに海中へと沈んでいく。
「皆、僕たちがついてるから、落ち着いて行動するんだぞ!」
カトルカールの言葉に、子供たちがぶんぶんと勢い良くうなづいた。恐怖は残っていたが、目の前で戦う英雄たちの姿に、子供たちはすでに魅了されていたといってもいいだろう。
「……大丈夫かな」
思わず苦笑する。こちらを見る瞳は、あまりにもキラキラしすぎていたわけだ。
「皆さんも、油断はなさらないでくださいね」
シルフォイデアがそういう。傷ついた仲間たちを回復の術式を展開して癒しながら、戦場を俯瞰する。
「……あの岩場のような場所が、敵の巣だったのですね……」
なるほど、遠くに、いかにもといった岩場が見える。あそこには、きっとこれ以前にも、少なくない犠牲者が連れ込まれていたのだろう……わずかに祈りを胸に秘めながら、しかしそれを子供たちに言うようなことはすまいと思った。
「さぁ、あと少しです……一気に全滅させてしまいましょう!」
シルフォイデアの言葉に、仲間たちはうなづく。竜胆の刃が海上を走るたびに、アビス・ヴァピス達は次々と切り刻まれていった。縁は子供たちを背にしつつ、
「やれやれ、正当防衛、っていうのはおっかないんだぜ、アビス・ヴァピスさんよ」
緩やかに笑いながら、しかし鋭い斬撃をもって敵を迎撃する。
「オラオラ! こっちだ!」
カイトはその身をもって敵を誘引し、子供たちを自らの肉体で守る形となる。その集められたアビス・ヴァピスたちは、
「わらわの華麗なる射撃、みるがよいデス!」
エステットが雨あられと銃弾を降り注がせ、カトルカールの乱撃と合わさり、次々と消耗、撃退を継続させていた。
「よし! 残りはあと一匹!」
カトルカールがそう声を上げるのへ、エマが頷く。
「では、これでおしまいとしましょう!」
イルカとともに突撃するエマ。速度を乗せた一撃が、アビス・ヴァピスを貫いた! 一刀! その斬撃が、最後のアビス・ヴァピスを沈黙させる!
ばしゃ、と音を立てて、アビス・ヴァピス達が水中へと沈んでいった。
「えひひ、これでミッションコンプリートです」
笑い、胸を映えるエマ。その姿は、子供たちにはまさに英雄のように映っていた。
「すげーっ!」
少年の一人が、はしゃぐように声を上げた。
「やっぱりすごい! かっこいい……!」
満面の笑顔を浮かべる子供たちに、ひとまず無事でよかったという気持ちもあり、しかりたい気持ちもあり。
「あー……まぁ、元気ならいいデスカ……?」
エステットが言うのへ、竜胆がゆっくりとうなづいた。
「そうだな。怯える子たちがいたら、と心配だったが……」
その視線の先に、一番幼い少年の姿があった。眼の端に浮かぶ涙は、今は乾こうとしている。竜胆は、そんな少年をやさしく抱きしめてやった。父に、そうしてもらったように。
「もう大丈夫だ」
「うん……!」
少年が、にっこりと笑った。
「みんな無事でよかったね~!」
ピリアが、うみちゃんと一緒に、にこにこと笑ってみせた。
「そうだ、喉が渇いてるだろう? 麦茶があるから、今のうちに飲んでおきな」
カトルカールが水筒から麦茶を差し出している。一方、シルフォイデアは、子供たちの無事に、静かに胸をなでおろしていた。
「あー、こんなにはしゃがれると……」
カイトが苦笑した。
「怒るに怒れないよなぁ……俺も子供の頃はよく親の眼を盗んで小舟で乗り出したりしたし。
……うん、思い出してみたら、俺もあのあと怒られたから親に怒ってもらおう」
「そうだな。怒るのは、親の役目だな」
縁が苦笑する。
「……今回の件で、子供たちが海を怖がっちゃうかもと思ったんだけどさ。
やっぱそうじゃないんだなぁ、海洋の子たちは」
カイトが言うのへ、エマが頷く。
「それはほら? 危機を英雄が救ってあげたわけですから?」
「そうだねぇ、少しだけ、子供たちのヒーローとしてうぬぼれさせてもらうか」
縁が笑い、
「これに懲りねぇで、将来は優秀なイレギュラーズになって、おっさんを楽させてくれや」
そう、語り掛ける。
「それじゃあ、帰りましょう、皆さん」
シルフォイデアが、そう言うのへ、皆はうなづいた。
かくして、今は静かな海原を、一行はゆっくりと進んでいくのであった――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
さすがは、子供たちのヒーロー……でした!
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
海に流されてしまった子供たち。
彼らを救いましょう!
●成功条件
すべての子供たちを救出し、アビス・ヴァピスを撃破する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
海で遊んでいた、海洋国家の子供たち。ですが、ふとしたことから、彼らが乗っていたボートが、遠い沖へと流されてしまいます……。
どうやら、その原因となっているのが、魔物であるアビス・ヴァピス。蜥蜴と魚を足して二で割ったような怪物で、海中、陸上、友に動けるハイブリッドの魔物です。
その魔物は、どうやら海の中で海上の船を魔術で誘引し、自分たちのねぐらに誘ってしまうらしいのです。そうなれば……どうなるかは、言うまでもないでしょう。
一刻の猶予もありません。今すぐ海に出て、子供たちを救出し、アビス・ヴァピスたちを撃破してください!
戦場は海上になります。が、依頼人からボートの貸し出しがされています。
もちろん、自前の船や、水中・水上行動などを使ってもかまいません。そう言ったスキルや自前の装備を使えば、判定やパラメータなどに有利なボーナスがかかる様になっています。
●エネミーデータ
アビス・ヴァピス ×14
前述したとおり、魚のような蜥蜴のような姿をした魔物です。手足の生えたシーラカンスといった感じでしょうか……。
鋭い前足の爪と鋭い牙で攻撃してきます。BSの毒系列や、痺れ系列などを付与してくるでしょう。
水中、水上などを器用に動きます。水中行動や水上移動などのスキルを持って行動すれば、優位に立てるでしょう。
数が多いため、範囲攻撃で焼いてやるか、しっかり敵の攻撃を受けとめる盾役などが引き付けるなどをするとよいでしょう。
●救出対象
子供たち ×1
子供たち六名の乗ったボートです。六人で1ユニットとして数えます。
今もアビス・ヴァピスに誘引されています。素早く見つけ出すことができれば、敵の本隊に遭遇する前に接触できるかもしれません。
逆に手間取ってしまうと、敵に囲まれた状態で接触することになるかもしれません。なるべく早く、見つけてあげてください。
以上となります。
それでは、皆さんのご参加とプレイングを、お待ちしております。
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