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シナリオ詳細

朧月夜に桜は舞う

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・夜桜は君を待つ

 ほんのり霞んだ月が空に登る頃。誰もいないはずの桜並木に、少女たちの声が響く。

「今年も会えてよかったわ」
「短い間だけどね」
「やだ、寂しいこと言わないでよ」
「短いからいいんじゃない」
「そうかしらぁ」

 満開の桜は風に吹かれる度に淡い色の花びらを散らし、月の光をちらちらと返す川に落ち、人々によって踏みしめられた地面の上に落ちと、それぞれの場所に散らばっていく。
 降りしきった桜で出来た絨毯の上に、一人の少女が降り立つ。そうしてまだ木の上に座っている仲間たちに声をかけた。

「ねえ、『宴会』、してみようよ」
「宴会?」
「人間たちが昼間にやってるやつ?」

 少女たちは桜の精だ。人ならざるものは、この世に生きる者の関わってはいけないのが、この世界の決まり。だから少女たちは昼の間はその姿を隠し、夜になると花びらから少女の姿へと形を変え、年頃の少女らしく振る舞い始める。

「わたしたちお酒は飲めないけど、料理はきっと食べられるはずだから」
「そうだね。料理を用意しなくちゃね」

 少女たちが次々と木から降りたち、人間の真似をして花びらの散る下に集まり始める。

「でも料理って何したらいいの?」
「そもそも人間って何たべるの?」

 人間の真似事に興味はあれども人をなぞることができないのは、人でないが故か。
 桜の精は、花の咲く季節にしか精霊として姿を現すことができない。春の短い間に人を理解しろと言ったところで不可能ではあるのだが、少女たちはそれが悔しいらしかった。

「やっぱり人に混ざらなきゃだめなのよ」
「でもそれはできないわ」

 うんうんと唸る少女たち。しばらく経って、思いついたとばかりに一人の少女が手を挙げた。

「この世界の人でなければ良いんだよね?」


・春の宴

「花見は好きかい」

 桜が表紙に描かれた本を抱えているのは、境界案内人の雨雪だ。彼は本を指先でいじりながら、静かに前を向いた。

「桜の精が宴会をしたいらしいんだけれど、料理の方法もどんな食べ物を用意したらいいかも分からないらしくてね」

 桜の精が精霊の姿で過ごせる時間は、春のひと時のみ。その時間では人間を理解するのには短すぎる。だから人の暮らしに憧れを持てども、理解はできていないのだという。

「食事は近くの河原で焚火を焚いて作ったり、持ち込んでもらったりするのがいいかな」

 食事の用意ができた後は自由に宴会を楽しんでほしい。雨雪はそう笑みを浮かべた。

「桜の精とお喋りをすると喜ばれるんじゃないかな」

 それではよろしく。静かに笑みを浮かべて、雨雪は本を開いた。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 昼間の桜も好きですが、夜桜も好きです。

世界観:
 精霊や妖精などの人ならざるものが、人に隠れて生きている世界です。舞台となっている場所は桜並木が美しいとして知られており、近くには川が流れています。

目的:
 桜の精との宴会のための料理を作り、または持ち込み、その後宴会を楽しむことです。
 桜の精は人の生活に憧れを持っています。作ったり持ち込んだりした料理を食べながら話をすると喜ばれるでしょう。
 作る料理の内容はお任せします。河原では焚火もできますので、楽しく作ってください。

桜の精について:
 桜の木に住み着く精霊です。花の咲く時期にのみ、花びらから形を変えて少女の姿をとることができます。
 人の生活に憧れを持ちながらも人と交流ができないため、人の営みには疎いです。人間のことを知ることに喜びを感じ、春の短いひと時を謳歌したり、その短さを憂いていたりします。
 桜の精は何人もいますので、数人と交流することもできます。

できること:
・料理を作る
・料理を持ち込む
・桜の精と対話をする


サンプルプレイング:
 桜の精と宴会かあ。賑やかになりそうだね。この短い間にしか人の形をとれないのなら、いい思い出にしてあげたいね。
 料理は何がいいかな。焚火で作れる料理っていったらなんだろう。


 こんな桜の精と交流したい、こんな料理を作りたい、などあればプレイングに記載していただけたらと思います。それではよろしくお願いします。

  • 朧月夜に桜は舞う完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年04月23日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標
幽火(p3p010931)
君の為の舞台

リプレイ

 河原で火を起こすと灯りが弾けて、月明りでほんのり明るい夜が眩しくなった。風に流された花びらが火の中に落ちそうになって、『ふもふも』フーガ・リリオ(p3p010595)はその花びらを慌てて掴んだ。

「桜の精の為に料理を頑張ろう」

 花を眺めながらの宴会は大好きだ。フーガが掴んだ花びらを返しながら皆に笑いかけて、調理が始まった。

 焚火で料理を作りたい。そんな思いと共に、火の周りにイレギュラーズの影が集まる。

 目玉料理には肉の塊がベターだろうかと、『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)は肉を串に刺していく。肉を調達はしたはいいが、自分で加工は難しい。焚火の周りに刺して置けばいいだろうかと悩んでいると、串にミニトマトや肩ロース、アスパラガスを刺した『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)がやってきた。

「味付けはしてあるか?」

 エステットが頷くと、一嘉はならいいと串を網の上に広げた。エステットの串もそこに乗せてもらい、焚火の火で炙っていく。

「わぁ、良い匂いね」

 何度目か串をひっくり返したとき、桜の精たちが火の周りに寄ってきた。

「肉汁と脂のハーモニーが肝心なのデス」

 この場の思い付きの台詞だが、堂々としていればそれらしく見える。桜の精たちが肉の焼けていく様子を楽しそうに眺めているから良いということにした。

 串焼きが焼かれている頃、食材をフライパンに入れていたのは『温かな季節』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)だ。人のことが分からないのは察するところがあって、だから彼女たちの力になりたいと思った。

 ジョシュアが作るのはアスパラガスやじゃがいもなど、野菜をたっぷりと使ったアヒージョ。下茹でまで済ませた野菜たちを固いものから順にオリーブオイルで煮込んでいくと、オリーブの香りがふわりと立つ。
 アヒージョと一緒に食べるバゲットを切って焼いて、器に盛りつけたら出来上がり。

「味見しちゃだめ?」

 そわそわとジョシュアの周りに立つ桜の精に声を掛けたのは、『夢から醒める時間』幽火(p3p010931)だった。

「それは宴会までのお楽しみだよ。もうすぐマシュマロが焼けるけど、食べるかい?」

 火で炙られたマシュマロの端が溶けている。漂った甘い香りに、桜の精たちは歓声をあげた。

「食べていいの?」
「いいよ。さ、お食べ」

 少しとろけたマシュマロは、そのまま食べる時と違う美味しさがある。桜の精が美味しそうに食べているところを見て、幽火はジョシュアと共に笑みを浮かべた。

 桜の精との花見なんて滅多にない機会だ。しっかり楽しんで、桜の精達にも楽しんでもらいたいと幽火は思う。宴会が始まったら余興に力を注ぐけれど、それまでは桜の精と話をして、焼きマシュマロを食べさせてあげることにした。

 一方、一嘉が持ち込んできた荷台の中では、様々な料理が作られていた。
 鍋で煮込まれているのは、豆腐やキャベツ、アスパラガスなどが入れられた、昆布だしがベースの味噌汁。湯気がのぞいているのは、焚火で作られた後、アルミホイルのまま保温されている林檎とサツマイモのホイル焼き。

(開花の時期だけ、少女の姿となる桜の精か)

 人の生活に憧れるがある様だから、少しでも多くの品を食べさせてやりたい。そうなるとがっつりとした料理よりは、軽食であったり甘味であったり、そういった軽くてつまみやすいものの方が、数や量を楽しめるだろうと思ったのだ。

 食べさせてやりたい品々の中で、焚火と持ち込んだ荷台を使って作れる料理。それを考えたとき、串焼きやホイル焼き等になったのだ。

 一嘉がフライパンでベーコンをカリカリに焼き、その油で目玉焼きを焼いていると、音につられたのか桜の精たちが集まってきた。

「それなぁに」
「ベーコンエッグサンドだ」

 目玉焼きに塩胡椒を少々振り、パンにマヨネーズを塗る。レタスと共に焼き上げたベーコンと目玉焼きを挟んで完成。

「おいしそう」
「私たちも手伝いたい」

 わいわいとしている桜の精に一嘉は頷き、先ほど炊いておいた白飯を取り出した。

「先に手を少し水で濡らして」
「あつ、あつ」
「無理はするな」
「うん」

 敢えて具なしの、シンプルな塩握り。華やかな見た目のものを少女は喜ぶのかもしれないが、白飯の味の良さは塩むすびが一番よく分かる。
 一嘉が握り方を教えながら、桜の精がたどたどしく真似していく。大きくて形の整った握り飯と、小さくて不格好な握り飯が、一つずつ作られていく。

(ふふ、桜の精とお花見なんてわくわくします)

 春の素敵な宴会を皆で楽しめるように頑張りたい。『ふもふも』佐倉・望乃(p3p010720)はそう腕まくりをした。時折皆の料理を手伝っている夫――フーガが荷台に戻ってくると、ふわりと笑みを浮かべた。

「おかえりなさい」
「ただいま。よし、さくらもち、作ろうか」

 さくらもちには二種類あるらしい。もち米で包んだ道明寺と、粉を溶いて焼いた生地を包んだ長命寺があるらしいのだが、桜の精にはどの形でも楽しんでほしい。そう思ったから、フーガはもち米や生地は予め用意して、あとは中に餡を包むだけにしてきた。

 フーガが元々いた世界にはさくらもちにはなかったから、さくらもちを作る手はおぼつかなかった。作ってきた生地たちを望乃に味見してもらうと、望乃は嬉しそうに食べてくれて、おいしいと褒めてくれた。

「桜の精の皆さんも一緒に作りますか?」

 望乃の声に桜の精が集まってくる。どうしたらいいのと聞いてくる桜の精に、望乃が優しく教えていく。

「こう、餡子を包んで、桜の葉の塩漬けを巻いて」

 望乃の手の動きに合わせて、フーガと桜の精たちが餡子を包んでいく。小さくて可愛いさくらもちの出来上がり、のはずなのだが。

「む、むむむむ」

 ついつい欲張りすぎて、餡子がはみ出てしまった。桜の精にも餡子がはみ出してしまう子がいて、ちょっぴり申し訳なくて、でもなんだか微笑ましかった。

「いっそ大きなさくらもちを作ってみるか」

 微笑みたくなったのはフーガも同じようで、優しい声が側から聞こえる。作る人の個性が出るのも料理の楽しいところなのだと、素直に思えた。

「フーガの出来はいかがですか」

 フーガが作ったものは大きな手が作ったのだと分かるもので、何だかどきどきする。
 皆が作る料理も気になって、お腹の虫がくぅくぅと鳴き声をあげてしまったのは、どうか誰にも聞かれていませんように。


 料理が出来上がり、ジョシュアが皆で座れるようにシートを広げる。そこに飲み物や料理を広げて、宴会が始まった。

「わ、美味しそう」
「ありがとう。いただきます」

 桜の精はお箸の使い方が分からなかったらしいが、ジョシュアがスプーンとフォークの持ち方を教えてあげるとたどたどしく使い始めた。
 一人がまずフォークをアヒージョのじゃがいもにさして、ジョシュアの真似をしてふーふーしてから口に運ぶ。出来立ての料理はやはり熱くて、二人で熱い熱いと言いながら、ゆっくりと噛んでいった

「おいしい」

 じゃがいもを飲み込んだ少女の顔がぱっと明るくなり、もう一口二口と料理を口に運び、それから嬉しそうに他の料理も取り始めた。

 桜の精たちは自分たちが手伝った料理には特別感を感じているらしく、おにぎりにはなかなか手をつけようとしない。だが串焼きの肉がご飯に合うことに一人が気が付いた途端、おにぎりはあっという間になくなった。一嘉はもう少し握り飯を用意すれば良かったと思ったのだが、桜の精曰く「これくらいが丁度いい」らしい。

 自分が作った串焼きも人気なのは、エステットにとっては嬉しいようで、どこか恥ずかしい。知らないものに触れる喜びを素直に表現する少女たちが何だか眩しくて、思わず言葉が零れた。

「あなたがたは素晴らしいのデスネ。わらわの特徴はただの猛禽の翼なので、目新しさはナイ」

 讃えたつもりだったのだが、目を伏せて顔を逸らしたのが少女たちにはくるしそうに見えたらしい。あなたも綺麗よ、とても素敵だわ、と優しく言われて、エステットは赤面した。慌てて桜の精同士の褒め合いになるように、一人ひとりを褒めるようなことを伝えていくと、きゃあきゃあと桜の精たちが照れ始める。するとさらにエステットのことを褒めてくれるのだから、あわあわとしてしまった。

 エステットの顔がのぼせたように真っ赤になったところで、フーガが桜の精にお茶を配り始める。

「楽しんでいるかい?」
「うん。とっても」

(春のひと時だけ、なんて。まるで『夢』のようだな)

 夢だとしたら何だか寂しいと、フーガは思う。だけど、最後まで時間を楽しむ桜の精の姿に、生の美しさを感じるのだ。

 フーガが黄金の百合を呼び出し、マウスピースに唇を押し付ける。桜の精たちを楽しませられるような明るい曲を演奏したい。そう思って、弟に息を吹き込む。
 フーガの曲に合わせて、望乃がオカリナを奏でる。優しくも力強い音色が、トランペットの音と共に桜の下に響き渡る。桜の精は目を閉じながら音楽に聞き入っているようで、時折身体を揺らしている姿が目に入った。

 音楽を奏でる望乃とフーガの頭上に、桜の花びらが降り注ぐ。それらは時折楽器に触れて、風に流されていく。
 咲く花はいつか散ってしまう。楽しい夢だって、いつか覚めてしまう。だけどこの思い出は、いつまでも胸に残り続けるのだ。

「いつかまた桜の精に出会えたときに、たくさんのお話ができるように。これからもふたりで、たくさんの思い出を作っていきましょうね。フーガ」

 望乃の言葉に、フーガはしっかりと頷く。

「おいら達はこれからも存在するけど、これからも楽しい思い出を作れたらいいな」

 二人でなら、どんな小さなことでも楽しくて幸せな思い出になる。二人とも、そう思った。

 フーガと望乃の演奏に聞き入っていたジョシュアが持つコップに、桜の花びらが入り込む。
 桜は綺麗だ。散る様子も綺麗で、多くの人が惹きつけられるのも分かる。

「花が咲く時期以外は眠っているような感じなのですか?」
「そんな感じ」

 少女と他愛のない話を続けていると、もし他の精霊になれるなら何がいいか、という話になった。
 例えば、木や植物の精霊に生まれたかったと思うことはある。桜の精からすれば、ずっと人の姿で過ごせていることは羨ましいのかもしれないけれど、同じ要素を持った精霊は仲間にはいなかった。

「お互いままならないものですね」

 でも、ジョシュアが持つ要素を知っても、優しく包んでくれる人に出会えた。あたたかな場所で待ってくれる人に出会えた。そのおかげで、自分の持つ性質は前ほど嫌ではなくなった。

「次に会うときにはまた変わっているかもしれませんね」
「きっとそれが素敵よ」

 精霊同士お話できてよかったです。ジョシュアの言葉に、少女はにっこりと頷いた。

「さて、お嬢さんたち。これから不思議なことが始まるよ」

 トランプを持って立ち上がったのは幽火だ。幽火は桜の精の前に軽やかな動作で膝をつき、トランプを選ぶように言う。不思議な顔をした少女がカードの一枚を引き抜くと、ポンと音がなる。するとカードは白い薔薇のドライフラワーに変わっているのだった。

「わあ、すごい」

 どうなっているのかと白い薔薇をまじまじと眺める少女たち。他のも見せてとせがまれるまま、幽火はマジックを披露していく。
 出たり消えたりするカード。飛び出るぬいぐるみ。少女たちの興味がより惹きつけられていく。

「最後はちょっと派手なやつを」

 幽火が空中に投げた紙の束を、手にした剣で乱れ斬りにしていく。少女たちがその演武のような動きに見惚れていると、紙切れが桜に変わり、はらはらと降り注いでいくのだった。

「これぞ百花狼藉剣、さ」

 桜吹雪の中に立つ幽火が、ゆるりと笑みを浮かべる。

「桜の精さん、料理と余興を楽しんでくれたかな? 僕たちはとっても楽しかったよ」

 この春だけの思い出。それを自分達は忘れることはないし、もしもがあるのならば、来年もまたこうしてお花見をしたい。そんな幽火の言葉にイレギュラーズたちは頷いて、桜の精たちは興奮をそのままに穏やかに笑みを浮かべた。


 いずれ花は散り、春は終わる。しかし季節は巡るのだ。
 思い出を抱えて、いつか巡る日を待ち望む。寂しいようで、心の温まる時間だった。

成否

成功

状態異常

なし

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