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シナリオ詳細

<廃滅の海色>あこがれは今日も僕らの胸に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義の騎士レコアとボルドーは夢を追う二人の騎士であった。『峻厳たる白の大壁』ことレオパル聖騎士団長に憧れ、同じ夢を追う親友にしてライバル。そんな二人が初めてその『異変』に触れたのは、『殉教者の森』での事件であった。
「それが、まさか『神の国』とはな」
 レコアは兜を装備し直し、フェイスガードの下からその光景を見渡していた。
 天義で起きた歪な信仰者たちは奇妙な主張を掲げながら天義各所で攻撃的な活動を起こし、それは聖遺物を用いた現実改変にまで及んでいる。
 現実改変といっても、それは『帳』というレイヤーを街に被せることで彼らが主張するあるべき世界とやらに上書きするというやり方だ。その復帰方法も確立し、天義各所でおきたそれらの騒動はイレギュラーズによる活躍もあって解決を見ていた。
 が、それが天義のみならず海洋王国でも起きているとなれば、レコアたちとて黙ってはいられない。
「けど、他国のことだろう?」
 そう黒パン片手に切り出してきたのは友のボルドーであった。
「戦争こそしてないものの、そこまで仲の良い国だったか? あっちに現を抜かしてると鉄帝から海岸沿いを攻められるからって気を緩められないんじゃなかったのかよ」
「おいおい、ボルドー」
 同じ黒パンを片手に、それをフェイスガードの下からぐいぐい押し込むように食うレコア。
「忘れたのか? 俺たちの目標はレオパル殿だ。こういうときレオパル殿はなんて言う?」
「『義を見てせざるは勇無きなり』」
「だろ?」
 二人は肩をすくめあう。
 そしてパンを口に頬張り、水筒から水をぐびぐびと飲んでパンを流し込む。
「さて、と」
 立ち上がる二人。
 手には剣。
 眼前には――無数の船。その船には『影の天使』たちが搭乗し、今まさに彼らの立つ島へと迫っていた。
 とても叶わぬ大軍勢。
 祖国から遠く離れた海洋王国の小さな島の、小さな村を背に守り。
 立ちはだかるは――二人の騎士。
「一丁、やってやりますか!」


「皆、今すぐ援軍に向かってほしいんだ」
 依頼書を手に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそんな風に説明を切り出した。
 ローレットはいわゆる何でも屋。依頼次第で正義にもなれば悪にもなる。そんな彼らが受けたのは、天義の騎士団からの援軍依頼であった。
「いま、海洋に持ち込まれた聖遺物や聖痕によって『神の国』が次々作られているのは知っているよね。
 天義の騎士レコアとボルドーはそんな連中の物質的な流れを追って海洋王国の調査を行っていたんだ。要するに、物流調査だね。
 本来なら聖遺物の存在を確認したらすぐに情報を持ち帰って本隊を送り込む所なんだけど……彼らは同時にこんな情報も察知してしまったんだ。
 海洋の村『デノン』がルスト陣営の致命者たちの襲撃をうける、っていう情報をね」
 おそらく村を占領し、略奪を行うことで拠点化する狙いだろう。
 勿論情報を持ち帰り本隊と共に襲撃をしかければ安全かつ確実に彼らを倒せるかもしれない。
 だがレコアとボルドーはそうしなかった。襲撃の情報を掴んだ彼らは伝書鳩に情報を託し、二人だけで迎撃の準備を整えたのである。
「幸い、僕たちローレットならすぐに現地へとんでいける。彼らを助け、致命者たちの一団を迎撃しよう」

GMコメント

●成功条件
・成功条件:致命者の撃破
・オプションA:レコア、ボルドー両名の生存

●シチュエーション
 島の村デノンを防衛することになります。
 既にレコアとボルドーは襲撃を受けており、そこへ乱入する形になります。

 デノンは小さな漁師町で、桟橋も小さなものしかありません。そこへ船を無理矢理乗り付け、飛行能力によって強襲するという作戦を致命者たちはとっているようです。
 こちらは船へバックアタックを仕掛けるのが定石ですが、レコアとボルドーの救出を考えるなら島へと直行して戦いに加わり二人を救出するメンバーも必要になるでしょう。

●エネミー
・黒騎士クリザンテーム(致命者)
 ベアトリーチェの戦乱の際魔種側についていた悪徳の騎士です。当時の戦いで死亡していましたが、致命者として複製されているようです。
 以前『殉教者の森』レコアとボルドーの二人とも戦ったことがあり、ちょっとした因縁ができたようでもあります。
 闇の魔法で作り出した長剣を伸ばしたり増やしたり時には飛ばしたりと変幻自在の戦いを見せます。
 黒い全身鎧によって身体を覆っているため表情などはわかりませんが、いずれにせよ人間でないことは確かでしょう。

・影の天使
 飛行能力を有する兵士の姿をしたモンスターたちです。
 弓矢や槍といった武器を用い、浅瀬につけた船から飛行することで島へ襲撃を仕掛けるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <廃滅の海色>あこがれは今日も僕らの胸に完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月12日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
冬越 弾正(p3p007105)
終音
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ファニー(p3p010255)
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ


 海洋王国から貸し出された小型船の上。舵を取りつつ『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は近づく船と島を見つめていた。
「蛍さん、帆を張ってください。急ぎます!」
「まかせて!」
 追い風を捕らえた船が、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)がひくロープによって加速する。
「他国の民であっても、守るために立ち上がることができる……いずれ天義を支える騎士と期待したい方々と言えます。それを、『神の国』などという失笑ネーミングの侵略で失うのは我慢なりませんものね」
「誰かの命を守るために自分の命を懸ける。
 そんな尊い行為を見捨てられるわけないじゃない!
 その人達を助けて、致命者も倒す。どっちも必ず成し遂げてみせるわ!!」
 船の舵から手を離す珠緒。二人は甲板にとめていたワイバーンへと駆け寄っていく。
「舵を頼みます!」
「俺か!? だよなぁ……!」
 『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)は慌てて舵を握ると、波の力で曲げられそうになる進路を筋力でなんとかおさえにかかる。
 若干のカーブを描きつつも、致命者たちの乗った船にぶつけられる算段だ。このさい船首が壊れようが知ったことではない。実際、それを覚悟で貸してくれた船だ。
 それに、急ぎたい気持ちは彼にもわかる。
「目標の為に高めあう二人……よい関係性だな。イーゼラー様は勤勉な魂を貴ばれる。神の国に奪われるのは惜しい!」
 一方で『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は双眼鏡をおろし、突入の姿勢を取り始める。
「独断専行は褒められたものではないと思うけど……心意気は汲んであげたいところだね。
 嫌いじゃないよそうゆうの。それじゃあ、彼らに助けが来たと目に見えて解るように盛大に花火をあげるとしようか」
 ラムダが腕を振ると、突入開始の合図と受け取った『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が甲板を走り、手すりの上へぴょんと飛び乗る。
「まったく、近頃はなかなか大げさな手を打ってくるようで。
 こうやって海を荒らされるのもなかなか頭に来ますし……頑張ってぶっ飛ばしましょうか。
 あいつら、何言ってるかよくわかんないですから相手にするにも疲れるんですよねぇ。
 ……とりあえず帰ってもらいましょうか」
 などと言いつつ海へと飛び込みながら、自らの姿をたい焼きめいた魚の姿へと変えた。
 追って手すりをよじよじとのぼる『欠けない月』ピリア(p3p010939)。
「二人だけでがんばろうとするの、すごいけど、でもとってもあぶないの……がんばらないといっぱいの人がきずついちゃうかもしれないけど、でもでも、むりしちゃうのは、ピリアはちょっとむむってなるの!」
 そして船から海面への高さに目をぎゅっと瞑りつつ、ピリアはえいっと海へ飛び込んだ。
「村のひとたちもしんぱいだし、はやくいかなきゃなのー!」
 その一方で、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は蛍たちのワイバーンへと相乗りしはじめる。風よけ用のヘルメットを被りつつ。
「漁村ひとつにずいぶんな戦力を向けて下さいます。
 その数でも我々相手には不足、と格好つけて言えたら良かったのですが。
 もっと格好いい騎士が二人もいらっしゃいますから、今回は引き立て役のつもりで」
「というか、レコアとボルドーってあのレコアとボルドーだよな」
 『Star[K]night』ファニー(p3p010255)も同じくワイバーンに乗り込み、出撃可能のサインとして腕を振る。
「それよりルスト陣営の連中だ。まったく、死者を複製して更に駒に使おうだなんて、命に対する冒涜だと思わねぇのかね。これだから神だの宗教だのは好きになれないんだよな」
 蛍たちがワイバーンを上昇させ、船もまた加速を始める。
 さすがにこちらの接近に気付いた敵たちの一団がこちらに気付き、弓の狙いをこちらにつけた。
「突っ込むぞ、衝撃に備えろ!」
 飛来する無数の矢。さけぶ弾正。構えるラムダ。
 そして船は――。


 激しい激突によって、致命者たちの船は大きく揺れた。
「――!」
 それに反応したのは黒騎士クリザンテームだ。
 島への突入と、バックアタックを仕掛けた船の鎮圧。どちらを先にすべきかは判断に迷うところだ。クリザンテームは剣を振り、後方の船へと攻撃を命じる。
 影の天使たちは追撃の矢を放つが、それを気にすること無く弾正たちは気にせずクリザンテームたちの甲板へと駆け上ってくる。
「黒衣を纏えど、俺はカルト教団にに仕えし信徒、冬越弾正だ!
 黒騎士クリザンテーム、イーゼラー様の裁きを受けよ!」
 船のロープを掴んで跳躍し、振り子の原理でクリザンテームの眼前へと着地する弾正。
 着地と同時にズダンとあえて大きく足を踏みならし、弾正は取り出したヘッドセットマイク越しに叫ぶ。
 キィンと残響が響き、船の対応をしていた影の天使たちが槍に持ち替え弾正へと襲いかかった。
 四方八方からの同時突撃。
 かの弾正といえどかわすのも一苦労だ。一苦労なのだが――その必要はどうやらなかったらしい。
「お待たせしました」
 海を伝って船に取りつき、縄ばしごを駆け上がってきたベークが彼を庇って前に出たのだった。
 縄ばしごをあがるためか人間形態をとっていた彼の身体に無数の槍が突き刺さる。常人であれば死んでいておかしくないような穴だらけの身体……が、その場で急速に再生しはじめた。
「……!」
 影の天使たちが警戒を始める。『攻撃をしても無駄な相手』ではないかと考え始めたのだ。
 こういうときの手段は二つだ。努力して無視するか、より大きな攻撃でゴリ押しするか。
 彼らの取った手段は後者だった。
 影の天使たちは槍に聖なる力を纏わせると、更なる突撃と共にベークの治療効果をキャンセルする波動を流し込む。
 再生型への対抗策――のはずだが、それはベーク一人だけが敵であった場合の対策だ。
「ベークさん、いま治すの!」
 ざぱん! と海面から垂直に飛び上がってきた人魚形態のピリア。
 彼女は一度宙返りをかけると、両足を人間の足に変えて甲板へと着地。簡易飛行装置のせいで若干ふらつきながらもなんとか姿勢を保持すると、地面に強く手をついた。
 海水のしみた甲板から、まるでシャボンの泡が湧き上がるかのようにオパールの煌めきが上がり始める。よく耳を澄ませば、ピリアは小声で歌を口ずさんでいた。
 ニッと笑う弾正。哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式にマルチスピーカーをUSB接続すると、腰からさげたそれから音楽を奏で始めた。
 二人のデュエットが甲板を満たし、注意を引きつける弾正、それを守るベーク、それを治癒するピリアという役割が完璧にできあがる。そしてそんな中へと――。
「無尽にして無辺。遍く世界を包め灼滅の極光。対軍殲滅術式――『無尽無辺無限光』」
 きっちりと威力をため込んでいたラムダの一撃があえてベークを中心に叩き込まれる。
 10の光球が宙を奔り、ベークたちへ殺到していた影の天使たちに直撃。そこから爆縮圧壊する光球が半球状の光を広げた。無論、破壊の光である。
「わっ」
 範囲外にいたピリアもびっくりするほどの衝撃。その中でベークはきっちり耐えていた。いや、ダメージはべらぼうに喰らったのだが、それを治療できるだけの自己治癒能力を持っていたのだ。ピリアの治療とあわせれば完璧である。
 耐えられないのは周囲にいた影の天使たちである。
 彼らは全て消し飛び、残ったのは剣によって光を切り払うという強引な手段で回避していたクリザンテームのみだ。
 そしてクリザンテームは……気付いた。
「――」
 四人しかいない。ということは、島の方へ放った影の天使たちは今……!?

 ここであえて時間を遡り、レコアとボルドーの視点に立ってみよう。
 岸についた船からは、翼を羽ばたかせた影の天使たちが次々と上陸しその槍を構える。
 多勢に無勢とはこのことだが、それでも二人は剣を抜いて村への道に立ち塞がった。
 ここから先へは行かせない。もし自分達が殺され踏み越えられることがあったとしても、住民が逃げる時間くらいは稼いでみせると。
 そこへ影の天使による突撃が繰り出される。
「ぐおっ!?」
 剣で払おうと叩きつけるも、その力は鋭くレコアは脇腹に槍を受ける。かすっただけだというのに彼の鎖帷子がちぎれ飛ぶ。
 ウオオと気合いを入れレコアが影の天使に斬りかかるも、別方向から槍を差し込んだ影の天使によって上段からの斬撃はうけとめられ、どころかレコアははねのけられてしまった。
「なんだこいつら! 森にいた泥人形たちとはパワーが違う……!」
「けど、時間稼ぎならできるはずだ。だろ!?」
 ああ、と頷こうとしたその時。
「よう、レコアにボルドー!」
 上空から声がした。
 ザッとワイバーンの影が彼らの頭上を通り抜けたかと思うと、上空からファニーが降ってきたのだ。
「殉教者の森で会ったときより、立派に騎士やってんじゃねぇ――か!」
 ファニーの投げ込んだ骨が地面に突き刺さり、周囲放射状に次々に骨を突き出させる。突き上げられた影の天使たちはその衝撃を逃がすように翼をひろげ、レコアたちから飛び退いた。
 そんな空白地帯へ着地するファニー。
 同じく着地した瑠璃は手をかざし、影の天使たちに挑発の波動を送り始めた。
「大丈夫ですか? まだ生きていらっしゃいますね?」
 一部の天使たちは瑠璃の放った『アッパーユアハート』の波動によって目の色を変え、槍を手に突撃してくる。
 対する瑠璃は余裕そのものだ。ボルドーがそうしたように剣で払うのではなく、闘牛士が牛をかわすかのような軽やかかつ美しい動作で天使たちの槍突撃をかわしていく。
 それが何本も、何発も連なってすら、瑠璃の回避能力が足りないということはなかった。
 影響外の天使たちが手負いのボルドーにトドメを刺そうと浮遊し矢を構える――が、そうはさせない。
 ワイバーンに跨がった蛍が国語と数学の教科書をホルダーベルトから解放させると乱暴に開いた。ページがバラバラに散り、数学の教科書は手甲型防御武装へと、国語の教科書は聖なる桜色のオーラを放つ剣へと姿を変える。
 手甲側を前に突き出しワイバーンで突進をかける。くらいついたワイバーンによって矢の射撃を邪魔された天使は今度は槍を突き出すが、それを蛍は剣で撃ち払った。周囲の天使たちがワイバーンを追って飛び始める。彼女の強さを邪魔に思ったからではない。彼女の放つ『狂咲』の結界にとらわれ、意識を強制的に引きつけられたためだ。
 その一方で、珠緒はボルドーのそばへとワイバーンで着陸した。
「ローレットより助太刀に参りました。まずは場を安定させますよ」
 ピッと指にカッターを走らせ、滲んだ血によって『幻想福音』の術式を発動させる珠緒。
 やがて左手薬指の指輪を基点に血の攻勢術式刀が形成され、珠緒はフウと息をついた。
 そして、瑠璃と交戦中の天使たちへと攻撃を仕掛ける。
「――『藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥 鳴くべき時に 近づきにけり』」
 名を『藤陣:霍公鳥』。珠緒の踏み込みは天使たちの翳した槍の防御をすり抜け、攻勢術式刀が相手の身体を切り裂いて行く。
 そんな彼女たちの防御を破ろうと槍に聖なる力を宿そうとする天使。だが、ファニーはそれをいち早く察し……。
「墜ちてしまえ。星のように」
 高く翳した手を力強く地面へと振り下ろした。
 まるでサイキックでも受けたように天使は地面に叩きつけられ、廻っていたはずの聖なる力がキャンセルされる。
 それを、ワイバーンから飛び降りてきた蛍の剣が刺し貫いた。


 ガギン――という激しい金属音の直後、浜辺に黒騎士クリザンテームが叩きつけられた。
 どうやらラムダの放った黒い刀の斬撃を剣によって受け止めきれずに吹き飛ばされたようだ。
 船からはラムダが飛び降り、追って弾正とベーク、ピリアが降りてくる。
「形成逆転、だな」
 ボルドーたちも剣を構えつつ、一歩引いた位置からファニーたちを援護する構えだ。
 彼らが追い詰められていた状況から一転、今度はクリザンテームひとりが挟み撃ちを受ける状態になっていた。
「……」
 そんな状態にありながら、クリザンテームは剣をゆっくりと構えなおす。
「『星灯聖典』の名の下に」
「なんだと?」
 その言葉に首をかしげたのはファニー、そして弾正だ。
 ファニーは
「『聖女ルルさまのために』じゃなくてかよ」
 という反応で。
 一方弾正は
「その名前、誰かから聞いたような……」
 という呟きで。
 直後、クリザンテームは剣を大きく振り払った。影の刀身が延長されファニーたち全員を一気に切り払う大回転斬りを繰り出したのだ。
 蛍は珠緒を庇って籠手と剣で防御を固め、ベークは再生能力を全開にしてピリアを庇い、瑠璃はファニーを、弾正はラムダを庇って平蜘蛛から光の剣を展開防御する。
 一瞬の反撃が失敗したことを、クリザンテームは悟る。
 その直後に、珠緒たちは反撃に出た。
 珠緒の血刀がクリザンテームの腕を打ち、ファニの突き出した手がクリザンテームを超能力のように吹き飛ばす。
 ピリアは歌を続け、オパールの煌めきをクリザンテームへと集中させた。
 付着した煌めきが宝石を作るかのように硬化し彼の身体を拘束していく。
 最後に放たれたのはラムダの放った黒き刀の一閃だった。
 クリザンテームの首がすぱんと撥ね飛ばされ、空中を回転したフルフェイスヘルムの首は砂浜へと落ちる。
 だというのに、クリザンテームの首は呟いた。
「アッバース……様……申し……訳……」
 ファニーがその呟きに眉を動かしたが、それ以上の呟きはなく、クリザンテームはどろどろと溶けるように消えてしまった。


 戦いを終え、瑠璃たちはデノンの村へと案内されていた。
「すみません。皆逃げるのに必死でしたもので、大した物は……」
 申し訳なさそうにしながら妻に茶を出させる村長に、瑠璃は気にしなくて良いと首を振る。
 同じテーブルについていたレコアとボルドーは、傷のピリアから傷の応急手当を受けていた。
(ちょっとだけぷくってむくれちゃうけど、これはしかたないの! むむ!)
 頬をちょっと膨らませるピリア。すこしだけきつく包帯をしめると、ボルドーがうぐっと呻いて苦笑した。
「むりしちゃだめなの。……でも、ちゃんとたすかって、よかったの」
「すまねえな。この村が襲われるって聞いたら無視できなくってよ」
「けど、助かったぜ。あんたらが来なかったら死んでたはずだ。この村だって、住民は逃げ切れたかもしれねえが……『帳』が下ろされただろうな」
「そこだな」
 茶を遠慮しつつ、ラムダがボルドーに顔を向ける。
「奴らは簡易魔種の手勢とはいえ天義の勢力のはずだ。なぜ海洋にまで足を向ける?」
「確かに……わざわざ、って感じがするわね」
 蛍が『むむ』と口元に手を持っていって考え込んだ
「傲慢さ故、というのはありそうですが……彼らの中に、海洋の有り様を変えたい人間がいるということでしょうか」
 珠緒の発現はなんとなくのものだったが、どこか的確に聞こえた。ベークが『なるほど』と言って頷く。
「どう思います?」
 ベークの問いかけに、弾正が腕組みをする。
「俺の知り合いにけむ――スモーキーって精霊種がいるんだが、天義の尼さんを追ってたんだ。そいつは執行者でな、かなり難解なことを言っていたが……少なくとも今の何かに不満を持っていたようだった。『在るべき世界』のために戦ってるって雰囲気だな」
「そいつが……黒騎士が呟いてた『アッバース』て名前に関係あるってことか」
 ファニーは椅子にもたれかかって目を細めた。
 今が納得できない。あるべき世界に変えたい。
 それは誰もが思う幻想で、願望だ。ファニーだって、そんな想いにとらわれたことが全くないわけじゃない。
「けど、やり方は、気にくわねえよな」
 そいつを見つけて、止めなくちゃならない。
 ファニーたちは頷き合い、決意を改めて固めるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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