PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蒐集癖

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・宝石の魔女

 甘い物も苦い物も酸っぱい物も全部好き。食べた時に舌の上で蕩けるようなものも、噛み砕いたときに軽やかな音を立てるものも、全部好き。

「お師匠様、お師匠様、怖い夢を見ました」

 ぬいぐるみを手に少年が駆け寄ってくる。師匠――黒のローブに身を包んだ女が少年の方を向き、安心させるように微笑んだ。

「どんな夢?」
「真っ黒のお化けに追いかけられる夢でした。あとは――」

 少年が続きを話そうとして、口元が歪んだ。じわりと涙が滲んで、ぬいぐるみに顔を埋める。

「わかった、わかったよ」

 女がぬいぐるみごと少年を抱きしめて、ゆっくりと背中を撫でる。「師匠がその夢食べてあげようか」

「いいんですか?」
「いいよ」

 女が微笑み、少年の頭に手を翳す。すると少年の頭からきらきらとした光が溢れて、その粒子が集まっていく。それはきらめきを残したまま結晶の形を取り、宝石に変わった。

「その宝石、どんな味がしますか?」
「今食べてみるね」

 女が出来たばかりの結晶を口に含む。それは舌の上でぱちぱちと弾けて溶けていく。

「苦いね」

 少年が見た夢は、まず真っ黒のお化けに追いかけられるもの、それから悪魔に食べられそうになるもの、それから家族を失うものだった。その夢全てが、口にした途端に見えてくる。

「怖い夢は師匠が食べちゃったから、もう安心しておやすみ」
「うん。でも、あの、優しい夢を見られる飴、ほしいです」
「ちゃんと歯磨きするんだよ?」
「はい」

 淡い色の飴が少年の手に渡される。少年はそれを嬉しそうに受け取って、口の中に入れた。

「お師匠様、おやすみなさい」
「おやすみ」

 少年が部屋に戻るのを見送って、女は息を吐く。

 女は宝石の魔女と呼ばれている存在だ。元々この魔女の趣味は、夢から生み出した宝石を集めること。夢の内容によって宝石の種類や形は変わり、その違いを楽しむのが数少ない楽しみの一つだった。
 作り出した宝石が食べられると気が付いたのは最近だった。弟子の少年に悪い夢を食べてほしいとねだられて、試しに口に入れてみたのが始まりだった。そして知ったのが、宝石を食べると元になった夢を見られるということだったのだ。

 宝石を集めて飾っておくのは楽しい。だけどそれと同じくらい、宝石の味を楽しんで、夢を体験するのも楽しい。どちらかしか選べないけれど、それはどちらも捨てがたい欲求なのだ。

 もっと夢を集めたい。食べたい。

 美しく美味しい夢を食べたいという欲のために、見たい夢を見ることができるお菓子も作ってしまった。あと必要なのは、夢を提供してくれる誰か。

「どこかで募集しようかなあ」

 魔女の小さな呟きは、暗闇の中に消えた。


・夢は宝石になる

「不思議な宝石を集めるのが好きな魔女がいるの」

 一冊の本を差し出してきたのは境界案内人のカトレアだ。彼女は表紙に描かれた宝石の一つを指さし、静かに笑みを浮かべた。

 その魔女は見た夢を宝石に変える魔法を使う。取り出した宝石を集め飾っておくのが元々の趣味だったが、その宝石が食べられると気が付いてしまったらしい。

「夢によって味が違うみたいなの。それが楽しいんですって」

 たくさん集めることと食べること。その両方は同時には叶えられないけれど、まずは夢を宝石に変えたい。そのために、夢を提供してくれる人を探しているとのことだ。

「見たい夢が見られる飴もあるから、みんな好きな夢を見てね」

 協力よろしくね。カトレアは再び微笑んだ。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 宝石に沼りました。

世界観:
 魔女がひっそりと生きている世界です。魔法自体世の中に受け入れられているわけではありませんが、魔法や魔女の存在は残っています。

目的:
 宝石の魔女に与える夢を見ることです。
 見たい夢を見せてくれる飴があるため、それを食べると好きな夢を見ることができます。見た夢は魔女により宝石に変えられますが、見た夢を覚えているか忘れるかは選ぶことができます。大切な夢なら覚えたままでも良いですし、忘れたい夢なら魔女に食べてもらっても良いです。
 過去の思い出を振り返ることはできますが、その夢を食べてもらっても過去の記憶は消えません。

魔女について:
 宝石の魔女と呼ばれる女性です。他人の夢を宝石に変える魔法を扱っており、よく弟子が見た悪い夢を食べています。
 夢から取り出した宝石を集めることも、その宝石を食べることも大好きです。宝石を食べると、元になった夢を見ることができる他、夢の内容に合わせた味や食感がするとのことです。
 甘い夢も苦い夢も好物です。嫌いなものは特にないそうです。

できること:
・好きな夢を見る。
・魔女と対話する。


サンプルプレイング:

 見たい夢を見られるのなら、そうですね。私が幼い頃のことを夢にみる、なんてどうでしょうか。思い出したいような思い出したくないような話ではありますが、この夢は私の記憶に残していただけるとありがたいです。
 私はまだ言葉を覚えたばかりだった頃だったと思います。季節は、梅の花が咲いている時だったでしょうか。私はその日ひとりで花を見ていたのです。


 夢が何の宝石に変わるのかについて希望がありましたら、プレイングに書いていただければと思います。それではよろしくお願い致します。

  • 蒐集癖完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月13日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
プエリーリス(p3p010932)

リプレイ

・心が生み出す

 薄く開いたカーテンの隙間から、月明りが差し込んでいる。その向こうに座る魔女の前に、少女の姿をとった『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)が座った。
 木でできた椅子は、観測端末が身体を動かす度にきいきいと音を立てる。魔女はその音を聞きながら、飴を入れたガラス瓶を手のひらで転がしていた。どうやら魔女は、こちらから何か話すのを待っているようだった。

「本来、当端末ニハ自我ハ無ク、観測シタ情報モ、リアルタイムデ本体ガ知覚シテテイルニ記憶モアリマセン」

 だから、睡眠中に脳が記憶を整理することで見る夢も、見ることはない。だけどそれは、本来であればの話。観測端末は混沌世界に召喚された瞬間から本体との接続が断たれ、自律保守機能としての自我を起動することとなった。このことにより観測情報を保存するべく、記憶機能も起動された。そして幸運なことに、数多くの人々との出会いと経験を経て、保守機能でない自我と、不完全ながら心を持つことができた。
 その為なのか、夢も見るようになった。

「シカシ、魔女サン。当端末ハ疑問ナノデス」

 この自我や心は、ただの機能ではなく、本当に自身のものなのだろうかと。自分が見る夢に、心は伴っているのだろうかと。

「様々ナ夢ノ宝石ヲ食サレテ来タ魔女サンナラ、当端末ノ夢ノ宝石ヲ食ベレバ真偽ガ解ルノデショウカ?」

 魔女からすると、夢とは記憶の合成物なのだろうか。それとも、心が生み出す想いの結晶なのか。或いはその両方なのか。
 質問ばかりで申し訳ない。しかし、観測することが本来の存在意義である自分としては、どれも興味が尽きないものなのだ。

「夢って、願いも詰まっているんだよ」

 魔女がゆっくりと口を開く。硝子瓶の中から赤色の飴を取り出し、観測端末に差し出した。

「夢は確かに記憶を集めたものかもしれないけど、私が食べた夢はどれも感情的だった」

 魔女は語る。夢とは記憶をつぎはぎにしたものだけでなく、願いや祈り、喜びや悲しみといった感情を形にしているのだと。

「あなたがそういった疑問を持っているのなら、あなたの心は本物なんじゃないかな」

 心を持つ人がみる夢には、気持ちが込められているはずだよ。魔女はそう微笑んだ。「だから食べてみたい」

 魔女がそう言ってくれたのだ。何としても彼女が満足する夢を見なければ。
 飴を口に含み、観測端末は目を閉じる。

「テイクアウトマデ、暫シオ待チ下サイ」


・檻

「宝石の魔女さん、夢の記憶は残したままでお願い致します」

 ベッドの縁に腰かけ、『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は魔女にそう笑いかけた。
 魔女が詩織の目をじっと見つめてくる。言葉の意図を探るような様子すら感じられるそれに、詩織はただ首を振った。

 魔女が差し出してきたのは、黒っぽい色の飴だった。それを口に含み、詩織はベッドの上で横になる。

 見たい夢をイメージすれば良いのだったか。瞼を閉じ、見たい夢――過去の記憶を手繰り寄せる。もう思い出せなくなっている細部の記憶。記憶に刻まれているはずなのに、零れ落ち、あるいは封じられ、思い出せなくなっている会話の細部。それらに手を伸ばしていくうちに、詩織は眠りに落ちていく。


 意識が浮上する感覚があり、詩織は閉じていた瞼を開けた。見知った天井が目に入り、大きく息を吐く。
 部屋と呼ぶには大きすぎる空間だった。四方の壁に呪言の紋様が幾重にも書き連ねられ、さらに壁より一メートルほど手前には鉄格子が構えられており、黒い影が縞模様を生み出している。

「ええ。間違いなく此処ですね」

 夢の中にある意識とは本来であれば曖昧で、意思や思考があるとは断言しにくいものがある。しかし今は、望むままに身体は動くし、思考もはっきりとしている。
 この現象は、確か明晰夢と言っただろうか。それとも、魔女の能力がそれに近い何かを引き起こしているのだけなのだろうか。どちらなのかは今の詩織には判断がつかないが、過去に呼び戻されたような状態であるのは確かだった。

 此処は、かつて詩織が飼育されていた檻だ。
 とある呪術集団が帝を呪うべく飼育していた生体呪物。それがしおりだった。顔も知らぬ母に産み落とされた瞬間から、十五の歳を少し過ぎる頃まで呪物として扱われ、閉じ込められ続けていた。
 死の澱みをこの身に貯えさせるべく、しおりを囲い続けた檻と方陣。それがこの世界だ。

 詩織がかつて囚われていた場所を観察していると、後ろから気配を感じた。振り返るとそこには、顔すら見えぬように頭巾をかぶり、全身を覆いつくす装束を身に着けた人の姿がいた。しおりを飼育していた者たちの一人だ。

「私の他に、しおりは居るのでしょうか」

 過去をなぞり、彼とも彼女とも判断できない人に問いかける。

「お前の他に、死澱は居――」

 あの時「教育」以外で唯一の返答があったもの。その答えをもう一度聞こうとして――目が醒めた。


・冒険

「夢が宝石になるなんて、凄くロマンチックだと思うマリオンさん!」

 わくわくしながら魔女の前に座ったのは、『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)だ。
 宝石は食べられるという不思議仕様。しかもどんな夢でも見られるという。魔女にこんな夢はどうだろうかと話していると、彼女は楽しそうに頷いてくれた。

「それじゃあ、ちょっと世界を救ってくるね!」

 そう言ってマリオンは、眠りの世界に落ちて行った。


「よーし、この部屋で最後だ!」

 城の最上階。豪奢な造りの扉を破ると、玉座に黒い影が鎮座していた。この世界の魔王だ。彼はよくここまで来たな、と笑いマリオンたちを見下ろした。

 この世界のマリオンは三人いる。無性のマリオン、ギフトにより男性となったマリオン、女性となったマリオン。本来三人は同じ人物であり、同じタイミングでは存在できないが、この世界では別々の身体に分裂している。思考も行動も個々にすることが可能になったマリオンたちは、この世界で様々な冒険を繰り広げた。

 陸では謎の巨大遺跡を踏破し、空では巨大飛行モンスターとバトル。海では大船団を率いて極悪海賊団との一大艦隊戦。他にも竜宮城を巻き込んだ戦など挙げていくとキリがないが、これらの冒険は全て魔王がこの世界を手中に収めんとして起こした悪事が関わっていたのだ。そして今、その全ての元凶が目の前にいる。
 この戦いを制することができれば、世界を救うことができるのだ。

 たかが三人で自分を倒せるのかと、魔王は笑う。それにマリオンは首を振り、笑みを浮かべた。

「だって三人だけじゃないからね」

 やってきたのは、かつて共に闘った仲間であり、この城を制するべく登ってきた仲間たちだ。

「みんなで魔王を倒すよ!」

 闘いの火蓋は切られた。まず男性マリオンが二刀を構え、魔王に斬りかかる。しかし魔王となれば一筋縄では倒せない。男性マリオンが放った一撃が凌がれたところで、魔王が剣を振りかざす。それが振り下ろされる前に、雷撃が敵に噛みついた。女性マリオンが繰り出したスキルだ。

「助かった」
「このまま押していくよ!」

 射撃武器を構えた無性マリオンが、魔王を守る側近を打ち抜いていく。マリオンたちは、魔王へと迫っていく。

「これで、終わりだ!」

 やがて彼らの一撃は、魔王に届いた。


 マリオンが見た夢は青い宝石に変わり、ぱちぱちと弾けるような味わいがしたという。


・恋

 好きな夢を見られる。『ファーブラ』プエリーリス(p3p010932)は月明りの差し込む部屋に立ち、手を顎に当てる。

「忘れてしまうのは寂しいけれど、宝石は魔女さんに食べてもらいたいわ」

 本当にいいの、と魔女が問いかけてくる。プエリーリスは彼女の目を真っすぐに見て、それから頷いた。
 忘れてしまうのが寂しいのは、本当だ。だけど過去を思い出す夢なら、すでにあった出来事までなくなるわけではない。

 飴を口に入れ、プエリーリスはふわりと眠りについた。


 まだ、プエリーリスが混沌に召喚される前。ずっとずっと前のお話。プエリーリスは、初めての恋をした。

 特筆すべき点はなかったと、思う。相手はいつでもヘラヘラと笑っていて、掴みどころがなかった。嘘か本当は分からないようなことを口にするから、その言葉の意味に迷うこともあった。だけど優しい人だった。一緒にいると楽しくて、彼に会いたくて毎日毎日学び舎に通っていた。

 だいすきだった。彼のことを考えると胸がきゅっと音を立てて、ぽかぽかと温かくなった。身体の芯だけでなく、指先までにじわりと熱を灯すようなそれは、確かに恋だった。

 しかし彼には、プエリーリスと出会うよりも前に、すでに大切な相手がいたのだ。その人もまた彼を想っていて、紆余曲折の末にふたりは付き合うことになった。

 二人が結ばれるのは、めでたいことだ。好きな人同士で手を取り合えるのなら、それはとても幸せなこと。だけどプエリーリスは取り残された。それは悲しくて、寂しくて。胸が苦しくて、涙があふれた。
 恋人が欲しかったわけではない。ただ、家族が欲しかったのだ。生まれたときからひとりぼっちだったから、寂しさを埋めてくれるような人が欲しかった。

「家族になろう」

 取り残されたと思っていたのに、彼はすくい上げてくれた。驚くことに、彼女も受け入れてくれた。
 本当に、どうかしている。どうかしているとは思うけれど、それが愛おしかった。

 彼とは恋人にはなれなかったけれど、血のつながらない家族になれた。兄妹だったのか、姉弟だったのか、それは最後まで決まらなかったけれど。愛しい愛しいまいぶらざー。元気にしているかしら。


 彼への慈しみと愛しさと共に、意識が浮上する。

「さぁ魔女さん。これはどんな宝石かしら、どんな味かしら」

 おかしな過去の出来事は、優しいピンク色の宝石に変わる。

「是非、食べてちょうだいな」

成否

成功

状態異常

なし

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