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シナリオ詳細

<被象の正義>復活のティーチャー

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 現状、天義内には箝口令が敷かれ、騎士団が新たに下ったこの神託の意図の解明に動く。
 時を同じくして、影を思わせる一団が個々に動きを見せる中、ここにも1人……。
「依頼主は預言書の成就を希望しているようですので」
 黒鉄の鎧を纏ったその女性は3体の終焉獣と影の天使を従え、高台から目的地であるニアサ村を俯瞰する。
 この遂行者として活動している女性はここまで鎧を纏っていたが、アドラステイアが解体されかけている状況ではもう姿を隠す必要はないと判断し、窮屈な鎧を脱ぎ去る。
 露わになる大きな胸。露出の非常に高いシスター服。
 彼女はアドラステイアにて主に水面下で活動していたティーチャーだった。
 その名はナーワル。「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる術式が女性の姿をとった存在。
「私を完成させる為、まだまだ止まるわけにはいきません」
 遂行者となった彼女は新たに所属する組織の為、そして、自らの為、手勢を引き連れ、村へと向かうのである。


 天義の巨大都市テセラ・ニバスに下りた帳。
 一夜にて、そこは『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』へと変貌したという。
「これ、R.O.Oで発生したワールドイーターの世界食らいに似ているそうだね」
 『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は聖都フォン・ルーベルグへと集ったイレギュラーズへと天義の事情を簡単に説明する。
 これこそが正しき天義の姿なのだそうだが、現実が徐々に浸食されているこの状況のどこに正しさがあるのか……。
「まあ、そのうち、アタシ達の正しさをぶつけてやるまでさ」
 その為にも、連中による現実の浸食を食い止める必要がある。
 今回はテセラ・ニバスからほど近いニアサ村の防衛だ。
 小さな集落ではあるが、敬虔なる信者が多いこの村落には村人全てを収容できる規模の立派な教会が存在している。
 この地に魔の手を広げる遂行者は、黒い鎧を纏った女性。
 鎧を脱いで現れるその正体がアドラステイアで倒したはずのティーチャー・ナーワルだということが分かった。
「碧熾の魔導書……完全に倒したと思ったのですけれど」
 アドラステイア内での一戦で、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は確実にナーワルを仕留めた……はずだった。
 だが、こうして現れた以上、放置するわけにもいかない。
「ただ、今回は村の浸食を食い止めるのが最優先さ。どれだけの手勢を隠しているかわからないからね」
 それに、村の人々を守る必要もある。悔しいが、ここはナーワルを止めることが最優先となるだろう。
「目的達成が難しいと判断すれば、ナーワルも手を引くはずさ」
 敵データを纏めた書類を手渡し、オリヴィアは話をそう説明を締めくくったのだった。


 準備を整えたイレギュラーズは巨大都市テセラ・ニバス方面に向かい、高台から見下ろした山の麓にあるニアサ村を目指す。
 農業や畜産を中心に生計を立てるこの村落は敬虔なる信者も多い。
 村には立派な教会があり、村民は日々そこに通い、祈りを捧げる。
 ベアトリーチェの一件はこの村にも広く知れ渡っているところではあるが、彼らはこれまで通りに信仰する道を選んだ。
 村民達はそのまま、日常を過ごすはずだったが……。
「大丈夫です。少しばかり恐怖を提供していただければ、あとは楽になりますよ」
 訪れたナーワルが村に帳を下ろし、村中に散開させた影の天使や終焉獣によって村は浸食され始める。
「「おお、神よ。神よ……!」」
 だが、その祈りもむなしく、村は少しずつ異常が発生し始めた。
 3体の終焉獣が村の中であらゆる物を食らい、存在を消し去ろうとする。
 それらの活動によって生み出された歪みが正常なる空間を侵食し、異常を広げていく。
 人々も正気を失う者が出始め、祈りを捧げたまま抵抗する者もいれば、浸食から逃れようと村から避難する者も。
 だが、それを祈りを捧げる影の天使が許さない。
 村民の祈りや避難を妨げて存在を浸食させ、『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』へと堕とそうとしているのだ。
「痛み、恐怖、憎しみ……少しずつ満たされていきます」
 恍惚とした表情のナーワルは両手を広げて瞳を閉じるが、それも長くは続かない。
 そこに駆けつけてくるイレギュラーズ。
 すでに浸食が進んでいる現状に、顔をしかめる者も。
「来ましたね。ローレットイレギュラーズの皆様」
 自らも村に下ろした帳を維持し、浸食を進めようとしていたティーチャー……いや、遂行者ナーワル。
 それらは率いていた配下を集め、イレギュラーズへとけしかける。
「浸食を止めたいなら、この程度は倒さないと話になりませんよ」
 ナーワルは不敵に微笑み、帳の維持に努めるのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 今回は、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)のアフターアクションも兼ねております。
 天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食して現れた『異言都市(リンバス・シティ)』の切り崩しを願います。
 黒い鎧を脱いだ遂行者の正体は……。

●目的
 ニアラ村の奪還。

●状況
 近辺都市奪還戦です。
 巨大都市『テセラ・ニバス』にほど近い村落、ニアサ村。
 敬虔なる信仰者も多い村に訪れる遂行者……ナーワルの手勢を掃討し、浸食された村を救ってください。

●敵:致命者一隊
 致命者は村の浸食の為に動き、戦いには加わりません。

○終焉獣(ラグナヴァイス)×2体
 R.O.Oではワールドイーターと呼ばれたモンスターです。

・飽食の口×1体
 全長3mほど。直接噛みついてくるだけでなく、歯ぎしりや怨嗟の声を発します。
 R.O.Oで登場した個体は石化病を使いましたが、その代わりに直接食らいついたモノの存在を消し去ろうとしてきます。

・拒絶の指×3体
 全長1~1.5mほど。ゆびゆ……。
 地面を叩きつけて揺らすことがある他、指先を叩きつけたり、爪でひっかりたりしてきます。
 場合によっては身を盾とし、仲間を守ろうと立ち回ります。爪で空間を引き裂いて浸食を進めることも……。

○影の天使×5体
 身長3m程もある人型に、大きな翼が生えた姿をした影でできた存在です。飛翔しながら、祈りを捧げる姿が特徴的です。
 大きな槍を所持し、急降下しての突き、接近しての連続突きを行い、全身から闇の波動を発することもあります。

〇遂行者:ティーチャー・ナーワル
 黒鉄の鎧で身を包んでいた女性遂行者の正体。
 20歳、修道服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
 アドラステイアにて、下層の子供達にファルマコンの教えを説く一方で、潜水部隊を率いてスパイ活動を行わせていました。
 今回は浸食活動を優先する為戦いませんが、戦いとなれば、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。
 なお、致命者である白銀の鎧の子供は別行動中の為か、姿はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <被象の正義>復活のティーチャー完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ファニー(p3p010255)
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛

リプレイ


 天義、ニアサ村。
 小さな村ではあるが、今も信心深い人々が集まることで知られる。
 そこを訪れたイレギュラーズはそんな村を見回すが……、浸食された現状に表情をこわばらせる。
「……まあ、当然反攻作戦も持ち上がるよな。そうでなくては」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が言っているのは、『異言都市』を切り崩す作戦に対し、敵も攻勢の一手に出たということ。
 だが、エーレンもイレギュラーズ……いや、混沌世界もやられっぱなしではないと拳を強く握って。 
「ふざけた版図の拡大がこれ以上進むと思うなよ!」
 皆も気持ちは同じくするが、今回の作戦にはもう一つ気になる情報があって。
「倒したはずなのに、また出て来たっつーのは不思議な話っスね」
「ティーチャー・ナーワルかァ。もう一度その名を聞くことになるとは」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が話していたのは、アドラステイアにて倒した「大人」である。
「……あの時取り込んだと思った物ですが、なるほど」
 どうやら、『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が先日の戦いでナーワルを蒼穹の魔導書とする時に、意識体が逃げたのだと彼女は語る。
「そうであるならば、これはアルフェーネ家の落ち度。どうにかしてコイツを止めなければ」
「ナーワルってのは先日の鎧騎士で間違いなさそうだが……、乗り掛かった船だ、付き合うぜ」
「如何なる因果か気になるところではあるが、ひとまず村の奪還をしないとね。ヒヒ……」
 そんなリドニアとの因縁に興味を持つ『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)、武器商人に続いて、葵も同意する。
「事情は何にしろやってくるなら、今度こそキッチリ潰してやる必要があるな」
 自分達をナメ腐った真似をする遂行者……ナーワルを後悔させてやるっスと、葵は語気を強めるのだった。


「「おお、神よ。神よ……!」」
 浸食されていく村、中央にある教会へと駆け込む住民達が神に縋りつくように祈りを捧げる。
 だが、黒い鎧を脱ぎ去った遂行者ナーワルが村全体に暗色の帳を下ろす。
「いいですね。もっと私を満たしてください」
 村人の恐怖を感じたナーワルは恍惚とし、配下である終焉獣や影の天使に村の浸食を進めさせる。
 そこに、イレギュラーズが駆けつける。
「ギリギリ間に合った? あ~……割とアウトな気もしないでもないけどね……」
 『灼極光』ラムダ・アイリス(p3p008609)はすかさず、浸食に苦しむ住民を発見し、村の外へと連れだす。
「小癪な手を使いましてよ全く」
「まずは目の前のいつもの邪魔くせぇ連中からだな」
 ナーワルの気配を感じながらも、リドニアが村の状態を優先すべきと状況把握に努めれば、葵もとりあえずは放った方がいいっスねと返してそれに追随する。
「いや、良くはねぇけど」
 もちろん、言った葵自身を含め、メンバー達もナーワルよりも、直接浸食を進める彼女の配下の掃討を優先することに。
 『Luca』ファニー(p3p010255)も無用な戦いをする必要もないと、遂行者をとりあえず無視することにしたのだが……。
「今回は随分とでかいのが多いな……。的としては当てやすくていいんだが」
 広域俯瞰で村を見回すファニーは敵の姿を視認して、3mほどある敵に少なからず戦いづらさも感じていた。
 その傍らで、ベルナルドは衛兵を率いてサポートに参じたリンドウと接触していて。
「アンタに貸しを作るのはゾッとするが、背に腹は代えられねぇ」
 ベルナルドは自分達が魔物と終焉獣を倒しきるまで、ナーワルらを相手取って浸食を遅らせてほしいと依頼する。
「厳しい相手だねぇ」
 それでも、リンドウは足止めだけならと了承し、衛兵と共に攻撃を仕掛けに向かう。
「あら、邪魔が入りましたね」
 そこで、帳を維持するナーワルがイレギュラーズの前に現れる。
「どこかで聞いた声かと思えば、以前会った黒鎧か……」
 ラムダはすぐに、声の主が黒鎧の遂行者だと思い至る。
「やァ、何時ぞやぶりだね。てっきり死んだものだと思っていたが」
「ええ、私の全てが潰えたわけではありませんでしたから」
 菫紫の魔眼で見つめる武器商人が情報を引き出させようと試みつつ語り掛ければ、ナーワルは事もなげに言葉を返す。
「お仕事熱心なのは感心だけど……これ以上の浸食……やらせないよ?」
「浸食を止めたいなら、この程度は倒さないと話になりませんよ」
 自信ありげなラムダに返すナーワルが腕を伸ばすと、浸食に当たっていた終焉獣や影の天使がイレギュラーズへと向かってくる。
「浸食を止めたいなら、この程度は倒せだって? Haha、それじゃあ……お言葉に甘えて疾く殲滅させてもらうよ?」
 遅れをとったが、ここから逆転ということで。
 近場の人々の避難を済ませたラムダもまた、仲間と共に攻勢に打って出るのである。


 遂行者ナーワルが引き連れていたのは終焉獣……拒絶の指3体に飽食の口1体と影の天使5体の計9体。
 数も多い上、いずれも村の浸食を行う手前放置することもできない。
 すでに武器商人がそれらの引き付けに動いているが、メンバー達は危険度の高い順に撃破していく作戦をとる。
(火力を集中させて、一気に倒さないとな)
 そう考えるエーレンが攻撃準備を整える間にも、息を整えて集中力を高めていて。
 狙うは口……飽食の口。
 葵の攻撃を察知してか、指……拒絶の指が口を庇おうと前に進み出る。
 しかし、それこそが葵の狙いだ。
(どの道最初に落とすのは指っスからね)
 愛用のサッカーボールを蹴り出す葵。主に呼び出されて比較的固まった状態の終焉獣に、幾度もボールを叩き込んでいく。
 できるなら、指の先端にまっすぐ当てられればと考える葵だが、敵も自らの弱点は熟知しているらしく、致命打は避けていたようだ。
 仲間を守ろうと立ち回る指を、ファニーもまた嫌でも先に倒さねばならないと考えて。
「さぁ、俺様を止められるものなら止めてみせろよ」
 愚者の行進によって攻撃に出るファニーは指を纏めて捉え、降りしきる二番星を浴びせかける。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。いつまでも世界が意のままになると思ったら大間違いだぞお前たち!」
 星が落下する敵陣へとエーレンも叫びかける。ここで彼がファニーが降らす流星の如く動き出す。
 目視で捉えた指目掛け、エーレンは居合で最も多くの攻撃が集まる指を切り裂く。
 その体から流れるのは血ではなく、食らった世界の情報。
 まさに、村を浸食しようとしていた終焉獣だ。それらがかすかに零れていたようだった。
「起きろ無明世界……お仕事の時間だ」
 魔導機刃を抜くラムダはまだそれらの敵との距離が開いていることもあり、多数を巻き込む形で術式を展開する。
「無尽にして無辺……遍く世界を包め灼滅の極光 対軍殲滅術式『無尽無辺無限光』」
 ラムダが虚空に構築した10の光球が終焉獣を包む。
 程なく光球は爆縮圧壊し、強烈な閃光が敵を灼く。
 それでも、世界を侵す敵は非常に体力もあるようで、ラムダの極光にも耐え、太いその指を勢いよくメンバー達へと振り下ろしてくる。
 それだけでない。指が備える爪は空間を引き裂き、浸食を進めることもできる。
 だが、指に浸食などさせず、その攻撃を武器商人が引き付ける。
 周囲を、特にナーワルの動向には注意していた武器商人だが、仲間と同様にあちらから攻撃を仕掛けてこないなら、一旦放置の咆哮だ。
 盾役として多くの敵を引きつけるべく、武器商人は衒罪の呼び声を発する。
 その瞳に、その声に、その姿に、引き付けられる終焉獣に、一部の影の天使も何かを感じて近づいてくる。
「早々に道を開けさせてもらいますわ」
 魔導書を手にしたリドニアがそれらの敵に直接赤い闘気を叩き込む。
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も戦況を見極め、なおも意識を別所に向けようとする影の天使らに向け、神の裁きを思わせる雷を浴びせかけ、自身に強く気を引く。
 しばらくは戦線を維持する必要があるとルチアは回復役としても立ち回り、聖女の心持で傷つく前線の仲間へと個別に光輪を降らせ、至高の恩寵を与えて癒しをもたらす。
 その間に、影の天使数体を、リンドウと衛兵達が持ち込んだ馬車の周囲に婦人して足止めしていたが、これはベルナルド提案によるものだ。
「馬車に……爆弾……?」
 考えたわねと苦笑するナーワル。
 こちらも帳は維持していたが、警戒を強めていたからか、浸食進行に注力とはいかないようだった。
 ナーワルは炎を使うことがすでに分かっている。それを考慮してのベルナルドの策だ。
「待たせたな、その分、仕事はこなすぜ!」
 そのベルナルドは少し遅れて参戦する。
 他メンバーと同様、優秀な盾役と彼が評する武器商人もいてくれており、実際に多くの敵を引き付けている状況だ。
 機械の如きメンタルで戦いに臨むベルナルドはまず連なる雷撃を放ち、終焉獣をメインに焼き払わんとするのである。


 村の浸食は一時停滞しているが、多くの人々は中央の教会に集まって事態の解決を願う。
 一部は村の外に退避していたが、混乱している者も多い。
 いち早く彼らのケアを始めたいところだ。
 依然、武器商人が呼び声を上げつつ気糸の斬撃で指に切りかかるが、さすが仲間を庇う終焉獣は非常にしぶとい。
 彼らを癒すルチアだが、聖体頌歌を響かせていた彼女へと不意に影の天使が襲い掛かる。
 素早い槍の薙ぎ払い。さらに指がルチアの体を爪で切り裂けば、思わぬダメージに怯む。どうやら、パンドラも使わざるを得ない状態にたったの数撃で追い込まれてしまっていたようだ。
 だが、終焉獣を少しずつ追い込んできていたのは事実だ。
「ぶっ飛べ、バグテクスチャー共!」
 相手の防御の堅さを感じたリドニアが指1体を高く跳ね上げると、じたばたと暴れていた敵が落ちてくる。骨がありそうだと言いたくなるのは皮肉だろうか。
 自身の周囲に紫の帳を下ろし、七色を振りまき、敵に狂気を振りまいていたベルナルドだったが、落下してくるその敵を見据えて。
「これ以上、浸食を許してたまるかよ。この国は俺の国。描き甲斐のある大切な場所だ」
 終焉獣……ワールドイーターとの戦い方はR.O.Oで嫌と言う程染みついたベルナルドだ。
「今更勝てると思うなよ?」
 あがく拒絶の指に標的を絞った彼は強く絵筆を握り、神秘の一撃を打ち込む。
 ようやく力尽きた指はぐったりと倒れ、爆ぜ飛ぶように姿を消していく。
 1体倒れれば、メンバーの負担も少しずつ軽くなり、少しずつ攻勢が強まる。
 仲間達の攻撃が集まる指へ、ラムダは闇の帳で気配を消しながら住居を利用しつつ接敵し、強襲する。
 幸い、武器商人やファニーのハイテレパスもあって、タイミングを合わせるのは容易。
「我、無念無想、無我の境地に至れり……」
 ここぞと、ラムダは相手の懐で魔導機刃を煌めかせて。
「振るわれたる刃に映りしは物言わぬ骸、黄泉路に手向けるは緋の花弁……彼岸花」
 極限までに収斂圧縮された魔力による一斬り。
 全身に異常をきたす指は耐えられず、こちらも爆ぜ飛んで虚空に消え去っていく。
 影の天使や飽食の口はその間も強力な攻撃を繰り返すが、盾役の武器商人やリンドウらが食い止めてくれる。
 それらの敵を残る指が庇おうと立ち塞がるが、1体ではさすがに負担が大きい。
 侵攻してくるファニーを止めることはかなわず。彼は集まる他の敵に纏めて星屑を降り注がせる。
 最後の指も大きく状態を揺らがせ、横倒しになって消えていった。
「次に狙うのは飽食の口だが」
 ファニーが構える間にも、メンバーはそちらへとターゲットを移す。
 ギリギリギリギリ……。
 歯ぎしりして不快な音を響かせる口。
 すかさず、一旦納刀したエーレンが腰を落とし、強く踏み込んでその口に切りかかると大きく口が開く。
 エーレンの攻撃直後、葵が歯に注目して。
「歯を一本ずつ叩き折っていけたら、噛むにもだいぶ力がなくなっていきそうっスね」
 奥歯はともかく、前歯は全てへし折るつもりでサッカーボールを叩き込む。
 早速犬歯が折れたのを見れば、口もかなりダメージが蓄積していたのだろう。
 指先を伸ばすファニー。
 流星の軌道をなぞるように。相手の死線を切り裂くように触れれば、飽食の口に強い衝撃が走り、あちらこちらに亀裂が走る。
 オオオオオオアアアアアア!!
 ボロボロになった口が発した怨嗟の叫びに、皆体を硬直させる。
 とりわけ、前線にて癒しに当たっていたルチアが身を竦める。
 他メンバーが口を押えようとする中、ルチアはコーパス・C・キャロルを響かせる。0
 仲間達が態勢を整え直す中、飽食の口はルチアへと食らいつく。
 避けることもできず、ルチアはそのまま食われてしまうが……。
「蒼熾の魔導書、起動」
 リドニアの発動させた魔法陣が口を中心に展開する。
 口を包み込む燃え盛る炎と荒れ狂う雷。
 その体が瞬く間に瓦解し、口もまた掻き消えてしまう。その真下に、意識を失ったルチアが倒れていた。
「世界を破壊する存在を相手に……さすがね」
 感心するナーワルだが、さすがに鬱陶しいと感じたのか、近づく衛兵に炎を迸らせる。
 ここまで、影の天使と合わせて牽制を続けていたリンドウと衛兵達だったが、さすがに限界が近づいていたようだ。
 ナーワルの動きを気に掛けるラムダや葵だが、そこにベルナルドが向かう。
(こっちも正直、満身創痍だ)
 全終焉獣討伐を確認した彼はすぐさま呪鎖を伸ばし、リンドウらの撤退をサポートする。
「すまないねぇ」
 サポートにと駆けつけた彼女は期待に添える働きを行い、率いる衛兵と共に戦線から離脱していく。
 ただ、ナーワル対処に動いていたのはベルナルドのみ。
 他メンバーは終焉獣との交戦の最中、攻撃を巻き込んで徐々に体力を削っていた影の天使達を掃討する。
(恐らく前回の戦いでこちらの手数は奴に見られてるはず)
ナーワルが気になるリドニアだが、ここは影の天使が優先。
 鋭い急降下を繰り返す1体が危険と判断したリドニアは、そいつに優先して攻撃を加え、強く上空へと跳ね上げる。
 槍を落とす天使は両手を組んだまま、空中で霧散していく。
「飛翔状態からの急降下は避けるのが難しい」
 事前から感じていた通り、俊敏さはなかなかのもの。
 加えて、接近されたときの攻撃手段に乏しいファニーだ。
 彼は魔弾を放って天使を吹き飛ばす。距離をとったファニーは別の天使が空から強襲してくるのに気づいて。
(本腰入れてこちらを仕留めにきてる)
 ファニーの呼びかけで皆、飛翔する影の天使に警戒を強めていた。
 とはいえ、相手もかなり疲弊している。
 リトルワイバーンの風花に騎乗したエーレンは影の天使の頭上へと回り込んで。「おおおおおお!!」
 エーレンが全身全霊で放った大喝をもろに浴び、天使2体が地面へと叩きつけられる。1体はぐったりと倒れてしまっていた。
 飛翔しようとしていたもう1体を含め、残る天使に武器商人が呼び声を聞かせる。
 激しく憤る天使らが彼へと闇の波動を発し、槍の連続突きを繰り出す傍らから、ラムダが敵陣を堕天の輝きに包み、動きが鈍ったところで追撃し、再び魔力斬撃を見舞う。
 浮力を失った敵が墜ちるのとほぼ同じく、敵を抑えていた武器商人が蒼き槍を投げつける。
 胸部を穿たれた天使は苦しみ悶えて消えていく。
「ナワールっつったか、鎧のねーちゃん。お前と雑魚だけじゃ話にならねぇな」
 ベルナルドの一言に、ナーワルが炎を激しく燃え上がらせて彼を包む。
 炎が効かない事を察した敵は炎を凶器へと変化させてベルナルドへと叩き込んでくる。
 その間にも、刹那に距離を詰めた葵が天使の上翼をへし折って叩き落とし、ファニーは邪魔な槍に星屑を浴びせかけてぶち壊し、本体も撃ち落としてみせた。
「これは引き時ですかね」
 配下を全て失い、帳の維持を諦めたナーワルはイレギュラーズから距離をとって。
「ナーワル……ティーチャーの次はこの天義の浸蝕と来ましたか」
 リドニアはようやく、本命に向けて呼びかけた。
「ご無沙汰ですわ。アルフェーネ家のお嬢様」
「貴方は意思を持って人に襲い掛かる魔導書。その性質はあらゆる負の感情……」
 笑顔を崩さぬナーワルに、リドニアは再三、父に忠告したのだ続ける。
 ――人が扱えぬ兵器は封印しなければならない。
「この先、貴方が何をしようとも私が責任を持って止める」
 身構えるリドニアに対し、ナーワルはさらに距離をとるよう後方に跳躍して。
「私自身の完成とどちらが早いでしょうね」
「……今度来る時は、お供の聖騎士もつれて来るこった」
「タイミングが合えば」
 不敵に笑って去っていくナーワルを見ながら、手遅れでなければあの少年を救い出したいとベルナルドは切望するのだった。


 元に戻りつつあるニアサ村にて、イレギュラーズ達は、村の様子の確認に回る。
 時折ナーワルの去った方向を見やるリドニアが浸食の影響で体調に異常をきたす人々に治療を施す。
「小さな村だからか、思ったより現実世界の復帰は早いが……」
 大きな街、まして巨大都市とされるテセラ・ニバスはどうかとエーレンは思考するが。
 ともあれ、エーレンは引き続き風化に乗って高所を見回し、混乱する人々へと事情説明を行う。
 しばらく、メンバーは事後処理に追われることとなるが、日が暮れた頃にようやく、村民が落ち着きを取り戻したところで一息つく。
「……世界の浸食能力だとか対応が遅れたら周りがゼノグロシアンだらけになるし本当厄介な事だよ」
 ラムダは一つ嘆息し、平穏を取り戻した村を仰ぐのだった。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し

あとがき

 リプレイ、公開です。
 以下、GMコメント訂正です。
・〇終焉獣(ラグナヴァイス)×2体→2種4体
・「●致命者一隊」→「●遂行者一隊」
「致命者は村の……」→「遂行者は村の……」
 まことに申し訳ございません。

 MVPは多くの敵を集め、仲間達の攻撃の機会をつくったあなたへ。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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