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シナリオ詳細

<黄昏の園>plus quam lucrandum vel perdendum

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●勝負のゆくえ
「やっぱさ、力じゃないと思うんだよねここは」
 チョコスティックをぽりぽりと囓りながら、伊達 千尋(p3p007569)が片手でジェスチャーを交え力説していた。
 時は現在。ピシュニオンの森の探索を経てイレギュラーズたちがついにヘスペリデスへの侵入を果たしていた頃。
 クリスタラードの住処へと着実に近づいていた千尋たちの前に立ちはだかったのは強力な竜バシリウスであった。
「あのときは色々あったとはいえだよ、直接バトって負けてる異常リベンジってのも筋が悪いよな。バトルしかしてこなかったっぽいから多少はやり合うことになるとは思うけど、今度こそは別の勝負に引きずり込みたいわけよ」
「別の勝負ぅ? 前に言ってたカードゲームか? 竜がそんな勝負に乗ってくるかね」
 顎肘をついて応えるのはペイト鉱山警備隊のアダマス。
 同じ席には呉覇やプルネイラの姿もある。
「けど、前回撤退する直前で話はできたんでしょ? その時の印象はどうだったの?」
「うーん……」
 呉覇に問われて、トスト・クェント(p3p009132)は考え込む仕草をした。
「バシリウスはでっかいレックス系の竜なんだけど、人間形態をとると金髪碧眼の少年になるんだよね。そうなるともう子供って感じで、無邪気さが目立ったかな」
 幼さを狡猾に使いこなす呉覇とは逆の生き物だ。狡猾な奴は話し合いに持ち込むと危険だが、無邪気な奴はそうではない。
「その話を聞く限りは、もう一度挑戦してみてもいいんじゃないでしょうか」
 プルネイラの提案に、ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が待ってましたとばかりに頷いた。
「俺も、前回は良いところまで行ったと思っててな。序盤の戦い方次第ではこっちのペースに持って行けていたはずだと思う」

 バシリウス。それはクリスタラードへ挑戦するために突破する必要のある守護者であり竜だ。
 その戦闘力は強大で、ナチュラルにぶつかったところで勝ち目は薄い。最悪死ぬ危険すらある恐るべき存在である。
 しかしながら、その純粋さと無邪気さは悪くいえば付け入りやすく、守護者としてのバシリウスを突破するのもおそらくは不可能ではないだろう。
 直接パンチで乗り越えるよりずっと勝ち目のある勝負だ。
「とはいっても、ね」
 それまで話を聞いていたタイム(p3p007854)がすとんと肩を落とした。
「クリスタラードは相変わらず私達を遠ざけようとする筈。亜竜たちの襲撃は予想しておくべきだし、バシリウスのもとまでたどり着く前に疲弊しきるなんてことは今度も避けないとだよね」
 繰り返しになってしまうが、こればかりは仕方の無いことである。
 じゃあ纏めようか、とタイムが手を叩く。
「まずは亜竜達の領域を突破してバシリウスのもとまでたどり着く。
 まずは相手の提案に乗って肉弾戦を受けて、なんとか全員無事な状態になるように凌ぎきる。
 次にこっちから勝負を提案して、勝ったらそこを通して貰うように交渉する。それでいい?」
 賛成! という声が仲間達からあがった。

●バシリウスとクリスタラード
「クリスタラード様! クリスタラード様!!」
 巨竜の住処へとやってくる少年がいた。金髪碧眼、低身長。守護者バシリウスである。
「あ?」
「イレギュラーズたおしたよ! ほめてほめて!」
「おお、偉いな。やるじゃねえか。竜だったらそのくらいできないとな」
「えへへえ」
 バシリウスは照れたように笑うと、クリスタラードもまた人間形態をとった。
 上半身裸。筋骨隆々の巨漢である。
 彼は大きな皿にもられた巨獣の肉に手を付けながらバシリウスを見た。
「ほれ、褒美だ。お前も食え」
 突き出してくる丸焼き肉をやったーといいながら受け取るバシリウス。
「この調子で入り口を守っておけよ。誰も通すんじゃねえぞ」
「パパやママや友達も?」
「そこは自分で考えるんだよ」
「うん、わかった!」
 バシリウスはそれじゃあ行ってきます! と元気よく言ってクリスタラードの住処を出て行った。
 暫くして、クリスタラードの影からぬるりと這い上がるように魔物が現れる。
「クリスタラード様。あのような者を徴用しておいてよろしいのでしょうか。あまりに愚かすぎるように思いますが」
「馬鹿」
 クリスタラードはにやりと笑って、バシリウスの出て行った出口のほうを見る。
「愚かな奴の方が簡単に使えるんだよ。大体、アルティマの管理者どもは全員倒されちまってるだろうが。他に使える手駒があるのかよ?」
「いえ、まあ……」
 魔物は咳払いをすると、再び影へと戻っていった。
「ま、せいぜい楽しくやりなバシリウス。俺の方はもう少し……もう少しだ」

GMコメント

 クリスタラードの住処へとたどり着くため、守護者バシリウスへと挑みます。
 そんなわけで今回は三つのパートに分かれます。

●道中パート
 クリスタラードの命令によって様々な亜竜が道中に放たれ、侵入者を撃退しようと待ち構えています。
 これらの戦闘力は大したことはないですが、時間をかけすぎると相手の圧におされて消耗しきってしまうので高い火力で短期決戦を狙うなどして素早く突破してしまいましょう。
 バシリウスのところまでたどり着けば流石に他の亜竜も手を出してこないはずです。
 ここでの注意点は『短期決戦を狙う』『AP回復の手段は残しておく』『戦闘不能者は出さない』です。

●バシリウス前半パート
 前回バシリウスと戦ったエリアまで到着すると、出迎えるかのようにバシリウスの猛攻が始まります。
 どのように対応しても一応はいいのですが、今回は耐久作戦を推奨します。
 彼的には『自分の猛攻を受けきれる相手がいる』ということが対話の最低条件になっています。なので暫くの間防戦に徹することでバシリウスの猛攻を受けきりましょう。
 別にこちらから攻撃しても構いませんが、その分防御は薄くなることには気をつけてください。
 各自で防御に徹するプレイングをかけ、かわりばんこに攻撃を受ける(休憩中の仲間は治癒する)という具合にやっていくと成功しやすいでしょう。

●勝負パート
 ここまで乗り切れば、こちらが提案する勝負をバシリウスに試して貰うことができます。
 正直勝負の内容は何でもよいですが、いくつもあるとバシリウスが受けてくれない可能性があるので2~3つ程度に抑えておきましょう。
 こうして勝負を通してバシリウスと仲良くなることで守護領域を通して貰うという作戦です。
 この作戦が成功すれば、次回いよいよクリスタラードの住処へと歩を進めることができるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄昏の園>plus quam lucrandum vel perdendum完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月15日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ

●竜
 ぺらり、と羊皮紙の綴りを捲った。
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)にとってこの事件はただの竜退治ではないらしい。
 曰く、六竜にクリスタラードという竜がいた。その力は強大で、七つの亜竜集落を支配し自らの牧場にしていたという。
 今ではイレギュラーズの活躍によって集落は解放されているが、そのクリスタラードはピシュニオンの森の更に奥、ヘスペリデスの先に居を移しているという。
 彼を討とうと考えるイレギュラーズたちは追跡を続けているが、守護者バシリウスによってその進行を阻まれ、今回はそのリベンジにあたる……というところで報告書は終わっている。
「どうにも子ども相手は経験が少なくて苦手なんだがね……いや、実年齢で言えばあちらが上なんだろうけれども。
 とは言え、悪意のない相手を攻撃するのも望む所ではないし、ここは一つ、上手いことこの場を切り抜けられるよう尽力しよう」
「悪意、か。確かに無邪気な相手らしいですが……」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)がぶわりと額から流れた汗を手の甲で拭った。
 本能が告げている。相手は竜だと。ともすれば死ぬ状況なのだということを。
「対応を誤れば命に関わる事態になりかねない。最後まで気を抜かずにいきましょう」
「まあ、だな」
 横で話を聞いていた『最後のナンバー』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が手入れしていたギターをトンと叩く。独特の音がして、ヤツェクは口の端だけで微笑む。
「けどがきんちょは可愛いもんだ。それがまあ……竜であってもな」
「可愛い……ですか」
 覇竜領域は死と隣り合わせの大地だ。相手が竜ともなれば気まぐれで殺されかねない。
 この地が前人未踏なのは、ただ誰も足を踏み入れなかったからというだけの話ではないのだ。
 『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)はその常識をよく知っている。故に、どれだけ相手が無邪気な少年のガワを被ったとしても油断するわけがなかった。
「けど、必要なならできる限りのことはするっス!」
「…………」
 腕組みをして、『愛された娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はそんな仲間達の様子を観察していた。
 前回の戦いを見る限り、バシリウス相手に正面から勝利するのは難しい。いや、場合によっては可能なのかもしれないが、作戦は明らかに別の方向に転がっていた。
 対話の機会を設け、親交をを図るという作戦である。
 竜と親交。なんともファンタジックな話である。やろうとしてもできないというか、そもそもの時点で対等な関係になりえない相手である。
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)などは、ブラックブライアの管理亜竜を倒した上で友達になろうとした経緯があるが、バシリウスはそれができないだけの決定的な隔たりがあるのだ。
 そんなでもとりあえずトライしてみてしまうのがセララなのだが。
「友達ならあだ名があってもいいよね。『バシちゃん』とかどうかな?」
「どうだろう……」
 仲間達が話し合うのを横目にエクスマリアはこんなことも考えていた。
 今回の作戦は、なかばバシリウスを騙す形で行われている。本当に『お友達』になれたとして、それをクリスタラードが許すだろうか。踏み絵のように殺すことを強要しかねないし、バシリウス自身に罰を与える可能性もなくはない。
 そしてそれを独断で止められるだけのパワーを、自分達は持っていない。
 雨が降るのを止めるとか、地震を起こさせるとか、竜巻を消すとか、そういう次元の無茶だ。
 自分達ができたのは、死に物狂いで襲いかかって『まっすぐ飛んでいくのを辞めさせた』程度である。はたして、この先の状況をコントロール下におくことができるかどうか……。
「けど、友達になれるチャンスかもだし、頑張らなきゃ!」
 『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)が『ねっ!』とガッツポーズをとってみせると、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が『だよね』と言って指をさす。
「地元じゃこどもつかいの千尋と呼ばれたもんよ。まかして、仲良くなることには定評があるの、俺。ってわけでタイムちゃんよろしく」
「うん!」
 『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は七晶石を取り出すと、以前やったようにクリスタラードの反応を追って進みはじめた。
(あのバシリウスって子、クリスタラードに忠誠……というよりは懐いてる感じなのかしら。
 それならあんなのなんかよりわたし達の方と仲良くなれば……)
 クリスタラードがどんなひどいことをしてきたのか、タイムは経験で知っている。
 バシリウスは、その口ぶりからクリスタラードの本性を知らないように思えた。
 かといって本性を知ることはすなわち彼に危険が及ぶということでもある。
 あってほしいような、そうなってほしくないような。タイムは複雑な気持ちで歩くのだった。

●道中
「――こっちよ!」
 岩陰から飛び出し、手を翳す。光の粒がタイムの周囲に浮かび上がり、その全てが一斉にワイバーンの集団へと飛んだ。
 彼らの目にギラリとした光が宿り、タイムをにらみ付ける。
 一斉に飛びかかる様子は、【怒り】の効果状態を示していた。
 地面がえぐれるのではと思うほどの一斉攻撃を更なるダッシュで回避したタイムは、避けきれない数撃目を光の盾で防御する。
 浮きあがる光の粒が『発芽』し無数の光の葉となって広がる様は美しく、そして同時に堅牢であった。
「今!」
 鋭く叫ぶタイムの声は、当然仲間へ向けたもの。特に、岩陰からじっとタイミングを伺っていたリリーへだ。
 魔道銃『DFCA47Wolfstal改』の狙いをしっかりとつけ、『アンジュ・デシュ』の魔術を発動。呪力を帯びた黒い弾丸の雨が、タイムへ密集したワイバーンたちへと降り注ぐ。
 くらった不意打ちによろめく間に、リリーは素早く次の手をとっている。リロードした魔術弾は『リトル・スタンピード』のものだ。
 撃ち込んだ相手に激しい能力低下系のデバフを喰らわせるというリリーらしさ全開のアクセルカレイドである。
 ここまでの連打を食らえば並の敵では死んでいておかしくないが、それでも耐え凌ぐのがこの領域の亜竜たちだ。屈強に吠えたワイバーンのうち、【怒り】の影響下になかったワイバーンがリリーをにらみ付ける。が、そんな瞬間にワイバーンの首に光線が突き刺さった。
 ヤツェクのビームリボルバーによる一撃である。
「――『Chord Stardust』」
 渋みの含んだ声で呟くヤツェク。
「今のお前さんには、よおく効くだろ?」
 旋律の魔術によって【呪殺】効果を含んだ光線はキィンと甲高い音をたて、ワイバーンの身体を破裂させた。
 リリーの得意とする呪殺コンボを連携によって短時間で完成させたものである。
 ヤツェクはくるりとピストルを回しホルスターに収めると、フォームをガンマンのそれからギタリストのそれへと変更する。奏でるのは味方を鼓舞し治癒する音楽だ。
 特徴的なメロディは場の空気をヤツェクの演出するそれに塗り替えていき、まるで領域を支配したかのごとく仲間を走らせる。
 勇猛な音楽に押されるように走ったのはライオリットだ。
「竜と戦う前の準備運動にはピッタリっス!」
 ずらりと抜いた二つの剣。
 刃に亀裂模様が浮かぶ翠軍刀『吽龍』と、水波模様が浮かぶ碧軍刀『阿龍』の雌雄である。
 ドンッと地面を踏み込んだその勢いは凄まじく、実際に地面が放射状にひび割れた。
 その勢いのまま飛び込むライオリットの斬撃が、ワイバーンの首を交差斬撃によって切り飛ばす。
 それだけではない。宙返りのクイックターンによって岩を蹴ったライオリットは自らの身体を回転させ、タービンのような斬撃によってもう一体のワイバーンの腕と首を飛ばしたのだった。
 ザッと地面を擦りブレーキをかけるライオリット。
「残りは任せたっス!」
「うん、まかせて!」
 トストは手のひらを翳し、その隣で手でくるくると水面をかき混ぜるような動作をとった。空中に波紋が広がり力をなすと、サンショウオ型魔術エネルギー体がまるで誘われたかのように架空の水面から飛び出してくる。
「それじゃあいくよ!」
 ピッと人差し指を立てると、まるで引率されたかのように指を注目するサンショウオたち。
 それっとワイバーンを指さすと、サンショウオたちは身体をくねらせ高速で飛んでいく。さしずめマイクロミサイルの群衆だ。ワイバーンの身体にはりついたサンショウオたちが次々に爆発し、身体を衝撃によって引き裂かれたワイバーンたちが次々に倒れていく。
 これで全部かな……とトストが額を拭ったその時。黒い光線が彼の首筋めがけてトンできた。
「危ない!」
 素早く間に割り込み、聖剣の斬撃によって光線をはね飛ばしたセララ。
 その動きのママ身を捻り盾を翳し、トストを守るように陣取る。
 物陰から姿を現したのは夜戸と呼ばれる蛇型の亜竜だ。見た者を呪い殺すとすら言われるその亜竜は、攻撃範囲の広さとデバフの深さで警戒されている。
「こんなところで怪我するわけにはいかないからね。任せて!」
 セララは靴から魔法の翼を羽ばたかせると、ふわりと浮かび上がり夜戸めがけて突進した。
 といっても、左右ジグザグな乱数軌道で飛行するのを忘れない。乱射する漆黒の光線がセララを幾度かかするものの、一発たりともセララをとらえることはできない。
 そして距離が剣の間合いまで近づいたところで相手はやっと牙を剥いた。毒の香りを嗅ぎつけつつも、セララは――。
「おねがい、聖剣ラグナロク!」
 聖剣の輝きを増幅させ、夜戸の首を切り落としたのだった。
「ふう、これで一件落着」
 セララはドーナツを取り出してぱくりとかじりつき……物陰からカッと二つの赤い点が見つめた気配に気がついた。
 それだけではない。無数の点が次々に開き、それら全てが夜戸の群れによるにらみ付けだと気がつく。
「んぐっ!?」
「油断大敵だな」
 割り込みをかけるゼフィラ。義手の腕が優しい色で輝き、縦長のシールドを形成。漆黒の光線が集中するなかその盾が光線を阻む。
「どうやら、相性が良いのは私らしい。この先は任せて貰おうか」
 ゼフィラは両腕からシールドを形成すると更に集中する大量の光線をシールドだけで受け止め、たまにシールドを貫通してゼフィラへ撃ち込まれた光線の呪力を自らの自己治癒能力によって即座に回復してしまう。
 一対一の拮抗状態。いや、一対多の拮抗状態だ。ひとつの駒でここまで多くの駒を抑えたという時点で戦術的勝利なのだが、ゼフィラはそこで満足しない。
「アタッカーは任せる」
「「任された!」」
 ゼフィラの裏から左右へ飛び出すように姿を見せたのはルーキスと千尋
 ルーキスは瑠璃雛菊と白百合という二つの刀を抜くと、夜戸の集団めがけて突っ込んだ。
 接近に気付いた夜戸が牙をむきルーキスに食らいつくも、突き出した白百合の刀身が相手の上顎を貫く。と同時に身体をねじり次なる食らいつきを回避したルーキスは、瑠璃雛菊の斬撃によって別の夜戸の首を切り落とした。
「さて、残りはお任せします。千尋さん」
 刀で踊るように周囲の夜戸を斬り付けたルーキスは、巻き込まれないようにその場から飛び退く。
「――っし」
 千尋は助走を付けた跳び蹴りを繰り出すと夜戸の集団をどういう理屈か纏めて吹き飛ばした。
 これまたどういう理屈なのか木組みのプレートが爆散し周囲の風景がスローに変わる。
 吹き飛んだ夜戸がドカッと転がり、そして意識を失ったところで千尋は立ち上がりぱたぱたと身体についた砂埃をはらった。
「これで全部かな? おっし終了終了」
「まだだ」
 黄金の光線が走り、むくりと起き上がった三体ほどの夜戸の顔面を纏めて一気に打ち抜いていく。
 振り返ると、金の刺繍が入った手袋をしてエクスマリアが立っていた。
「これで全部、だ」
 エクスマリアはそう言うと、夜戸たちがもう動かなくなったことを確認した。
「流石に何度も通っているだけあって、対応も慣れたもの、だな」
 独特のイントネーションで喋るエクスマリア。彼女に「だね」と頷く千尋。
 そして、エクスマリアは次なる課題に息をつく。
「亜竜たちの攻撃は、こうしてしのげたが、バシリウスは、こうはいかない、ぞ」
「だね。それも分かってる。前回それでひでー目にあったし?」
 肩をすくめる千尋に、エクスマリアはこくりとひとつ頷いてからきびすを返した。
「分かってるなら、いい。行くぞ」

●バシリウス
「また来たの? じゃあ、あそぼう!」
 バシリウスは亜竜たちのようにはいかない。それは重々承知していたことだが、実際目の当たりにするとその実力差は激しかった。
「まってまって、ボクたちはこの先に――うわ!?」
 セララがいつもの調子で話しかけようとしたその瞬間。バシリウスはセララを思い切り蹴っ飛ばした。
 咄嗟に盾を構えて尚吹き飛ばされ、セララの纏っていた付与効果は一瞬にして粉砕される。といっても、これは以前体験したことである。靴から魔法の翼を生やして空中にブレーキをかけ、羽ばたきによって制止するセララ。反動で砂埃があがり花びらが舞うその中を、エクスマリアが『交代だ』と言って突っ込んでいった。
「勝負、だ」
 これまで二度も戦ってきたバシリウスの攻略法、というより対処法は分かっている。ダメージ覚悟で防御に徹し、ひたすら耐えることである。無論そんなことでは相手を倒す事はできないが、少なくとも相手の興味を引き出すことはできる。
 本当の所を言いえば、もっと別の冴えたプランがあるのかもしれないが、それを試している時間はおそらくない。ベルゼーたちの動きを見るに状況は切迫しているし、ましてクリスタラードが完全に力を取り戻してしまっては何もかもが遅いのだ。
「がおっ!」
「――ッ」
 バシリウスが吠えると周囲の風景が歪んだ。というのも、エクスマリアが衝撃によって激しく吹き飛ばされたためだ。咄嗟に張った結界が絶妙な様子でダメージを防いでくれたが、それがなかったらエクスマリアの全身がバラバラになってもおかしくない。それだけの衝撃が走っていた。二発も喰らえば確実にダウンするだろうし、強がりを言える余裕は当然ない。
「次はリリーのばん!」
 別方向から飛びかかるリリー。飛びかかると言っても銃による牽制射撃をしかける程度だが、振り返ったバシリウスの尾がリリーのすぐそばをかすめていく。いや、かすめたことによる暴風で吹き飛ばされ、地面を派手に転がっていく。――と思った矢先、バシリウスのキックがリリーに直撃した。
「あう!?」
 回避能力は相当に高いつもりだが、それでも直撃するということは相手の命中能力もそれだけ高いということだろう。圧倒的格上との戦いに、リリーは歯を食いしばる。
 追撃にとバシリウスが噛みつこうとしたところで、ゼフィラがリリーを突き飛ばし義手と義足をバシリウスの顎上下に突っ張らせた。
「これは……なかなか……」
 直感的に『死』を感じ取ったゼフィラはそれ以上の抵抗をやめ、素早く飛び退く。もしここで激しいダメージをうけてしまえば本当に死にかねない。これは、本当に。
「はいバッチコーイ! 全力で遊んでこようが俺達は簡単にゃ潰れねえって所見せてやるぜ!」
 そこへ飛び出してきたのは千尋だった。
 後退するゼフィラと入れ替わる形で前へ出ると、バシリウスの尾を自らのボディでキャッチする。
「いいぜいいぜ、ほれ、顔面狙え顔面!」
 攻撃をギリギリでしのいだあと、顔を突き出して挑発する千尋。更なる攻撃を華麗に回避――しようとした瞬間小石に躓いて派手に転倒した。
「ぐお!?」
 顔から倒れた千尋の頭上をバシリウスの足が豪速ですりぬけていく。
「ちょ、ちょっと!?」
 タイムが慌てて駆け寄り、千尋の両足を引き摺って退避させる。
 バシリウスの腕がそんなタイムを叩き潰そうと振り下ろされるが、空中に浮きあがった無数の光の粒が発芽し障壁を形成。バシリウスの攻撃を一瞬だけ受け止め、そして粉砕される。
 タイムは千尋をえいやと放り投げる勢いで転がし、自分も転がることでなんとか攻撃を回避した。
「あ、あぶなかった……」
「ゼフィラさんもタイムさんも無理しないでください! パンドラ残量のこともあるんですから!」
 ルーキスが焦った様子で叫ぶ。といっても、彼も彼で相当な危険域なのだが。
(全員がパンドラ値を犠牲に一発ずつ肉盾になればなんとかならないこともない……ですが、今回そうもいってられない気がしてきましたね)
 バシリウスの尾が凄まじい速度で叩きつけられるが、ルーキスは刀を叩きつけ上手へ受け流すことで無理矢理回避する。が、それでも身体は派手にあおられごろごろと転がる。
「すみません! 何発も受け切れそうにありません!」
「わかった、任せろ!」
 ヤツェクはギターを一旦地面に置くと、ルーキスと交代すべく走り出した。
「さあ次はこっちだバシリウス! 俺を倒せるか!?」
 ビームリボルバーを撃ちまくりながら後方へ回り込むヤツェク。振り返ったバシリウスによる蹴りが直撃し吹き飛ばされるも、岩に激突しそれを粉砕するだけに留まった。いや、普通なら一回は死んでいておかしくないダメージなのだが、ヤツェクは口の端から血を流しながらもにやりと笑って立ち上がる。
「さあ、もう一回だ」
 キザにビームリボルバーを水平に傾けて構えて見せる。バシリウスがアハッと笑ったのが直感できた。
 更なる直撃……によってきりもみ回転しながら吹き飛ぶヤツェクだが、そんな彼と入れ替わりにトストがバシリウスに突進した。
「えいっ!」
 そのサンショウオボディでもって体当たりをしかける。
 バシリウスの巨体を倒すにはあまりに非力だが、注意を引くという点では充分だ。
「さぁ、約束通り遊びに来たよ!」
 呼び出したサンショウオ型エネルギー体をまき散らし、張り付いたそれらが次々に爆発。バシリウスはそれらを払いのけるべくトストを思い切り蹴飛ばした。
「うわわっ!?」
 秒で地面から引き剥がされ、空中をきりもみ回転するトスト。両腕をばたつかせてなんとかバランスをとると、着地(というより地面への激突)を経てごろごろと花畑の上を転がった。
「お、おお……」
 ライオリットはそんな様子に思わず震えを感じていた。勇敢にぶつかってい仲間達と、それを平然と蹴り飛ばす竜の姿に。そしてこんな相手に、自分達は後で玉入れやババ抜きを挑もうとしているという荒唐無稽な物語に。
「……っし、皆が頑張ってるんス! ここで引くわけにはいかねぇっス!」
 ばしんと両手で自分の頬を叩くと、ライオリットは雄叫びを上げてバシリウスへと突っ込んだ。
 二段階にわたって強化された自らの肉体が、バシリウスのキックをまず一発受け止める。
 それもがしっと両手でしっかりと受け止めるかたちで。
 目を大きく見開いたバシリウスは、足にしがみついたライオリットを掴み上げはるか天空へと放り投げた。
 そして……。
「やっぱりみんな、面白いね! もっと遊びたくなっちゃった!」
 バシリウスは大きく息を吸い込むと、ポンッと金髪碧眼の少年へと姿を変えた。
 落下してくるライオリットめがけ跳躍。オーバーヘッドキックを叩き込む。
 対するライオリットは身体を丸めて防御を固め、『オレはサッカーボール!』と念じることでダメージを回転によってわずかに軽減。地面を派手にバウンドしながらもなんとか耐えきったのだった。
「し、死ぬかと思ったっス……」
「なら交代!」
「少し時間を稼ぎましょう!」
 セララとルーキスがライオリットの左右から抜ける形で走り、それぞれが剣を握り込む。
 気合いを入れて一斉に叩き込んだ二人の剣は、バシリウスの翳した両手によってがしりと握って止められた。少年のやわらかい手のひらのはずが、セララの魔法がかかった剣でも、ルーキスの研ぎ澄まされた刀身でも、まるで傷をつけることができていない。
 どころかぐいっと無理矢理に下ろされた。
「せーっ、の!」
 ぴょんとジャンプしたバシリウスがセララとルーキスの胸を同時に蹴りつける。剣を手放しこそしなかったものの、二人は地面と水平に吹き飛ばされ樹木を数本へし折った後それらに紛れて転がった。
「もう一息、だ」
「やれやれ……」
 エクスマリアとゼフィラが走り出す。ゼフィラは治癒のフィールドを形成し、エクスマリアは翳した手から何重にも強化された魔術障壁を形成する。
 二人の防御は、しかしダッシュしてきたバシリウスのパンチ一発によって粉砕される。
 全ての層が破壊された魔術障壁の後ろでエクスマリアが目を見開き、ゼフィラが顔を引きつらせる。
 が、そんな二人を助けたのは千尋だった。
 二人の襟首を掴んでぽいっと後ろに放り投げると万歳姿勢でバシリウスのパンチを受け止める。それも顔で。
「そーそー、顔だよ顔」
 奇跡としか言いようのない、あるいは根性かなにかによってバシリウスのパンチを顔で受け止めた千尋は、にやりと笑ってバシリウスに殴りかかった。
 それを額でがつんと受け止めるバシリウス。
 タイムが急いで治癒の魔法を唱え、千尋の周囲に光の粒を展開。花をつけた粒たちが癒やしの香りを散らし、千尋の実はバキバキに折れていた身体の骨を再生する。
「ヤツェクさん、トストさん、お願い!」
「え、おれ!?」
 タイムが叫ぶと、トストが二度見してきた。
「いる人間でやるしかない、ってか」
 ヤレヤレといった様子でヤツェクがビームリボルバーをあえてホルスターにしまい、バシリウスめがけて殴りかかる。
 トストはというと空中をかき混ぜるような動作によって再び術式を発動させると、オオサンショウオエネルギー体を出現させてバシリウスに突進させた。
 ヤツェクの拳を受け止め、オオサンショウオエネルギー体も受け止め、それらを握力だけで握りつぶしたバシリウスはヤツェクをヘッドバッドによって沈めた。意識をというより、身体を地面にめり込ませる形で沈めたのである。
 流石にダメージをくらいすぎて意識を失ったヤツェク。
 しかし彼が目覚めた時には……戦いは終わっていた。

「はい、ドーナツ! とってもおいしいよ!」
「わーい! なにこれ、まあるい!」
 セララのあげたドーナツをぱくぱく食べつつ、バシリウスはニコニコしていた。
 本当の所、セララは『ボクはバシリウスと友達になりたいんだ』と言うつもりで居た。が、その言葉はあえて使っていない。
 善悪や常識の区別がついていない彼を騙す形で友好を結んでしまっている側面が、少なからずあるからだ。
 エクスマリアが次はこれだとアイスクリームを手渡し、バシリウスはそれを嬉しそうにぱくついている。
「美味い、か?」
「うん!」
「では……いざ勝負、だ。バシリウス。力では叶わずとも、それ以外では、マリアも負けない」
 などと言って始めたのは、なんとトランプカードを使ったババ抜き勝負だった。
 感情がダイレクトに顔に出るバシリウスを負かすのは容易も容易で、十連敗したところでバシリウスがウワーと叫んでカードを放り投げたのだった。
 ポーカーフェイスを解いたリリーがちょいちょいとワイバーンのリョクに手招きする。
「はいこれ、お土産の果物っ。紅き宝玉って言うんだって!」
 リョクに運ばせた『紅き宝玉』をプレゼントするリリー。バシリウスはそれを受け取ってしげしげと眺めている。
 一方のゼフィラは、一通りゲームに興じた後は周囲を黙って警戒していた。
(クリスタラードが横やりを入れてくる気配は……ない、か。こちらの動きをまるで感知していないということはないだろうが、それにしてはあちらの動きがなさ過ぎる。何をするつもりだ?)
 そうしていると、千尋が手製のカゴを高い棒の上にくっつけて石ころを拾い始めた。
「じゃ、次は玉入れな!」
「玉入れ!? なにそれ、誰を倒したら勝ち!?」
「倒さない倒さない」
 千尋やタイム、ルーキスたちがわーわーといいながらカゴにむかって石を投げる。そんな遊びが随分と続いた。
 千尋の処世術や、ルーキスの人心掌握術も相まってバシリウスは大いに楽しみ、そして投げる度にコントロールを改善し最後には百発百中の玉入れゲームになっていた。
「少なくとも俺はお前の事は嫌いじゃねえし友達だと思ってる。ほら」
 そう言って千尋はUQステッカーをバシリウスへと手渡した。
「今度はバシリウスの勝ちだったね、えらいえらい!」
 タイムは背の低いバシリウスの頭をわしわしと撫でてやって、にっこりと微笑みかけた。
「わたし達を倒すより一緒にいろんなことして遊んだ方が楽しいでしょ?
 倒したら遊べなくなっちゃうのつまんないと思うな~」
「そうなの? でも、相手を倒したほうが偉いんでしょ?」
「そんなこと……」
 タイムはそこでやっと、バシリウスの歪みの原因がわかった。
 彼は無邪気な子供でありながら、その倫理観がクリスタラードによって歪められていたのだ。
「…………」
 ルーキスが沈痛な面持ちでバシリウスを見る。まるで弟のような親近感が沸いてしまったせいだ。
 もし彼がクリスタラードから何かしらの処罰を受ける結果を招いたとしたら……と思うと心が痛い。しかし、ここを通り抜けるには『力尽く』というわけにもいかないのも事実だった。
 まわりはすっかり休憩モードになり、ヤツェクのあげたぱちぱちする飴やポテチを開けてきゃっきゃと遊んでいる。
 ヤツェクは心が穏やかになるような音楽をギターで奏でながら、そんな様子を眺めていた。
 トストが優しく問いかける。
「ルールのある戦いだとね、色んな人と友達になって、垣根なく遊べるんだ。敵としても、仲間としても遊べるってこと」
「るーる? じゃくにくきょうしょくが、ルールじゃないの?」
「それだけじゃないんだ、世界はね」
 微笑むトスト。ヤツェクが語りかける。
「殴り合い以外のゲームも面白いだろ。ここの外も。強いあんたと強いおれ達が友情コンビくんだら最強じゃないか?」
「外? 外って……なにがあるの?」
 バシリウスの純粋な問いに、ヤツェクは目を細める。
「いろんなものがあるっスよ。見たらびっくりするっス! オレもしたっス!」
 たとえばこんな! と語ってみせるライオリット。
 彼らはそれから何度かゲームをしてから、その場はお開きとなったのだった。

「じゃあね、ばいばーい!」
 大きく手を上げ、振ってみせるバシリウス。彼はお土産にもらったお菓子を腕に抱え、帰っていくようだった。
 とても平和的だが、『バシリウスを撤退させる』という当初の作戦はこれにて成功したことになるだろう。
 クリスタラードの潜むこの奥地へも、進む事ができるはずだ。
「さあて、いきますか」
 パチンと自分の頬を叩く千尋。トストは頷いて、そしてふと浮かんだ疑問を口にした。
「そういえば、バシリウスは『倒す』って言ってたよね。クリスタラードの命令も『倒せ』だったって。この場合『殺せ』が自然じゃないのかな」
「言われて見れば……そうだね……」
 タイムはいつかの練達でクリスタラードが見せた強烈な殺気を思い出し、ぶるりと身体を震わせた。
 それに対する答えを持っていたのは、どうやらヤツェクだったらしい。彼は低く唸ってからこう続けた。
「クリスタラードはバシリウスを完全には制御できてない。実際、俺たちと仲良くなって帰ってしまったくらいにはな。
 何分、重要な殺意だとか、暴力によって相手が死ぬという……つまりは『殺す』ということを実感として知らないんだ、バシリウスは。たとえ俺たちを殺しても、オモチャが壊れた程度にしか感じないだろう」
「そんな子を、利用してるってこと……?」
「おそらくは、な」
 CANARYと書かれた箱を取り出し、煙草を口にくわえるヤツェク。
「さて……先に進むか。何をするにしても、進まないことには始まらん」

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
人間賛歌

あとがき

 ――イレギュラーズたちは前回の失敗を取り返し、守護者バシリウスの守る領域を突破し先へ進むことに成功しました。

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