シナリオ詳細
<月眩ターリク>愛してる。でも、もう会えない。
オープニング
●プロローグ
『古宮カーマ・ルーマ』のより繋がる、異空間。それこそが、吸血鬼達の本拠地である『月の王国』であった。
着実に烙印を刻まれ、吸血衝動に苦しむイレギュラーズは増えている。未だ、姿を消したままのディルクのことも心配だ。
敵の本拠である『月の王国』にまで至れているのだ。次に目指すのは遠巻き見える『月の王宮』であろう。
通常では辿り着くことは叶わないが、イレギュラーズの中で幾人かが『辿り着く方法』を本法的に察知することが出来た。
それは、烙印の花が『女王』を求めて咲き誇るが故である。烙印は、徐々に肉体へと浸透し、あらゆる変化を及ぼしたらしい。その内の一つが『女王への執心』。
情報を分析し、イレギュラーズは『月の王宮』前に辿り着く。同様の探索で『古宮カーマルーマ』に存在する祭祀場が『月の王国内』に存在することも知り得た。
王宮の攻略――しかし、内部に入るためには張り巡らされた防護魔術を破壊せねばならなかった。
それに加え、祭祀場アル=アラクでは『烙印』の進行度を早め、偽命体を作り出すための儀式も続けられている。それを見過ごすことも出来まい。
これより始めるのは祭祀阻止、そして王宮攻略のための『防護魔法破壊』――城門開放作戦である。
●愛してる。でも、もう会えない。
両親が嘆いていた。アンナの部屋の戸を叩く音が聞こえる。
「アンナ、もうすぐ結婚の日なのに、どうしてカイルさんに会ってあげないの」
「カイルさんから贈り物までもらったのだろう?」
アンナは右手に乗せた真紅の宝石を見る。カイルからもらった宝石。美しさと禍々しさを持つ、危険な赤色。だからこそ目が離せない真紅。
これを手にしてからだ。アンナの身に変化が起こったのは。
(こんな姿、カイルさんに見せられない)
胸が締め付けられる。けれども、どれだけ焦がれても、こんな姿の自分ではカイルには会えない。
――大好きなアンナ。これを君に贈るよ。
そう言って、真紅の宝石をカイルが贈ってくれたときは幸せだった。こんな貴重なものを自分に贈るカイルを愛していると思った。
きっと結婚して、幸せになれる。アンナもそう思ったのだ。
でも、今のこの姿を思うと涙が溢れる。もう幸せなんて、どこにもない。
こんなに、カイルを愛しているのに。
昼間は泣き、夜は空を見上げる。
(行かなくちゃ)
アンナはぎゅっと右手を握りしめる。手の中には、カイルからもらった貴重な宝石《紅血晶》と――。
(女王のために)
アンナは家を抜け出す。カイルに会えない自分が何処へ行けばいいのかはわかっていた。
月の王宮だ。
●悲しみの魔法陣
ネフェルストを襲った吸血鬼を退けてからしばらく。
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が持ってきた情報は冒険者たちが看過できない情報だった。
「皆さんにお願いしたいのは、月の王宮前に展開されている魔法陣を破壊することなのです」
広大な遺跡『古宮カーマルーマ』、嘗ては『夜の祭祀』が行われていた場所。
そして転移陣の先にあった『月の王国』。
転移先に見えるは藍色の空、狂うように美しい満月、そして『月の王宮』。
その王宮に攻め入るには王宮前に展開されている魔法陣を破壊しなければならないと言うのだ。
――その時こそ、「女王」との決戦が叶うとき。
「お願いしたい魔法陣は一匹……一人のヌヴェル・リュンヌと15匹のサン・ルブトーによって守られてるです。ただ、地上にも空中にも魔法陣の形跡はないのです。ヌヴェル・リュンヌが身につけて守っているのかもしれないのです」
ユリーカは慎重に言葉を選ぶように言う。
「ヌヴェル・リュンヌは、街から消えたというアンナさんという女性に瓜二つの晶獣なのです。アンナさんは許嫁のカイルさんに例の紅血晶を贈られてから、おかしくなり、消えたと言われているのです」
ユリーカは祈るように言う。
「まだ、意識がある晶獣なのです。彼女を救うことも、よければ考えてあげてはもらえませんか」
- <月眩ターリク>愛してる。でも、もう会えない。完了
- GM名さとう綾子
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時07分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●「救う」ということ
『女王』。
その存在に焦がれるような感覚は、烙印のついた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に忌々しい思いをさせる。鎖骨のあたりは水晶化しており、イズマはそれに触れて唇を噛み締めた。
(烙印も紅血晶も、人を狂わせその幸せを奪う。そんな事は許せないから、王宮に辿り着かねばならない……!)
『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)もぺろりと唇を舐める。
(さぁて魔法陣、ね。あの王宮に行けるように、しないと)
そう、今回の作戦は「魔法陣の破壊」。だが、イレギュラーズたちにはひとつの懸案があった。『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は正面を見る。そこでは狂った狼たち、サン・ルブトーを連れたヌヴェル・リュンヌ――晶獣が魔法陣を守っている。
(今回の目標はあくまで魔法陣の破壊。アンナさんの救出は含まれてはいない、けれど……)
そう、行方不明になったというアンナという女性とヌヴェル・リュンヌが非常に似ているという情報があるのだ。
(出来れば彼女を見つけて助けたい、ですね)
だからこそ、皆とても慎重になる。情報は「似てる」ということだけ。
(アンナと同一人物かは知らんが救えるなら救って損はねえな)
『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はクラシックライフルWカスタムを手にしながら考える。そうなのだ、ヌヴェル・リュンヌはまだ晶獣になりきっていない。
(救える可能性は十分にあるわ。けれど、ただ命を救うだけではきっとダメ……)
アンナの事情を考えるのは『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)。
(彼女がちゃんと、助かった後で生きる事に向き合えるように立たせてあげなきゃ、ね)
(婚約した相手もいるのだし、幸せになってもらわないとね?)
『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も聞いたアンナの事情に思いを馳せる。
(問題は、彼女が受け入れてくれるかどうかなのだけれど……)
ちょっとした憤りを覚え、頭を押さえるのはロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)。
(熱砂の恋心というか……ラサの恋する乙女はどうしてこう、大袈裟なのが多いんですかね!)
少し悲しそうな、気の弱そうな表情をしたヌヴェル・リュンヌを見れば、尚更思う。
(きっと贈られた宝石だから身につけないのは失礼だとか、彼が愛してくれた体が変異したとか、会わない理由なんてそんなものでしょう。「あなたのせいで変異したのだから責任取って!」くらい言ってやりましょうよ!)
イレギュラーズたちは、此処に来る前にアンナの家へ立ち寄っていた。助けてください、と懇願する両親と婚約者、カイルに見守られる中、『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)はアンナの私物の匂いを覚える。そして、遠くのヌヴェル・リュンヌの匂いを嗅いだ。腐敗したような匂いがするのは晶獣となったからだろうか。だが、根本的な匂いは変わらない。
「……アンナさんです」
ユーフォニーの声に、万一のため広域俯瞰でヌヴェル・リュンヌとアンナを別人として警戒をしていたバクルドは魔法陣を探すことに専念することにした。
(恐らくヌヴェル・リュンヌに魔法陣の何かしらがあると思うが……)
隠されているような魔法陣は見つからない。だとしたら、やはりヌヴェル・リュンヌが持っているか、同化しているか……どちらにしろ、魔法陣の破壊するためにはヌヴェル・リュンヌを倒すなりせねばならないだろう。
風が砂を巻き上げる。
「この先は通しません」
はっきりとした言葉がヌヴェル・リュンヌから漏れた。意思疎通ができる。それは希望だろうか。
「カイルさんという人を知っていますか」
ルーキスの発した声は風に流れる。けれども、驚くほどヌヴェル・リュンヌはその言葉に反応した。
「彼やあなたの両親が心配されています」
「私は……」
ヌヴェル・リュンヌは目を伏せる。そして、首を振った。
「私は、『女王』のために」
それは、頑な心との闘いともなりそうだった。
●戦端を切る
初手を取ったのはアルテミアだった。砂を蹴り上げ、まっすぐにヌヴェル・リュンヌへ向かう。戦うために自らの鼓動を高め、ヌヴェル・リュンヌに叩きつける。ヌヴェル・リュンヌは視線をまっすぐにアルテミアへ向けた。
左手の蔓を振り上げようとするヌヴェル・リュンヌ。けれどもそれは叶わない。
「アンナさん」
ユーフォニーがヌヴェル・リュンヌを抱きしめていたのだ。攻撃の意志はない。彼女は敵を抱きしめる。
「驚かせてごめんなさい。でもまずは、命が無事で良かったです」
優しい声で紡がれる言葉に、ヌヴェル・リュンヌは動きを止めた。
が、サン・ルブトーたちには声は届かない。そして、狼たちは素早かった。ユーフォニーとアルテミアへと躍りかかる。攻撃は爪と牙、たったそれだけのシンプルなものだが鋭い。メリーノがカタバミちゃんを握りしめた。
「女の子同士の内緒のお話を邪魔するのは無粋っていうものよぉ」
『猪』『鹿』『蝶』の三撃がサン・ルブトー一匹を跳ね上げる。サン・ルブトーは斬られつつも一回転をして飛び退いた。すぐにイズマが声を上げる。イズマは『最強』を纏っていた。
「来い、俺が相手だ。鋼を噛み千切れるものならやってみろ」
サン・ルブトーたちはその声に一斉にイズマを見る。同時にバクルドが義腕から鋼鉄球を広範囲にばらまき、サン・ルブトーたちの動きを阻害する。ルーキスは花を刈り取る刀技の構えを取ってから乱撃を見舞う。紫色の終焉の帳を展開するのはロウランだ。彼女はサン・ルブトーを狙いながらもヌヴェル・リュンヌへと声をかける。
「アンナさん、聞こえますか! 何を悲観してるかは知りませんけど!」
抱きしめられたまま、ヌヴェル・リュンヌはロウランを見た。
「まずは恋人! 宝石! 女王! どれかに絞ったらどうですか」
そのヌヴェル・リュンヌに重圧が加えられる。ルチアだ。禍の凶き爪がヌヴェル・リュンヌを切り裂いた。
イズマを盾としたサン・ルブトー討伐、ルチアの回復、そしてヌヴェル・リュンヌの無力化。この三つに分かれ、イレギュラーズたちは行動をしていく。
ヌヴェル・リュンヌの蔦のダメージは高い。抱きしめているユーフォニーとアルテミアに振られ、二人の肌は血が滲んでいく。それでもユーフォニーは抱きしめる手を離さない。
「……カイルさんってどんなひとですか?」
答えはない。
「……どんなところが好き?」
答えはない。
「……愛してるからこそ、こうするしかなかったんですよね」
血を流しながら、ユーフォニーは笑う。泣きそうな顔でヌヴェル・リュンヌは蔦を振る。
(対処はし辛いわね)
セオリーがないのだから、難易度も上がる。アルテミアはそれでも冷静だった。ユーフォニーにも当たらぬよう、焔纏・朧突を繰り出す。それは青き炎剣により対象の精神のみを断つ不殺の絶技。アルテミアにも消耗が激しいその技を、アルテミアは惜しげもなく使う。その間に確認するのはヌヴェル・リュンヌの左腕だ。侵食部と生身の部位を把握するべく目を細める。
メリーノはこちらへと来るサン・ルブトーをカタバミちゃんで斬る。そして時々、心配そうにユーフォニーを見る。
(ユーフォニーちゃんのお話、リュンヌちゃん、いいえ、アンナちゃんが心を動かしてくれたらいいんだけども)
そうでなければ――。
回復のルチアは全員を見なければならない。身を守る術のないユーフォニーに回復を回せば、盾のイズマが落ちるかもしれない。サン・ルブトーへの戦線が崩壊したら、魔法陣を破壊することは難しくなる。
サン・ルブトーは動きを遅くしても、肉を噛みちぎり、爪で肌を切り裂いていく。それを一人で抑えるイズマの負担は大きい。血は赤い花びらになり舞い落ちる。それがイズマには余計腹立たしく、イズマは唇の端から溢れた花びらを強引に噛み締めた。
(鋼なら、こんなことで千切られるわけにはいかない……!)
溢れる花びら。それでも修復は不滅の如く。
「イズマさん!」
ルーキスが何匹かのサン・ルブトーを赤く染める。掌に一点集中した磁力衝撃を放出するのはバクルド。その強い衝撃に砂の上を少し後退する。その上にロウランの紫色の帳がかかり、サン・ルブトーが砂の上を転がる。この隙にイズマの回復を、とルチアは夜空から光輪を降り注ぐが、ヌヴェル・リュンヌがユーフォニーへと蔓をぶつけたのも同時だった。
「変化した左手を切れば命は助かります。これがどれほど残酷で心を抉るか……分かってます。それでも――」
それでも、命を優先したいんです。
その言葉を言う前にユーフォニーが崩れた。
「ユーフォニーちゃん!?」
メリーノが声を上げる。パンドラが、発動する。ユーフォニーは立ち上がり、もう一度ヌヴェル・リュンヌを抱きしめた。
●結末
優しいことは美徳だ。
だが、それで敵の力量を少なく見積もれば、美徳とは言い難い。
もうユーフォニーを倒れさせないためにルチアはヌヴェル・リュンヌに気をつければ、イズマの花びらが散った。
(こんなところで、俺が倒れるわけにはいかない……!)
膝を折ったイズマのパンドラも発動する。一瞬イズマが付与していた怒りの感情がサン・ルブトーたちから消え、残りの狂った狼たちが放たれる。
ルーキスの肉を斬り裂き、バクルドの腕に噛みつき、そしてロウランの脚から血を流させる。
「ああもう!」
ロウランは遠くのヌヴェル・リュンヌを見据えて大声を上げた。
「顔も知らない女王も、悪気なく贈られた宝石も、彼より大切だと思うなら頭を冷やしなさい!」
その言葉に合わせるようにアルテミアがヌヴェル・リュンヌへと声をかける。
「命が助かってもカイルさんのもとへは戻らないつもりかしら? ……カイルさんは貴女の綺麗な姿だけが隙だったの? もしカイルさんが片腕を失くしたとして、貴女は嫌いになるの?」
その言葉は青き炎剣よりも心を抉る。メリーノも頷きながら、こちらへと来たサン・ルブトーを屠る。ルチアがイズマを回復させると、イズマは再び幻想を纏い、盾として立った。
「もう鋼は折れないぞ。俺は……お前たちとは違う!」
イズマに並ぶようルーキスが前に出、残り少なくなったサン・ルブトーを相手取る。
「大丈夫ですか」
「ええ、心配かけました」
痛々しくも微笑むイズマにルーキスは目を伏せ、一礼すると二振りの刀を交差させた。
(白百合、瑠璃雛菊……俺に力を貸してくれ)
乱撃。舞う鮮血。
「こうも多けりゃ、下手撃っても当たるってもんだな」
殊更明るくバクルドは言えば、義腕から衝撃を放出。
ヌヴェル・リュンヌはあからさまに焦りの表情を浮かべる。蔓を再び振るおうとして、弱々しく笑うユーフォニーに動きが止まる。
「『手も全部大切だけど、愛しい人が無事帰ってくることが何よりも嬉しい。いなくなるのは耐えられない』」
懐かしそうに言うユーフォニー。
「……私の大切なひとが言っていた言葉。カイルさんだって同じはずです。アンナさんも立場が逆ならそう思いませんか……? 一緒に彼を信じましょう……?」
ヌヴェル・リュンヌの唇が震えた。
「私、は……だって、私は……」
「もう無理しなくていいんだよお」
メリーノもにっこりと微笑んだ。
「もし、愛情が変わらないなら……胸を張って帰りなさい。きっとカイルさんも腕を失くした程度では貴女を嫌いになんてならないはずよ」
アルテミアも攻撃の手を止め言う。
「あ、ああ……私は……」
ヌヴェル・リュンヌが膝から崩れる。
「アンナさん、生きたいの? 生きたければ手を取って!」
ロウランの声が後押しをする。ユーフォニーが手を差し出した。
その時、バグルドが最後のサン・ルブトーを撃破する。残りは魔法陣とヌヴェル・リュンヌ。
ルーキスがゆっくりとヌヴェル・リュンヌへ近づいた。
「晶獣は『変化箇所を取り除けば人間性を取り戻せる』可能性があります。命を繋ぐ代償に左手を失う覚悟はありますか?」
明確な問いかけ。ヌヴェル・リュンヌの――アンナの答えをイレギュラーズたちは固唾を呑んで見守る。
アンナは、頷いた。
「ならば、この場で投降してください。俺たちは全力で手助けをしたいです」
ユーフォニーはアンナのまだ無事な右手に手を伸ばす。
「預かってもいいですか」
それは紅血晶。アンナは少し躊躇する。
「未練がましく贈られた物を持って」
ロウランが焚きつけるように言う。アンナはその言葉に笑った。
「どうぞ」
紅血晶は、ユーフォニーの手へ。空いたアンナの右手を取ったのはメリーノだ。
「ねえアンナちゃん、赤い石の代わり、これあげるわぁ」
それは青い宝石が一つ使われた髪飾り。
「これね、愛の誓いだって。帰ったら手をつなぎたい相手に、別のものを貰うまでのかわりにしてねぇ」
「……ありがとう」
アンナが少し驚いたようにメリーノを見る。メリーノはユーフォニーのほうを向いた。
「ねぇ、ユーフォニーちゃん、わたし、その赤い石、すっごく欲しいの。預かっても良い?」
「ええ」
ユーフォニーの手からメリーノの手に紅血晶が渡るとき、だった。
バクルドが二人を傷つけることなく、紅血晶を撃ち抜いて砕いたのだ。
「一先ずこれで再度変異することはなくなったか」
メリーノが衝撃を受けた表情で砕けた紅血晶を見る。
(とっても欲しかったのに。あの石。手放さないって決めてたのに)
砕けた欠片だけ握りしめ、メリーノは唇を噛み締めた。
問題は、まだある。ユーフォニーは問いかけた。
「魔法陣はどこですか」
アンナは口ごもる。まだ「女王」への気持ちは残っているのだろうか。
ユーフォニーは祈る。
(当事者でない言葉がどこまで届くか……届かなければ示しましょう)
彼女の祈りは奇跡。自分の命を代償としてでもアンナと「一緒に」帰るための奇跡を、ユーフォニーは強く願った。何も失わせず、何も奪わず。そんな奇跡を。
けれども、奇跡は起こらなかった。
(どうして……?)
ユーフォニーは泣きそうな思いでアンナを見る。アンナはそんなユーフォニーに右手にはめていた指輪を差し出した。
「魔法陣は、此処に。これはカイルにもらった婚約指輪なの」
「預かりますね。破壊しますが、いいですか」
イズマが言うとアンナは頷いた。破壊は再びバグルドが担当した。これで今回の目的は達成した。
けれども、最後に大きな仕事が残っている。
●「奇跡」の意味
ロウランが掌でアンナの左腕に触れる。彼女のギフト、紅魔石・生死の書は左腕の状況を正確に分析する。アルテミアが把握していた左腕の侵食をロウランに伝える。
「二の腕の少し上のほうね」
「内側の侵食はもう少し上までかしら」
ルチアがそれを聞いて頷く。
「わかったわ。除去してみる」
「これを」
まず差し出したのはイズマ。本格的な医療セットだ。次にルーキスが鎮痛作用のある薬品を差し出す。ルチアは薬品をアンナに飲ませると、回復スキルを細心の注意を払いながら使用し、変化部位だけを除去する。溢れるのはまだ血ではなく花びらだ。
その傷口にイズマはそっとアリベールトの義肢をあてがった。それは、腕を落とす事でしか助けられなかった、償い。
「醜くなんてないよ。愛する人ならどんな姿も美しいと決まってる」
優しいイズマの言葉にアンナは泣きそうに笑った。
「カイルに甲斐性がありゃ乗り越えられるだろ」
バクルドが他に魔法陣がないか探しながらそっけなく言えば、
「アンナさん、何も言わず消えた事をカイルさんに謝って、ちゃんと想いを伝えなさいね?」
アルテミアが少し叱るように言う。
ルチアはアンナの傷を丁寧に見、花びらが血に代われば、ほっとしたように息を吐き出した。
それを遠くから眺めていたのはユーフォニーとメリーノだった。
「どうして、奇跡は起こらなかったんでしょう……」
ユーフォニーは泣きそうに言う。
「私、本当に命を引き換えにしても構わなかったんです。想いが足りませんでしたか」
「わかんないけど」
紅血晶の欠片を握りしめてメリーノが言う。
「これはアンナちゃんが乗り越えられるから、奇跡は起こらなかったんじゃないかなあ」
「え……」
「失っても元に戻れるから。だから、なあんて」
紅血晶は元に戻らないけどねえ、とメリーノはつぶやいて、ゆっくりとアンナのほうへ歩いていく。
アンナが義肢の左手をユーフォニーに振った。笑顔だった。
ユーフォニーもアンナへと駆け出す。そして、戦闘のときのようにアンナを抱きしめた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加、本当にありがとうございました。
皆様のプレイングが優しくて、拝読しながら泣きました。このお気持ちにどうお返ししたらいいのかずいぶんと悩みました。
私なりの返答がこちらのリプレイになります。お受け取りいただければ幸いです。
GMコメント
さとう綾子と申します。悲恋は恋のスパイス。
●成功条件
魔法陣の破壊
(ヌヴェル・リュンヌの救助は含まれません)
●地形
月の城門前、砂漠
天候は夜、晴れ、満月。眼の前に月の王宮が広がっていますが、何らかのバリアが張られているのか、侵攻はできません。
砂漠のため、周囲に木々などはありません。視界は良好でしょう。ただし、身を隠せるような障害物もありません。
●敵の情報
・ヌヴェル・リュンヌ×1
まだ話をすることができる晶獣です。紅血晶を持っていますが、自分から手放すことはありません。左手が薔薇の花の咲いた蔓のようになっており、それを鞭のように使います。獣より身体能力は強いですが、戦闘の技術は未熟なところがあります。
ユリーカの情報では「アンナ」という女性であると言われていますが……?
・サン・ルブトー×15
砂狼によく似た外見の晶獣です。正気を失くした狼と考えていただければ。連携攻撃を行い、物理攻撃中心に戦います。ヌヴェル・リュンヌを守っています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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