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シナリオ詳細

事故物件に泊まろう。或いは、静かな家に帰ろう…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●事故物件
 再現性東京。
 駅から遠い場所にある、ひっそりとした一軒家こそが此度の物語の舞台となる。
 築10年から20年ほど、といった古くもないが新しくもない一軒家だ。白い壁は排気ガスや砂埃で多少汚れてはいるものの、みすぼらしいというほどではない。
 駅から遠い……とは言っても、徒歩で20分から30分ほどと、まだまだ許容できる距離である。
「これで家賃はタダ同然の激安物件……と、まぁ訳あり物件ってやつさ」
 甘い香りの紫煙を燻らせ、そう言ったのは黒い髪をした長身痩躯の女性であった。剣呑な眼つきに、右腕から右頬にまで走るトライバルのタトゥーといかにもカタギでは無さそうな雰囲気を纏った彼女の名は夜鳴夜子。
 職業“霊媒師”を自称しているのだから、カタギじゃないというのはあながち間違いではない。
「人が住まなくなってから、そろそろ2年ぐらいが経つって話だよ。定期的に掃除はしているし、家の持ち主も何とか人を住まわせようと家具、家電なんかも用意しているが……残念ながら空き家のままだ」
 曰く“最初の”事件が起きたのが、今からおよそ3年前のことらしい。
 住んでいたのは社会人になったばかりの若い男だ。
 ある日の夜、彼は知人へ「家に食われる」といった内容の電話をかけた。知人は彼が酔っているのだと思い、まともに相手をしなかったという。
 それから数日後、知人は彼の元を訪ねた。
 連絡が付かなくなった男性の安否を案じてのことだ。
 けれど、男性はいなかった。
 部屋の中に残されていたのは大量の血痕だけ。遺体は見つからないままだ。
「次の住人は事故物件マニアの風変りな女性、その次は家の持ち主の知人、その次はアタシと同じ霊媒師……およそ1年の間に3人の人間がこの家に住んで、そして全員、姿を消した」
 部屋の中には大量の血痕だけが残されており、遺体は見つからなかったという。
 最初の事件から数えて4人が、血痕だけを残して消えた。当然、大きな話題を呼んだし、警察の徹底調査も入った。だが、結局なんの手掛かりさえも見つからないまま、事件は迷宮入りとなっているのが現状だ。
 今ではすっかり、ネットのオカルト掲示板で時々語られるだけの“よくある怪談”の1つとなった。
「2階に3部屋、1階にはリビングと寝室、物置、キッチン、浴室……血痕が遺されていたのは、2階の部屋だったり、リビングだったり、寝室だったりと様々らしいね」
 つまり、共通点は「家の中で、大量の血痕だけを残して、住人が姿を消した」ことだけ。
 失踪事件の原因も、なぜ大量の血が遺されているのかも、住人がどこへ消えたのかも、何もかもが不明なままだ。
「それじゃあ困るってんで、アタシに依頼が舞い込んだ。舞い込んだのはいいが、正直、アタシはこの家に泊まりたくはない。嫌な予感がヒシヒシするからね。そこでアンタらの出番ってわけさ」
 家に宿泊し、事件の真相を暴くこと。
 そして、可能であれば“失踪者”たちを連れ帰ること。
「それが依頼の内容だ。そして、これが家の鍵だ。事件が解決すれば家の持ち主は幸せになる。アタシは家の持ち主から報酬をもらう。そして、アンタらも報酬を貰う。誰も不幸にならないって寸法だ」
 いい話だろう?
 そういって夜子は、あなたに家の鍵を手渡した。

GMコメント

●ミッション
事故物件に宿泊し、事件の解決を図る

●依頼達成条件
・失踪者4名を連れ帰る
・「家に食われる」の真相を突き止め、解決を図る

●フィールド
再現性東京。
駅から遠いとある一軒家。
いわゆる事故物件であり、ここ2年ほど人が住んでいない状態が続いている。
2階は部屋が3つ。
1階にはリビングと寝室、物置、キッチン、浴室がある。
家具、家電は用意されている。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】夜子の誘いを受けた
ローレット経由で夜子の依頼を受けて、事故物件を訪れました。事件解決に乗り気です。

【2】異常な気配を感じている
不可思議な気配を感じて事故物件を訪れました。成り行きで依頼に参加することになりましたが、割とビビっています。

【3】こっそりと忍び込んだ
一夜の宿を探し空き家に忍び込みました。事故物件とか、失踪事件とか、そんなものは知りません。


事故物件での過ごし方
事故物件で何をして過ごすのか……何に重きを置いて行動するのかという指針になります。

【1】異変に備え警戒します
いつでも戦えるよう警戒を続けます。その分、調査に割けるリソースは減りますが、仲間や自身に危険が迫った際には存分に活躍できるでしょう。

【2】失踪者たちの行方を捜す
失踪者たちの行方を捜します。場合によっては危険な目に遭うこともあるかと思いますが、何よりも“失踪者を連れ帰ること”を重視し行動します。

【3】なるようになれ
自分の家でくつろぐように、いつも通りにのんびり過ごします。臨機応変と言えば、臨機応変……行き当たりばったりと言えば、行き当たりばったりです。

  • 事故物件に泊まろう。或いは、静かな家に帰ろう…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月31日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)
ツクヨミ
グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)
心に寄り添う
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)
彷徨いの巫
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
幽火(p3p010931)
君の為の舞台

リプレイ

●事故物件に泊まろう
 街灯が点滅している。
 風の無い、薄暗い夜だ。
 2年ぶりに明かりのついた、少々古い一軒の家屋を遠目に見ながら、霊媒師・夜鳴夜子は甘い紫煙を燻らせていた。
 繁華街から暫く離れた人気の少ない区画である。
 路上に人は夜子1人だけ。
 ともすれば、世界に自分だけが取り残されたみたいな奇妙な感覚を覚えるほどに。
 けれど、しかし……。
 コツン、と。
 夜子の背後で微かな物音。慌てて背後を振り返れば、まるで闇から溶け出したような黒い男がそこにいた。
 スーツ姿のサラリーマン……と、見た目だけならそんな風だ。背丈も、体格も、顔のパーツの1つひとつさえも、いたって普通。ありふれた人間の部品だけを寄せ集めて作ったみたいに平均的。それゆえに異常だ。特徴の無い人間なんてものはいないのだ。
「夜子殿、ご無沙汰しております。404号室の依頼以来でしょうか」
 声さえもが印象に残らない。
『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)。人ではない何かが、人の真似をしているみたいなこの男性が、夜子はどうにも苦手である。
「アンタか。こう言っちゃなんだが、苦手なんだよな……人の皮を被った化生の類を見たことがあるけど、アンタ、そいつのハイエンドって感じがするよ」
「はぁ。つまり驚かせてしまったということでしょうか。いやはや、それは失礼しました」
 申し訳なさそうな顔をして、ペコリと頭を下げて見せる。
 その動作さえ、眉の動きから、頭を下げる角度までもが、いかにも造り物めいている。言い知れない怖気が背筋を駆け抜け、夜子は思わず身を震わせた。
「……それ、何だ?」
 気を取り直して、或いは弱気の虫を追い払うために、夜子は努めて話題を逸らした。指さしたのはホーが片手に提げたスーパーマーケットの袋だ。
「これですか? いえ、長い夜になりそうですので、こういったものも必要かと」
 袋の中身は酒やつまみの類らしい。
 どうにも食えない男である。ホーというのは。とはいえ、この時、ほんの少しだけホーの表情から、哀愁……のような気配を感じた。一瞬、何かしらに思いを馳せたかのような仕草をホーが取ったという事実に、夜子は不思議と安堵した。

「よぉ、帰って来たか! アイスとか買って来た?」
 帰宅したホーを出迎えたのは、紫の髪色をした青年だ。
 玄関の扉が開くと同時に、天井部分から逆さに下がってホーを迎えた彼の名は『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)という。猫のような悪戯めいた笑顔で、まさしく悪戯好きな幽霊がやりそうなエントリー。だがホーは動じない。
 袋の中からカップのアイスクリーム……“Haakon dash”の期間限定商品、毒林檎味である……を取り出しクウハへと手渡しながら、問いを返した。
「何か分かりましたか?」
「いいや! なぁんも分かんねぇ。すげぇぜ? この辺り、霊なんて1人もいねぇんだもんよ。前はいた風だけどな!」
 “Haakon dash”のアイスクリームを受け取って、クウハはにぃと口角を歪めた。今日か明日か、この家屋で起きるであろう何かの異変を楽しみにでもしているのか。それとも、“Haakon dash”の毒林檎味に喜んでいるのか。
 なお、キャッチコピーは「天国へ誘う」である。どうかしている。都市伝説だが、企画責任者は毒林檎味の発売直後に「ダンジョンに潜る」と書置きを残して行方不明になったらしい。
「霊は愚か、周辺住人や個人情報からの手がかりも無しだ」
 クウハとホーの会話に割り込む者がいた。階段を軋ませながら2階から降りて来たのは青い髪の長身女性。『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)である。
 その後ろには白髪の鬼が……『心に寄り添う』グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)が続いていた。どうやら2人は家屋内の調査を行っていたらしい。
「姿を消した住人たちに繋がりは無く、周辺住人との交流も無い。ある日、突然に大量の血痕だけを残して姿を消した……と、夜子の話通りだな」
「各部屋の状態も調べたがな。床板はもちろん、床下に染みていたであろう血痕まで奇麗に掃除されている。あぁ、肉片でも落ちていればと思ったが、それも無しだ」
 フィノアーシュとグリゼルダは、困ったように視線を交わして首を振る。何の手掛かりもつかめないのだ。調べれば調べるほどに迷宮の奥へと潜り込んでいくかのような、先の見えない暗澹たる気持ちになっているのだ。
「やはり、向こうから仕掛けてくるのを待つしかないのではありませんか?」
 なんて。
 事件の調査なんてものには、まるで興味がないかのように言い捨ててホーは2人へアイスクリームのカップを手渡す。
「これは? 黒と黄色の縞模様とは……何味だ、これ?」
 グリゼルダが問うた。
 2人が受け取ったカップのパッケージには、黒と黄色の縞模様が描かれている。見慣れないうえに、妙に食欲を減衰させる思い切ったデザインだ。なるほど、これが商品棚に並んでいるのなら、きっと目を引くことに間違いないだろう。
「“13アイスクリーム”の春の新作、虎バター味です。一つ食べれば元気が湧いて、1日中でもぐるぐる走り続けられるんだとか」
「……それ、我がバターになるやつだろう?」
「さぁ? 虎ならいざ知らず、人がバターになるものですか」
 フィノアーシュとホーはお互いに“こいつは何を言っているんだ?”というような顔をして、しばらく見つめ合っていた。

 庭の隅にしゃがみ込み、『ツクヨミ』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)は何かごそごそしている。そんなツクヨミの後ろ姿をぼんやり眺めて、幽火(p3p010931)はアイスキャンディーに歯を突き立てた。
「なにか見つかりそう? っていうか、なにこれ……硬……噛めないんだけど」
「いいえ。何も。ネズミ1匹もいない家ですが、虫なら沢山住みついているみたいです。今もダンゴムシを……何です、それ?」
 幽火の方を振り返り、ツクヨミは眉間にしわを寄せた。目を開いている風には見えないが、どうやらしっかり幽火の姿が“視えて”いるらしい。
「ホー君から貰ったアイスだよ。“あずきカリバー”って言うそうだよ。ほら、ツクヨミ君の分もある」
 はい、と手渡されたアイスキャンディーの袋には、岩に突き刺さった剣のイラストが載っている。せっかくのいただきものを溶かすのも悪いと、ツクヨミは外袋を開封した。
 瞬間、ツクヨミの閉じた瞼を貫いて閃光が網膜を焼く。
「……眩しい。これは……一体?」
「おぉ、当たりだね。やたらと光るのは当たりだよ。ヤタラトヒカルダケって言う発光キノコのパウダーが練り込まれているんだってさ」
「キノコ……味はまぁ、普通に小豆アイスのよう……硬いですが」
 眩しく、そして齧り取れない。
 “あずきカリバー”の硬度は異常だ。アイス評論家たちの間でも「硬貨の魔術が付与されている」とまことしやかに噂されるほどに硬い。遥か昔には“あずきカリバー”を凶器とした傷害事件が発生したほどである。
「ね。硬いよね、これ。食べる鈍器の名に偽りなしって感じだよ」
「氷菓に鈍器としての性質は必要ですか?」
 小さな舌でアイスを舐めて、ツクヨミはこてんと首を傾げた。
「ついでに言うなら、アイスが光る必要もないね」
 呵々と笑って、幽火はアイスに齧りつく。
 やはり少しも削れない。

●事故物件の異変
 深夜0時。
 薄暗くしたリビングで、声を押さえて幽火は語る。
「それでね、てけてけ、てけてけと奇妙な足音が付いて来るのに気づいたんだってさ。彼女はおそるおそる後ろを振り返って……そこで見たんだ。下半身のない女の子の幽霊を! 彼女は手で地面を這って、内臓を引き摺りながら和を追いかけて来たんだよ!」
 怪談である。
 数時間の調査を終えて、今は休憩の時間である。
 調査は遅々として進まない。ならば、退屈しのぎに怪談話を始めてしまうのも無理からぬことだ。
 そして“怪談”は伝播する。
 不思議なことだが、誰か1人が怪談話を口にすると、次々に「そういえば私も……」と、誰からともなく怪談を話し始めるというのが世の常だ。
 とはいえ、集まったのはイレギュラーズばかり。多少の怪談、恐怖譚では震えもしない。クウハなど、登場して来る怪談の半分ほどは知り合いである。
「……その下半身の無い女の幽霊、すげぇヒステリックだぜ。おまけに辺りに血と臓物をばら撒きやがる」
「クウハ殿には、その……風変りな友人が多いのであるな」
 うんざりとした顔をしているクウハを見やって、グリゼルダはうんうんと何度も頷いた。何か思うところがあったのだろう。
「我らの話す怪談は“あったことのある怪異”の話ばかりだからな。どうしても、怪談の体を成さないというか、なんというか……危ない相手なら斬ればいいだけという結論に達するわけで」
 と、そう言ってフィノアーシュは傍らに置いた刀へと手を触れる。思えばこの刀で、随分な数の脅威を斬ったものである。ともすると、この刀自体が多くの血を吸った“妖刀”の類と言えるかもしれない。
「……ところで、ツクヨミ殿が席を外してどれだけ経った?」
「む? そう言えば……虫に話を聞いて来ると2階へ上がったきり、戻って来んな」
 フィノアーシュが時計へ、グリゼルダがリビングの天井へとそれぞれ目を向けた。暫しの沈黙……けれど、足音や物音は聞こえない。

 時間は少し遡る。
 2階へ向かったツクヨミは、屋根裏に住む1匹の蜘蛛と意思の疎通を試みていた。だが、所詮は虫か、それとも事故物件の怪異とやらは虫に悪さをすることが無いのか、蜘蛛から有益な情報は得られない。
「駄目ですか。霊的な現象というのは、どうにも何が起きるか“視え”づらいですね」
 愛用のライフルを持参しているが、姿の見えない怪異を相手に通用するかは未知数だ。ツクヨミ自身は怪奇現象に対して理解が深い方だと自負しているが、それでもやはり“いつ、どこで、どのようにして”襲って来るかも分からぬ脅威と相対するのは、気が休まらない。
「っと……ここで時間を浪費するのももったいないですね。屋根裏を見て、皆さんのところへ……」
 戻ろう、と。
 そう口にした直後、ツクヨミは自身の置かれた異常な事態に気が付いた。
 否、ついたった今、それはツクヨミを襲ったのだ。
 明かりを付けていたはずなのに、いつの間にか部屋が暗い。扉も、窓も、無くなっている。生温い風と、濃い血の臭いが鼻腔を擽り、背後から微かな呻き声。
「……何です、これは」
 果たしてそこにあったのは、バラバラになった人の体の部品である。
 腕が、足が、胴体が、頭部が、何人分かの人の部品がそこかしこに転がっている。そして、あろうことか、それらはまだ“生きて”いた。
「痛い、痛い」
「ここは、どこだ。なぁ、あんた、助けてくれよ」
「何なの。何が起きているの。何も見えない。見えないよ」
 転がっている幾つもの頭部が、口々に言葉を発した。
「待っていてください。すぐに……いえ」
 助けを求める男の頭部に手を伸ばしかけ、そこでツクヨミは手を止めた。
 まずは自分が、この空間から逃れるべきだ。
 そう考えて、ツクヨミはその場にしゃがみ込む。床板を透過し、1階へ移動しようとしたのだろう。
 けれど、しかし……。
「っ……通れない!?」
 ツクヨミは、昏い昏い腹の中のような場所から逃げることは叶わなかった。

 リビングで1人、ホーは酒を飲んでいた。
 白い壁に目を向けて、ちびりちびりと缶の中身の酒精を減らす。
 静かな夜だ。
「子供達がいない部屋というのはこんなにも広く、静かに感じるものなのですね」
 そして、ひどく退屈だ。
 ここ暫くは騒がしい夜にもすっかり慣れてしまった。
 否、退屈なのは今だけか。
 きっとすぐに騒がしくなる。
「噂をすれば影と言いますが……あながち、街談巷説の類でも無いようですね」
 2階から、大きな物音がしていた。それから、クウハの叫ぶ声。
 何か異変が起きたらしい。
「……さて」
 自分の出番があるかどうかは不明だが、とりあえず事の顛末だけは見届けなくてはいけないだろう。そう思い、ホーは酒の缶をテーブルに置いて立ち上がる。

 2階廊下の窓を擦り抜け、クウハが庭から家の中へと跳び込んだ。
「駄目だ、駄目だ! 庭にもいねぇ! 何が起きてる? 面白くなって来たんじゃねぇか?」
 ツクヨミが姿を消してから、既に10分ほどの時間が過ぎている。
「2階の部屋にもいないな。押入れの中まで覗いてみたが、髪の毛1本見つからない」
 クウハに次いで廊下へ顔を覗かせたのは、グリゼルダである。
 額に滲んだ汗を乱暴に拭いながら、グリゼルダは視線を階段の方へと向けた。庭にはいない。2階にもいない。となれば残るは1階だけだが……。
「こっちにもいないよ。1階にいるのはホー君だけだ」
 2階へ上がって来た幽火が、肩を竦めて首を振る。

 2階のとある部屋である。
 部屋の中央に立ったホーが、じぃっと天井を見つめていた。
 動かない。
 まばたきさえもしていない。
「あれは何をやっている?」
「オレが知るわけねーだろ。天井を見ているんじゃねぇか?」
「それは……見れば分かるが。クウハ殿、声をかけてみてくれないか」
 フィノアーシュとクウハが声を潜めて言葉を交わす。その間もホーは天井を見つめたままだ。
「見ているのは天井じゃないな。あれは、蜘蛛の糸を見ているのではないか?」
 ほら、とグリゼルダが指差した先には、天井から垂れた蜘蛛の糸がある。

●家に帰ろう
 1匹の蜘蛛が、床の上に転がっている。
 右半身を失くした蜘蛛だ。
 床の上に転がったまま、残った4本の脚で天井の方を指し示しているようだ。
 幽火がそれに気づいた直後。
 部屋の明かりが……否、光のすべてが失われ、ホーの姿が掻き消える。
「っ!? え……な!?」
 否、消えたのではない。
 夜の空より黒い闇に飲み込まれ、姿を視認できなくなっただけだ。
「皆さん、そこにいますね。天井裏を探してください」
 まるで霧か何かのように、黒い闇が掻き消える。
 その直前、幽火の耳に届いたのはツクヨミの声だ。
「天井裏? 探すって言っても……何をだい?」
 ぽかん、と口を開いたまま幽火はそう呟いた。

「何が出ても俺がなんとかしてやるよ。とっとと、探して……いや、まどろっこしいな。ぶち抜いちまえ!」
 両の腕を眼前へ掲げてクウハは言った。
 と、同時にフィノアーシュとグリゼルダが行動を開始。
 腰をかがめたグリゼルダの背中を蹴って、フィノアーシュが天井目掛けて跳躍したのだ。
 そして、一閃。
 刀を横へと薙ぎ払い、天井板を2つに裂いた。
「硬い? コンクリートか?」
「怪しいね。壊れるまでやろう」
 パチン、と幽火が指を鳴らせば、無数の鳩が飛び立った。
 鳩の群れと、フィノアーシュの斬撃が、天井裏に敷き詰められたコンクリートを削り、砕いた。
 白い破片が零れる中、黒い何かが……すっかり干からびた人の腕が、床へと落ちる。

 フィノアーシュの斬撃が、視えない何かを斬り裂いた。
 両腕、両足、上半身、下半身……コンクリートの中から出て来た人体の部品。そして、最後に頭部が床へと転がり落ちた。
 その直後だ。
 誰もいなかったはずの部屋の真ん中に、ホーとツクヨミが現れた。まるで最初から、2人はそこにいたみたいだ。
それから、ばらばらになった幾つもの遺体。
「あん? 頭が5つ? 行方不明は4人じゃなかったか?」
 クウハは「はて?」と首を傾げた。
「誰も知らない、最初の1人がいたんでしょう。怪異の原因となった、強い恨みを抱いておかしくなってしまった最初の1人が」
 黒く乾いた誰かの部品を拾い集めて、ツクヨミはそう呟いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
失踪者4名の遺体は無事に回収されました。
また、異変の原因となっていた最初の1人の遺体も発見されました。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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