シナリオ詳細
あかいつばさのゆくさき
オープニング
あかいつばさのゆくさき
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ソラは何処まで広がるのだろう。
世界は何処まで広がるのだろう。
自分は一体、何処まで行けるのだろう?
“其れ”はある日、眠りの遊戯を気紛れに終え、荒縄を其の身一つで千切り飛び立った。はて、其れが何処だったのかは最早思い出せない。
騒ぎ立てる『虫』を喰らった。啄み、摘まんで、飲み下すと――ソラが広がった。
其れがどのような仕組みなのかは知らぬ。ただ、“其れ”はもっと見てみたいと思ったのだ。
――ソラは何処まで広がるのだろう。
――新たなソラを舞ってみたい。あの漆黒の空を青く染めて、ただ悠々と風を切ってソラを走りたい。
ただ其れだけだった。
“其れ”の望みはそれだけで、……だから。『虫』たちがどうなろうとも、何をしようとも、特段構わなかったのだ。
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「……夢を操る画家を紹介して欲しい、という話だったね」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は『太陽の翼』カイト・シャルラハ (p3p000684)へと確認する。
ああ、とカイトは頷き、何処か居心地悪そうに首の後ろを掻く。
「最近どうにも物忘れが酷い。何かあるのかと考えてみたが、眠るたびに何かを忘れてる気がするんだよな」
「……其れは、記憶の整頓の結果とかではなく?」
「ああ。明らかに何かおかしい感じだ。一週間前の飯とかじゃなくてさ、昨日何をしたのかさえ時々思い出せなくて、……其れに、最近周りの様子もおかしい。其れはグレモリー、アンタに調査をお願いした通りだ」
「うん」
グレモリーは頷く。
其の通り、グレモリーは以前カイトに世間話ついでに“街の人の様子がおかしい”と相談を受けていたのである。
という訳で調べてみたんだけど、と無表情な情報屋は呟く。ぺらり、と手元のメモをめくり。
「聞き込みをして共通の証言があったんだけど……夢の中で喰われるんだそうだ」
「……喰われる?」
「そう。赤い鳥。大きな鳥に、食べられるんだって。どうにも心地の悪い夢で、とてもリアルだったって。だから……ほら、君の毛並みも赤いでしょ。夢の事を思い出しちゃったんだろうね」
其れははた迷惑な話だ、とカイトは肩を竦める。
毛色が同じだと言うだけで、夢の中の恐ろしい存在と同一視されてはたまらない。
しかし、ここまで不可思議な事が起こっているとなると、……夢の中に何かあるとしか思えない。
ならば“夢の中にいくしかない”だろう。
グレモリーは一枚の名刺を差し出した。
「レリ。人の夢を共有させる絵を書く画家だよ。ほら、僕、昔みんなにヘンな画家の依頼をしたでしょ。ああいう友達の一人。彼女の力を借りて共通の夢を見る、其れで……巧く向こうがかかってくれれば、良し」
夢の中で人を啄む赤い鳥。
其れがただの悪夢であればいいのだが、そうでなかったとするならば、少し“仕置き”が必要だろう。
「でも……不思議だね」
グレモリーは呟いた。
何が不思議なんだ、とカイトは問う。
「夢の中でわざわざ人間を食べる目的が判らない。其の鳥は一体、何を求めてるんだろうね。満腹かな。其れとも、別の何かかな」
- あかいつばさのゆくさき完了
- GM名奇古譚
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年06月08日 22時21分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費250RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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例えば混沌のソラに果てがあるとしたら。
今見えているこの光景のように、真っ黒な染みのように見えるのだろうか。そんな事を『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は思っている。
「うーん、うーん」
緋色の鳥を、この夢の中で撃退する。其れが依頼ではあるのだが。
撃退したら、そのあとどうするのだろう。赤い鳥とやらは一体、何処へ行くのだろう?
「夢という事は、これは醒めるのを待てばいいんですかね」
「多分ね」
独りごちたベークに『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が応える。皆で夢の中にいるなんて不思議な感じだね、と彼は慣れた様子だ。
アクセルは周囲を見回してみる。中天には太陽。空は快晴の青。限りない――訳ではないが広いソラ。気持ちよく飛びたい、という願いが形になったかのようだ。
「カイトと同じ色の鳥なぁ。いっそ青色にでも毛染めしてみるか?」
判りやすくなるかもしれねぇぞ。
なんて冗談を飛ばす『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、しかしグレモリーが紹介した画家の力に感動していた。彼が奇矯な画家と仲良くしているのは知っていたが、まさか人の夢にまで干渉する絵を描くとは!
目が覚めたら詳しく話を聞かなきゃならないな、と色んな意味で意欲を燃やしている彼を、ロレイン(p3p006293)が見詰めていた。
果たして此処は、誰の夢だろう。
夢の中に怪鳥がいるのか。
其れとも此処は既に、怪鳥の夢の中なのか。
或いは、夢が境界めいた異界へと我々を連れて来たのか。
「斃したら死ぬのか。其れも判らないわね」
「全くだ。――まあ、最低でもお引き取り願うくらいしか俺らには出来ねぇかも判らんが」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が前髪を撫でつけながら、清かに吹く風を感じている。おいで、おいで、空へ。そんな声がするかのような、爽やかな風。
「しかし、――空に焦がれる気持ち、私としては少し共感してしまうな」
ふわり、と浮くような感覚を掴みながら、『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)は其れでも空を見上げる。そうして言う。私もそうだから、と。
空を見た。
友を見た。
焦がれて、焦がれたから。無理矢理にでもと翼を得て、ルクトは飛んでいる。そんな身だから。
ああ、見ると良い。
赤い影が飛んでくる。其れはとても大きくて、そして遠めから見てもわかるほどに赫いのだ。
「あれだな」
『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)が言った。壱和はあれを“認識の獣”と心中で呼んでいる。そして、危惧している。
壱和の世界で出た“認識の獣”を鎮める際に出た犠牲者の数など数えたくもない。手抜きをするつもりはないと、其の巨大な鳥を睨み付けるのだ。
「てめえか、赤くて人を襲う鳥ってのは!」
何故だろう、何処かで見たような気がする。
見た? 見たというか、親近感? 若干首を傾げながら『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が威勢よく鳥に言うと、“鳥”は応えるように異形の鳴き声を上げ――挨拶の一言もなく、開戦の合図もなく、けれども示し合ったかのように戦いの幕を開けた。
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嘗てカイトは――ああ、失敬。カイト・シャルラハである――、彼は夢を見ていた。
そう、夢見ていたし、夢を、見ていた。
「飛ぶ事に罪はないけどさ。カイトや他の人が良い夢を見られるように、やっつけさせてもらうね!」
ばっ、と赫い鳥が羽撃くと、はらはらと舞い落ちる真紅の羽根。
其れ等はまるで誰かが操っているかのようにぴたりと空中で制止すると、くるり! と回った。
ひゅん! と飛び来る衝撃波をベークがフワフワの生地……失礼。身体で受け止めて、その間隙を縫ってアクセルが攻撃を放ち、羽根を打ち落とす。
羽根自体にはそんなに生命力が篭っていないのだろう。いとも簡単にはらはらと其れはソラの底へと落ちて行き、しかし鳥が羽撃けば再度羽根は空を舞う。
「成る程、使い捨ての武器のようなものですか」
「でも一撃に弱いし――鳥を抑えてて貰えれば、なんとかなるはず!」
「おうさ」
応えたのは雨纏う方のカイトだった。普段通り、歩くように空を飛び、纏うのは雨帳。其れでも空は晴れ渡り、黒くさかしまに“降りしきる”黒顎の雨はまるで御伽噺の天気雨のよう。だが其の天気雨は凶悪に過ぎる。打ち据えたものを傷付けて、羽根がはらはらり、空の底へと落ちていく。
再び鳥が羽根を舞わせ、煩わしい虫たちを啄んでやろうと翼をはためかせた、其の隙を縫って。空を舞う方のカイトがソラを駆ける。母から教わった呼吸を一つ。そうして肉薄した其の一瞬でもう一つ、母から教わった指先でとんと鳥に触れる。
なあ、お前には何が見える?
緋色の大地か? 虹色の空か? 其れとも暗い昏い宇宙だろうか。
どれでもいいさ、最後には俺を見ろ。お前の相手は俺で、俺達だ!
鳥がぴい、と鳴いた。
怒りの聲であった。
――それで……ああ、そうだ。
話の途中であった。カイトは夢を見ていたのだ。
混沌世界の『外』を飛んでみたい。そんな素っ頓狂な夢を、見ていた。
だが、奇しくも同じ願いを見ていたものがいた。其れは何なのか、と問われると、応える事は難しい。或いは壱和が定義する“認識の獣”なのかもしれない。或いはただ其処に生まれたばかりの自我だったのかもしれないし、現実世界に現れてみれば、ただのワールドイーターだったりするかもしれない、そんな“何とでも定義できるもの”。
其れは夢を見ていた。精神世界の『外』を飛びたいと。虫を啄んで腹を満たすだけの毎日は嫌だと、夢見ていた。
夢とはとても曖昧なもので、其れこそ絵画一枚でどうにでもなってしまうようなもの。だからだろうか。彼らの夢は混ざり合い、そうして其の果てに、“異形の鳥”を作り上げた。
「この空は窮屈そうだな」
ベルナルドが言う。クロウタドリの翼をもつ彼だからこそ判る、広いようでいて狭すぎるソラ。
彼は知っている。自由に空を飛ぶ喜びを。だが彼は知らない。『外』を飛びたいという、狂気に似た願いを。ベルナルドが飛びたい空は、緋色の鳥にとっては鳥籠の中の空だ。
「……人の記憶を食わないって約束してくれるなら、寄り添ってやりてぇが……どうにも」
人語を解するかも判らぬから、どうにも。
言いながら終焉の紫を描く。そう、いつだって夜の帳は紫色をしている。そうしてゆっくりと藍色に変わっていって、おしまい。
狂気の感覚に鳥がいやだと身体を揮う。其れを叱りつけるように、ロレインが指先から放った雷の蛇がぐるりと鳥に巻き付き、ばちばちと怒りを放った。
「夢ならば、いつか醒めるもの。そして夢は、必ずしも良いものとは限らない。――今宵は、貴方に悪夢をあげるわ」
「青い空にある一人の者として、この鳥は一度躾けてやらねばな」
ルクトが舞う。
空を舞う。夢にまで見た空を。
痛みはない。……夢だからだろうか? 其れはまさに、夢のような感覚だった。
ああ! いま、私はソラを翔んでいる!
其のシルエットはふわり、と一瞬ソラに紛れ――そして次に現れた時には鳥の傍。其の一撃は猛毒を与う。
「あがないのほシ……」
しっこうせよ。
slaughter/auto/all。
[ねこ]が走る。其れはねこのようだが、実質は生物学的猫ではない。兎に角、[ねこ]。
迸る。罰する。つまみぐいしたらはたかれるのが道理だにゃー。はたくだけじゃすまないから、君はあいにく串刺しだ。
豪雨の如く降り注ぐ鉄杭は的確に、赤い鳥を貫いていく。痛い、と初めて鳥は悲しく鳴いた。これまで出した事のない声だった。カイトが夢で見た事も……ああ、そうだ。話の途中だった。
話を続けよう。
カイトは夢を見ていた。“其れ”もまた夢を見ていた。
二つの夢は混ざり合い、二人が作り出した共通の認識、“緋色の鳥”。
ヒトの記憶という虫を喰らう事で広がっていく認識の世界。そうして膨らんでいく『外』への思い。
青い空を飛んでみたい。
満天の星空を飛んでみたい。
ああ、或いは朝焼けの、夕焼けのあわいを飛んでみたい。
其の渇望が緋色の鳥に力を与える。世界は大きな鳥籠だ。そんなものに囚われている[俺たち]は所詮籠の鳥だ。
そんなものぶっ壊してやる。自由になるんだ。何処までも、何処までも飛んでいくんだ。
「――まずい!」
真っ先に気付いたのは、其れの正体を認識している壱和だった。
緋色の鳥は貫かれ、打ち据えられて、最早赤い羽根を撒き散らす事もない。そして既に羽はアクセルとベークによって全て撃ち落とされている。
だが。
[鳥]はあきらめなかった。
空を飛びたい、其の願いを諦めなかった。
其の為に―― 一番傍に居た“虫”を、啄んだ。
「うおっ」
「カイト!」
ばくり、と嘴で噛み付いてきた鳥。
カイトは其の一撃を受けながらも、痛みの中を耐える。
大丈夫だ。
俺という鳥籠は、お前と一緒に空を飛んでやれる。どこまでも、どこまでも飛んでやれる。
「なあ」
噛み付く鳥を、カイトの手が撫でる。
「ちょっとばかし、大人しくしてくれねえか」
何かを失っていく。
カイトは其れを感じていた。其れは多分、自分の記憶なのだろうが――ああ、もはや。もはや其れが“何の記憶なのか”すら思い出せないのだ。
大事な人がいた。
誰よりも愛する人がいた筈なのに、シルエットしか思い出せない。
……震えたかった。抑えた。
叫び出したかった。抑えた。
カイトは[鳥]を無力化するために、絆を一つ、差しだしたのだった。
……。鳥がゆっくりと嘴を離す。
カイトの腕は、ノイズがかかったかのような様相をしていた。或いは其れは、現実における「傷」のメタファー。
「大丈夫だ」
其れでも、カイト・シャルラハは言う。
「俺はそう簡単に食われたりはしねぇ」
言って、彼は羽撃く。
緋色の鳥を抱いたまま、真っ直ぐに真っ直ぐに、――ソラの果てへ、真っ直ぐに。
夢の世界はイメージ次第だ。
ソラが足りないなら足してやる、とベルナルドは“描く”。ソラが広がっていく、青く青く広がっていくから、カイトと鳥はどこまでも飛んでいく。そう、ベルナルド、君は青を描くのがとっても巧いから。だからソラの青を広げる事くらい、どうって事ないんだ。
そうして其処にそっと、星々のきらめきを添える。なあ、鳥。お前は星空を見た事はあるか? ないなら、今のうちに見とけよ。俺はそうそう夢の中には来れないからな。
「……夜が、来ますね」
何処までも羽撃く二つの緋色。其の更に上を見詰めて、ベークが呟いた。
そうだな、とカイトが頷く。
「夜が来たら、鳥は眠るもんだ。俺らとドンパチ交わして、大人しくなってくれりゃあ良いがな」
「なんかオイラまで眠くなってきちゃった」
ふわあ、とアクセルが大あくび。
此処で寝てはだめよ、とロレインは心配そうに言う。
「何で?」
「夢の中で寝たら、目が覚めた時に現実かどうか判らないじゃない」
「うーん、うーん。……わかった」
「――……この感覚を、忘れないでいたいな」
ルクトは空を舞う緋色の鳥が姿を薄らげていくのを見ていた。そうしてゆっくりとカイトのシルエットに重なり、一つになるのを。
そうして、何の痛みも枷もなく空を飛んだ。何より其の感覚を、ルクトは覚えていたかった。
空を舞っている。
二つの緋色が、―― 一つになって。カイトが悠々と見せつけるように空を舞う。
誰ともなく空を蹴った。自分も飛んでみたいと思った。この果てないソラの果てまで、飛んでみたいと。
「……」
ただ、壱和だけは。
壱和だけは彼らを見送りながら、其の“すんなりとした終わり方”に、もやりとするものがあった。
もしかして、だが。[鳥]はとんでもないものを啄んでいったのではないか。
そうしてまた、自分達の前に――更に強大な存在となって現れるのではないか。
そんな懸念が、どうしてだろう。こんなに美しい空なのに、拭えなかった。
どこかで箱入りのねこが鳴いた。
ねこは毒で死んだでしょうか、死んでいないでしょうか。箱を開けねばわからぬ事。箱を開けるまでねこは可能性を孕んだまま。
カイト・シャルラハ。
さて、此処で問題です。彼は己の記憶という箱を開けた時――どんな顔をするでしょうか。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
遅刻してしまいましたが熱量はたっぷり籠めました。書いててとても楽しかったです。
ですが……さて。
この後は、どうなるでしょう。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
リクエスト有難うございます。赤い鳥と、ソラと、イレギュラーズのお話です。
皆さんはグレモリーの紹介によってレリを訪ね、夢の世界に降り立ったところから始まります。
●目標
“緋色の鳥”を撃退せよ
●立地
空です。
空中機動等のスキルがなくても、皆さんは自由に空を飛べます。夢なので。
陸には現実と変わらない幻想の街並みが広がっていますが、何故か飛び地のように罅割れています。
西と東は異様に暗く、まるで世界が途切れているかのような光景です。太陽は中天から動く事はありません。
さて、これは誰の夢でしょうか。
●エネミー
緋色の鳥x1
緋色の羽根x?
鳥が一羽、悠々と空を舞っています。
かなり大きく、人間を片足でわしっと掴んでしまえるくらいの大きさです。
時折はらりと抜け落ちる羽は剣のように鋭く、そして意思を持つかのようにイレギュラーズに襲い掛かって来るでしょう。
鳥は基本的に皆さんを捕食しようとしてきます。鳥は近距離物理型、羽根は遠距離神秘型という感じです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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