シナリオ詳細
<廃滅の海色>今日の花を摘め、って言うじゃない?
オープニング
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「みんな、お昼ご飯の時間ですよ」
――此処は海洋、静寂の青。
嘗て“絶望の青”と呼ばれ恐れられた面影は今はなく、ただ静かに波音が響くばかり。
現在の“静寂の青”には多数の島々がある。
其の内の一つ、幾つかの島が集まった場所に「ケルゲレン」と呼ばれる場所があった。
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の領地である。其処には嘗ての敵を名にとった港や、虹色イルカに会えるかもしれない不思議な島。
そして――嘗てアドラステイアに住んでいた子どもたちからイコルの影響を取り除くための更生保護施設“矢車菊華院”があった。
「あ、このお魚美味しいわ。セグレタ、アンタのも頂戴」
「頂戴って言いながらフォークを刺すのはどうかと思うよ」
其処に最近お世話になった二人の騎士候補生がいる。
アデリンとセグレタである。かつて背中を合わせて偽りの正義の為の戦いに身を投じていた二人は、今は隣り合わせに椅子に座って、穏やかに昼食を食べていた――筈だった。
「……」
アデリンは剣士だ。故に、殺気や敵意というものに非常に鋭い。
そしてセグレタは優れた術士だった。故に、環境の変化というものに気付きやすい。
二人は目を見合わせて、窓の外へと視線をやった。其処にあったのは、明らかに日常とは違う光景だった。
「――ココロお姉さん!」
「え、はい?」
「バリケードを作るのよ、早く!」
「窓の外、何か起きてる」
ココロが慌てて窓へと駆け寄り外を見れば、其処には“帳が落ちていた”。正に暗幕のようなものが天から降りて来て、隣り合う島を包み込もうとしていたのだ。
そして其の帳の内に、明らかに異常な建物が現れようとしていた。歪な、階段だらけの、塔のような――其の建物の上に凛と立つ影を認めたココロは、全てを理解した顔で、不安げに見上げてくる子どもたちを振り返る。
「……みんな、落ち着いて。大丈夫。力持ちさんは、少し手伝ってくれる?」
ココロは笑顔を浮かべ、努めて優しい声で、大丈夫、と繰り返した。本当は彼女の手も少し震えていたけれど、そんな様子はおくびにも出さなかった。
これだけの事態が起きれば、きっとローレットも気付く筈。何とかして護り抜かなければ。
此処には、多くの子どもたちがいるのだから……!
●
「最近、海洋と幻想に“帳”が落ちる事件が起きているのはみんなも知ってる通りなんだけど」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は穏やかに、集まってくれたイレギュラーズへと海洋の地図を広げる。
「現在進行形で帳が降りようとしている場所がある。場所は静寂の青、ケルゲレン。一応海洋の領地。ではあるんだけど、其れ以上に――ココロの領地でもあるんだ」
そして。同じケルゲレン内に、アドラステイアの被害者となった子どもたちを保護する施設もある。
……其の言葉に、視線を交わし合うイレギュラーズが数人いた。
「……アドラステイアの子どもたちを好む遂行者、っていう話は僕の耳にも入って来てる。多分、そいつの仕業だと思う。この“帳”は其れを呼んでいる核があって、其れを破壊すればもとに戻るって話みたいだ。……兎に角、ケルゲレンへ向かって欲しい。ココロや其のお手伝いの人だけでは、どうにもできないだろうから」
●
ハァイ、こんにちは! 偽りだらけの皆さん!
あたしの名前はカルヴァニヤ。そろそろ覚えて頂戴ね? これからもいっぱい、遂行者として頑張っちゃうんだから。
今回も可愛いお友達とプチドラグちゃんを連れて、……今回はちょっと遠出。ええと……なんだったかしら。そうそう。ケルゲレン、っていう諸島にある『矢車菊華院』にお邪魔します。
なんでも其処には、嘗て偽りの正義に踊らされた子どもたちがいるんだとか?
そんなの可哀想だわ! 子どもを利用して自分達の私欲を満たすなんて許せない! 鬼の所業よね。
だから今度は、本物の正義を知ってほしいの! という訳でカルちゃんが直接みんなに会って面談しようと思うのよね。
丁度帳を下ろすのにも良さそうな所だし、巧くいくと良いわねえ。あ、でも、ついて来てくれる子にはご褒美がいるかしら? お菓子とかあげたらいいかしらね?
- <廃滅の海色>今日の花を摘め、って言うじゃない?完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「二人とも、よく聞いて下さい」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はアデリンとセグレタに視線を合わせるように、屈みこんで言う。
「あの空にかかっている暗幕のようなものは、何らかの模様が入ったアイテムによるものです。二人は其れを見付けて来て」
「見付けたら、……壊せば良いのね?」
「ええ。そうすればきっと何とかなります」
アデリンは頷く。
でも、とセグレタが懸念する顔をした。
「僕ら、今はただの子どもだよ? “鎧”もないし、アデリンなら剣があればどうにかなりそうだけど……見付けたら持って来たら良い?」
「そうですね、持ってきて下さい。其の間に――」
武器なら、調達してくれる人がいますから。
ココロはそうして、視線を向けた。其処には仲間がいた。
カルヴァニヤと、対峙していた。
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「……で? てめえは正しい正義とやらを子どもたちに教えてやりたいと」
「ええ! そうなの! だってこれからを背負う子どもたちだもの、正しい事を教えてあげたいじゃない!」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は嬉しそうなカルヴァニヤを観察する。手には剣。まだ攻撃の動作は見られない。だが――何処か不気味だ。彼女に“喜”の感情しかないからではない。彼女は何かを隠している、そうグドルフの勘が告げているのだ。
「あ! 貴方は初めましてよね! あたしはカルヴァニヤよ!」
「名乗りをありがとう。でも自己紹介は結構だよ。俺はあなたに興味ないし、これからも持つとは思えないから」
「あら酷い。万が一にも持つかもしれないじゃない!」
『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)に返すカルヴァニヤはまるで子どものようだ。史之は其れに構わず、周囲を泳ぎ回るワールドイーターたちを飛び越えるように空を舞い、カルヴァニヤに接敵する。
「沢山お子様がいるね。全部君の子?」
ああ、答えなくて良いよ。実際のところ、君の一切合切、どうでも良いんだ。
「女王の膝元から疾く去ね。俺の願いはそれだけだ」
「あらあら! そんな随分な態度、奥様に嫌われちゃうわよ?」
史之が振りかぶる。
カルヴァニヤは手に持っていた剣をひょいと揮うと――“ごぞり”。其の衝撃で大地が隆起した。史之の斥力発生を変わりに受けた大地が罅割れる。
「――お前もあの連中と大して変わりゃしねぇじゃねぇか」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が溜息と共に言う。彼は主に致命者の抑えに回る。
構えるは雨帳。そうしてワールドイーターを操る子どもたちに向けて、さかしまの黒い雨を繰り出した。
「――!」
声なき子どもたちとワールドイーターが黒い雨に呑まれる。最も弱いワールドイーターは雨に貫かれ、幾つかが塵になって消えていく。
「いつも子どもたちばかりが振り回されていた、其れは事実だ」
天が堕ちて来る。
ああ、其の堕天の輝きは、恐ろしい程の呪いに満ちている。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は其の輝きを全ての敵に向けながら、遂行者へと問う。
「だが、今やっと解放されようとしてるんだ。其れを荒らしに来ておいて、本物の正義と宣うのか!」
「まるであたしが悪者みたいな言い方ね? いえ、そうね。貴方達にとっては悪者なんでしょうね」
「――随分と殊勝ですね!」
行って、ドラネコちゃん!
『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)はドラネコのリーちゃんをけしかけながら、ワールドイーターへと対処する。
極彩色を見て。其れは世界。私だけの世界。彩波揺籃の万華鏡。
色が渦巻いて、色がどよめいて、色が収束して――致命者の一人が小さくきゃあ、という声を上げて塵となった。
「別に殊勝じゃないわよ? 貴方達にとってはそうだろう、ってだけ。貴方達にとってあたしは何処までも悪者で、薄っぺらくて、言葉を聞く価値もない人間なんでしょうね」
「――ッ、よく判ってるじゃない!」
でも其の言い方は、自虐的で良くないわね!
『この手を貴女に』タイム(p3p007854)はワールドイーターをこっちだ、と引き付ける。子どもたちの方には行かせない、……絶対に!
「死んだ子の魂を弄ぶのも赦せないのに、生きてる子を傷付けるなんて以ての外よ! この子たちは自分の道を探し始めたばかりなの!」
「あら。あたしがいつ弄んでるなんて言ったの? 其れは貴方の主観じゃない。あたしはあたしに出来る方法で、死にたくなかったっていってる子どもたちを助けているだけなのよ? 貴方達は――一度でも、“死んだ子たちの声に耳を傾けた事があるの”?」
「減らず口だけは成長したじゃねぇか。なぁココロ、今度から此処はちゃんと“勧誘はお断り”って張り紙をはっ付けておくべきだわ。返事は鉛弾でくれてやるから其のクセェ口を閉じな!」
致命者の子どもたちは、思い思いの場所でワールドイーターを操っている。コルネリアは生命力を凝縮した“弾”を撃ち、其れを避けられるのも織り込み済みで……少しずつ少しずつ、致命者とワールドイーターの位置を調整していく。
イズマやユーフォニー、カイトが纏めて削り切れるように。視線を送れば、彼らは判っている、と頷いた。
「なんて能書き垂れようがよ、てめえの言葉は薄っぺらのスカスカ、詐欺師の其れと同じなんだわ! なあ、はっきり言えよ!」
ガキども使って、上手に世界をぶっ壊したいです――ってなあ!!
グドルフがカルヴァニヤから十字剣を奪い取る。其れはくるくると宙を舞って――とある子どもの手に渡った。
其の子どもの名は、アデリン、と言った。
●
「セグレタ! 遅れないで!」
「無理言わないでよ、武器持ちの君と違って、僕は前まで魔法使いだったんだから」
生憎、セグレタに合う武器は致命者の子どもたちは持っていなかった。
だがアデリンには剣さえあれば十分だった。どのような剣でも彼女は使いこなして見せただろうが――カルヴァニヤもまた“武器を選ばない人間”である事が此処で幸いする。偶然とはいえ己の剣を再び手に入れたアデリンは、宙を舞うムカデのような“何か”を斬り払いながら孤児院へと走り込んだ。
「――アデリンお姉ちゃん!」
「セグレタお兄ちゃん!」
「皆、聞いて!」
駆け寄る子どもたちに、アデリンが声を上げる。
最近何か妙なものを手に入れた子はいないかと。アクセサリを行商から買っただとか、偶然手に入れた綺麗な石だとか、何でも良い。
「そういえば、最近行商さんが来て色々綺麗なものを売ってたよ」
「確か、リエリが何か買ってなかった?」
子どもたちがリエリと呼ばれた少女を振り返る。びくり、と怯えた少女の首元には――美しい藍色のペンダントがぶら下がっていた。
「……あ」
「リエリ。其れはどうしたの?」
「……商人さんが、とってもウチに似合うから、って……貰いものだから、あげるって、くれて……ど、どうしよ、ウチ、ウチ、」
「大丈夫、落ち着いてリエリ。君が其れを持ってるのは悪い事じゃないよ。僕たちに其れ、渡してくれる? 君が持っているのは悪い事じゃないけど、其れ自体は多分、悪いものだ」
セグレタは振り返った一瞬で、カルヴァニヤの“刻印”を覚えていた。
彼女の瞳を塞ぐように、誇るように刻まれた刻印。リエリのペンダントを改めれば、其れが“そう”か“そうでない”かくらいは判る。
「う、うん……!」
リエリはペンダントを外すとセグレタに渡す。セグレタは其れを見て、――直ぐに判った。
「アデリン」
「ええ」
「当たりだ。ココロお姉さんに知らせないと」
●
「あら」
――史之の剣は、カルヴァニヤを捉えた筈だった。
間違いなく彼女の脳天を狙い、振り落ちる雨のように容赦なく死を降り注ぐ、つもりだった。
だが、其の剣はカルヴァニヤによって掴まれ、止められている。
黒い血が流れる。其れはカルヴァニヤのものだが、史之の想定よりは随分と少ない。
「オラァァ!!」
其の隙を逃がすグドルフではない。
一か、八か。乗るか、反るか。全身全霊を掛けたぶった切りは、しかしカルヴァニヤの蹴りで逸らされる。
カルヴァニヤが史之を、剣ごと振り回す。
手を離そうか、と判断する前に放られ、大地を転がる。まるで高い高い空から大地に叩き付けられたかのような衝撃が史之の身体を奔り、意図せぬ吐息が肺から押し出される。
「困ったわね、核が見付かっちゃったみたい。まだ港は“神の領域”になりきっていないのに」
じゃあおちびちゃんたち、あとは任せるわね。
あたしはちょっと、――お仕置きをしに行くから。
カルヴァニヤは彼女を囲むイレギュラーズに構わず歩き出す。致命者の子どもたちはワールドイーターを操り、カルヴァニヤの道を開く。
「――ッ!!」
其の行動でココロもまた、気付いた。アデリンとセグレタが核を見付けてくれたのだと。
そう判断した瞬間、史之に回復を放ち、ココロは背を向けて走り出していた。目指すは矢車菊華院――アデリンとセグレタが見付けてくれた核!
「そうね!」
ココロの背を見詰め、カルヴァニヤはにっこりと笑った。
「貴方はきっと、そうすると思ってた! だって貴方は――優しいもの」
「ねえ、カル……カルなんとか」
史之が起き上がり、カルヴァニヤを見る。
其の目はとても静かだ。何を映す事もない。カルヴァニヤを映しているようで、そうでない。
「帳を下ろして、何したいのさ」
「何って? 勿論、神の国をこの地上に降ろすのよ! 懐かしいでしょう、あの景色。あるべく姿に帰っていくのよ、全ては」
「――其れをあなたへ命令したのは?」
「“あたしよ”。まあ代表者としてはサマエルかもしれないけど、あたしたちはあたしたちの意思で神の国をこの地上に顕現させるんだって集まっているわ!」
「へえ。で? そのサマエルとやらの居場所は?」
「さあ……今は何処かしらねえ。一応あたしたち、一枚岩ではあるんだけど自由主義だから。割とみんながやりたいところでやりたいようにやってる感じ?」
カイトの黒い雨が。
コルネリアの弾丸の雨が。
イズマの堕天の雨が。
容赦なくワールドイーターと子どもたちを打ち据えて、塵へと変えていく。
だが、其れにカルヴァニヤが動じる事はない。うーん、何処かしらねえ。なんて。仲間とも知れぬ存在の行方を暢気に考えている。
「面談、と言ったな」
イズマが問いかける。
ん? とカルヴァニヤが閉じられた片目を向けた。
「ここの施設を見て回ったのか? 子どもたちとは話したのか」
「いいえ。でも、これからそうするつもりよ。其れであたしたちの考えに賛同してくれる子がいたら、一緒に神の国を降ろして貰おうって――」
「あぁ、あぁ、あぁ!!! テメェの言葉はもうたくさんだ!!」
声を上げたのはコルネリアだった。
「テメェの正義なんか正直どうでもいいけどね、アタシは絶対に認めない!! もし世界がテメェらの正義を認めるっていうのなら、アタシは悪党で構わない!! とことん邪魔してぶちのめしてやる! テメェの言葉は傲慢だらけ、“してやる”“してやった”“してあげる”!! もう沢山! 傲慢吐いてる口で秩序と道理語ってんじゃねぇ!!」
言葉と反対に、コルネリアは何処までも理性的だった。そうでなければ、彼女に負けたような気がするからかもしれない。
何処までも冷静に冷徹に、致命者を撃ち抜き、管理塔を喪ったワールドイーターを仕留めていく。
「――此処は絶対に譲らないわ」
ココロが戻って来る。
アデリンとセグレタも一緒だ。アデリンは剣を構え、カルヴァニヤを睨み付ける。
「貴方が言いたい事は判ってる。この場所はわたしのわがままよ。魔種が悲運を撒き散らす時代に翻弄された子たちに、もう一度機会を与えたいと思ったわたしのわがままの産物」
「……」
「其れでも、其れで笑ってくれる子たちがいるの。其れでわたしは嬉しくなるの! 良いでしょ!」
「……そうね!」
カルヴァニヤは、『にっこり』と笑った。
「言うじゃない、あなた! あたし、そういう自分勝手な人は好きよ? 自分の幸せの為に、自分で行動できるって事だもの。カルちゃんポイント10点あげちゃう」
――で。
あなたは“それ”を見付けてどうするのかしら。
そう問うような沈黙が落ちた。
もう致命者の子どもたちは、ワールドイーターはいない。そして、其の沈黙という名の“隙”を狙わない程、イレギュラーズは愚かではない。
史之とグドルフは真反対から、同時に駆け出していた。
「地に伏せなよ」
「此処でテメェは終わっときなァ!!」
油断はしない。
していない。
全く、していなかったのに。
「……人が質問をしている時に茶々を入れるのは、お姉さん、どうかと思うわ」
今までにないような低い声でカルヴァニヤが呟くと。
二人の剣戟を“真正面から受ける”。
グドルフの刃を。史之の刃を受けて、――しかしカルヴァニヤは黒い血を流しながら立ち、其の武器へと手を伸ばし、ぐっと握り締めていた。
みしり。
軋むような音と共に、……めりめり、とカルヴァニヤの二の腕が隆起する。
其れは筋肉だ。――恐ろしい程の膂力で、其の武器の“使い手ごと”持ち上げると――一気に叩き付ける!!
「うおあ……!!」
「ッ……!」
其れは持ち上げる予備動作すらない、凄まじい威力の引き落としだった。
必殺の意思を持って得物を握り締めていた二人は大地に叩き付けられ、地が鳴動する。
「――……ふう」
深い深い裂傷を負いながら、其れでも平気そうに立っているカルヴァニヤは。
まあいいわ! と再び、『にっこり』笑った。
「核はあなた達の手にある。だからあたしの失敗ね! なら子どもたちへの面談も無理そうだし、あたしは此処で帰らせて貰うわ。あーあ、サマエルにごめんなさいしないと」
●
「壊すぞ」
グドルフが言うと、山賊刀で刻印の入ったペンダントを叩く。
其れはいとも簡単にぱきん、と割れて……チェネレントラ港方面を覆っていたなんともいえない気配が、一気に薄れていくのをユーフォニーとタイムは感じていた。
「……何とかなった、感じね」
コルネリアが言う。
だが其の表情は晴れやかではない。カルヴァニヤという首魁を結果としてまたも逃がしてしまったからだ。
「子どもたちに被害が出なかっただけ、まだマシって思いたいけど」
「……不気味だわ」
タイムが呟く。
其れに異を唱えるものはいない。
「あの女ァ、俺と史之の攻撃を受けて立ってやがった。間違いなく当てた、手応えがあった。……尋常じゃねえ体力の持ち主だぜ、ありゃあ」
グドルフが言う。
史之はじっ、とチェネレントラ港を見ている。嘗ての絶望が其処にあるけれども、時間が経てば元の静寂に戻るだろう。
「……あの人、底知れない感じがしました」
感想なんですけどね、とユーフォニーが言う。でも……と、言葉を続けて。
「まるで湧き出る泉のような、……泉から私たちは一生懸命バケツで水を抜いているような、そんな感じがずっとしていました」
「ああ。俺もそう感じていた。剣をグドルフさんに奪われても一切動じなかった、……彼女にとっては、武器は何でもよくて、……寧ろ素手の方が彼女は戦いやすいのかもしれないな」
砕けたペンダントはきらきらと輝くだけ。
ココロは其れをじっと見下ろしながら、――子どもたちが誰一人傷付かなかった事を安堵し、そしてカルヴァニヤは次は誰を狙うのかと、不安に思ってしまって仕様がないのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
カルヴァニヤの狙いは失敗に終わりました。
けれど、まあ!
生きていれば何度でも色々と出来るわよね!
あたしも、あなたも!
――ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
今回は“現実側”のお話です。
●目標
帳の“核”を破壊せよ
●立地
ココロさんの領地「ケルゲレン」です。
幸いにして、『矢車菊華院』のある島ではありませんが、どういう選別方法で選ばれたのか、「チェネレントラ港」に帳がおりて変質しようとしています。
荒れた波に、猛獣のような魚たち。そして、帳越しにもわかる腐敗の香り。帳の中では“絶望の青”が復活しようとしています。
何処かにある核を捜して、破壊しなければなりません。
●核
『矢車菊華院』の子どもたちの一人が持っている綺麗なペンダントに、カルヴァニヤの聖痕が刻まれています。
これが核です。
中盤辺りでアデリン・セグレタが気付きますが、破壊するにはパーティを2分する必要があります。
●エネミー
遂行者“カルヴァニヤ”x1
致命者“こどもたち”x10
ワールドイーターxいっぱい
またこの布陣かよお! と思われるでしょうがこんな感じです。
カルヴァニヤは核が何処にあるのかを知っており、自らも前線に出る事で核の破壊を阻止、チェネレントラ港の“神の国”化を盤石化するつもりです。
●NPCについて
アデリン、セグレタは適切な装備を渡せば戦いに参加する事が出来ます。(戦闘から離れて少ししか経っていないためです)
他の『矢車菊華院』の子どもたちは戦闘から離れて久しく、また、致命者と顔見知りである可能性もありますので戦闘に連れて行くのはお勧めしません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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