シナリオ詳細
<蠢く蠍>『いいとこどりの』ハーレイ盗賊団
オープニング
●金網をやぶけば、そこは天国だった。
土壁で固められた室内。人工的に作られた浅い池。そこかしこに実を茂らせるヤシの木……にしては背が低い、ちょうど大人の頭くらいのところにあの特徴的な木の実がわさわさ実っている。そんな南の海の光景、に見えるが、ここは畑。特殊なヤシの木を育てるための人工渚なのだった。
目の前の光景に勝どきの声をあげたいところだったが、盗賊団はぐっとがまんした。さんざんトラップや見張りを回避してたどりついたのだ。ここで警備に感づかれては一巻の終わり。さて、とリーダーは右手を天へかざした。
「野郎ども、用意はいいか。首尾よくできたらおまえらにもたっぷりと飲ませてやる。パームワインをな!」
手が下げられた瞬間、盗賊たちは怒涛のごとくなだれこみ、農民たちが汗水たらして作りあげた成果をないがしろにした。彼らの狙いはヤシの実。用意していた袋へ次々と実を放り込む。
「ヒャッハー! やっぱり富農さまは畑の規模から違うぜ!」
「もう袋がいっぱいだ! たまんねえな!」
畑のちょうど三分の一ほどを刈った時点で、盗賊たちはすみやかにリーダーのもとへ集まった。
「ようし、よくやった、野郎ども! ひきあげるぞ!」
畑の持ち主の富農アルデ=ヒカドが被害に気づいて真っ青になったのは明くる日だったという。
●知ってる? パームワイン
「ふふ、ご機嫌はいかが……。私はメロリアスレッドな心持ちよ」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)があなたの前でグラスを傾けながら言う。おそらくは赤ワインだろう液体が彼女の白い相貌とあいまってどこか蠱惑的だった。
「ヤシ酒を知っているかしら。別名パームワインよ。ココナッツ独特の風味がして、純度の高いものは薬草代わりに気付けの薬として使われることもある、そんなお酒よ」
もちろん知っているわよねと彼女は微笑んだ。それとも、と彼女はやや風情の違う微笑を浮かべる。
「ヤシの実の中にはココナッツジュースと呼ばれる大量の樹液が入っているのはご存知よね。通常、パームワインはそのココナッツジュースから作られるのだけれど、港町ローリンローリンの近くでは、ジュースの代わりにそのものずばりなパームワインを孕むヤシの木があるのよ。まったりとしてこくがある、代々の農家が知恵を絞って作り上げた、まさに技術の結晶ね」
赤ワインを飲みほした彼女は、続けて白く白濁した液体が注がれたグラスを手にした。
「これがパームワインよ。このヤシ酒のもと、パームワインの木を狙って盗賊が出始めたわ。普通のヤシの実よりもパームワインの実はかなり高く取引されるの。栽培も難しいし、苦心に苦心を重ねた農家にとって、収穫前のパームワインを横取りされるのはまさに悪夢でしょうね」
こくりと彼女の、のどが鳴る。グラスについた口紅の向こうで彼女の唇が光って動く。
「今回の依頼はまさにその盗賊退治。盗賊団の目星はついているわ。『新生・砂蠍』の一派、『いいとこどりの』ハーレイ盗賊団よ。最近リーダーが変わって、そう名乗るようになったみたいね。「盗賊団の上に盗賊団がいる」状態の新生・砂蠍において、出世を目論む一派みたい」
グラスについた自分の口紅をすっと指で伸ばし、彼女はにいと笑った。
「盗賊団の規模は12人。リーダーが『いいとこどり』のハーレイ、他は無名の盗賊ね。全員銃と剣で武装していて、ハーレイの号令によって前衛にも後衛にもなるようよ。ハーレイのことだから、劣勢としるやいなや逃走を始めるわ。今回はそれで十分。ローレットの強さを見せつけてあげれば、二度とパームワインの畑には近づかないでしょうね」
そういうと彼女はあらたまった様子であなたに礼をした。
「盗賊団をパームワインの畑から追い出して頂戴。うまくいけばあなたにもパームワインが振る舞われるわ」
- <蠢く蠍>『いいとこどりの』ハーレイ盗賊団完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月06日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●草木も眠れない
真夜中を過ぎてしばらく、畑へ潜り込んだイレギュラーズたちは眠気を感じ始めていた。巡回組は何度同じルートを往復したのかも忘れ、あくびをかみころす。退屈な時間だけがながれていった。
「ウチが作った罠、スルーされてる気がする」
と、ぼやくニル=エルサリス(p3p002400)。がんばってしこたま作ったのに。
しかしもともとこの畑の周囲にはトラップや見張りがたんまり用意されており、盗賊段はそれらをかいくぐれるレベルなのだ。とはいえ、罠によってルートが制限されているのは確かで、盗賊どもは想定より大回りしながら動いているようだ。
ようだ、というのは『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)が動物たちへ協力を頼んだ効果がでているからだ。盗賊団はまだ遠い、と。動物たちが情報をもたらしていく。相手はもともと夜中に行動する輩なので想定の範囲内だ、しかし、ひまだ。
「罠に苦戦して遠回りか。抜け道をわざと作っておけば食いついただろうな~。巡回もいらなかったかも」
ありがとねリスちゃん、と。ヨルムンガルドはたなごころのなかのリスへキスをした。リスはほわんとハートをだして、全速力で茂みへ駆け込んでいく。
「むう……なにか進展がないと眠気に負けそうになってきたぞ」
『重戦士』ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)が肩を落とす。
「大声だしちゃいけないってのが地味にくるよね。歌でも歌えば眠気も覚めると思うんだけどな」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)がギルバルドに同調する。
「おや、皆々さまにおかれましてはおねむのご様子、この白雉めがマジックフラワーを咲かせましょうか?」
『忘却信仰忘却』天音 白雉(p3p004954)が指先を唇に添えてくすりと笑う。彼女は精霊疎通を通して畑への侵入者を探っているがまだ返事はない。
退屈な時間がふけていく。
「……さん、ヒヅキさん」
『双ツ月』棺・ヒヅキ(p3p004347)は、揺すられてはっと目を覚ました。どうやらうとうとしていたらしい。彼を起こした『贄の呼聲』西條 友重(p3p001835)も眠たげな様子だ。
「ああ、起こしてくれたのか。ありがとう。ボクは身を隠すのは得意な方なんだけど、こうも長い間じっとしているとね」
「気持ちはわかるわ。でも任務中、ふわぁ……」
友重が大きくのびをする。
「おふたりとも、しずかに」
『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)が二人を止めた。
金網の向こうから押し殺した声がする。
「アニキ、ここにも鳴子がしかけてあるぜ。うっとおしくてかなわねえ」
「ん~どうしたもんかな」
「アニキ、そろそろ突破しねえと帰り支度をしなきゃなんねえぜ」
ヒヅキたちの間に緊張が走る。聞こえてくるのはガラの悪い複数のボイスと、意外とのんびりしたマイペースな声だ。
「鳴子がならないように金網を切る、できるか?」
「アニキに頼まれてできねぇとは言えねえ。まかしときな」
やがてパチリパチリと音が聞こえはじめた。ニッパーのようなものが金網を慎重に切り崩していく。
「仲間を呼ばなくては。ここでほら貝を……」
「待って。あいつらはまだ外にいる。いまほら貝を吹いたら逃げ出すだろう。中へ引き込まなきゃ」
友重の手をヒヅキが抑えた。
「ヒヅキ様と友重様は待機。わたくしは仲間を呼んできます」
いつもより早口でアーデルトラウトはそう言うと、足音をたてずにその場から走り去った。
金網の向こうから伸びたニッパーが鳴子の糸を切り、地に落とす。そして金網の一部がやぶれ、盗賊どもが姿を表した。スキンヘッドの者、肩へ入れ墨を入れた者。見るからにむくつけき男どもの中、ただひとりチャラそうな優男がいる。
「よーし、いい仕事だ。よくやったな、カンバス」
カンバスと呼ばれた男はヒップバッグへニッパーを戻してうれしげに笑った。
(うそ、あの細いのがハーレイ?)
(みたいだね……)
「アニキ! 近くに誰かいる!」
「ヨース、おまえの聞き耳にはいつもほれぼれするぜ」
ヨースらしき男が指さした先に立つのはふたつの影。もはや隠れていてもしかたがない。ヒヅキと友重は武器を手にし、構えをとった。
(見つかっては仕方ありません、下がりながら迎撃しましょう)
(ああ、銃撃で援護する。背中はまかせて)
と、友重とヒヅキがささやきをかわす。ハーレイの目が好奇に輝いた。
「もしかして噂のイレギュラーズちゃんか? 富農アルデもパームワインの実はよっぽど惜しいと見える。ま、高値で売れるからこそ俺たちが盗むんだけどな! はっはっは! まずは小手調べだ! ライン、シューティ、特攻せよ!」
「ヒーハー!」
手斧を持った荒くれ者がふたり、友重へ襲いかかった。友重は一撃目を柄ではじいたが、二撃目を受け流しそこねた。脇腹へ手斧が食い込む。全身全霊をこめた一撃だったが友重はあと一歩のところで踏みとどまった。
「友重、動くな!」
後ろに下がったヒヅキがふたりの荒くれ者を狙って銃撃する。銃弾が空を裂き、赤い血が飛び散った。
「それがどうした! 鉛玉の一発や二発、なんともねえぜ!」
「ならばこれはどうかな?」
下から振り上げられたそれに、ラインは気づくのが遅れた。小柄な見た目に反した強靭な肉体。ギルバルトが破壊の両手斧を振り上げたのだ。顎から頭蓋をきれいに割られ、ラインは倒れた。
「がははは! 弱いのぅ、お主ら!!」
「新手のイレギュラーズちゃんかい?」
「そうじゃ。おぬしらが酒が入っているヤシの実を奪っていくだけの狡い盗賊か。これでも、あの凶悪事件を引き起こしている蠍とは同一とは思えぬのであるのじゃがな」
ギルバルトの挑発にハーレイが答える。
「マネーマネーマネー! この世を支配するのは暴力だが、回すのは財力だ。おまえもパームワインの卸価格を知ったら仰天するだろうぜ!」
周囲が精霊の輝きに満たされ、青い光が大地を覆い、祝福する。セララの保護結界だ。続々と仲間が集ってきた。
「泥棒はっけーん! 唸るよセララソード! ボクの必殺剣を受けてみろ!」
とんと地面を蹴り、一回転したセララがシューティを袈裟斬りにする。耳をつんざくような悲鳴があがったが、男の臓腑を切り裂くには至らなかった。
「かわいいおちびちゃんの登場かい? シューティは一度さがって俺の盾になれ」
余裕で指示を飛ばすハーレイ。その姿を腕を組んで鼻で笑うニル。
「人様が丹精込めて作った作物を横からかっさらって『いいとこどり』? 知合いの村で田植えとかやった事のあるウチからすればまさしく害虫そのものなんだお。ってことで害虫駆除張り切っていってみよ~!!」
銀髪を翻して男どもの群れへ飛び込み、片足を軸に高速回転。それは小さな暴風域となって、巻き込まれた男どもに悲鳴をあげさせた。
「おーおー、元気なお嬢ちゃんだな。暴れ馬も好みだぜ俺は」
「なにこいつ? 脳みそどんな回路してるの?」
「お答えしようじゃないか!」
ハーレイが手を掲げた。男達がハーレイのもとへ集まる。何事かと見守るイレギュラーズを前に、ハーレイは誇らしげに叫んだ。
「強いやつは?」
\腕が立つ!/
「できるやつは?」
\知恵がある!/
「どっちも持ってる俺様は?」
\『いいとこどり』のハーレイ様!/
部下たちの一糸乱れぬコール。げんなりするイレギュラーズ。ああ、わかった。こいつアホなんだ。
まだまだ仲間が健在なせいか、ハーレイは悠々と構えている。そこへひと刺ししたのがヨルムンガルド。
「『いいとこどりの』か…手を付けたなら最後まで全部責任持ってもらわないとな? なんていうんだっけ……「毒を食らわば皿まで」だっけ?違ったかなぁ……、今回は『いいとこ』だけじゃ済まさないつもりだぞ…覚悟しろ」
攻撃へ意識を集中させ、彼女の竜種を思わせる両腕が盗賊のひとりへ打撃を浴びせる。昏倒して倒れる名もなき盗賊。だがいまだハーレイを守る肉の盾は分厚く、まるで城塞のごとく、突き崩せそうにない。ヨルムンガルドが舌を鳴らす。その横へ、ふわり、と白雉が現れた。
「人様が苦労して育て上げ、収穫を迎えようとしているものを横から労も知らずに掻っ攫うその所業。見逃すわけには参りません」
彼女は手を突き出し、焔の術式を発動させようとした。
「ひゅう、マブいね。キディちゃん」
「は?」
何事かと思ったら目の前にハーレイが立っていた。あろうことか両手を握られていた。なんたる不覚と歯ぎしりする白雉をよそに、ハーレイは白雉を盗賊団へ勧誘しはじめた。
「まずはお試しからってことでもぜんぜんいいからさ。よってってよ、うちの盗賊団」
そんな帰りに俺んちでゲームやろうぜみたいなノリで勧誘されても……。というかどうやらこのために全力移動してきたらしい。ハーレイは取り巻きから離れ、単身白雉の元にいる。
「白雉、個人的にお前のような卑怯者は嫌いです」
「そんなこと言わずにさ、キディちゃん。俺の隣はあけておくから」
「ええい気持ち悪い! 失せなさい!」
白雉は至近距離で焔式を爆発させた。ぐらりと傾くハーレイ。
「いろんな意味でよい判断です白雉様。勘違い野郎はすみやかに粛清されるべきです」
アーデルトラウトは理力障壁を展開し、ハーレイの横っ面を殴り抜けた。足元の定まらないハーレイに、仲間はこれが機会とばかりに一斉攻撃をしようとした。
「みんな、俺の盾になれ!」
肉の大洪水が襲いかかるようにハーレイを取り囲み、イレギュラーズと睨み合った。ここへきてようやく戦場が完成した。あとは両者とも互いの技術をつくすのみ。
ハーレイと9人の盗賊が先手を取る。
「倒れたやつの弔いだ! 5人は俺の剣になれ!」
狙いはセララだ。5人の盗賊から弾丸が降り注ぎ、少女の体が踊る。地に伏したセララ、その体を青い炎が包み、彼女はしっかりと立ち上がった。
「まだ、負けられない……正義の魔法騎士は、悪には絶対負けないんだ!!」
「お、カッコイイね。魔法騎士の矜持かい?」
ハーレイはどこまでも爽快に聞く。
(こいつ、殺意がない。戦いを楽しんでいるんだ)
「やられてばかりだと思うなよ! えーい!」
セララは一度自分が剣を浴びせた相手へ肉薄し、剣の先を使ってカチあげた。盗賊の体が宙へ浮く。自分もジャンプして盗賊を追ったセララ。
「セララスペシャル・改! ジ・エンド!」
全体重をかけて空中で前転。重い一撃を盗賊の体に叩き込む。盗賊の体が大地とぶつかり、バウンドして動かなくなったところへ、セララは片手を地面について着地ポーズをとった。
「イケてるね、おちびちゃん! 今のはナイスだったぜ!」
「いちいちうるさあーい!」
「まったくです」
アーデルトラウトが前に出たかと思うやいなや、水色の障壁が展開された。
「遊び半分で戦いを挑むとどうなるか。教示してさしあげます」
アクアブルーの障壁が盗賊の1人を向く。剣で切りつけてきたところを狙い、カウンターで放つブロッキングバッシュ。守りに長けた者だけが見破ることの出来る攻撃の出鼻。それをくじき、痛手を与える。鼻血を吹きだした盗賊が、まだまだといわんばかりに鋭い視線をアーデルトラウトへ送る。
「あなた、なかなか骨がありますね」
自らの内側で燃え上がる闘争心。胸が高鳴るような悦楽。より明確に、殺意。アーデルトラウトはにぃと笑った。
「そうさ。俺の部下たちは好き好んで俺について来てるやつらばかりさ。烏合の衆といっしょにするなよ」
「言っておけ言っておけ、わしらは粛々とおぬしらを倒すのみ」
ハーレイをかばう鼻血を吹いた男を、ギルバルドのクラッシュホーンが襲いかかる。威力に特化したそれの軌跡を見切られ、盗賊はぎりぎりのところで身をかわした。だがギルバルドも負けてはいない。無理にかわしたせいでバランスを崩した男の足を狙い、骨ごと断ち切る。絶叫が畑の夜をつんざいた。
「まぁ降伏すべきじゃろうに。まだやりたいか? わしは加減とか容赦とかいったものが苦手でな。ようよう覚えておいてくれ」
「俺の部下はやる気に溢れたやつばかりでね。もう休んでいいぞ、ミシュラン。おまえはよくやった。あとは俺たちに任せてくれ」
ハーレイの声を聞いた盗賊は安心したように気を失った。
「あなたはそう言いながら部下を使い潰しているのね」
友重が大太刀を正眼にかまえ、駆け足でハーレイとの距離を縮める。狙うは彼をかばう盗賊たちだ。正眼だったそこから刀を斜めにおろし、一気に切り上げる。パリ……。剣先の通った筋道へ電撃が残り、二人の盗賊が刀傷をおった。
「この程度、アニキのためなら屁でもねえ!」
「目を覚ましなさい、あなたたち、いいように使われているだけです」
「そうだお。ハーレイちゃんの口車に乗せられてるだけなんだお。正気にもどるお」
「おまえらにアニキの何がわかる!」
傷ついた盗賊たちがニルを襲う。
「言うだけ無駄。ほいっとな、でーえすしー!」
ニルの両腕が憎悪の黒に覆われ巨大な爪と化した。その爪でばっさりと盗賊の首を狩る。一撃で頭をすっとばされた盗賊は首から大量に血を溢れだして倒れた。その様子はどこか人間離れして見えた。
「おっと、かわいい顔して意外におそろしい嬢ちゃんだな」
「ぬふふ、年頃扱いされてうれしいんだお。正直申しまして、ウチおばーちゃんなんだけど」
危険な笑みを閃かせるニル。対するハーレイは変わらず悠々としている。
「大物なのか本物のバカか、わかんないお」
「後者でいいんじゃない?」
距離をとって精密な射撃を続けていたヒヅキがそう言った。どちらにせよ号令を武器にするものが、そうそう己を崩すことはないだろう。もしその身一つになれば話は違ってくるかもしれないが。ヒヅキはそれに賭けた。
「3人減って……残るは6人か。そろそろアレのタイミングじゃない?」
ノーギルティで盾となった盗賊を殴り飛ばしていたヨルムンガルドが応じる。
「そうだな。セララ、いけるか!?」
「オッケー、ボクのかわいいゲージはいつだってマックスだよ!」
セララとヨルムンガルドのふたりが、ジャンプして交差し、着地すると同時に振り返る。
「「かわいいポーズ!」」
両腕でぐーをつくり、ぶりっ子ポーズを取るセララ。ダブルピースでこくびをかしげるヨルムンガルド。
盗賊たちは微動だにせず、戦場を一陣の風が吹き抜けていった。
(効いたか……?)
ヨルムンガルドがごくりと固唾を飲む。盗賊のひとりが腕をぶるぶるとふるわせ、拳を突き上げた。
「違うだろ! かわいいってのはもっとこう……!」
「そうだそうだ!」
「見た目に甘えたかわいさなんざ、まだまだ!」
怒鳴りまくる盗賊たち。水を打ったように静かになるイレギュラーズ。ハーレイは部下たちをなだめるようにまあまあと手を振った。
「テンションさがるわー。帰るぞ、おまえたち。転進せよ」
「「おう!」」
「……逃がすものですか!」
まわりこんでいた白雉が盗賊団の進路へ飛び出す。
「お、キディちゃん! 入団の件、考えといてくれよな」
「ありえませんのでお引取りを」
掴まれそうになった手を振り払い、白雉は眉をひそめた。
「はっ! しまった!」
その間に盗賊団は金網の穴へ飛び込み、夜の闇へ消えていった。ハーレイの高笑いを残しながら。
「たぶん気に入った相手はあの調子でどんどん部下にしていくのでしょうね……」
白雉はため息とともに肩を落とした。なんかとにかく、疲れていた。
●それでも畑は守られた
「さてとぉ、待ちに待った酒じゃ!! ハーレイの討伐は本来二の次。大事な畑が守られて任務完了! この度の撃退を祝って乾杯じゃあ!!」
ギルバルドがヤシの実を半分に割ったものへワインを注ぎ、祝杯を上げた。
「しかしのぅ、UNKNOWNはこどもビールとは、ひどいのぅ。他の世界の連中の広さを知らんとはな。わしも、ウォーカーじゃしのぅ」
いやちょっと今回年齢UNKNOWN勢が多くて驚きましたね。パームワインが飲めるのってギルバルドさんとヒヅキさんだけじゃん。
「これは今後、検討していってもらうとして……、せっかくだから、ボクももらうよ。甘いお酒は好物なんだ」
野趣あふれる器になみなみとワインをそそぎ、ヒヅキが珍しく薄く微笑む。
それをながめてぐぎぎとしているUNKNOWN勢。そんなに飲みたいものだろうかと友重は首をかしげる。
「おいしいですけどねえ、子どもビール」
「うーん、禁じられているからこそ憧れちゃうよね。お酒。子どもビールなんて名前からして子どもだましじゃん?」
といいつつもセララはジョッキの中身を一気に飲み干して……。
「おいしい! これ、本物のビールよりおいしいよ絶対!」
「うう、セララの笑みがまぶしい……。パームワイン飲みたかったお」
「かの卑怯者に気に入られて沈んだところへこの仕打ち。うう、白雉はおいしいお酒を飲むはずでしたのに」
「私もだ……」
落胆を隠さずにいるヨルムンガルドに笑みを誘われ、ヒヅキが立ち上がった。
「つまみを作るよ。こう見えて料理は得意でね。雰囲気だけでも味わっていきなよ」
「宴会ですね。でしたらわたくしの出番です」
アーデルトラウトも立ち上がりエプロンのすそをなおした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでした。
チャラ男盗賊団の皆さんはまた出てくるかもしれません。
そのときはまた別の人を追い掛け回しているかもしれません。
彼、気が多いので。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
●ロケーション
夜中です。パームワインの畑は金網と鉄格子で外部と切り離されています。
逆に言えば、どこから盗賊団が入ってくるかわかりません。発見に時間がかかれば略奪されるだけされて逃げられる可能性もあります。ただし、畑の中は照明があるので、暗闇によるペナルティはありません。いかに早く盗賊団を見つけるかが肝心です。
●エネミーデータ
『いいとこどり』のハーレイ
さまざまな号令の使い手です
号令は二人以上の盗賊に対して効果を発揮します
メインは
・特攻せよ(号令を受けた盗賊が捨て身の一撃を繰り出します
・俺の盾になれ(号令を受けた盗賊がハーレイのもとに集まり彼をかばいます
・俺の剣になれ(ハーレイの号令に応じて集中砲火を浴びせます 人数によってはパンドラ必須レベルです
・転進せよ(逃亡します
盗賊11人
銃と剣で武装しています
また、蹴る・殴るといった肉弾戦も得意です
ハーレイへの忠誠心が高く、彼の号令に盲目的に従います
●その他
無事にハーレイを撃退(逃走含む)できれば祝勝会です。
未成年及び年齢Unknownには強制的に子どもビール(りんごジュース炭酸割り)がふるまわれますので、ダメな大人になりたい方は成人でご応募ください。なお自称666才だから成人!はBUを見て判断します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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